2008年 09月 28日
ウォールストリートの歴史的1ヶ月 |
2008年9月は、ウォールストリートの歴史に長く記憶される月になりました。問題が現在進行形であり、一つのエントリーにまとめるにはあまりに大きく深い内容ですが、足元の流れ、問題の根源、投資銀行の将来などについて、可能な限り簡潔に、書いてみたいと思います。
まず月初に、アメリカの住宅金融最大手、Fannie MaeとFreddie Macの、5000億ドル(約53兆円)に及ぶ国有化が発表されました。両社は、銀行などから住宅ローンを買い取り、それを証券化して債券市場に売却することで住宅金融を支えてきた機関であり、そこから生まれたモーゲージ証券市場も、米国債の市場を上回る規模に発展していました。
その両社が、事実上救済が必要な状況にまで追い込まれたことで、住宅バブル崩壊の問題の深さが改めて浮き彫りになったわけですが、これは文字通り、第一幕に過ぎませんでした。
9月14日の週末には、経営危機が噂されていたLehman Brothersの救済を話し合うべく、政財界のトップ会談が開催されました。
しかし公的支援無しで同社を買収できる企業はなく、同社は翌日に破綻して、英銀Barclaysが米国部門だけ$250mm(約260億円)という破格の値段で買い取ることになりました。
(同時多発テロで本社を失ったLehmanが、新築の状態でMorgan Stanleyから買い取ったNY Times Squareの本社ビルは、$1.75bn、約1800億円の値段が着けられました。同ビルの電光掲示板には、早くもBarclays Capitalのロゴが映し出されています。)
Lehmanの救済が話し合われた同じ席上では、4大証券の中で次に財務体力が弱く、Lehmanの次に市場から標的にされるであろうことが予想された大手証券のMerrill Lynchが、電撃的に大手銀Bank of Americaへの売却を決めたと発表しました。
こうして、一週末の間に大手投資銀行2社が事実上姿を消すという、ウォールストリートにとって衝撃的な事態となりました。しかしBear Stearnsは実質救済したにも拘らず、Lehmanを事実上見捨てるという政府の決断は、更に重大な事態を招くことになりました。
週が開けると、企業がデフォルトした際の保険の役割をするCDS(クレジットデフォルトスワップ)を大量に取り扱っていた保険業界最大手のAIGに、経営危機の噂が流れました。格付機関は直ちに同社を格下げし、追加資本が必要となった同社の財務健全性は一気に低下して、本業の保険業務の健全性とは無関係のところで、同社は経営危機に陥ることになりました。
Lehman Brothersの救済を見送った政府も、AIGが破綻してCDS契約が全て反故になることのインパクトの大きさを重視したのか、ただちに850億ドル(約9兆円)の緊急救済が行われ、AIGは国有化に追い込まれることになりました。
このように大手金融機関が立て続けに破綻する事態を受け、市場は半ばパニックになり、財務体力が弱いと思われる金融機関の株価が世界中で急落しました。残る大手投資銀行のGoldman SachsとMorgan Stanleyも、翌日に堅調な業績を発表したにもかかわらず、両社の破綻リスクを示すCDSのスプレッドが急拡大、株価は暴落しました。
アメリカ国外の金融機関も、健全性が低いと思われるところから破綻の噂が流れて株価が急落しました。
アメリカと同様に住宅バブルの崩壊に苦しむイギリスでは、住宅ローン最大手HBOSがLloys TSBによって、£12.2bn(約2.3兆円)で電撃的に緊急買収されました。
懸念と株価の暴落がスパイラルのように続く事態を受けて、主要先進国は、過去に日本が実施して厳しい批判を浴びた広範な空売り規制を、時限的とは言え実施し、とりあえず市場の混乱は収まったかに見えました。しかし住宅ローン証券の価格下落の影響は、金融機関のバランスシートに引続き大変な重荷になっていると思われ、現時点でも問題解決とはほど遠い状態にあると言える気がします。
社債などのクレジット市場は事実上の機能停止に陥っており、短期金融市場では金利の上昇が続いて、「貸し渋り・貸し剥がし」の問題が顕在化しつつあります。株式市場でも、空売り規制がもたらした流動性の低下や、Lehmanの破綻に関連したヘッジファンドのポジション解消などにより、不自然な株価動向と異常なボラティリティの上昇が続いています。
要するに、金融危機の解決には、金融機関のバランスシートに乗っている問題の資産を切り離す必要があると言える気がします。そのことを受けて、アメリカ政府は9月24日にブッシュ大統領が金融声明を発表し、7000億ドル(約74兆円)に及ぶ緊急金融対策(不良資産の買上げ)を、二の足を踏む議会に強く働きかけました。
混乱の第三幕?
そうこうしている間に、以前から経営難が噂されていたS&L(貯蓄信用組合)最大手Washington Mutual(通称「WaMu」)が、25日(木)に事実上破綻しました。その結果、日本の預金保険機構に相当するFDICが資産を一度接収し、西海岸に事業基盤を持っていないJP Morgan Chaseが、預金や支店を引き継ぐことになりました。
WaMuの破綻は各方面から「予想通り」とのコメントが聞かれ、あまり大きなニュースとして取り上げられませんでした。
しかしこれまで最大の銀行破綻が、1984年のContinental Illinois(資産総額$40bn、約4.2兆円)であったことを考えると、WaMuの資産総額$310bn(約33兆円)は、破格の大きさと言える気がします。
アメリカでは、今でも地銀を中心に、100行近くが財務健全性に懸念があると言われており、今後も銀行破綻が続くことが懸念されています。実際、翌26日(金)には、第四位の大手銀Wachoviaの株価が27%急落し、Citigroupを含む複数の銀行への売却交渉を進めているという話が、WSJによって報じられました。
このように金融危機は、いわば「混乱の第三幕」に突入しつつあると言える気がします。また金融が機能不全に陥いることで、「経済の血液」が流れない状況を作り出しつつあり、この状態が早々に解消されないと、日本が90年代に陥ったような長期不況に、世界中が陥ってしまうかもしれません。
問題の源泉
このような状況にどのようにして至ったのか、これも既に広く議論されているところですが、簡単に言うと以下のように説明できるかもしれません。
グリーンスパン前FRB議長が80年代終わりから推進した低金利政策と、世界的な流動性の高まりは、世界の至る所でイールド(金融商品のリターン)の低下をもたらしました。その結果、世界中の資金は、より高いリターンを求めて、積極的にリスクを取るようになっていました。

また、90年代に入ってクリントン政権になり、IT技術の急速な革新と軍需予算の削減による金融業界への人材流入が進んだ結果、複雑な金融商品(デリバティブ)の開発が加速されました。その結果、開発した本人にしかリスクが分からないような、しかし一見すると大変投資妙味に溢れる投資商品が、次々に生み出されるようになりました。
住宅ローンやLBOローンをまとめて証券化し、それを更に切り分けた商品であるCDOや、AIGを破綻に追い込んだCDSなどはその代表と言えるかもしれません。Warren Buffett氏が数年前にこれらのデリバティブを「金融大量破壊兵器」と呼んだのは、記憶に新しいところですが、住宅ローン証券などは、流動性も高く、また格付もAAAであったことから、イールドを求める外国政府などにも積極的に購入されました。
こうして複雑な金融商品が、世界中の投資家に保有されるに至っていたため、リスクがどこの誰にあるかを把握することも、それを監督監視することも、事実上不可能になっていたと言える気がします。その結果、アメリカで具現化した問題が世界中で疑心暗鬼やパニックを生み、その影響が世界中に広がることになってしまいました。
一方証券会社(投資銀行)も、金融危機が具現化する中で、そのビジネスモデルの欠陥が、浮かび上がってしまいました。
投資銀行は、証券取引手数料の自由化がもたらした収益力の低下を補うため、いわゆるブローカレッジ機能(金融仲介機能)から、自己資本とレバレッジを使って、自身で投資やトレーディングを行う事業を拡大していました。その最有力プレーヤーは、世界最大のヘッジファンドと、世界最大級のプライベートエクイティファンドを運営するGoldman Sachsであることは、以前にも書いたことがある気がします。
しかし投資銀行が用いていたレバレッジは、ヘッジファンドが用いるようなレベルも、大きく上回るものでした。借金経営をするということは、常に破綻のリスクがあるということであり、そのようなリスクの高い経営を行いつつ、金融システムの維持に必須の「仲介機能」も兼ねていたことが、今回の問題の根源の一つと言える気がします。
9月20日のEconomistの記事「Is there a future?(投資銀行に未来はあるか)」は、今回の危機を受けて改めて浮かび上がった投資銀行のビジネスモデルの問題点を、以下のように指摘していました。
1つ目はリスクへの耐久力で、銀行よりも多くの借入金を用いて、安定性の低い証券業や投資業に従事する投資銀行の、経営安定性に対する疑問です。これは上でも指摘した通りですが、大手オルタナティブファンドに勤める知人は、かねてより投資銀行を、「あれはブローカーじゃない、過剰なレバレッジのかかった投資会社だ」と言っていました。
2つ目は資金調達に関連するものです。預金ではなく短期金融市場からの借入に依存する証券会社は、流動性が突然枯渇したり、カウンターパーティの企業が破綻しりした際に、連鎖倒産する可能性があるという話です。Bear Stearnsは、この懸念から救済されたと言われています。
3つ目は投資銀行の収益力についての疑問です。市場全般的にレバレッジが下がった世の中で、ユニバーサルバンクが事業拡大を目指す中、伝統的投資銀行が提供できるサービスの価値や幅が徐々に浸食されることが懸念されます。
これらの問題を解決する有力な方法として誰もが思いつくのが、銀行と証券の一体化です。銀行は預金を集めることが出来るため、資金源がより安定していると同時に、より厳しい自己資本規制が適用され、事業リスクも低減します。Lehmanが破綻し、MerrillがBofAに救済買収される流れの中で、残る独立系投資銀行の大手二社の動向に、注目が集まりました。
「投資銀行業界」の終焉と今後
自らの安全性とビジネスモデルに批判と疑問が突きつけられたことを受け、最大手投資銀行のGoldman SachsとMorgan Stanleyは、ビジネスモデルを変革するか、銀行に事業売却をするかという、厳しい選択を迫られることになりました。
当初Morganは、Wachoviaとの合併などを模索していたようですが、最終的には、二社とも「銀行持ち株会社」に自らを変換することを選択しました。こうして、銀行業と証券業との分離を定めた「グラススティーガル法」の制定から75年経って、「投資銀行業界」は、消滅することになりました。

実際は、グラススティーガル法は、99年にクリントン政権が無効化しており、証券と銀行の統合(ユニバーサルバンク化)は既に進んでいました。例えばCitigroupには、Salomon BrothersやSmith Barney、UBSにはSG WarburgやPaine Webber、Credit SuisseにはFirst BostonやDLJと言った投資銀行が、吸収されています。
それでもウォールストリートには、「安全過ぎる(のろまな)」商業銀行業界への反発が根強く存在し、グラススティーガルによって誕生した投資銀行の代表であるMorgan Stanleyと、自己投資部門を拡大することで業界最大手の地位を確固たるものにしていたGoldman Sachsを筆頭に、投資銀行として留まることへのこだわりがあったように見受けられます。
しかし今後は、両社ともFedの監督下に入り、安全性を担保するための「Basel 2」の自己資本規制にも従うことになります。Bear Stearnsの破綻後に、既にリスクアセットを積極的に減らして来た二社は、現時点で資本増強は必要としていないようですが、全般的なレバレッジの低下はROEの減少をもたらすでしょうから、今後様々な事業構造改革を迫られるかもしれません。
投資銀行が提供してきたM&Aのアドバイザリーや証券の引受業務などのサービスは、市場が落ち着きを取り戻せば、再びニーズが戻ることは、間違いない気がします。ただ、自己資本を用いたトレーディングやプライベートエクイティ投資などは、あくまでファンドの形式で行うなど、これまで以上に本業の「仲介業務」との切り離しが求められるかもしれません。その結果「仲介業務」に従事する従業員の数が削減されるような事は、起こり得るかもしれません。(給与水準が引き下げられる可能性は低い気がします。)
また、ユニバーサルバンクになったところで、リスクの高い事業を推進して行けば、いずれ問題が表面化し、経営が傾く可能性は、十分にあると言える気がします。BusinessWeekが指摘するところによると、Citigroupは問題のある資産をオフバランスで所有していたとされ、2007年の夏から合計で$55bn(約5.8兆円)もの資産をライトオフ(減額償却)しているそうです。そう考えると、規制面での強化も、避けられないかもしれません。
・・・今回の事態を受けて、「アメリカが世界の主導的地位から転落するのでは」という指摘も聞かれます。しかしアメリカの繁栄の源泉は、かつて大英帝国を支えた植民地に相当する巨大な国内市場でも、世界中に展開された軍事力でもなく、その「柔軟性」と「人材力」にある気がします。
世界中の資金は、常に「相対的に」魅力的なところに向かうことになるため、アメリカが今回の危機に柔軟に対応出来ず、今後アメリカの国力低下が決定的になったり、投資先としての魅了が無くなったりしない限り、アメリカが決定的に衰退する可能性は低い気がします。(Jim Rogers氏の悲観論には賛同しかねます。)
とは言え、今回の混乱が非常にお粗末であることは間違いなく、国内外からの痛烈な批判は、当然と言える気がします。今後アメリカ政府が、金融業界を中心的産業として発展させ続けたいのであれば、新たな金融業界の秩序作りと、より厳しい、システムの安全性を担保できるようなルール作りを行うことは、必須と言えるかもしれません。
ウォールストリートも、半世紀に一度とも言うべき構造変化のニーズに直面しているわけですが、それが業界の「終焉」を意味するのではなく、痛みを乗り越えてよい方向へ「改革」されることを、期待したいと思います。

まず月初に、アメリカの住宅金融最大手、Fannie MaeとFreddie Macの、5000億ドル(約53兆円)に及ぶ国有化が発表されました。両社は、銀行などから住宅ローンを買い取り、それを証券化して債券市場に売却することで住宅金融を支えてきた機関であり、そこから生まれたモーゲージ証券市場も、米国債の市場を上回る規模に発展していました。
その両社が、事実上救済が必要な状況にまで追い込まれたことで、住宅バブル崩壊の問題の深さが改めて浮き彫りになったわけですが、これは文字通り、第一幕に過ぎませんでした。
9月14日の週末には、経営危機が噂されていたLehman Brothersの救済を話し合うべく、政財界のトップ会談が開催されました。しかし公的支援無しで同社を買収できる企業はなく、同社は翌日に破綻して、英銀Barclaysが米国部門だけ$250mm(約260億円)という破格の値段で買い取ることになりました。
(同時多発テロで本社を失ったLehmanが、新築の状態でMorgan Stanleyから買い取ったNY Times Squareの本社ビルは、$1.75bn、約1800億円の値段が着けられました。同ビルの電光掲示板には、早くもBarclays Capitalのロゴが映し出されています。)
Lehmanの救済が話し合われた同じ席上では、4大証券の中で次に財務体力が弱く、Lehmanの次に市場から標的にされるであろうことが予想された大手証券のMerrill Lynchが、電撃的に大手銀Bank of Americaへの売却を決めたと発表しました。
こうして、一週末の間に大手投資銀行2社が事実上姿を消すという、ウォールストリートにとって衝撃的な事態となりました。しかしBear Stearnsは実質救済したにも拘らず、Lehmanを事実上見捨てるという政府の決断は、更に重大な事態を招くことになりました。
週が開けると、企業がデフォルトした際の保険の役割をするCDS(クレジットデフォルトスワップ)を大量に取り扱っていた保険業界最大手のAIGに、経営危機の噂が流れました。格付機関は直ちに同社を格下げし、追加資本が必要となった同社の財務健全性は一気に低下して、本業の保険業務の健全性とは無関係のところで、同社は経営危機に陥ることになりました。
Lehman Brothersの救済を見送った政府も、AIGが破綻してCDS契約が全て反故になることのインパクトの大きさを重視したのか、ただちに850億ドル(約9兆円)の緊急救済が行われ、AIGは国有化に追い込まれることになりました。
このように大手金融機関が立て続けに破綻する事態を受け、市場は半ばパニックになり、財務体力が弱いと思われる金融機関の株価が世界中で急落しました。残る大手投資銀行のGoldman SachsとMorgan Stanleyも、翌日に堅調な業績を発表したにもかかわらず、両社の破綻リスクを示すCDSのスプレッドが急拡大、株価は暴落しました。
アメリカ国外の金融機関も、健全性が低いと思われるところから破綻の噂が流れて株価が急落しました。アメリカと同様に住宅バブルの崩壊に苦しむイギリスでは、住宅ローン最大手HBOSがLloys TSBによって、£12.2bn(約2.3兆円)で電撃的に緊急買収されました。
懸念と株価の暴落がスパイラルのように続く事態を受けて、主要先進国は、過去に日本が実施して厳しい批判を浴びた広範な空売り規制を、時限的とは言え実施し、とりあえず市場の混乱は収まったかに見えました。しかし住宅ローン証券の価格下落の影響は、金融機関のバランスシートに引続き大変な重荷になっていると思われ、現時点でも問題解決とはほど遠い状態にあると言える気がします。
社債などのクレジット市場は事実上の機能停止に陥っており、短期金融市場では金利の上昇が続いて、「貸し渋り・貸し剥がし」の問題が顕在化しつつあります。株式市場でも、空売り規制がもたらした流動性の低下や、Lehmanの破綻に関連したヘッジファンドのポジション解消などにより、不自然な株価動向と異常なボラティリティの上昇が続いています。
要するに、金融危機の解決には、金融機関のバランスシートに乗っている問題の資産を切り離す必要があると言える気がします。そのことを受けて、アメリカ政府は9月24日にブッシュ大統領が金融声明を発表し、7000億ドル(約74兆円)に及ぶ緊急金融対策(不良資産の買上げ)を、二の足を踏む議会に強く働きかけました。
混乱の第三幕?
そうこうしている間に、以前から経営難が噂されていたS&L(貯蓄信用組合)最大手Washington Mutual(通称「WaMu」)が、25日(木)に事実上破綻しました。その結果、日本の預金保険機構に相当するFDICが資産を一度接収し、西海岸に事業基盤を持っていないJP Morgan Chaseが、預金や支店を引き継ぐことになりました。
WaMuの破綻は各方面から「予想通り」とのコメントが聞かれ、あまり大きなニュースとして取り上げられませんでした。しかしこれまで最大の銀行破綻が、1984年のContinental Illinois(資産総額$40bn、約4.2兆円)であったことを考えると、WaMuの資産総額$310bn(約33兆円)は、破格の大きさと言える気がします。
アメリカでは、今でも地銀を中心に、100行近くが財務健全性に懸念があると言われており、今後も銀行破綻が続くことが懸念されています。実際、翌26日(金)には、第四位の大手銀Wachoviaの株価が27%急落し、Citigroupを含む複数の銀行への売却交渉を進めているという話が、WSJによって報じられました。
このように金融危機は、いわば「混乱の第三幕」に突入しつつあると言える気がします。また金融が機能不全に陥いることで、「経済の血液」が流れない状況を作り出しつつあり、この状態が早々に解消されないと、日本が90年代に陥ったような長期不況に、世界中が陥ってしまうかもしれません。
問題の源泉
このような状況にどのようにして至ったのか、これも既に広く議論されているところですが、簡単に言うと以下のように説明できるかもしれません。
グリーンスパン前FRB議長が80年代終わりから推進した低金利政策と、世界的な流動性の高まりは、世界の至る所でイールド(金融商品のリターン)の低下をもたらしました。その結果、世界中の資金は、より高いリターンを求めて、積極的にリスクを取るようになっていました。

住宅ローンやLBOローンをまとめて証券化し、それを更に切り分けた商品であるCDOや、AIGを破綻に追い込んだCDSなどはその代表と言えるかもしれません。Warren Buffett氏が数年前にこれらのデリバティブを「金融大量破壊兵器」と呼んだのは、記憶に新しいところですが、住宅ローン証券などは、流動性も高く、また格付もAAAであったことから、イールドを求める外国政府などにも積極的に購入されました。
こうして複雑な金融商品が、世界中の投資家に保有されるに至っていたため、リスクがどこの誰にあるかを把握することも、それを監督監視することも、事実上不可能になっていたと言える気がします。その結果、アメリカで具現化した問題が世界中で疑心暗鬼やパニックを生み、その影響が世界中に広がることになってしまいました。
一方証券会社(投資銀行)も、金融危機が具現化する中で、そのビジネスモデルの欠陥が、浮かび上がってしまいました。
投資銀行は、証券取引手数料の自由化がもたらした収益力の低下を補うため、いわゆるブローカレッジ機能(金融仲介機能)から、自己資本とレバレッジを使って、自身で投資やトレーディングを行う事業を拡大していました。その最有力プレーヤーは、世界最大のヘッジファンドと、世界最大級のプライベートエクイティファンドを運営するGoldman Sachsであることは、以前にも書いたことがある気がします。
しかし投資銀行が用いていたレバレッジは、ヘッジファンドが用いるようなレベルも、大きく上回るものでした。借金経営をするということは、常に破綻のリスクがあるということであり、そのようなリスクの高い経営を行いつつ、金融システムの維持に必須の「仲介機能」も兼ねていたことが、今回の問題の根源の一つと言える気がします。
9月20日のEconomistの記事「Is there a future?(投資銀行に未来はあるか)」は、今回の危機を受けて改めて浮かび上がった投資銀行のビジネスモデルの問題点を、以下のように指摘していました。
1つ目はリスクへの耐久力で、銀行よりも多くの借入金を用いて、安定性の低い証券業や投資業に従事する投資銀行の、経営安定性に対する疑問です。これは上でも指摘した通りですが、大手オルタナティブファンドに勤める知人は、かねてより投資銀行を、「あれはブローカーじゃない、過剰なレバレッジのかかった投資会社だ」と言っていました。
2つ目は資金調達に関連するものです。預金ではなく短期金融市場からの借入に依存する証券会社は、流動性が突然枯渇したり、カウンターパーティの企業が破綻しりした際に、連鎖倒産する可能性があるという話です。Bear Stearnsは、この懸念から救済されたと言われています。
3つ目は投資銀行の収益力についての疑問です。市場全般的にレバレッジが下がった世の中で、ユニバーサルバンクが事業拡大を目指す中、伝統的投資銀行が提供できるサービスの価値や幅が徐々に浸食されることが懸念されます。
これらの問題を解決する有力な方法として誰もが思いつくのが、銀行と証券の一体化です。銀行は預金を集めることが出来るため、資金源がより安定していると同時に、より厳しい自己資本規制が適用され、事業リスクも低減します。Lehmanが破綻し、MerrillがBofAに救済買収される流れの中で、残る独立系投資銀行の大手二社の動向に、注目が集まりました。
「投資銀行業界」の終焉と今後
自らの安全性とビジネスモデルに批判と疑問が突きつけられたことを受け、最大手投資銀行のGoldman SachsとMorgan Stanleyは、ビジネスモデルを変革するか、銀行に事業売却をするかという、厳しい選択を迫られることになりました。
当初Morganは、Wachoviaとの合併などを模索していたようですが、最終的には、二社とも「銀行持ち株会社」に自らを変換することを選択しました。こうして、銀行業と証券業との分離を定めた「グラススティーガル法」の制定から75年経って、「投資銀行業界」は、消滅することになりました。

それでもウォールストリートには、「安全過ぎる(のろまな)」商業銀行業界への反発が根強く存在し、グラススティーガルによって誕生した投資銀行の代表であるMorgan Stanleyと、自己投資部門を拡大することで業界最大手の地位を確固たるものにしていたGoldman Sachsを筆頭に、投資銀行として留まることへのこだわりがあったように見受けられます。
しかし今後は、両社ともFedの監督下に入り、安全性を担保するための「Basel 2」の自己資本規制にも従うことになります。Bear Stearnsの破綻後に、既にリスクアセットを積極的に減らして来た二社は、現時点で資本増強は必要としていないようですが、全般的なレバレッジの低下はROEの減少をもたらすでしょうから、今後様々な事業構造改革を迫られるかもしれません。
投資銀行が提供してきたM&Aのアドバイザリーや証券の引受業務などのサービスは、市場が落ち着きを取り戻せば、再びニーズが戻ることは、間違いない気がします。ただ、自己資本を用いたトレーディングやプライベートエクイティ投資などは、あくまでファンドの形式で行うなど、これまで以上に本業の「仲介業務」との切り離しが求められるかもしれません。その結果「仲介業務」に従事する従業員の数が削減されるような事は、起こり得るかもしれません。(給与水準が引き下げられる可能性は低い気がします。)
また、ユニバーサルバンクになったところで、リスクの高い事業を推進して行けば、いずれ問題が表面化し、経営が傾く可能性は、十分にあると言える気がします。BusinessWeekが指摘するところによると、Citigroupは問題のある資産をオフバランスで所有していたとされ、2007年の夏から合計で$55bn(約5.8兆円)もの資産をライトオフ(減額償却)しているそうです。そう考えると、規制面での強化も、避けられないかもしれません。
・・・今回の事態を受けて、「アメリカが世界の主導的地位から転落するのでは」という指摘も聞かれます。しかしアメリカの繁栄の源泉は、かつて大英帝国を支えた植民地に相当する巨大な国内市場でも、世界中に展開された軍事力でもなく、その「柔軟性」と「人材力」にある気がします。
世界中の資金は、常に「相対的に」魅力的なところに向かうことになるため、アメリカが今回の危機に柔軟に対応出来ず、今後アメリカの国力低下が決定的になったり、投資先としての魅了が無くなったりしない限り、アメリカが決定的に衰退する可能性は低い気がします。(Jim Rogers氏の悲観論には賛同しかねます。)
とは言え、今回の混乱が非常にお粗末であることは間違いなく、国内外からの痛烈な批判は、当然と言える気がします。今後アメリカ政府が、金融業界を中心的産業として発展させ続けたいのであれば、新たな金融業界の秩序作りと、より厳しい、システムの安全性を担保できるようなルール作りを行うことは、必須と言えるかもしれません。
ウォールストリートも、半世紀に一度とも言うべき構造変化のニーズに直面しているわけですが、それが業界の「終焉」を意味するのではなく、痛みを乗り越えてよい方向へ「改革」されることを、期待したいと思います。

by harry_g
| 2008-09-28 09:29
| 投資銀行


