2012年 06月 16日
終わり無き欧州舞踏会の愚 |
最近の各金融メディアの報道で明らかな通り、今週末にギリシャで開催される議会の再選挙の様子を、ウォールストリート関係者はいつになく高い関心を持って見つめています。と言うのは、その結果次第では、ユーロ通貨圏の崩壊と世界経済の心停止という、最悪の事態に陥ってしまうリスクがあるためです。
ギリシャでは、ドイツを中心としたユーロ通貨当局が求める緊縮財政案に対する反対意見が沸騰し、街ではデモが繰り広げられ、議会では緊縮財政反対派が支持を集めるなど、緊張した状況が続いています。

幸い現在では、世論の大多数がユーロゾーンに留まることを支持しているようですが、最悪の事態に備えて各国の中央銀行が協調介入の準備をしているとの報道も、米東海岸時間の金曜日に流れていました。
前回のエントリーで、「今回の経済危機は中国も救うことが出来ない。世界経済の命運は、ユーロゾーンの命運を事実上握っているドイツに懸かっている」というエントリーを書きました。ドイツが南欧に押し付けた緊縮財政は、既に不況と失業で苦しんでいる南欧経済に追い討ちをかけ、更に信用危機の解決策としても、非効果的であるように思えるからです。
偶然その週の後半に発行された英Economist誌の表紙にも、そのメッセージがはっきりと見て取れました。

欧州人は何を考えているのか
当のヨーロッパの人達は、この件についてどう考えているのかについて、興味があったため、付き合いのある色々な国の人と話をしてみました。その結果、イギリス人と大陸欧州人では、かなり意見が分かれているようでした。
イギリスは政策的にアメリカに近い事が多いですが、私が話したイギリス人も、アメリカが2008年のリーマン危機後にやったような銀行の積極救済や金融緩和、財政支出の拡大などを、ユーロゾーンでも行うべきだと主張していました。
ちょうど今週、先週末にユーロ当局が示したスペインの銀行救済案を、UK Independent Partyの党首であるNigel Farage氏が欧州議会でコケ下ろしているYouTubeのビデオが出回って、ウォールストリートの失笑と同情を誘っていました。「スペインに3%でカネを貸す為に、イタリアが7%でカネを借り、今度はイタリアが破産する。なんて聡明なアイデアなんだ!・・・」同氏はユーロは完全な失敗だと重ねて断言し、「危機は最悪期を脱した」などと発言する欧州のユーロクラットの気が知れないと、息巻いていました。
それに対して大陸欧州人は、「ドイツの主張は当然だ」、「怠け者の南欧州人は自業自得だ」と言う人が、かなり多いようでした。その根拠として彼らが頻繁に口にしていたのは、「南欧州の政治家は、ふざけたコメディアンか、完全な無能か、そうでなければ経済マフィアのような連中ばかりだ。そいつらを追放して経済改革を断行するには、強面で脅すしかない。実際にそれで、イタリアの首相も交代したじゃないか」という点です。
他にも、「同じような鉄道会社で働いていても、ドイツでは70歳過ぎまで働かされ、ギリシャでは60歳で悠々自適に引退できるとしたら、そんなにアンフェアなことはない」などという話も出て来て、問題の根の深さを感じました。

確かに南欧各国は、信用バブルを何とか解決したとしても、そもそも経済競争力をどう取り戻すのかという、より深刻な問題を抱えています。政治家が国の経済を私物化したり、公的機関が肥大化して国全体が借金漬けになる体質は、いずれ修正される必要があることは、疑いない事実である気がします。
しかし、そのような経済システムの大手術(厳しい筋トレ?)を、既に病気になって倒れている病人に押し付けるというのは、どう考えても無理な話です。しかも南欧各国が病気になった(信用危機に至った)のは、「責任あるメンバー」であるはずのドイツやフランスが、しっかりチェック機能を働かせなかったことに要因があることも、疑いありません。
病人の南欧各国に緊縮財政を迫り、実際に何万人という人の給料が未払いになって、道端でデモを繰り広げ、挙句の果てに暴徒化するような状況に至ったら、欧州の将来はどうなるのでしょうか。欧州人の友人曰く、ギリシャの地元紙などでは、ドイツの緊縮財政要求をナチス侵略に準え、「経済占領に他ならない」と言うきわめて厳しい批判の声が上がっているそうです。
ギリシャ脱退はあり得るか
ギリシャが事実上、破産状態であることは、今では多くの人が同意するところかもしれません。アメリカでも、市場至上主義者の中からは、ギリシャは破綻させた方が良い、という声も聞かれます。しかし、今までの欧州当局の危機への対応を見る限りでは、「Orderly Exit(秩序だった脱退)」など出来るわけがないと、考えざるを得ません。
しかも、ギリシャをユーロから脱退させれば、「ユーロは安心です」と言い続けて来たECBの言葉を今後誰も信じなくなることは、間違いありません。それはギリシャの信用不安が、PIIGSの他の国に飛び火することを意味しており、そうなった際にイタリアとスペインを救済する力はドイツやECBにもなく、ユーロは終焉することになります。
実際最近市場では、「貨幣印刷会社に特別注文が入っているらしい」という話や、「ピストルを作る会社の株価が上がりそうだ」といった嫌な噂まで広がる始末です。ドイツでもギリシャでも、こんな痛みを伴うのであれば、マルクやドラクマに戻ったらいいじゃないかという感情論は、そこここで聞かれるようです。
しかしギリシャの脱退=ユーロの終焉=ドイツにも大打撃という事は、ギリシャの政治家も重々理解しているようで、ドイツが出している緊縮財政案に対して、出来る限りの譲歩を引き出そうとしているように見えます。しかし問題は、そうした無益な政治的駆け引きを繰り返している間も、病人の病状はどんどん悪化しているということです。
失敗したスペイン銀行救済策
ギリシャの危機が他の国に飛び火したらたまらないと、先週末にはユーロゾーンとしては比較的素早く、€100m(約1兆円)規模の、スペインの銀行救済策が発表されました。
しかしこのアイデアは、6月16日付のEconomistの「Spain’s Bail-out, Insufficiente(不十分なスペイン銀行救済案)」に詳説されていたように、早くも「失敗」の烙印を市場に押されてしまいました。
その原因は、この救済案が、スペインの銀行に直接貸し出しを行うのではなく、スペインという国に対して資金を貸し付けるという方式を取ったことであったようです。その結果、既に多額の負債を抱えているスペインの信用は低下し、週明けのスペイン国債の金利は、このまま続けば財政破綻してしまうというレベルまで上昇してしまいました。
これは例えて言うならば、カリフォルニア州の銀行を救済するために、破綻寸前のカリフォルニア州政府にFRBが資金を貸し付けるのと、同じようなことなのかもしれません。この救済案は、ECB、EC(欧州委員会)に、IMFも加わって考えられたそうですが、信用危機が発生したのが4年も前の話であることを考えると、それだけの時間を経て出てきたアイデアとしては、落胆すべきものであったと言える気がします。
信用危機と言うのは、対処が遅れると問題が深刻化し、解決のコストがどんどん上昇していく傾向にある気がします。スペインに向けられた€100mの銀行救済策も、上出のEconomistの記事が書いていた通り、銀行のバランスシートがここまで傷む前に実行されていれば、より効果が期待できたかもしれません。

"le congres danse beaucoup..."
大陸欧州人の中に、今回の危機について複雑な感情があることは、十分に理解できます。政治家も選挙に勝つのが仕事ですから、国民が「ギリシャふざけるな」と叫んでいるのに、「でもギリシャを救済してドイツも救われるか、ギリシャと一緒に地獄に落ちるかの二者択一ですよ」とは言いにくいであろうことは、想像に難くありません。
これはバブル破綻後の日本でも、同じであった気がします。90年代当時、国民が住専救済に反対したり、大蔵省・銀行バッシングを声高に叫ぶなどした事で、政治家が問題処理に躊躇してしまったことが、「貸し渋り」に代表されるクレジットクランチ、ひいては大手証券会社の破綻など、問題の拡大と深刻化の背景にあったことは否めません。

それから20年近くを経て、アメリカは日本で得られた教訓を生かし、世界中で盛り上がった「ウォールストリートバッシング」をモノともせず(と言うよりは、そういう動きが出る前に迅速に動き)、必要な処置を迅速に断行した感があります。
翻ってヨーロッパでは、相変わらず「会議は踊る、されど進まず」状態が続いています。19世紀のウィーン会議との違いは、その隙に進軍したのがナポレオンではなく、世界恐慌を招きかねない深刻なデット・クライシスであるという点のみであり、多国の利害が衝突して大局を見た決断が出来ない状態にあることは、当時と似ていると言えるかもしれません。
解決策のアイデアは
ユーロゾーンが、財政政策を統合することなく、通貨(金融政策)だけを統合させた不十分な集合体であることは、今回の危機を通じてこの上なく明確になった気がします。
その結果ユーロゾーンは、平時には各国政府の信用拡大や財政支出拡大を抑止することができず、また危機の際には、経済の血液循環の要として極めて重要な銀行システムを救済することもできずに、今まさに破綻の危機に瀕しているといえます。
そう考えると、ユーロを救う為に必要なのは、「欧州合衆国」の設立しかないのではないかという気がします。財政・金融の経済政策の両輪を統一政府のコントロール下に置き、その処置に対して執行力も与える。まさにアメリカ合衆国のような形態が、必要なのかもしれません。

もちろんそういう形態に至ったところで、アメリカ政府が2009年に示したような迅速かつ柔軟な対応をヨーロッパが取れるかどうかについて、何の保証もありません。独仏を中心とした大陸欧州の今回の危機対応は本当にお粗末ですし、そもそも独仏関係も、最近のフランス大統領選挙の結果を受けて、一枚岩と言えるかどうかも分かりません。
しかしここまでの政治機能の無能ぶりを見せ付けられた市場やウォールストリートは、今回のユーロ通貨危機に対しての解決策が、バンドエイドの継ぎ接ぎのようなものでは、満足しないような気がします。そう考えると、欧州の政治家は、まさに大きな岐路に立たされていると言えるかもしれません。
とりあえず、6月17日のギリシャの選挙の後には、18日と19日のG20サミット、21日と22日のユーロゾーン財務省会議、22日のEU非公式サミット(独Merkel首相、仏Hollande大統領、伊Monti大統領、西Rajoy首相が参加予定)、翌週28、29日のEUサミットと、相変わらず色々な会議が目白押しのようです。しかし当事者のドイツの態度に何の変化も見られないところを見ると、世界は引続き、この楽しめない欧州のドラマに、注目し続けるしかなさそうです。
この期に至っては、欧州の政治家に責任ある行動をとらせるための「裁定」を下すことができるのは、欧州に無数に在るように見えるアルファベット機関の中において、ECBでもIMFでもECでもESMでもなく、「UEFA」なのかもしれません。。。
「財政難のスペイン、EURO2012出場権取り消し!」

ギリシャでは、ドイツを中心としたユーロ通貨当局が求める緊縮財政案に対する反対意見が沸騰し、街ではデモが繰り広げられ、議会では緊縮財政反対派が支持を集めるなど、緊張した状況が続いています。

幸い現在では、世論の大多数がユーロゾーンに留まることを支持しているようですが、最悪の事態に備えて各国の中央銀行が協調介入の準備をしているとの報道も、米東海岸時間の金曜日に流れていました。
前回のエントリーで、「今回の経済危機は中国も救うことが出来ない。世界経済の命運は、ユーロゾーンの命運を事実上握っているドイツに懸かっている」というエントリーを書きました。ドイツが南欧に押し付けた緊縮財政は、既に不況と失業で苦しんでいる南欧経済に追い討ちをかけ、更に信用危機の解決策としても、非効果的であるように思えるからです。
偶然その週の後半に発行された英Economist誌の表紙にも、そのメッセージがはっきりと見て取れました。

欧州人は何を考えているのか
当のヨーロッパの人達は、この件についてどう考えているのかについて、興味があったため、付き合いのある色々な国の人と話をしてみました。その結果、イギリス人と大陸欧州人では、かなり意見が分かれているようでした。
イギリスは政策的にアメリカに近い事が多いですが、私が話したイギリス人も、アメリカが2008年のリーマン危機後にやったような銀行の積極救済や金融緩和、財政支出の拡大などを、ユーロゾーンでも行うべきだと主張していました。
ちょうど今週、先週末にユーロ当局が示したスペインの銀行救済案を、UK Independent Partyの党首であるNigel Farage氏が欧州議会でコケ下ろしているYouTubeのビデオが出回って、ウォールストリートの失笑と同情を誘っていました。「スペインに3%でカネを貸す為に、イタリアが7%でカネを借り、今度はイタリアが破産する。なんて聡明なアイデアなんだ!・・・」同氏はユーロは完全な失敗だと重ねて断言し、「危機は最悪期を脱した」などと発言する欧州のユーロクラットの気が知れないと、息巻いていました。
それに対して大陸欧州人は、「ドイツの主張は当然だ」、「怠け者の南欧州人は自業自得だ」と言う人が、かなり多いようでした。その根拠として彼らが頻繁に口にしていたのは、「南欧州の政治家は、ふざけたコメディアンか、完全な無能か、そうでなければ経済マフィアのような連中ばかりだ。そいつらを追放して経済改革を断行するには、強面で脅すしかない。実際にそれで、イタリアの首相も交代したじゃないか」という点です。
他にも、「同じような鉄道会社で働いていても、ドイツでは70歳過ぎまで働かされ、ギリシャでは60歳で悠々自適に引退できるとしたら、そんなにアンフェアなことはない」などという話も出て来て、問題の根の深さを感じました。

確かに南欧各国は、信用バブルを何とか解決したとしても、そもそも経済競争力をどう取り戻すのかという、より深刻な問題を抱えています。政治家が国の経済を私物化したり、公的機関が肥大化して国全体が借金漬けになる体質は、いずれ修正される必要があることは、疑いない事実である気がします。
しかし、そのような経済システムの大手術(厳しい筋トレ?)を、既に病気になって倒れている病人に押し付けるというのは、どう考えても無理な話です。しかも南欧各国が病気になった(信用危機に至った)のは、「責任あるメンバー」であるはずのドイツやフランスが、しっかりチェック機能を働かせなかったことに要因があることも、疑いありません。
病人の南欧各国に緊縮財政を迫り、実際に何万人という人の給料が未払いになって、道端でデモを繰り広げ、挙句の果てに暴徒化するような状況に至ったら、欧州の将来はどうなるのでしょうか。欧州人の友人曰く、ギリシャの地元紙などでは、ドイツの緊縮財政要求をナチス侵略に準え、「経済占領に他ならない」と言うきわめて厳しい批判の声が上がっているそうです。
ギリシャ脱退はあり得るか
ギリシャが事実上、破産状態であることは、今では多くの人が同意するところかもしれません。アメリカでも、市場至上主義者の中からは、ギリシャは破綻させた方が良い、という声も聞かれます。しかし、今までの欧州当局の危機への対応を見る限りでは、「Orderly Exit(秩序だった脱退)」など出来るわけがないと、考えざるを得ません。
しかも、ギリシャをユーロから脱退させれば、「ユーロは安心です」と言い続けて来たECBの言葉を今後誰も信じなくなることは、間違いありません。それはギリシャの信用不安が、PIIGSの他の国に飛び火することを意味しており、そうなった際にイタリアとスペインを救済する力はドイツやECBにもなく、ユーロは終焉することになります。
実際最近市場では、「貨幣印刷会社に特別注文が入っているらしい」という話や、「ピストルを作る会社の株価が上がりそうだ」といった嫌な噂まで広がる始末です。ドイツでもギリシャでも、こんな痛みを伴うのであれば、マルクやドラクマに戻ったらいいじゃないかという感情論は、そこここで聞かれるようです。
しかしギリシャの脱退=ユーロの終焉=ドイツにも大打撃という事は、ギリシャの政治家も重々理解しているようで、ドイツが出している緊縮財政案に対して、出来る限りの譲歩を引き出そうとしているように見えます。しかし問題は、そうした無益な政治的駆け引きを繰り返している間も、病人の病状はどんどん悪化しているということです。
失敗したスペイン銀行救済策
ギリシャの危機が他の国に飛び火したらたまらないと、先週末にはユーロゾーンとしては比較的素早く、€100m(約1兆円)規模の、スペインの銀行救済策が発表されました。
しかしこのアイデアは、6月16日付のEconomistの「Spain’s Bail-out, Insufficiente(不十分なスペイン銀行救済案)」に詳説されていたように、早くも「失敗」の烙印を市場に押されてしまいました。
その原因は、この救済案が、スペインの銀行に直接貸し出しを行うのではなく、スペインという国に対して資金を貸し付けるという方式を取ったことであったようです。その結果、既に多額の負債を抱えているスペインの信用は低下し、週明けのスペイン国債の金利は、このまま続けば財政破綻してしまうというレベルまで上昇してしまいました。
これは例えて言うならば、カリフォルニア州の銀行を救済するために、破綻寸前のカリフォルニア州政府にFRBが資金を貸し付けるのと、同じようなことなのかもしれません。この救済案は、ECB、EC(欧州委員会)に、IMFも加わって考えられたそうですが、信用危機が発生したのが4年も前の話であることを考えると、それだけの時間を経て出てきたアイデアとしては、落胆すべきものであったと言える気がします。
信用危機と言うのは、対処が遅れると問題が深刻化し、解決のコストがどんどん上昇していく傾向にある気がします。スペインに向けられた€100mの銀行救済策も、上出のEconomistの記事が書いていた通り、銀行のバランスシートがここまで傷む前に実行されていれば、より効果が期待できたかもしれません。

"le congres danse beaucoup..."
大陸欧州人の中に、今回の危機について複雑な感情があることは、十分に理解できます。政治家も選挙に勝つのが仕事ですから、国民が「ギリシャふざけるな」と叫んでいるのに、「でもギリシャを救済してドイツも救われるか、ギリシャと一緒に地獄に落ちるかの二者択一ですよ」とは言いにくいであろうことは、想像に難くありません。
これはバブル破綻後の日本でも、同じであった気がします。90年代当時、国民が住専救済に反対したり、大蔵省・銀行バッシングを声高に叫ぶなどした事で、政治家が問題処理に躊躇してしまったことが、「貸し渋り」に代表されるクレジットクランチ、ひいては大手証券会社の破綻など、問題の拡大と深刻化の背景にあったことは否めません。

それから20年近くを経て、アメリカは日本で得られた教訓を生かし、世界中で盛り上がった「ウォールストリートバッシング」をモノともせず(と言うよりは、そういう動きが出る前に迅速に動き)、必要な処置を迅速に断行した感があります。
翻ってヨーロッパでは、相変わらず「会議は踊る、されど進まず」状態が続いています。19世紀のウィーン会議との違いは、その隙に進軍したのがナポレオンではなく、世界恐慌を招きかねない深刻なデット・クライシスであるという点のみであり、多国の利害が衝突して大局を見た決断が出来ない状態にあることは、当時と似ていると言えるかもしれません。
解決策のアイデアは
ユーロゾーンが、財政政策を統合することなく、通貨(金融政策)だけを統合させた不十分な集合体であることは、今回の危機を通じてこの上なく明確になった気がします。
その結果ユーロゾーンは、平時には各国政府の信用拡大や財政支出拡大を抑止することができず、また危機の際には、経済の血液循環の要として極めて重要な銀行システムを救済することもできずに、今まさに破綻の危機に瀕しているといえます。
そう考えると、ユーロを救う為に必要なのは、「欧州合衆国」の設立しかないのではないかという気がします。財政・金融の経済政策の両輪を統一政府のコントロール下に置き、その処置に対して執行力も与える。まさにアメリカ合衆国のような形態が、必要なのかもしれません。

もちろんそういう形態に至ったところで、アメリカ政府が2009年に示したような迅速かつ柔軟な対応をヨーロッパが取れるかどうかについて、何の保証もありません。独仏を中心とした大陸欧州の今回の危機対応は本当にお粗末ですし、そもそも独仏関係も、最近のフランス大統領選挙の結果を受けて、一枚岩と言えるかどうかも分かりません。
しかしここまでの政治機能の無能ぶりを見せ付けられた市場やウォールストリートは、今回のユーロ通貨危機に対しての解決策が、バンドエイドの継ぎ接ぎのようなものでは、満足しないような気がします。そう考えると、欧州の政治家は、まさに大きな岐路に立たされていると言えるかもしれません。
とりあえず、6月17日のギリシャの選挙の後には、18日と19日のG20サミット、21日と22日のユーロゾーン財務省会議、22日のEU非公式サミット(独Merkel首相、仏Hollande大統領、伊Monti大統領、西Rajoy首相が参加予定)、翌週28、29日のEUサミットと、相変わらず色々な会議が目白押しのようです。しかし当事者のドイツの態度に何の変化も見られないところを見ると、世界は引続き、この楽しめない欧州のドラマに、注目し続けるしかなさそうです。
この期に至っては、欧州の政治家に責任ある行動をとらせるための「裁定」を下すことができるのは、欧州に無数に在るように見えるアルファベット機関の中において、ECBでもIMFでもECでもESMでもなく、「UEFA」なのかもしれません。。。
「財政難のスペイン、EURO2012出場権取り消し!」

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by harry_g
| 2012-06-16 18:07
| 世界経済・市場トレンド