2008年 03月 10日
PEファンドとSWFの接点 |
最近LBOファンドがクレジットクランチによって買収資金調達に苦しんでいる話と、SWFがウォールストリートで注目を集めているという話を幾つか書きましたが、両者の間には接点があるようです。
2月の最終週にドイツのミュンヘンで、プライベートエクイティ・ベンチャーキャピタル業界の著名なカンファレンス「Super Return」が開催されましたが、その会議に関する記事の中に、FTの「Private equity turns to sovereign wealth funds」というのがありました。
その記事によると、欧州の大手ファンドであるTerra FirmaのGuy Hands氏と、米大手Carlyleの共同創業者であるDavid Rubesteinは、アジアや中東のSWFに対して、バイアウトに係わるデット資金の供給を積極的に働きかけているそうです。
両氏はこのような動きを「ウォールストリートとロンドンのシティ(証券業界)をバイパスした」資金調達手法であると述べていたそうで、「アブダビのADIAがウォールストリートを代替してくれる」とコメントしていたとのことです。(この話と直接関係ありませんが、アブダビ政府は2007年9月にCarlyleに7.5%出資することに同意しています。)
LBOファンドにとって、デット資金の調達は、企業買収を続けるための生命線ともいえるものです。しかし昨今、投資銀行や商業銀行は、サブプライム問題やLBOブームが引き起こしたクレジット問題の対処に追われ、積極的な資金提供を渋っていると言われています。そんな状況でも手早く代替の資金供給先を探し出すあたり、大手LBOファンドはさすがと言える気がします。
Rubenstein氏は、SWF以外にも、年金基金やヘッジファンド、ミューチュアルファンド(投資信託)などが、銀行・証券会社に代わるデットの供給先として考えられると述べたそうで、クレジットクランチによってちょっとした金融危機が生じている一方で、世界には巨大なリクイディティが存在することを、実感させる話と言えるかもしれません。
ただ同氏は、これら代替投資家が、ウォールストリートに代わるデットの主要供給先となるのは、限られた間だけだろう、といった趣旨のことも、述べていたそうです。
クレジットクランチを乗り越えれば、金融機関が再びデットの主要供給先になることは疑いないとの見解でしょうが、今回の痛手からウォールストリートがどのような教訓を得たかは、興味深いところです。(過去の例を見れば「七転び八起き」になるのはほぼ確実と思われますが。)
FTの記事の中で、Terra FirmaGuy氏が指摘するところによると、Goldman SachsやMorgan Stanleyと言った、デット業務よりもアドバイザリー業務が主力の投資銀行が、SWFなどとの交渉をサポートしているそうです。ただ実際は、この二社を含む投資銀行のほとんどが、レバレッジドファイナンス事業が大きな収益源となっていることから、このような「中抜き」の動きには警戒感が高まっているそうです。
ちなみにこの「Super Return」カンファレンスにおいて、CarlyleのRubenstein氏が行ったプレゼンテーションがNYTのサイトに掲載されていました。同社は業界の中でも保守的なイメージがあり、個人的にはプレゼン内容もそれなりに控えめとの印象でしたが、私の周囲には「内容が楽観的過ぎる」との意見が多いようでした。
せっかくですので、内容にも少々触れてみたいと思います。(タイトルとそれに続くのが内容の抄訳で、>以下が私のコメントです。抄訳のいい加減さはご容赦下さい。)
「レバレッジドファイナンス市場は近々復活し、専門職の従業員は業界に留まるか?」
米国では、前回のダウンターン(2001-2002)において、ローン額は二年で上昇に転じた。米国では失速前のピークレベルに戻るのに3年かかり、その間はPE業界にとっては厳しい時となるが、復活後には期待を大きく上回る実績を残した。また欧州では、99年以来、一度のダウンターンも経験せずに、市場の成長が続いている。
>前回のピークであった98年、99年と比べると、レバレッジドローンの金額は07年には5倍以上に膨らんでおり、前回のサイクルとの比較が適当であるかは何とも言えない気がします。ただしばらく厳しい時期が続くというのは間違いなく、NYTの記事などでも、近々ファンド各社から厳しい業績結果が出てくるだろうと指摘されていました。
「『黄金期』に行われたLBOデットに大きなデフォルトが発生するか?」
2007年時点の平均レバレッジ(Debt / EBITDA)は6.2xと歴史的高水準にあり、クレジットレシオ((EBITDA - Capex) / Cash Interest)も、1.7xと歴史的低水準にある。しかし過去3年間デフォルト率は低位で推移しており、それは現時点まで続いている。ただボンド価格を見る限り、幾つかのデフォルトは覚悟しなければならない。
>前々回にも書きましたが、昨今の景気減速感と一向に回復を見せないクレジット市場の状況を鑑みると、今後デフォルトが発生するは、避けられない気がします。そんな中、某大手LBOファンドが破綻するのでは、との噂もウォールストリートでは囁かれており、そのような事態になれば、業界全体が大きな打撃を受けてしまうかもしれません。
ちなみに3日6日(NY時間)のニュースにあった、欧州に上場されているCarlyle傘下のヘッジファンド「Carlyle Capital」がデフォルトしたとのニュースは、このLBOの問題とは無関係で、アメリカの住宅ローン債券に投資していた部門が、リスク管理を誤った結果の顛末であったと思います。
LBOファンドは一時期からヘッジファンド運用も積極的に始めていますが、昨年もKKR傘下の欧州に上場されているファンドが苦境に陥るなど、苦労をしているようです。
「証券・銀行各社は、引受けたLBOデットを売却し切れるか?」
現時点でも$200bn(約21兆円)近いデットが銀行・投資銀行のバランスシートに残っており、昨年のピークから$75bnしか減少していない。
>ただでさえサブプライム関連で損失が広がっている金融機関は、これらのデットの販売に必死になっているようです。クレジット市場が回復するまでは、デットの処理はそう簡単ではないと思われ、「底の見えない」恐怖心は、株式市場の低迷にもつながっている気がします。
「PEファンドは今後どこに投資を進めて行くのか?」
アジア、ロシア、ラテンアメリカなど、エマージングマーケット(EM)への投資を進めると同時に、マイノリティ出資やディストレスト投資も拡大させる。EM投資は2001年時点ではPE投資の4.5%に過ぎなかったが、2007年には15.9%にまで拡大した。また過去半年間に、PEファンドは、Sprint Nextel、MBIA、Global Hyattなどへのマイノリティ出資を行って来た。ディストレスト投資ファンドも、2007年の上半期には$20bn(約2.1兆円)超が調達された。
>大手LBOファンドが優れた投資家であることは疑いなく、クレジット市場が痛んでいる中でも、積極的に代替投資先を探していることが伺えます。エマージングマーケットや上場株も、欧米のクレジットクランチの影響を受けて厳しい状況ですが、ディストレスト投資やヘッジファンド投資に活路を見いだして行く流れが加速するかもしれません。
「今はプライベートエクイティへの投資を控えるべきか?」
過去の3つの景気減速時にも、PE業界は高いリターンを挙げて来た。(以下が米国でのトップティアファンドの投資実績である。)
80年代前半:1980 21.6%、1981 14.8%、1982 9.1%
90年代初頭:1990 19.5%、1991 25.5%
00年代初頭:2001 15.3%、2002 16.0%
>当時の市場環境など、昔のことを知らないので、このデータがどの程度説得力を持つのか判断しかねますが、少なくとも伝統的投資と比較すると、優れた数字と言えるのかもしれません。
「SWFはPEファンドに代わってバイアウト業界を支配するか?」
SWFと比べてしまうと、最大手のLBOファンドでも規模で大きく劣っており、SWFによる企業投資額は、2005年の$16.8bn(約1.8兆円)から、2006年には$44.2bn(4.6兆円)、2007年には$69.8bn(7.3兆円)と、急速に規模を拡大している。しかしこの額は、M&A市場全体やLBO総額から比べると極めて小さいものであり、SWFとPEは、むしろ生産的なパートナー関係を築きつつある。まずはSWFによるPEファンドへの出資が行われ、将来的には両者がJVを形成して大きな投資を行って行くことになるだろう。
>最後にこのエントリーのテーマに戻りますが、クレジット問題が一段落した後の世界がどうなるのか、このコメントから少々垣間みれる気がします。ただSWFが今後どこまで株式投資やオルタナティブ投資を進めて行くかは、現段階では何とも言えないかもしれません。「SWF脅威論」には賛同しかねますが、運用担当者の人材不足や政治的摩擦の問題は実際に存在するようで、今後の動向が注目されます。
2月の最終週にドイツのミュンヘンで、プライベートエクイティ・ベンチャーキャピタル業界の著名なカンファレンス「Super Return」が開催されましたが、その会議に関する記事の中に、FTの「Private equity turns to sovereign wealth funds」というのがありました。
その記事によると、欧州の大手ファンドであるTerra FirmaのGuy Hands氏と、米大手Carlyleの共同創業者であるDavid Rubesteinは、アジアや中東のSWFに対して、バイアウトに係わるデット資金の供給を積極的に働きかけているそうです。両氏はこのような動きを「ウォールストリートとロンドンのシティ(証券業界)をバイパスした」資金調達手法であると述べていたそうで、「アブダビのADIAがウォールストリートを代替してくれる」とコメントしていたとのことです。(この話と直接関係ありませんが、アブダビ政府は2007年9月にCarlyleに7.5%出資することに同意しています。)
LBOファンドにとって、デット資金の調達は、企業買収を続けるための生命線ともいえるものです。しかし昨今、投資銀行や商業銀行は、サブプライム問題やLBOブームが引き起こしたクレジット問題の対処に追われ、積極的な資金提供を渋っていると言われています。そんな状況でも手早く代替の資金供給先を探し出すあたり、大手LBOファンドはさすがと言える気がします。
Rubenstein氏は、SWF以外にも、年金基金やヘッジファンド、ミューチュアルファンド(投資信託)などが、銀行・証券会社に代わるデットの供給先として考えられると述べたそうで、クレジットクランチによってちょっとした金融危機が生じている一方で、世界には巨大なリクイディティが存在することを、実感させる話と言えるかもしれません。
ただ同氏は、これら代替投資家が、ウォールストリートに代わるデットの主要供給先となるのは、限られた間だけだろう、といった趣旨のことも、述べていたそうです。クレジットクランチを乗り越えれば、金融機関が再びデットの主要供給先になることは疑いないとの見解でしょうが、今回の痛手からウォールストリートがどのような教訓を得たかは、興味深いところです。(過去の例を見れば「七転び八起き」になるのはほぼ確実と思われますが。)
FTの記事の中で、Terra FirmaGuy氏が指摘するところによると、Goldman SachsやMorgan Stanleyと言った、デット業務よりもアドバイザリー業務が主力の投資銀行が、SWFなどとの交渉をサポートしているそうです。ただ実際は、この二社を含む投資銀行のほとんどが、レバレッジドファイナンス事業が大きな収益源となっていることから、このような「中抜き」の動きには警戒感が高まっているそうです。
ちなみにこの「Super Return」カンファレンスにおいて、CarlyleのRubenstein氏が行ったプレゼンテーションがNYTのサイトに掲載されていました。同社は業界の中でも保守的なイメージがあり、個人的にはプレゼン内容もそれなりに控えめとの印象でしたが、私の周囲には「内容が楽観的過ぎる」との意見が多いようでした。
せっかくですので、内容にも少々触れてみたいと思います。(タイトルとそれに続くのが内容の抄訳で、>以下が私のコメントです。抄訳のいい加減さはご容赦下さい。)
「レバレッジドファイナンス市場は近々復活し、専門職の従業員は業界に留まるか?」
米国では、前回のダウンターン(2001-2002)において、ローン額は二年で上昇に転じた。米国では失速前のピークレベルに戻るのに3年かかり、その間はPE業界にとっては厳しい時となるが、復活後には期待を大きく上回る実績を残した。また欧州では、99年以来、一度のダウンターンも経験せずに、市場の成長が続いている。
>前回のピークであった98年、99年と比べると、レバレッジドローンの金額は07年には5倍以上に膨らんでおり、前回のサイクルとの比較が適当であるかは何とも言えない気がします。ただしばらく厳しい時期が続くというのは間違いなく、NYTの記事などでも、近々ファンド各社から厳しい業績結果が出てくるだろうと指摘されていました。
「『黄金期』に行われたLBOデットに大きなデフォルトが発生するか?」
2007年時点の平均レバレッジ(Debt / EBITDA)は6.2xと歴史的高水準にあり、クレジットレシオ((EBITDA - Capex) / Cash Interest)も、1.7xと歴史的低水準にある。しかし過去3年間デフォルト率は低位で推移しており、それは現時点まで続いている。ただボンド価格を見る限り、幾つかのデフォルトは覚悟しなければならない。
>前々回にも書きましたが、昨今の景気減速感と一向に回復を見せないクレジット市場の状況を鑑みると、今後デフォルトが発生するは、避けられない気がします。そんな中、某大手LBOファンドが破綻するのでは、との噂もウォールストリートでは囁かれており、そのような事態になれば、業界全体が大きな打撃を受けてしまうかもしれません。
ちなみに3日6日(NY時間)のニュースにあった、欧州に上場されているCarlyle傘下のヘッジファンド「Carlyle Capital」がデフォルトしたとのニュースは、このLBOの問題とは無関係で、アメリカの住宅ローン債券に投資していた部門が、リスク管理を誤った結果の顛末であったと思います。
LBOファンドは一時期からヘッジファンド運用も積極的に始めていますが、昨年もKKR傘下の欧州に上場されているファンドが苦境に陥るなど、苦労をしているようです。
「証券・銀行各社は、引受けたLBOデットを売却し切れるか?」
現時点でも$200bn(約21兆円)近いデットが銀行・投資銀行のバランスシートに残っており、昨年のピークから$75bnしか減少していない。
>ただでさえサブプライム関連で損失が広がっている金融機関は、これらのデットの販売に必死になっているようです。クレジット市場が回復するまでは、デットの処理はそう簡単ではないと思われ、「底の見えない」恐怖心は、株式市場の低迷にもつながっている気がします。
「PEファンドは今後どこに投資を進めて行くのか?」
アジア、ロシア、ラテンアメリカなど、エマージングマーケット(EM)への投資を進めると同時に、マイノリティ出資やディストレスト投資も拡大させる。EM投資は2001年時点ではPE投資の4.5%に過ぎなかったが、2007年には15.9%にまで拡大した。また過去半年間に、PEファンドは、Sprint Nextel、MBIA、Global Hyattなどへのマイノリティ出資を行って来た。ディストレスト投資ファンドも、2007年の上半期には$20bn(約2.1兆円)超が調達された。
>大手LBOファンドが優れた投資家であることは疑いなく、クレジット市場が痛んでいる中でも、積極的に代替投資先を探していることが伺えます。エマージングマーケットや上場株も、欧米のクレジットクランチの影響を受けて厳しい状況ですが、ディストレスト投資やヘッジファンド投資に活路を見いだして行く流れが加速するかもしれません。
「今はプライベートエクイティへの投資を控えるべきか?」
過去の3つの景気減速時にも、PE業界は高いリターンを挙げて来た。(以下が米国でのトップティアファンドの投資実績である。)
80年代前半:1980 21.6%、1981 14.8%、1982 9.1%
90年代初頭:1990 19.5%、1991 25.5%
00年代初頭:2001 15.3%、2002 16.0%
>当時の市場環境など、昔のことを知らないので、このデータがどの程度説得力を持つのか判断しかねますが、少なくとも伝統的投資と比較すると、優れた数字と言えるのかもしれません。
「SWFはPEファンドに代わってバイアウト業界を支配するか?」
SWFと比べてしまうと、最大手のLBOファンドでも規模で大きく劣っており、SWFによる企業投資額は、2005年の$16.8bn(約1.8兆円)から、2006年には$44.2bn(4.6兆円)、2007年には$69.8bn(7.3兆円)と、急速に規模を拡大している。しかしこの額は、M&A市場全体やLBO総額から比べると極めて小さいものであり、SWFとPEは、むしろ生産的なパートナー関係を築きつつある。まずはSWFによるPEファンドへの出資が行われ、将来的には両者がJVを形成して大きな投資を行って行くことになるだろう。
>最後にこのエントリーのテーマに戻りますが、クレジット問題が一段落した後の世界がどうなるのか、このコメントから少々垣間みれる気がします。ただSWFが今後どこまで株式投資やオルタナティブ投資を進めて行くかは、現段階では何とも言えないかもしれません。「SWF脅威論」には賛同しかねますが、運用担当者の人材不足や政治的摩擦の問題は実際に存在するようで、今後の動向が注目されます。
by harry_g
| 2008-03-10 07:49
| LBO・プライベートエクイティ


