2012年 12月 30日
アベノミクスは日本を救う? |
2012年は年末にかけて、世界の三大経済大国で、事実上の政権移譲が行われました。アメリカではオバマ大統領が無難に再選を果たし、中国では習近平(Xi Jinping、习近平)氏が予想通り共産党総書記に選ばれ、そして日本では、自民党が総選挙で大勝して、第二次安倍政権が誕生しました。
今回は、日本で安倍晋三首相が提唱している経済政策、通称「アベノミクス」について、ウォールストリートの期待値も含めて、手短かに書いてみたいと思います。
安倍政権の関心事
安倍政権誕生の経緯は、既によくご存知のところかと思いますが、選挙戦を通じて二つほど、特に注目に値するなと思った点があったので、最初に挙げたいと思います。
一つ目は、あれだけ中国や韓国との領土問題が騒がれ、安倍氏や石原慎太郎氏、橋下氏のような、いわゆる「右寄り」の政治家が期待を集めたように見えたにも関わらず、選挙戦の主要テーマとして国民が選んだのは、圧倒的に「経済関連」であった、と言うことです。
細かな数字は覚えていませんが、主要新聞社の世論調査の結果、選挙戦で国防や領土問題が一番重要と答えた人は1割程度しかおらず、景気回復、円高、社会保障、消費税など、経済関連への関心の合計が、7割近くを占めていたと記憶しています。そのような事があってか、安倍氏も選挙戦の期間中、お得意の「改憲」や「国防」の話題よりも「景気回復」についての主張を繰り返していたように思います。
もう一つの点は、選挙後により明確になったことですが、安倍氏と自民党の関心が、完全に2013年7月の参議院選挙に向いている、という点です。
これは、前回安倍氏が政権を担当した際に、参院選で大敗した反省を受けてのことかもしれませんし、今回の選挙の勝利が、単なる「非・民主」の受け皿になった結果である(実際に得票数では、民主党が大勝した前回選挙を下回ったと聞いています)と理解してのことかもしれません。もちろん、安倍氏の究極のゴールは、恐らく憲法改正であり、その為に衆参両院で圧倒的な勝利を収めたい、と考えているのかもしれません。
どのような理由にせよ、安倍氏が次の選挙を睨んでいる以上、彼が実行してくる政策は、隣国への強硬姿勢の誇示と、その結果の貿易・経済活動の停滞ではなく、参院選で重要な地方票を睨んだ「バラマキ」型の財政政策と、都市部での支持を固めるための徹底した景気対策となることが予想されます。
金融市場は安倍政権誕生にポジティブに反応しており、日銀による追加緩和を睨んだ円相場は70円台後半から80円台後半へと一気に円安が進みました。株式市場についても、TOPIXは野田前首相が解散総選挙を発表した11月半ばの700ポイント台から850ポイント台へと、また日経平均(Nikkei 225)も11月の8600円前後から10400円近くへと、それぞれ売買高を伴って2割前後上昇しています。
ちょうど11月の後半に、ニューヨークを訪れる機会があったため、当地で外国人投資家に日本株の営業を行っている知人達に、どのような投資家が実際に日本株に興味を示しているのか、という話を聞きました。
それによると、最初に買い始めたのは、全般的にトップダウンで物を見る傾向がある欧州の投資家であり、11月後半になると、一年に一度、日本株を見るか見ないかといったアメリカのグローバル株式ファンドマネージャーからも、問い合わせが増えて来たそうです。そのような投資家も日本に注目し始めたという事は、それだけ変化への期待値が膨らんでいる証拠だと言えるかもしれません。
これらは、海外投資家からの興味関心の減少や、インサイダー事件の影響によって、株式売買手数料収入が大きく減少していた国内の証券・投資銀行各社にとっては、まさに干天の慈雨とも言える気がします。今後も外国人投資家の関心をひきつけ続けられるかは、ひとえに安倍政権の経済運営にかかっていると言えるかもしれません。
アベノミクスへの評価
安倍氏が提唱する経済政策は、「アベノミクス」と呼ばれます。その主な内容は、「インフレターゲットの設定」、つまり日銀にも欧米の中央銀行と同じように量的緩和にコミットさせることで、円が相対的に割高になっている事態を解消しつつ、国内の期待値を操作することでデフレを終焉させよう、という金融政策と、自民党のお家芸とも言うべき、公共事業の拡大を含んだ積極的財政政策です。
日本経済が直面している問題の中心が、経済規模の縮小を導くデフレと、唯一の基幹産業とも言うべき製造業を苦しめる円高であることを考えると、安倍政権のどちらの政策も、流れとしては正しい方向を向いている気がします。しかし、日本国内も欧米の投資家も、まだまだアベノミクスに懐疑的であるようにも感じます。
例えば年末号のThe Economicsのトップ記事の中に「Go on Mr Abe, surprise us」というのがありましたが、そのタイトルには、期待と共に、「出来るものならやってみな」と言う批判的トーンが見てとれる気がします。
同記事では、日本は最近の景気後退局面が、過去15年で5回目である点や、政府負債の合計がGDPの200%を超えている点、消費者物価が20年前を下回っている点などを指摘して、消費や投資に必要なマインド自体が冷え込んでいる、と述べていました。また、インフレターゲットの設定は望ましいが、その実行過程にまで細かく口を出すことで、日銀の独立性が失われるようだと、金融市場は日本市場への信頼を低下させて、金利の悪い上昇=政府負担の増加をもたらしてしまうかもしれない、と指摘しています。
The Economistは、安倍政権への提案として、日銀に対して不要に強い態度で出るのではなく、女性の社会参加を促し(確かにこれは、移民増加などよりも遥かに大規模かつ即効的に、労働人口減少の問題への対策になると考えられます)、規制緩和を促進し、また野田政権を引き継いでTPPへの参加を進めることが出来れば、安倍政権は歴史に名を残すことが出来るだろう、と指摘しています。
TPP参加は参院選後に先送りにされそうですが、女性の社会参加や規制緩和は、経済構造の改革として、取り組むべき政策課題である気がします。しかしこれらの政策効果は実現に時間がかかるため、あくまで即効性で知られる金融政策、つまりインフレターゲットの導入と円安誘導が、第一ステップとしてあるように思います。
金融政策は「無効」か?
しかし金融政策を担当する日本銀行は、経済学者が「日銀流理論」と呼んで批判する様々な議論を用いて、一層の緩和拡大に否定的な態度を取って来ました。
最近こそ安倍氏からの強力なプレッシャーに反応して、2%のインフレターゲット導入に前向きな姿勢を示していますが、リーマン危機後に米FRBと欧ECBが大幅な量的緩和に踏み切った際に追随しなかったことが、円高の要因となっていると指摘されています。
安倍総理の経済ブレーンの一人と言われる、イェール大学名誉教授の浜田宏一氏は、自著「アメリカは日本経済の復活を知っている」(講談社)の冒頭で、「20年もの間デフレに苦しむ日本の不況は、ほぼすべてが日銀の金融政策に由来するものである」と、インフレターゲットの導入に躊躇する日銀・白川総裁を、名指しで厳しく批判しています。
同氏は、若田昌澄早大教授の指摘するところとして、日銀は「民間の資金需要に対して資金を供給しているので物価の決定についても限定的であり、とりうる政策手段も限定的であり、政府との協調関係も限定的であるべき」だと誤って考えている、と批判し、国民生活に多大な苦しみをもたらしているデフレと円高は、あくまで財貨や外貨の相対価格という「貨幣的な問題」であるのだから、金融政策こそが有効だ、と主張しています。
浜田氏はまた、同著の中で、日銀が人口減少がデフレの要因であると指摘している点についても、批判を加えています。その内容は、「人口は成長の要因にはなるが」、「貨幣的現象である物価、あるいはデフレに人口が効くというのは、経済の解剖学すなわち『国民所得会計』から見ても、生理学すなわち『金融論』から見ても、まったく的外れな議論だ」とし、また日銀が財政規律の緩みを懸念するに至っては、越権行為であると非難しています。
アベノミクスが、このような声に強く背中を押されていることは、疑いのないところな気がします。実際に安倍首相は、選挙戦の最中から、日銀に対して徹底した強硬姿勢を示していました。
しかし、The Economistの中にもあったように、行き過ぎの感があった日銀バッシングは、国内では経団連からも批判の対象となりました。そもそも、口では強行なことを言いながら、実際の政策は現実的であることの多い安倍氏だけに、大幅にトーンダウンしている中国・韓国に対する政策と同じように、日銀についても実際どこまでプッシュするつもりなのか、よく分かりません。
また、長年の不景気と需要の減退に慣れてしまった日本国民の中に存在する、「国内・海外ともに不景気で、需要が減少している中で、いくらカネをばら撒いたところで、消費・投資されないのではないか」、「給料が上がらない中で物価だけ上がったら、ますます人は消費しなくなるのではないか」などといった疑念は、そう簡単には払拭されない気がします。
ただ、恐らく浜田氏らが主張しているのは、需要は無視して良い、マネーの量だけ金融政策でコントロールすればよい、という話ではなく、国民の期待値を操る目的で導入するインフレターゲットは、まさに「需要」を作り出す助けになるので、その効果を軽視するような金融引締め政策を取ってはいけない、ということではないかと思います。
知識も時間も足りないため、この議論について、ここでこれ以上取り上げることは止めておきますが、以上のような積極的金融緩和を促す主張は、FRBのBernanke議長や、Paul Krugmanらアメリカの著名な経済学者の主張とも、一貫するところである気がします。
2013年の展望
ともあれ2013年には、日本市場を取り巻く環境が変化しそうな兆しを感じます。ここで取り上げたアベノミクスの金融政策如何によっては、為替レートや物価を通じて、日本経済や株式市場に大きな影響を与えるでしょうし、アメリカ経済が「財政の崖」を乗り切って、成長軌道に乗るようなことがあれば、米金利の先高感が、一層の円安の助けとなるかもしれません。
と同時に、安倍氏が本心では何を考えているのか、どの政策をどれほど突っ込んだ形で実行する気があるのかについては、正直よく分かりません。欧米からの期待値は、前回に政権を担った時のイメージが強いせいもあってか、あまり高くないと言える気がします。また、同氏の持論である憲法改正や軍事力の強化は、主要貿易相手国である中国や韓国との関係を、悪化させてしまうかもしれません。
ただ、間違いなく言えそうなのは、2013年は今までと比較して、日本への注目が高まりそうだという事です。仮に自民党が、参院選でも勝利した場合には、アベノミクスよりも一層踏み込んだ、小泉政権時に見られたような規制緩和などの政策も、期待できるかもしれません。日本は今まで、外国人投資家を期待させては裏切るといった流れを繰り返して来ましたが、今後も引続き、そんな日本市場が海外からどう見られているのかについては、フォローして行きたいと思います。
今回は、日本で安倍晋三首相が提唱している経済政策、通称「アベノミクス」について、ウォールストリートの期待値も含めて、手短かに書いてみたいと思います。
安倍政権の関心事
安倍政権誕生の経緯は、既によくご存知のところかと思いますが、選挙戦を通じて二つほど、特に注目に値するなと思った点があったので、最初に挙げたいと思います。
一つ目は、あれだけ中国や韓国との領土問題が騒がれ、安倍氏や石原慎太郎氏、橋下氏のような、いわゆる「右寄り」の政治家が期待を集めたように見えたにも関わらず、選挙戦の主要テーマとして国民が選んだのは、圧倒的に「経済関連」であった、と言うことです。
細かな数字は覚えていませんが、主要新聞社の世論調査の結果、選挙戦で国防や領土問題が一番重要と答えた人は1割程度しかおらず、景気回復、円高、社会保障、消費税など、経済関連への関心の合計が、7割近くを占めていたと記憶しています。そのような事があってか、安倍氏も選挙戦の期間中、お得意の「改憲」や「国防」の話題よりも「景気回復」についての主張を繰り返していたように思います。
もう一つの点は、選挙後により明確になったことですが、安倍氏と自民党の関心が、完全に2013年7月の参議院選挙に向いている、という点です。
これは、前回安倍氏が政権を担当した際に、参院選で大敗した反省を受けてのことかもしれませんし、今回の選挙の勝利が、単なる「非・民主」の受け皿になった結果である(実際に得票数では、民主党が大勝した前回選挙を下回ったと聞いています)と理解してのことかもしれません。もちろん、安倍氏の究極のゴールは、恐らく憲法改正であり、その為に衆参両院で圧倒的な勝利を収めたい、と考えているのかもしれません。
どのような理由にせよ、安倍氏が次の選挙を睨んでいる以上、彼が実行してくる政策は、隣国への強硬姿勢の誇示と、その結果の貿易・経済活動の停滞ではなく、参院選で重要な地方票を睨んだ「バラマキ」型の財政政策と、都市部での支持を固めるための徹底した景気対策となることが予想されます。
金融市場は安倍政権誕生にポジティブに反応しており、日銀による追加緩和を睨んだ円相場は70円台後半から80円台後半へと一気に円安が進みました。株式市場についても、TOPIXは野田前首相が解散総選挙を発表した11月半ばの700ポイント台から850ポイント台へと、また日経平均(Nikkei 225)も11月の8600円前後から10400円近くへと、それぞれ売買高を伴って2割前後上昇しています。
ちょうど11月の後半に、ニューヨークを訪れる機会があったため、当地で外国人投資家に日本株の営業を行っている知人達に、どのような投資家が実際に日本株に興味を示しているのか、という話を聞きました。
それによると、最初に買い始めたのは、全般的にトップダウンで物を見る傾向がある欧州の投資家であり、11月後半になると、一年に一度、日本株を見るか見ないかといったアメリカのグローバル株式ファンドマネージャーからも、問い合わせが増えて来たそうです。そのような投資家も日本に注目し始めたという事は、それだけ変化への期待値が膨らんでいる証拠だと言えるかもしれません。
これらは、海外投資家からの興味関心の減少や、インサイダー事件の影響によって、株式売買手数料収入が大きく減少していた国内の証券・投資銀行各社にとっては、まさに干天の慈雨とも言える気がします。今後も外国人投資家の関心をひきつけ続けられるかは、ひとえに安倍政権の経済運営にかかっていると言えるかもしれません。
アベノミクスへの評価
安倍氏が提唱する経済政策は、「アベノミクス」と呼ばれます。その主な内容は、「インフレターゲットの設定」、つまり日銀にも欧米の中央銀行と同じように量的緩和にコミットさせることで、円が相対的に割高になっている事態を解消しつつ、国内の期待値を操作することでデフレを終焉させよう、という金融政策と、自民党のお家芸とも言うべき、公共事業の拡大を含んだ積極的財政政策です。
日本経済が直面している問題の中心が、経済規模の縮小を導くデフレと、唯一の基幹産業とも言うべき製造業を苦しめる円高であることを考えると、安倍政権のどちらの政策も、流れとしては正しい方向を向いている気がします。しかし、日本国内も欧米の投資家も、まだまだアベノミクスに懐疑的であるようにも感じます。
例えば年末号のThe Economicsのトップ記事の中に「Go on Mr Abe, surprise us」というのがありましたが、そのタイトルには、期待と共に、「出来るものならやってみな」と言う批判的トーンが見てとれる気がします。
同記事では、日本は最近の景気後退局面が、過去15年で5回目である点や、政府負債の合計がGDPの200%を超えている点、消費者物価が20年前を下回っている点などを指摘して、消費や投資に必要なマインド自体が冷え込んでいる、と述べていました。また、インフレターゲットの設定は望ましいが、その実行過程にまで細かく口を出すことで、日銀の独立性が失われるようだと、金融市場は日本市場への信頼を低下させて、金利の悪い上昇=政府負担の増加をもたらしてしまうかもしれない、と指摘しています。
The Economistは、安倍政権への提案として、日銀に対して不要に強い態度で出るのではなく、女性の社会参加を促し(確かにこれは、移民増加などよりも遥かに大規模かつ即効的に、労働人口減少の問題への対策になると考えられます)、規制緩和を促進し、また野田政権を引き継いでTPPへの参加を進めることが出来れば、安倍政権は歴史に名を残すことが出来るだろう、と指摘しています。
TPP参加は参院選後に先送りにされそうですが、女性の社会参加や規制緩和は、経済構造の改革として、取り組むべき政策課題である気がします。しかしこれらの政策効果は実現に時間がかかるため、あくまで即効性で知られる金融政策、つまりインフレターゲットの導入と円安誘導が、第一ステップとしてあるように思います。
金融政策は「無効」か?
しかし金融政策を担当する日本銀行は、経済学者が「日銀流理論」と呼んで批判する様々な議論を用いて、一層の緩和拡大に否定的な態度を取って来ました。
最近こそ安倍氏からの強力なプレッシャーに反応して、2%のインフレターゲット導入に前向きな姿勢を示していますが、リーマン危機後に米FRBと欧ECBが大幅な量的緩和に踏み切った際に追随しなかったことが、円高の要因となっていると指摘されています。
安倍総理の経済ブレーンの一人と言われる、イェール大学名誉教授の浜田宏一氏は、自著「アメリカは日本経済の復活を知っている」(講談社)の冒頭で、「20年もの間デフレに苦しむ日本の不況は、ほぼすべてが日銀の金融政策に由来するものである」と、インフレターゲットの導入に躊躇する日銀・白川総裁を、名指しで厳しく批判しています。
同氏は、若田昌澄早大教授の指摘するところとして、日銀は「民間の資金需要に対して資金を供給しているので物価の決定についても限定的であり、とりうる政策手段も限定的であり、政府との協調関係も限定的であるべき」だと誤って考えている、と批判し、国民生活に多大な苦しみをもたらしているデフレと円高は、あくまで財貨や外貨の相対価格という「貨幣的な問題」であるのだから、金融政策こそが有効だ、と主張しています。
浜田氏はまた、同著の中で、日銀が人口減少がデフレの要因であると指摘している点についても、批判を加えています。その内容は、「人口は成長の要因にはなるが」、「貨幣的現象である物価、あるいはデフレに人口が効くというのは、経済の解剖学すなわち『国民所得会計』から見ても、生理学すなわち『金融論』から見ても、まったく的外れな議論だ」とし、また日銀が財政規律の緩みを懸念するに至っては、越権行為であると非難しています。
アベノミクスが、このような声に強く背中を押されていることは、疑いのないところな気がします。実際に安倍首相は、選挙戦の最中から、日銀に対して徹底した強硬姿勢を示していました。
しかし、The Economistの中にもあったように、行き過ぎの感があった日銀バッシングは、国内では経団連からも批判の対象となりました。そもそも、口では強行なことを言いながら、実際の政策は現実的であることの多い安倍氏だけに、大幅にトーンダウンしている中国・韓国に対する政策と同じように、日銀についても実際どこまでプッシュするつもりなのか、よく分かりません。
また、長年の不景気と需要の減退に慣れてしまった日本国民の中に存在する、「国内・海外ともに不景気で、需要が減少している中で、いくらカネをばら撒いたところで、消費・投資されないのではないか」、「給料が上がらない中で物価だけ上がったら、ますます人は消費しなくなるのではないか」などといった疑念は、そう簡単には払拭されない気がします。
ただ、恐らく浜田氏らが主張しているのは、需要は無視して良い、マネーの量だけ金融政策でコントロールすればよい、という話ではなく、国民の期待値を操る目的で導入するインフレターゲットは、まさに「需要」を作り出す助けになるので、その効果を軽視するような金融引締め政策を取ってはいけない、ということではないかと思います。
知識も時間も足りないため、この議論について、ここでこれ以上取り上げることは止めておきますが、以上のような積極的金融緩和を促す主張は、FRBのBernanke議長や、Paul Krugmanらアメリカの著名な経済学者の主張とも、一貫するところである気がします。
2013年の展望
ともあれ2013年には、日本市場を取り巻く環境が変化しそうな兆しを感じます。ここで取り上げたアベノミクスの金融政策如何によっては、為替レートや物価を通じて、日本経済や株式市場に大きな影響を与えるでしょうし、アメリカ経済が「財政の崖」を乗り切って、成長軌道に乗るようなことがあれば、米金利の先高感が、一層の円安の助けとなるかもしれません。
と同時に、安倍氏が本心では何を考えているのか、どの政策をどれほど突っ込んだ形で実行する気があるのかについては、正直よく分かりません。欧米からの期待値は、前回に政権を担った時のイメージが強いせいもあってか、あまり高くないと言える気がします。また、同氏の持論である憲法改正や軍事力の強化は、主要貿易相手国である中国や韓国との関係を、悪化させてしまうかもしれません。
ただ、間違いなく言えそうなのは、2013年は今までと比較して、日本への注目が高まりそうだという事です。仮に自民党が、参院選でも勝利した場合には、アベノミクスよりも一層踏み込んだ、小泉政権時に見られたような規制緩和などの政策も、期待できるかもしれません。日本は今まで、外国人投資家を期待させては裏切るといった流れを繰り返して来ましたが、今後も引続き、そんな日本市場が海外からどう見られているのかについては、フォローして行きたいと思います。
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by harry_g
| 2012-12-30 00:07
| 海外から見た日本