2008年 07月 13日
石油価格上昇の犯人? |
私はコモディティについての専門知識は全くありませんが、数年来上昇を続けている原油価格は、2008年に入っても上昇を続け、年初に$100を早々に突破して、7月現在では$140台に至っています。
チャートを見ると、原油価格の上昇は、まさに「バブル」と言える勢いだと感じられるかもしれません。
実際のところは、インフレ調整ベースで価格を見る必要があることや、ドルの下落が原油価格の上昇幅を誇張している(ユーロ建てでは上昇率はさほど高くなく、ドル資産の下落/インフレのヘッジとして、コモディティ投資が加熱している)との指摘もあるようです。
とは言え、原油高の影響が世界経済全般に及ぶようになり、アメリカでもガソリン価格がちょっと前の4倍近い水準にまで跳ね上がっている現状を受けて、「犯人探し」が加熱していると言えるかもしれません。そして、中でも最もよく聞かれる議論は、米民主党のHillary Clinton上院議員が、予備選挙中に繰り返していたような、「投機筋悪玉論」と言える気がします。
一般紙は言うに及ばず、経済誌においても、例えば6月9日号のBusinessWeekが、「Speculation - But Not Manipulation(投機ではあるが、価格操作ではない)」と言う記事の中で、原油先物市場に流入した多額の資金が、これは過去5年で実に$13bn(約1.4兆円)から$260bn(約27兆円)に膨らんでいるそうですが、原油現物の値段を押し上げる主因となっている、と言った話を展開していました。
そのような論調が広がりを見せている中、7月5日のThe Economistに、「Don't blame the speculators(投機筋を責めるな)」という、他のメディアとかなり違った議論が掲載されていました。これはなかなか興味深い内容だったので、専門外ではありますが、少々触れてみたいと思います。
Economistは、コモディティ取引所として最大と言われるNew York Mercantile Exchange(NYMEX)で取引されている原油先物価格が、2004年から現時点までで3倍近く値上がりしていることを挙げた上で、いわゆる投機筋を原油価格の高騰の犯人だとする議論には何の根拠もない、と主張しています。
理由の一つとしては、いわゆる投機家が石油取引に占める割合が、決して大きくないと言うことがあるようです。
例えばインデックスファンドは、価格の値上がりにベットし続ける存在として批判されているそうですが、それらがNYMEXの先物取引高に占める割合は12%、世界の原油取引総額対比で見ると2%に過ぎないそうです。
またより重要な点としてEconomistが指摘するところによると、投機家もインデックスファンドも、投資対象として取引しているのは原油の「先物」や「オプション」であり、原油の「現物」そのものを取引しているわけではない、ということが挙げられます。と言うのは、先物やオプション契約は現金決済、つまり期日には現金のやり取りが行われるだけで、原油の現物が取引されるわけではないからです。
これはBusinessWeekの「投機ではあるかもしれないが、価格操作ではない」という議論と共通する話かもしれませんが、要は誰も、現物の石油を買い占めてどこかに貯蔵しているわけではないということになります。
Economistは、「投機家は市場で無限に賭けをすることは出来るが、現物価格に直接的な影響を行使することは出来ない。それは、サッカーの試合結果に対する賭けがいくらヒートアップしても、試合結果に何の影響も与えないのと同じ事だ」と、ユニークな例を挙げて主張していました。
その話の証明として、同誌の記事の中で取り上げられていたところによると、ニッケルの価格は投機的判断によって先物市場で大幅に値を上げたそうですが、現物価格は、過去1年で半分に下落したそうです。また、取引所で売買されていない幾つかのコモディティ、例えば鉄鉱石や米の価格が急騰していることを見ても、投機取引が価格高騰の原因とは言えないことが分かると、この記事では指摘していました。
それでは投機家は、何に基づいて先物市場やオプション市場での賭けを行うのでしょうか?
それは言うまでもなく、現物の「需給関係」ということになります。
万が一投機取引が現物の需給バランスと関係なく、現物価格をつり上げることが出来たとしたら、需要が緩んで、市場価格は下落するはずと言うことになります。
情報の正確さは担保できませんが、現時点では、原油現物の在庫レベルが上昇している、つまり需給が緩んでいるといった兆候はなく、また、最大の産油国であるサウジアラビアも、現時点で可能な限り石油の採掘を進めているそうです。
むしろサウジアラビアを代表とする中東産油国は、原油価格があまりに値上がりすることで欧米からの批判対象となることや、中東情勢が不安定化することを、強く懸念していると聞きます。よって供給増が問題を解決するならば喜んで協力するが、現時点では供給を少々増やしたくらいでは問題の解決には当たらない、といった立場だと理解しています。
余談ですが、秋のアメリカ大統領選挙で民主党のオバマ候補が当選し、公約通り2年以内にイラクから軍隊を撤退させることになれば、中東情勢は大きく混乱し、原油価格が一層上昇することは避けられないかもしれません。最近はイスラエルがイランの核施設への先制攻撃を検討しているなどと伝えられていますが、それが現実となるか否かは、アメリカの動き次第なのかもしれません。
話がそれましたが、原油価格の値上がりが、チャートの形状にも関らずバブルとは言えないとすると、価格上昇が何故需給バランスに影響を与えないのか、という疑問が起ります。
その理由としてよく指摘されるのは、中国やインド、メキシコなどの途上国政府が、石油に対して補助金を出しており、最終消費者に価格上昇の痛みが伝わらないと言うことです。

補助金の善し悪しは別として、これは裏を返せば、国際的な政治圧力などにより、状況が一転する可能性があることを、意味していると言えるかもしれません。実際そのような政治圧力が加わり、結果として需給が緩んで価格が低下すれば、昨今の原油価格ブームは、投機主導ではなく、あくまでファンダメンタルズだったんだという結論になるかもしれません。
Economistでは、この「投機家擁護論?」を更に進めて、原油先物の投機家が増加していることは、実態経済に様々なメリットをもたらしているとも書いていました。
その例として挙げられていたのは、一つ目は、先物市場に流動性があることで、航空会社や電力会社などが、効率的に価格上昇に対するヘッジをすることが出来るというものです。そしてもう一つは、石油を売る側も、あらかじめ売却価格を固定することが出来、生産計画などが立てやすくなるというものです。
そもそも先物市場が上記のようなニーズから生まれたことを考えると、そこに流動性が担保されていることが重要であることは、当たり前と言える気がします。そこを一部の政治家が主張しているように、下手に規制してしまうと、想定外のネガティブな効果を生んでしまうかもしれません。
とは言え、先物市場は現物市場への期待感を反映していると一般に考えられることから、先物市場が投機取引で加熱することで、現物市場にもその加熱が飛び火する可能性が無いとは言い切れない気がします。そう考えると、インデックスファンドやマクロ系のヘッジファンドに対する批判は、そう簡単には収まらないかもしれません。
別に私はEconomist誌の主張が完全に正しいと言うつもりもありませんが、経済が減速すると、何かと金融業界をスケープゴートにしようという流れには、疑問を感じざるを得ないというのが正直なところです。金融は実態経済の「血液」または「潤滑油」的な役割を果たしているわけで、恩恵だけ享受して被害はゼロにするというのは、非現実的な気がします。
また、インデックスファンドやヘッジファンドによるコモディティ投資の拡大は、インフレ時に年金基金などの資産を守るための行動であり、これまた一方的批判の対象には当たらない気がします。そして中国やインドの現状についても、それらの国の経済成長から、先進国が大きな利益を得ていることを考えると、両国を一方的に批判する向きにも賛同しかねるということも、付け加えたいと思います。
チャートを見ると、原油価格の上昇は、まさに「バブル」と言える勢いだと感じられるかもしれません。実際のところは、インフレ調整ベースで価格を見る必要があることや、ドルの下落が原油価格の上昇幅を誇張している(ユーロ建てでは上昇率はさほど高くなく、ドル資産の下落/インフレのヘッジとして、コモディティ投資が加熱している)との指摘もあるようです。
とは言え、原油高の影響が世界経済全般に及ぶようになり、アメリカでもガソリン価格がちょっと前の4倍近い水準にまで跳ね上がっている現状を受けて、「犯人探し」が加熱していると言えるかもしれません。そして、中でも最もよく聞かれる議論は、米民主党のHillary Clinton上院議員が、予備選挙中に繰り返していたような、「投機筋悪玉論」と言える気がします。
一般紙は言うに及ばず、経済誌においても、例えば6月9日号のBusinessWeekが、「Speculation - But Not Manipulation(投機ではあるが、価格操作ではない)」と言う記事の中で、原油先物市場に流入した多額の資金が、これは過去5年で実に$13bn(約1.4兆円)から$260bn(約27兆円)に膨らんでいるそうですが、原油現物の値段を押し上げる主因となっている、と言った話を展開していました。
そのような論調が広がりを見せている中、7月5日のThe Economistに、「Don't blame the speculators(投機筋を責めるな)」という、他のメディアとかなり違った議論が掲載されていました。これはなかなか興味深い内容だったので、専門外ではありますが、少々触れてみたいと思います。
Economistは、コモディティ取引所として最大と言われるNew York Mercantile Exchange(NYMEX)で取引されている原油先物価格が、2004年から現時点までで3倍近く値上がりしていることを挙げた上で、いわゆる投機筋を原油価格の高騰の犯人だとする議論には何の根拠もない、と主張しています。
理由の一つとしては、いわゆる投機家が石油取引に占める割合が、決して大きくないと言うことがあるようです。例えばインデックスファンドは、価格の値上がりにベットし続ける存在として批判されているそうですが、それらがNYMEXの先物取引高に占める割合は12%、世界の原油取引総額対比で見ると2%に過ぎないそうです。
またより重要な点としてEconomistが指摘するところによると、投機家もインデックスファンドも、投資対象として取引しているのは原油の「先物」や「オプション」であり、原油の「現物」そのものを取引しているわけではない、ということが挙げられます。と言うのは、先物やオプション契約は現金決済、つまり期日には現金のやり取りが行われるだけで、原油の現物が取引されるわけではないからです。
これはBusinessWeekの「投機ではあるかもしれないが、価格操作ではない」という議論と共通する話かもしれませんが、要は誰も、現物の石油を買い占めてどこかに貯蔵しているわけではないということになります。
Economistは、「投機家は市場で無限に賭けをすることは出来るが、現物価格に直接的な影響を行使することは出来ない。それは、サッカーの試合結果に対する賭けがいくらヒートアップしても、試合結果に何の影響も与えないのと同じ事だ」と、ユニークな例を挙げて主張していました。
その話の証明として、同誌の記事の中で取り上げられていたところによると、ニッケルの価格は投機的判断によって先物市場で大幅に値を上げたそうですが、現物価格は、過去1年で半分に下落したそうです。また、取引所で売買されていない幾つかのコモディティ、例えば鉄鉱石や米の価格が急騰していることを見ても、投機取引が価格高騰の原因とは言えないことが分かると、この記事では指摘していました。
それでは投機家は、何に基づいて先物市場やオプション市場での賭けを行うのでしょうか?それは言うまでもなく、現物の「需給関係」ということになります。
万が一投機取引が現物の需給バランスと関係なく、現物価格をつり上げることが出来たとしたら、需要が緩んで、市場価格は下落するはずと言うことになります。
情報の正確さは担保できませんが、現時点では、原油現物の在庫レベルが上昇している、つまり需給が緩んでいるといった兆候はなく、また、最大の産油国であるサウジアラビアも、現時点で可能な限り石油の採掘を進めているそうです。
むしろサウジアラビアを代表とする中東産油国は、原油価格があまりに値上がりすることで欧米からの批判対象となることや、中東情勢が不安定化することを、強く懸念していると聞きます。よって供給増が問題を解決するならば喜んで協力するが、現時点では供給を少々増やしたくらいでは問題の解決には当たらない、といった立場だと理解しています。
余談ですが、秋のアメリカ大統領選挙で民主党のオバマ候補が当選し、公約通り2年以内にイラクから軍隊を撤退させることになれば、中東情勢は大きく混乱し、原油価格が一層上昇することは避けられないかもしれません。最近はイスラエルがイランの核施設への先制攻撃を検討しているなどと伝えられていますが、それが現実となるか否かは、アメリカの動き次第なのかもしれません。
話がそれましたが、原油価格の値上がりが、チャートの形状にも関らずバブルとは言えないとすると、価格上昇が何故需給バランスに影響を与えないのか、という疑問が起ります。
その理由としてよく指摘されるのは、中国やインド、メキシコなどの途上国政府が、石油に対して補助金を出しており、最終消費者に価格上昇の痛みが伝わらないと言うことです。

Economistでは、この「投機家擁護論?」を更に進めて、原油先物の投機家が増加していることは、実態経済に様々なメリットをもたらしているとも書いていました。
その例として挙げられていたのは、一つ目は、先物市場に流動性があることで、航空会社や電力会社などが、効率的に価格上昇に対するヘッジをすることが出来るというものです。そしてもう一つは、石油を売る側も、あらかじめ売却価格を固定することが出来、生産計画などが立てやすくなるというものです。
そもそも先物市場が上記のようなニーズから生まれたことを考えると、そこに流動性が担保されていることが重要であることは、当たり前と言える気がします。そこを一部の政治家が主張しているように、下手に規制してしまうと、想定外のネガティブな効果を生んでしまうかもしれません。
とは言え、先物市場は現物市場への期待感を反映していると一般に考えられることから、先物市場が投機取引で加熱することで、現物市場にもその加熱が飛び火する可能性が無いとは言い切れない気がします。そう考えると、インデックスファンドやマクロ系のヘッジファンドに対する批判は、そう簡単には収まらないかもしれません。
別に私はEconomist誌の主張が完全に正しいと言うつもりもありませんが、経済が減速すると、何かと金融業界をスケープゴートにしようという流れには、疑問を感じざるを得ないというのが正直なところです。金融は実態経済の「血液」または「潤滑油」的な役割を果たしているわけで、恩恵だけ享受して被害はゼロにするというのは、非現実的な気がします。
また、インデックスファンドやヘッジファンドによるコモディティ投資の拡大は、インフレ時に年金基金などの資産を守るための行動であり、これまた一方的批判の対象には当たらない気がします。そして中国やインドの現状についても、それらの国の経済成長から、先進国が大きな利益を得ていることを考えると、両国を一方的に批判する向きにも賛同しかねるということも、付け加えたいと思います。
by harry_g
| 2008-07-13 13:17
| 世界経済・市場トレンド


