2008年 06月 01日
日本企業の特殊性? |
ヨーロッパの著名なアクティビスト投資家であるTCI(ザ・チルドレンズ・インベストメント)が、日本の電力会社J-Powerを相手に配当金の引き上げ要求を突きつけていることは、欧米のメディアでも取り上げられています。
日本でも報道されているでしょうが、最近では5月28日のFTに、TCIが、J-Powerの主要持合株主であるみずほフィナンシャルと鹿島の株式を取得し、TCIの要求に合意しない理由の正当性を問いただす意図がある、という記事が載っていました。
TCIの要求内容の善し悪しは別として、その行動を見ていて感じる率直な個人的感想は、「せめてもう少し、日本(企業)の特殊性を考慮したアプローチを取れなかったのか」ということです。
ここで「特殊」だと言っているのは、海外の企業と比較すると、日本企業は株主価値の最大化を経営の優先課題として重視していない、ということです。
先日シンガポールで、アジア各国の企業と面談する機会があったのですが、これらの企業は日本企業と比べると、株主価値の最大化に関して遥かに「欧米的な」アプローチを取っています。日本で一般に当たり前と思われている企業行動は、米英企業のみならず、大陸欧州やアジアの先進各国、更にはインド、中国、東南アジアの大企業などと比較しても、その特殊性が際立っていると言える気がします。
日本にも株主価値を重視した経営をしている企業もあり、またアジアでは必要以上にリップサービスをする企業もあるので、あまり一般化することはよくないですが、投資リターンを常に考えて企業経営者と面談する投資家の目から見てみると、その違いは明確だと言ってよい気がします。

誤解のないように言っておきますが、「だから日本企業も即変わらないとだめだ」と言っているわけではありません。もちろん変われば日本にとって広く大きくプラスになるでしょうが、日本で株主資本主義が受入れられない理由は良く理解できるものであり、それを簡単に変えろというのは、現実的ではない気がします。
米英では、株主資本主義の重要さを説明する際、東インド会社時代に生まれたとされる出資者がリスクを限定する(株式会社の)メカニズムがあるからこそ、デュポン、マイクロソフト、グーグルといった革新的企業が生まれ育ってきたのだ、という話が聞かれます。
しかし日本では、株主資本主義が不在でも、トヨタやキヤノン、ソニーといった世界に誇る企業が多数生まれ育っているではないか、という議論が成り立つかもしれません。そしてその成功体験をもった世代の経営者らが「株主経営」への移行に抵抗感を示すのは、自然な流れなきがします。
とは言え、なにぶん日本以外の主要国の企業経営者の大半が、株主価値向上について「同じ言語で」投資家と会話をしていること、また日本も独自性を明確に主張できているわけでもない(大半の企業が株式を上場している)こともあり、TCIや一部のプライベートエクイティファンドのように、欧米の考え方をそのまま持ち込もうとする投資家がいるのも、これまた仕方がない気がします。
それでも実際に日本に乗り込んで来てみると、経営者からは「ROEや株価のために経営をしているわけではない」、「資本政策は特に考えていない」といった話が当たり前のように聞かれるため、早々に日本への関心を失ってしまう投資家も多くいるようです。
最近では投資銀行や機関投資家で、「日本チーム」と「日本以外アジア・チーム」を統合したり、場合によっては「中国チーム」と「中国以外アジア・チーム」に分けるような動きも見られます。これらの動きは、日本市場の相対的地位の低下を、端的に表していると言えるかもしれません。
ともかく、日本に競争力のある企業が多く存在することと、しかし株主経営に対する考え方がすぐに変わるとは考えにくいことは、ほぼ間違いない気がします。よって日本で利益を上げたい投資家は、欧米のやり方をごり押しするのではなく、日本の特殊事情を考慮した上で行動するのが現実的なのかもしれません。
TCIの最近の行動については、5月28日の「A Letter to TCI」というFTのコラムが、以下のようなことを書いていました。
・・・投資家として、大企業に挑戦し、株主価値を高めようとするあなた方の行動を賞賛したい。しかし公共インフラ企業への投資については懸念している。借入と配当金を増やし(訳注:資本構造を最適化し)、株式持合いを解消させるような要求は、長期の投資家である我々の利益とも合致するところである。
しかし政府から大きな不興を買うというのは、賢い行動とは言えない。最近では、J-Powerの主要株主の株式まで取得するに至ったそうだが、その手法(株取得の効果と株の投資魅力)には大いに疑問がある。これらの株は最近45%近く上昇したようなので、それ以前に取得していたことを祈るばかりである・・・
<<<追記>>>
今回のエントリーで再確認したかったのは、アクティビスト戦略は、経営権を掌握出来ないマイノリティ株主でありながら、それなりの多額出資をする=流動性リスクを全面的に負うと言う、非常に難しいストラテジーである、と言うことです。
またアクティビスト戦略は、大きなレピュテーションリスクもある(行動が全て白日の下に晒される)ため、合理性が重視され、「真っ当な主張が通りやすい」米英であっても、実行困難な戦略であると言える気がします。そのことは、Carl Icahn氏のようなプレーヤーが少ないことや、そのようなプレーヤーの経験の長さと、畏怖のようなレピュテーションからも、確認出来るかもしれません。
日本においては、バイアウト(経営権の取得)がなかなか出来ないから、もしくは小額の株式を取得して経営者と面談していても、株主価値の向上に関して埒があかないから、などの理由から、アクティビスト戦略を選ぶ流れが散見される気がします。
しかしバイアウトが進まない理由と、企業が資本効率を最適化しない(株主価値の最大化を目指さない)理由は、そもそも同一であることが多く、そうであれば、敵対的にせよ友好的にせよ、アクティビスト戦略もなかなかワークしないかもしれません。
日本には、「日本の企業文化は特殊である」という考え方が、いわゆるエスタブリッシュメント層の間に深く根付いている気がします。頂いたコメントでは、日本は時代遅れである、日本企業ももう少しグローバル化に対応しないと、日本の株式市場は干上がってしまうというご意見が多かったですが、社会の上層部が変化しない限り、簡単には行かない気がします。
2005年の株価の復活と、海外でのバイアウトブームの流れから、日本には数多くの外資系ファンドが進出しているようですが、日本の現状を鑑みると、いかにその特殊性を理解した投資が出来るかが、成否を分けることになるかもしれません。
日本でも報道されているでしょうが、最近では5月28日のFTに、TCIが、J-Powerの主要持合株主であるみずほフィナンシャルと鹿島の株式を取得し、TCIの要求に合意しない理由の正当性を問いただす意図がある、という記事が載っていました。TCIの要求内容の善し悪しは別として、その行動を見ていて感じる率直な個人的感想は、「せめてもう少し、日本(企業)の特殊性を考慮したアプローチを取れなかったのか」ということです。
ここで「特殊」だと言っているのは、海外の企業と比較すると、日本企業は株主価値の最大化を経営の優先課題として重視していない、ということです。
先日シンガポールで、アジア各国の企業と面談する機会があったのですが、これらの企業は日本企業と比べると、株主価値の最大化に関して遥かに「欧米的な」アプローチを取っています。日本で一般に当たり前と思われている企業行動は、米英企業のみならず、大陸欧州やアジアの先進各国、更にはインド、中国、東南アジアの大企業などと比較しても、その特殊性が際立っていると言える気がします。
日本にも株主価値を重視した経営をしている企業もあり、またアジアでは必要以上にリップサービスをする企業もあるので、あまり一般化することはよくないですが、投資リターンを常に考えて企業経営者と面談する投資家の目から見てみると、その違いは明確だと言ってよい気がします。

誤解のないように言っておきますが、「だから日本企業も即変わらないとだめだ」と言っているわけではありません。もちろん変われば日本にとって広く大きくプラスになるでしょうが、日本で株主資本主義が受入れられない理由は良く理解できるものであり、それを簡単に変えろというのは、現実的ではない気がします。
米英では、株主資本主義の重要さを説明する際、東インド会社時代に生まれたとされる出資者がリスクを限定する(株式会社の)メカニズムがあるからこそ、デュポン、マイクロソフト、グーグルといった革新的企業が生まれ育ってきたのだ、という話が聞かれます。
しかし日本では、株主資本主義が不在でも、トヨタやキヤノン、ソニーといった世界に誇る企業が多数生まれ育っているではないか、という議論が成り立つかもしれません。そしてその成功体験をもった世代の経営者らが「株主経営」への移行に抵抗感を示すのは、自然な流れなきがします。
とは言え、なにぶん日本以外の主要国の企業経営者の大半が、株主価値向上について「同じ言語で」投資家と会話をしていること、また日本も独自性を明確に主張できているわけでもない(大半の企業が株式を上場している)こともあり、TCIや一部のプライベートエクイティファンドのように、欧米の考え方をそのまま持ち込もうとする投資家がいるのも、これまた仕方がない気がします。
それでも実際に日本に乗り込んで来てみると、経営者からは「ROEや株価のために経営をしているわけではない」、「資本政策は特に考えていない」といった話が当たり前のように聞かれるため、早々に日本への関心を失ってしまう投資家も多くいるようです。
最近では投資銀行や機関投資家で、「日本チーム」と「日本以外アジア・チーム」を統合したり、場合によっては「中国チーム」と「中国以外アジア・チーム」に分けるような動きも見られます。これらの動きは、日本市場の相対的地位の低下を、端的に表していると言えるかもしれません。
ともかく、日本に競争力のある企業が多く存在することと、しかし株主経営に対する考え方がすぐに変わるとは考えにくいことは、ほぼ間違いない気がします。よって日本で利益を上げたい投資家は、欧米のやり方をごり押しするのではなく、日本の特殊事情を考慮した上で行動するのが現実的なのかもしれません。
TCIの最近の行動については、5月28日の「A Letter to TCI」というFTのコラムが、以下のようなことを書いていました。
・・・投資家として、大企業に挑戦し、株主価値を高めようとするあなた方の行動を賞賛したい。しかし公共インフラ企業への投資については懸念している。借入と配当金を増やし(訳注:資本構造を最適化し)、株式持合いを解消させるような要求は、長期の投資家である我々の利益とも合致するところである。
しかし政府から大きな不興を買うというのは、賢い行動とは言えない。最近では、J-Powerの主要株主の株式まで取得するに至ったそうだが、その手法(株取得の効果と株の投資魅力)には大いに疑問がある。これらの株は最近45%近く上昇したようなので、それ以前に取得していたことを祈るばかりである・・・
<<<追記>>>
今回のエントリーで再確認したかったのは、アクティビスト戦略は、経営権を掌握出来ないマイノリティ株主でありながら、それなりの多額出資をする=流動性リスクを全面的に負うと言う、非常に難しいストラテジーである、と言うことです。
またアクティビスト戦略は、大きなレピュテーションリスクもある(行動が全て白日の下に晒される)ため、合理性が重視され、「真っ当な主張が通りやすい」米英であっても、実行困難な戦略であると言える気がします。そのことは、Carl Icahn氏のようなプレーヤーが少ないことや、そのようなプレーヤーの経験の長さと、畏怖のようなレピュテーションからも、確認出来るかもしれません。
日本においては、バイアウト(経営権の取得)がなかなか出来ないから、もしくは小額の株式を取得して経営者と面談していても、株主価値の向上に関して埒があかないから、などの理由から、アクティビスト戦略を選ぶ流れが散見される気がします。
しかしバイアウトが進まない理由と、企業が資本効率を最適化しない(株主価値の最大化を目指さない)理由は、そもそも同一であることが多く、そうであれば、敵対的にせよ友好的にせよ、アクティビスト戦略もなかなかワークしないかもしれません。
日本には、「日本の企業文化は特殊である」という考え方が、いわゆるエスタブリッシュメント層の間に深く根付いている気がします。頂いたコメントでは、日本は時代遅れである、日本企業ももう少しグローバル化に対応しないと、日本の株式市場は干上がってしまうというご意見が多かったですが、社会の上層部が変化しない限り、簡単には行かない気がします。
2005年の株価の復活と、海外でのバイアウトブームの流れから、日本には数多くの外資系ファンドが進出しているようですが、日本の現状を鑑みると、いかにその特殊性を理解した投資が出来るかが、成否を分けることになるかもしれません。
by harry_g
| 2008-06-01 08:23
| 株主経営・アクティビスト


