2008年 03月 02日
SWFが象徴する「新世界秩序」? |
昨年末から欧米の大手金融機関に巨額の出資を進めているソブリンウェルスファンド(SWF)が、最近ウォールストリートで話題の的になっているのは以前から書いている通りですが、その動きには政財界からの注目も高いようです。

少々前になりますが、1月の終わりにスイスで開催された「ダボス会議」について取り上げていた1月28日のWSJの記事「Ascent of Sovereign-Wealth Funds Illustrates New World Order」の中では、Dubai Int'l CapitalのCEOによる「我々は去年プライベートエクイティが受けたような、激しい注目と詮索を受けている」というコメントなど、突然注目を浴びて驚いているといった話が載っていました。
同記事では、SWFが注目される理由として、去年のPEファンドと同様に「過分な資金」を持っている為だと書いていましたが、Morgan Stanleyの試算によると、SWFは現時点で既に$3 tril(約315兆円)の規模に上り、その額は2015年までに$12 tril(約1,260兆円)にも達する見込みだそうです。
SWFは、その名の通り政府によって設けられた投資ファンドで、通常は石油などのコモディティの輸出から得られた利益や、外貨準備として保有される資金を原資にしている国富の運用ファンドのことです。よって大手SWFを保有する国は産油国やドルペッグの国が多く、アラブ首長国連邦やノルウェー、中国などは、その典型と言えるかもしれません。
外貨準備という意味では、日本も中国の$1.4 tril(約147兆円)に次いで大きい$1 tril(約105兆円)を持つとされ、そんな日本の政治家の中に、SWFの創設を検討している人たちがいるという話が、WSJでも取り上げられていました。
2月13日の「Japan Debates Jumping Into Sovereign-Wealth Pool」では、日本は外貨準備に加えて公的年金も$650bn(約68兆円)に及ぶこと、また国内経済の低迷と国家財政の悪化から、「今後は国民所得の増加よりも国富の有効活用(投資)を模索するべきだ」と主張する政治家がいるという話が紹介されていました。
記事の中では、SWFの創設は米国債の売却を必要とするため、円高を招いて輸出産業にダメージを与える可能性が懸念されるとの財務省の意見も紹介されていましたが、竹中平蔵氏も2月29日のNYでのNikko Citigroup主催の講演の中で「SWFの創設も選択肢として考えるべき」と発言しており、今後議論が高まるのかもしれません。
SWFの目的は、純粋な資金運用といったものから、政治的目的に基づいた投資まで様々であるとされ、欧米諸国の中には、政治的行動に対して警戒感を強めるむきが根強くあるようです。最近ではフランスのSarkozy大統領が、あまりにアグレッシブな投資姿勢に対しては、フランス企業を守る手だてを考えると公言しているそうです。
しかしそのような批判や警戒心を抱かれていることは、SWF側も承知しているようです。
2月22日のThe Dealの記事、「Temasek rising」の中では、シンガポールのSWFの一つであるTemasekの会長による、「投資先がその国にとってどのような感情的意味を持っているかなど、様々な要素を検討している」といったコメントが紹介されていました。
それでもSWFが純粋投資以外の目的を持つ可能性は、シンガポールがTemasekとGICという、二つの別々のファンドを有していることからも裏付けられるかもしれません。同国はTemasekを通じてMerrill Lynchに$5bn(約5,250億円)、GICを通じてCitigroupに$7bn(約7,350億円)を投資しているわけですが、前者がより戦略的に事業に関与する性格であるのに対し、後者は純粋な資産運用会社としての性格が強いそうです。
SWFに対する政財界の賛否については、2月13日のWSJの記事「Time for Sovereign Wealth Rules」の中で色々と取り上げられていました。
歓迎派の意見は、外国からの直接投資は常にウェルカムであるというものや、ほとんどのSWFが経営に関与しないパッシブ投資家である(よって警戒は不要である)というもの、急成長を遂げる途上国からの資金が先進国に投資されることで金融システムの危機に対して有効なバッファーが提供されていると言うもの、などのようです。
実際、一般にSWFは経営に関与することが少ないとの印象が強いようで、最初に取り上げたWSJのダボス会議についての記事でも、企業経営者にとってはSWFの方が、口うるさいヘッジファンドやアメリカの一部公的年金ファンドよりも、ウェルカムな存在なのではと書かれていました。
それに対して懐疑派・警戒派の意見は、SWFの投資目的が投資利益の最大化だけではない可能性を指摘するものや、政府機関であることによるディスクロージャーの不十分さ、また危機に陥った産業のラストリゾートになることで、特定産業に対して予想以上の影響力を行使する可能性などを指摘しています。
1月26日のWSJ「Don't Fear the Sovereigns」の中では、Breakingviewsによる、SWFの欧米各国にとってのリスクのランク付けが紹介されていました。ランク付けにあたっては、大きく以下の3点が勘案されたそうです。
1.透明性 :ファンドの投資基準は明確か。政治目的に利用されていないか。過去の投資実績や成果を公表しているか。
2.投資戦略 :戦略的な経営権の取得を行ったことがあるか。取締役会の意思決定に影響力を及ぼそうとしたことはあるか。
3.政治的脅威:政府はどの程度、欧米型市場経済を指示し理解を示しているか。政治的介入の可能性はあるか。長期安定した民主国家か。
この分析によると、最もリスクが高いとされたのは、$200bn(約21兆円)を運用する中国のCICだそうで、同ファンドがMorgan StanleyやBlackstoneへの投資実績のあることを考えると、少々以外な感じがします。
それに続いたのは、カタールのQatar Investment Authority、ベネズエラのNational Development Corpで、主に透明性の欠如がリスク高の要因と判断されたようです。SWFの透明性についてはダボス会議でも頻繁に議論されたそうなので、今後SWF各社がどのような対処行動を取るか、興味深いところです。
(ちなみにこの評価には、ロシアのGazpromや中国のChina Development Bankなど、SWFの形式は取らずに外国への投資を進める政府系機関や、米英の公的年金ファンド大手で経営への積極関与で知られるCalPERSやHermesなどは、調査対象とされていないそうです。)
以上のような懸念点以外にも、元米国財務長官として世界中に自由主義市場経済と民営化の美徳を売り込んで来たLarry Summers氏などにとっては、SWF(政府)が株式投資という形にしろ、私企業を次々に取得していく様は面白くないだろう、との指摘もありました。
それでも最初のWSJの中で示されていたMcKinseyの調査によると、2006年時点で世界の全金融資産の3分の1、$56.1 tril(約5,890兆円)が米国に保有されていたのに対し、途上国の持ち分も$23.6 tril(約2,480兆円)にまで伸びているそうです。
そう考えると、これらの国から先進国に資金が「逆投資」されることは、まさに「多極化」した今日の世界の象徴と言えるかもしれません。


同記事では、SWFが注目される理由として、去年のPEファンドと同様に「過分な資金」を持っている為だと書いていましたが、Morgan Stanleyの試算によると、SWFは現時点で既に$3 tril(約315兆円)の規模に上り、その額は2015年までに$12 tril(約1,260兆円)にも達する見込みだそうです。
SWFは、その名の通り政府によって設けられた投資ファンドで、通常は石油などのコモディティの輸出から得られた利益や、外貨準備として保有される資金を原資にしている国富の運用ファンドのことです。よって大手SWFを保有する国は産油国やドルペッグの国が多く、アラブ首長国連邦やノルウェー、中国などは、その典型と言えるかもしれません。
外貨準備という意味では、日本も中国の$1.4 tril(約147兆円)に次いで大きい$1 tril(約105兆円)を持つとされ、そんな日本の政治家の中に、SWFの創設を検討している人たちがいるという話が、WSJでも取り上げられていました。
2月13日の「Japan Debates Jumping Into Sovereign-Wealth Pool」では、日本は外貨準備に加えて公的年金も$650bn(約68兆円)に及ぶこと、また国内経済の低迷と国家財政の悪化から、「今後は国民所得の増加よりも国富の有効活用(投資)を模索するべきだ」と主張する政治家がいるという話が紹介されていました。
記事の中では、SWFの創設は米国債の売却を必要とするため、円高を招いて輸出産業にダメージを与える可能性が懸念されるとの財務省の意見も紹介されていましたが、竹中平蔵氏も2月29日のNYでのNikko Citigroup主催の講演の中で「SWFの創設も選択肢として考えるべき」と発言しており、今後議論が高まるのかもしれません。
SWFの目的は、純粋な資金運用といったものから、政治的目的に基づいた投資まで様々であるとされ、欧米諸国の中には、政治的行動に対して警戒感を強めるむきが根強くあるようです。最近ではフランスのSarkozy大統領が、あまりにアグレッシブな投資姿勢に対しては、フランス企業を守る手だてを考えると公言しているそうです。
しかしそのような批判や警戒心を抱かれていることは、SWF側も承知しているようです。2月22日のThe Dealの記事、「Temasek rising」の中では、シンガポールのSWFの一つであるTemasekの会長による、「投資先がその国にとってどのような感情的意味を持っているかなど、様々な要素を検討している」といったコメントが紹介されていました。
それでもSWFが純粋投資以外の目的を持つ可能性は、シンガポールがTemasekとGICという、二つの別々のファンドを有していることからも裏付けられるかもしれません。同国はTemasekを通じてMerrill Lynchに$5bn(約5,250億円)、GICを通じてCitigroupに$7bn(約7,350億円)を投資しているわけですが、前者がより戦略的に事業に関与する性格であるのに対し、後者は純粋な資産運用会社としての性格が強いそうです。
SWFに対する政財界の賛否については、2月13日のWSJの記事「Time for Sovereign Wealth Rules」の中で色々と取り上げられていました。
歓迎派の意見は、外国からの直接投資は常にウェルカムであるというものや、ほとんどのSWFが経営に関与しないパッシブ投資家である(よって警戒は不要である)というもの、急成長を遂げる途上国からの資金が先進国に投資されることで金融システムの危機に対して有効なバッファーが提供されていると言うもの、などのようです。
実際、一般にSWFは経営に関与することが少ないとの印象が強いようで、最初に取り上げたWSJのダボス会議についての記事でも、企業経営者にとってはSWFの方が、口うるさいヘッジファンドやアメリカの一部公的年金ファンドよりも、ウェルカムな存在なのではと書かれていました。
それに対して懐疑派・警戒派の意見は、SWFの投資目的が投資利益の最大化だけではない可能性を指摘するものや、政府機関であることによるディスクロージャーの不十分さ、また危機に陥った産業のラストリゾートになることで、特定産業に対して予想以上の影響力を行使する可能性などを指摘しています。
1月26日のWSJ「Don't Fear the Sovereigns」の中では、Breakingviewsによる、SWFの欧米各国にとってのリスクのランク付けが紹介されていました。ランク付けにあたっては、大きく以下の3点が勘案されたそうです。
1.透明性 :ファンドの投資基準は明確か。政治目的に利用されていないか。過去の投資実績や成果を公表しているか。
2.投資戦略 :戦略的な経営権の取得を行ったことがあるか。取締役会の意思決定に影響力を及ぼそうとしたことはあるか。
3.政治的脅威:政府はどの程度、欧米型市場経済を指示し理解を示しているか。政治的介入の可能性はあるか。長期安定した民主国家か。
この分析によると、最もリスクが高いとされたのは、$200bn(約21兆円)を運用する中国のCICだそうで、同ファンドがMorgan StanleyやBlackstoneへの投資実績のあることを考えると、少々以外な感じがします。
それに続いたのは、カタールのQatar Investment Authority、ベネズエラのNational Development Corpで、主に透明性の欠如がリスク高の要因と判断されたようです。SWFの透明性についてはダボス会議でも頻繁に議論されたそうなので、今後SWF各社がどのような対処行動を取るか、興味深いところです。
(ちなみにこの評価には、ロシアのGazpromや中国のChina Development Bankなど、SWFの形式は取らずに外国への投資を進める政府系機関や、米英の公的年金ファンド大手で経営への積極関与で知られるCalPERSやHermesなどは、調査対象とされていないそうです。)
以上のような懸念点以外にも、元米国財務長官として世界中に自由主義市場経済と民営化の美徳を売り込んで来たLarry Summers氏などにとっては、SWF(政府)が株式投資という形にしろ、私企業を次々に取得していく様は面白くないだろう、との指摘もありました。
それでも最初のWSJの中で示されていたMcKinseyの調査によると、2006年時点で世界の全金融資産の3分の1、$56.1 tril(約5,890兆円)が米国に保有されていたのに対し、途上国の持ち分も$23.6 tril(約2,480兆円)にまで伸びているそうです。
そう考えると、これらの国から先進国に資金が「逆投資」されることは、まさに「多極化」した今日の世界の象徴と言えるかもしれません。

by harry_g
| 2008-03-02 13:40
| 世界経済・市場トレンド


