2008年 04月 07日
Bear Stearns:運命の5日間 |
前週の終わりに$70だった株価は、週明けから$60に向けて下落を開始し、金曜日には1日で一気に半値の$30に暴落。そして週末にたった$2ドルでのJP Morganによる買収が発表され、Bearの本社ビルのウィンドウに誰かが2ドル札を貼付ける・・・
Bear Stearnsの運命を決めた5日間は、こんな感じだったと思います。
4月頭の時点でも、同社が幾らで、どのようなストラクチャーで、どこに買収されるのかについて、最終決定はなされていません。その傍らで、なぜFedが一(いち)投資銀行の直接救済に踏み切ったのか、投資銀行が一つ破綻するだけで機能不全に陥る恐れのあった金融システムには欠陥があるのではないかと、様々が議論が噴出しています。
この件は今後ウォールストリートに大きなインパクトを与えると思われるため、今更ではありますが、3月10日からの5日間にBear Stearnsに何があったのか、3月18日のNY Timesの記事「Saving Wall St. (For Now)」などを参考に、振り返ってみたいと思います。

この記事は、「この救済劇が、金融システムを救うヒーロー的なものなのか、ウォールストリート流の『ぼったくり』なのかは分からないが、ウォールストリートとワシントンの最有力者が動いてアレンジされたものであることは間違いない」と述べた上で、その週にあった動きを追っています。
それによると、Bearに異変が起こっているとの噂がNYTに届いたのは、水曜日だったそうです。同社株は月曜日には既に$62まで11%下落していますが、水曜日の日中に幾つかの金融機関やヘッジファンドが、Bearの経営状態に対するネガティブキャンペーンを始めたと、この記事では書いています。
Bearがヘッジファンド業務を後方支援する「プライムブローカー」最大手の一つであり、また巨額のデリバティブ取引のカウンターパーティであったことは以前にも書きましたが、水曜日に出て来た噂には「Bearは潰れるかもしれないので、もう誰も同社とは取引しなくなるだろう」というものも含まれていたそうです。
「株価暴落の裏にヘッジファンドあり」との批判は何ともありがちな話ですが、大手企業の株価を数社のファンドの陰謀で暴落させられるほど、市場は単純ではないと言える気がします。それでもNYTによると、「Bearは既に破綻している」、「Bearはもう終わりだ」という噂は、ウォールストリートに急速に広まったそうです。
この時点でBear関係者は、そういった話は根も葉もない噂だと反論しており、フロリダでメディア業界の経営者を集めたカンファレンスに出席していた同社CEOのAlan Schwartz氏も、まさか最期の時が近づいているとは思っていなかったのでは、とNYTは書いています。
(実際この少し前にメディアに登場していたSchwartz氏は、同社の経営には何の問題も無いと主張しており、事実上の破綻が決まった後、メディアなどから批判を浴びていたと記憶しています。)
しかし木曜日にはBearの危機を心配する声は本格的な広がりをみせ、その懸念は夜に「BearがFedに対して緊急融資を申し込んだ」という話でピークに達したそうです。そして明くる金曜日、JP Morganを通じたBearに対するFedの緊急融資のニュースがティッカーテープに流れましたが、「Bearは終わりだ」との声が多勢となり、同社株は一気に半値の$30にまで暴落してしました。
同社株は前の週まで$70台で取引されており、この日の値下がりがあまりに急激であったことから、空売りの手仕舞いに加えて、Bearの健全さを信じた買い注文もあったものと思われます。その結果株価は、(本当に同社が破綻しているのであれば目指すべきである)$0に向かうことはなく、その日の取引を終えています。
NY Timesは、何故こんなに短期にBearが危機に陥って株価が暴落してしまったかについて、「キャッシュ、つまりリクイディティは、投資銀行にとって酸素のようなものであり、体がどんなに健全でも、酸素が欠乏したら即死に至ってしまう」と言ったコメントをしていましたが、これはまさにその通りだと言える気がします。
この後状況は急展開をみせ、アジア市場でのパニック売りを恐れたと言われるFedが主導する形で、日曜夕方前に、JP MorganによるBearのたった$2での買収決定が発表されました。
Bearの本社ビル(JPMの投資銀行部が入居するPark Aveのビルの隣)だけでも、一株辺り$8の価値があると考えられていたことから、この時には「JPMはうまくやった」と言った論調が広がっていた気がします。
しかしNYTには、当時のJPM関係者の話として、リスクを考えると「$8でもあり得ないほど割高」だという話が載っており、4月4日のBloombergにも、JPMのDimon CEOは当初買収を拒否していたとの話が載っていました。
Fedと米政府としては、何としてもBearの破綻と金融市場の混乱は避けねばならない状況だったのでしょうが、Bearが保有する資産のリスクの大きさ故に、JP Morganほどの大銀行ですら買収を躊躇する。そのような状況を打開するために、直接のエクイティ注入が禁じられているFedが考え出した「ひねり技」が、$30bn(約3兆円)の「Bearが保有する資産を担保にした」緊急融資だったと言えるかもしれません。
この行動は、担保資産の残余価値請求権がFedに残るなど、実質的にはエクイティ出資であり、後々大きな議論を呼ぶ結果となっています。それでもNY Timesの記事のタイトルにもあった通り、Fed及びアメリカ政府の迅速かつクリエイティブな対応が、「とりあえず」危機を回避したことは間違いない気がします。
このような形で5日間のドラマは一段落したわけですが、サブプライム危機の深刻さを悟った週明けのウォールストリートでは、「次はどこだ」という話で持ち切りになりました。NYTにもありましたが、この時に噂が流れたのは、5大投資銀行の中でBearの次に小さいLehman Brothersと、スイスのUBSでした。
幸いこれらは噂で終わりましたが、4月初頭に両社がエクイティ増強を成功させたと発表した際、アメリカ市場の株価が高騰したことは、両社の噂がいかに深刻に懸念されていたかを、表していると言えるかもしれません。
JP Morganによる買収提案に話を戻しますが、ちょっと前まで数千億円の価値があった投資銀行をたった2ドル、総額$236mm(約236億円)で買収すると言う提案は、大きな物議をかもしました。Bearの株価は、週明けの月曜日に$2近辺で取引を開始したものの、引けまでに買収提案価格を大幅に上回る$4.81にまで上昇しています。
その後JP Morganは、3月24日に買収価格を5倍の$10にまで引き上げていますが、3月29日のEconomistの記事「No Picnic」などによると、これはあまりに低い値段での買収に対するBear株主からの反対、訴訟、案件妨害などを恐れた為であったそうです。
それにしても一時$160にまで上昇していた同社の価値が、あっという間に$10まで下がってしまったという事実に、株主が大いに怒っているであろうことは、想像に難くありません。同社の株式の約3割は社員や元社員によって保有されているそうで、同社の会長兼元CEOであるJames Cayne氏は、資産価値が1,000億円超から50億円程度まで減少したことになるそうです。
しかし4月7日のBusiness Weekの記事「Aftershocks at Bear Stearns」などによると、「社員は皆やられたと思っているが、誰を責めて良いやら分からない」状況だそうです。
責任の所在について上記のNYTの記事では、買収当日に自社の株価が10%の値上がりしたJP MorganのJames Dimon CEO、案件の早期実現をプッシュしたNY連銀、昨年夏に破綻した社内HFを立ち上げた元共同社長のWarren Spector氏、そして迅速な資本増強を行わなかったBearの現経営陣、などの名前を挙げていました。
しかしJPMが本当に美味しい思いをしたかは、今後の状況を見てみないと分からないところかもしれません。実際同社は、訴訟やリストラコストその他の費用として、実に$6bn(約6,000億円)もの資金を確保してあるそうです。
連銀(Fed)も、かつて米議会主導のRTCがS&L破綻を進めたのと同じような、投資銀行の直接的救済に乗り出したことで、大きなリスクを取ったと言える気がします。4月7日のBusiness Weekは、この事を「今まで誰も踏み込んだことのないテリトリーに入った」と形容していましたが、最近同様の表現を、色々なところでよく聞く気がします。
しかしBear Stearnsに限った話ではありませんが、サブプライム危機を回避出来なかった投資銀行各社の経営陣の責任は、免れ得ないところと言える気がします。また一部では、低金利とリクイディティの高まりを看過していたとして、Fedや米政府を批判する声もあるようです。
ウォールストリートは、良い時もあれば悪い時もある、極めて「シクリカル」な世界ではありますが、今回の問題のツケを払い終わるには、色々な意味でしばらく時間がかかるかもしれません。
Bear Stearnsの運命を決めた5日間は、こんな感じだったと思います。
4月頭の時点でも、同社が幾らで、どのようなストラクチャーで、どこに買収されるのかについて、最終決定はなされていません。その傍らで、なぜFedが一(いち)投資銀行の直接救済に踏み切ったのか、投資銀行が一つ破綻するだけで機能不全に陥る恐れのあった金融システムには欠陥があるのではないかと、様々が議論が噴出しています。
この件は今後ウォールストリートに大きなインパクトを与えると思われるため、今更ではありますが、3月10日からの5日間にBear Stearnsに何があったのか、3月18日のNY Timesの記事「Saving Wall St. (For Now)」などを参考に、振り返ってみたいと思います。

それによると、Bearに異変が起こっているとの噂がNYTに届いたのは、水曜日だったそうです。同社株は月曜日には既に$62まで11%下落していますが、水曜日の日中に幾つかの金融機関やヘッジファンドが、Bearの経営状態に対するネガティブキャンペーンを始めたと、この記事では書いています。
Bearがヘッジファンド業務を後方支援する「プライムブローカー」最大手の一つであり、また巨額のデリバティブ取引のカウンターパーティであったことは以前にも書きましたが、水曜日に出て来た噂には「Bearは潰れるかもしれないので、もう誰も同社とは取引しなくなるだろう」というものも含まれていたそうです。
「株価暴落の裏にヘッジファンドあり」との批判は何ともありがちな話ですが、大手企業の株価を数社のファンドの陰謀で暴落させられるほど、市場は単純ではないと言える気がします。それでもNYTによると、「Bearは既に破綻している」、「Bearはもう終わりだ」という噂は、ウォールストリートに急速に広まったそうです。
この時点でBear関係者は、そういった話は根も葉もない噂だと反論しており、フロリダでメディア業界の経営者を集めたカンファレンスに出席していた同社CEOのAlan Schwartz氏も、まさか最期の時が近づいているとは思っていなかったのでは、とNYTは書いています。
(実際この少し前にメディアに登場していたSchwartz氏は、同社の経営には何の問題も無いと主張しており、事実上の破綻が決まった後、メディアなどから批判を浴びていたと記憶しています。)
しかし木曜日にはBearの危機を心配する声は本格的な広がりをみせ、その懸念は夜に「BearがFedに対して緊急融資を申し込んだ」という話でピークに達したそうです。そして明くる金曜日、JP Morganを通じたBearに対するFedの緊急融資のニュースがティッカーテープに流れましたが、「Bearは終わりだ」との声が多勢となり、同社株は一気に半値の$30にまで暴落してしました。
同社株は前の週まで$70台で取引されており、この日の値下がりがあまりに急激であったことから、空売りの手仕舞いに加えて、Bearの健全さを信じた買い注文もあったものと思われます。その結果株価は、(本当に同社が破綻しているのであれば目指すべきである)$0に向かうことはなく、その日の取引を終えています。
NY Timesは、何故こんなに短期にBearが危機に陥って株価が暴落してしまったかについて、「キャッシュ、つまりリクイディティは、投資銀行にとって酸素のようなものであり、体がどんなに健全でも、酸素が欠乏したら即死に至ってしまう」と言ったコメントをしていましたが、これはまさにその通りだと言える気がします。
この後状況は急展開をみせ、アジア市場でのパニック売りを恐れたと言われるFedが主導する形で、日曜夕方前に、JP MorganによるBearのたった$2での買収決定が発表されました。Bearの本社ビル(JPMの投資銀行部が入居するPark Aveのビルの隣)だけでも、一株辺り$8の価値があると考えられていたことから、この時には「JPMはうまくやった」と言った論調が広がっていた気がします。
しかしNYTには、当時のJPM関係者の話として、リスクを考えると「$8でもあり得ないほど割高」だという話が載っており、4月4日のBloombergにも、JPMのDimon CEOは当初買収を拒否していたとの話が載っていました。
Fedと米政府としては、何としてもBearの破綻と金融市場の混乱は避けねばならない状況だったのでしょうが、Bearが保有する資産のリスクの大きさ故に、JP Morganほどの大銀行ですら買収を躊躇する。そのような状況を打開するために、直接のエクイティ注入が禁じられているFedが考え出した「ひねり技」が、$30bn(約3兆円)の「Bearが保有する資産を担保にした」緊急融資だったと言えるかもしれません。
この行動は、担保資産の残余価値請求権がFedに残るなど、実質的にはエクイティ出資であり、後々大きな議論を呼ぶ結果となっています。それでもNY Timesの記事のタイトルにもあった通り、Fed及びアメリカ政府の迅速かつクリエイティブな対応が、「とりあえず」危機を回避したことは間違いない気がします。
このような形で5日間のドラマは一段落したわけですが、サブプライム危機の深刻さを悟った週明けのウォールストリートでは、「次はどこだ」という話で持ち切りになりました。NYTにもありましたが、この時に噂が流れたのは、5大投資銀行の中でBearの次に小さいLehman Brothersと、スイスのUBSでした。
幸いこれらは噂で終わりましたが、4月初頭に両社がエクイティ増強を成功させたと発表した際、アメリカ市場の株価が高騰したことは、両社の噂がいかに深刻に懸念されていたかを、表していると言えるかもしれません。
JP Morganによる買収提案に話を戻しますが、ちょっと前まで数千億円の価値があった投資銀行をたった2ドル、総額$236mm(約236億円)で買収すると言う提案は、大きな物議をかもしました。Bearの株価は、週明けの月曜日に$2近辺で取引を開始したものの、引けまでに買収提案価格を大幅に上回る$4.81にまで上昇しています。
その後JP Morganは、3月24日に買収価格を5倍の$10にまで引き上げていますが、3月29日のEconomistの記事「No Picnic」などによると、これはあまりに低い値段での買収に対するBear株主からの反対、訴訟、案件妨害などを恐れた為であったそうです。
それにしても一時$160にまで上昇していた同社の価値が、あっという間に$10まで下がってしまったという事実に、株主が大いに怒っているであろうことは、想像に難くありません。同社の株式の約3割は社員や元社員によって保有されているそうで、同社の会長兼元CEOであるJames Cayne氏は、資産価値が1,000億円超から50億円程度まで減少したことになるそうです。
しかし4月7日のBusiness Weekの記事「Aftershocks at Bear Stearns」などによると、「社員は皆やられたと思っているが、誰を責めて良いやら分からない」状況だそうです。
責任の所在について上記のNYTの記事では、買収当日に自社の株価が10%の値上がりしたJP MorganのJames Dimon CEO、案件の早期実現をプッシュしたNY連銀、昨年夏に破綻した社内HFを立ち上げた元共同社長のWarren Spector氏、そして迅速な資本増強を行わなかったBearの現経営陣、などの名前を挙げていました。しかしJPMが本当に美味しい思いをしたかは、今後の状況を見てみないと分からないところかもしれません。実際同社は、訴訟やリストラコストその他の費用として、実に$6bn(約6,000億円)もの資金を確保してあるそうです。
連銀(Fed)も、かつて米議会主導のRTCがS&L破綻を進めたのと同じような、投資銀行の直接的救済に乗り出したことで、大きなリスクを取ったと言える気がします。4月7日のBusiness Weekは、この事を「今まで誰も踏み込んだことのないテリトリーに入った」と形容していましたが、最近同様の表現を、色々なところでよく聞く気がします。
しかしBear Stearnsに限った話ではありませんが、サブプライム危機を回避出来なかった投資銀行各社の経営陣の責任は、免れ得ないところと言える気がします。また一部では、低金利とリクイディティの高まりを看過していたとして、Fedや米政府を批判する声もあるようです。
ウォールストリートは、良い時もあれば悪い時もある、極めて「シクリカル」な世界ではありますが、今回の問題のツケを払い終わるには、色々な意味でしばらく時間がかかるかもしれません。
by harry_g
| 2008-04-07 05:51
| 投資銀行


