2008年 02月 25日
ディストレストの時代? |
2007年にクレジットクランチが発生して以来、LBOファンドが案件発掘や資金繰りに難儀しているというのは以前にも書いた気がしますが、ブームのピークに限界までデットを積み上げて行われた過去2年間の案件の状況も、あまり芳しくないようです。
2月5日のBloombergに、NYを拠点とする大手ファンドApollo Managementが07年に買収した、Realogy Corpについての話が載っていました。
Realogyは、アメリカ在住であれば誰でも聞いたことがあるような大手の不動産ブローカー、Coldwell BankerやCentury 21の親会社で、Apolloは$6.6bn(約7,000億円)で同社を買収しています。
買収におけるキャピタルストラクチャーは、デットが70%、エクイティが30%という典型的なものだったようですが、住宅市場の急速な冷え込みの影響を直接受けることになった同社に投資された$2bn(約2,200億円)のエクイティは、現時点では事実上「無価値」になってしまっているそうです。
と言うのは、同案件の為に発行されたハイイールド債の価格が、1ドルの額面に対して61セントまで下落しており、この価格水準は、今後このボンドがデフォルト(債務不履行)に陥る可能性が80%以上であることを示しているからです。
同記事で取り上げられていた債券ファンドマネージャーによると、ボンドの価格が50セントから60セント台まで下落しているということは、一般にその発行会社が「破綻」(債務不履行)に向かっていると言える状況だそうです。
現時点で、過去2年間にLBO絡みで発行された合計$74bn(約7.9超円)のボンドのうち、実に27%が米国債の金利を10%以上上回る、いわゆる「ディストレスト債券」のカテゴリーに入っているそうで、また約18%が、80セント以下というハイイールド債の平均価格である91セントを大きく下回る水準で取引されているそうです。
「ディストレスト(破綻)債券」水準まで価格が下落すると、1年以内にデフォルトする可能性は20倍になるのだそうで、記事にコメントを寄せていた他の債券投資家は、LBOファンドが買収価格をつり上げ過ぎた結果、必要以上のデットが発行され、その幾つかは確実に破綻するだろうとコメントしていました。
毎日平均約5件というペースでLBOが発表された2006年と2007年が、バイアウトブームのピークであったことは疑いなく、投下された資金総額は、06年に$213bn(約23兆円)、07年に$189bn(約21兆円)に上ったそうです。中でも「The Class of 2007」(2007年組)と揶揄されるピーク中のピークの案件については、大手投資ファンドTH Lee Partnersの共同社長であるScott Sperling氏も、業界にとって大変な重しになるだろうとコメントしていました。
Bloombergによると、$41bn(約4.4兆円)を運用するApolloは、過去二年のディールに用いられたボンドの中で、パフォーマンスの悪いボンドを最も多く抱えることになってしまっているそうで、最初に挙げたRealogyのボンドは、記事が出ていた時点では、表面利回りが24%にも達しているそうです。
こういった指摘に対してApolloのスポークスマンは、記事の中で「ボンドの価格は重要でないとは言わないが、ディールの善し悪しを判断する最も適切な要素とは言いがたく、むしろ買収に用いられたキャピタルストラクチャーと買収後の資本構成の推移がどうであるかの方が大切だ」とコメントしていました。
2年ほど前に、キャッシュフロー(の改善)によってデットを5年程度かけて徐々に返済することでエクイティ価値を最大化するLBOが、最近では短期的なフィナンシャルエンジニアリングと化している、といった話を書いたことがあったと思いますが、上記のコメントは、まさにその話を裏付けている気がします。
確かにキャピタルストラクチャーやデットの性質は、LBOのパフォーマンスに大きな違いをもたらします。その為、案件を提案する投資銀行は、必死に知恵をしぼって、様々なストラクチャーを提案をして来ました。しかし買収企業のキャッシュフローの見通しよりも「買収方法」ばかりに注目が行くようになったことについては、反省すべき点がある気がします。
もちろんそれは、激しい競争環境の中では「言うに易く、行うに難い」ことであり、多くの銀行やがサブプライムで損失を被っているのも、リスクマネジャーが指摘していた通りに案件を回避していれば、自社だけ競争に乗り遅れるという気持ちがあったと言われます。
案件がビッド競争になるLBOファンドについてはこの話は更に深刻で、出来るだけ多くのデットを積み上げられれば相手をアウトビッド出来るわけですから、クレジット市場が許す限り、許容リスクが拡大一辺倒になることは、想像に難くないかと思います。
話をLBOのデットに戻しますが、問題を抱えているのは、当然Apolloだけではありません。同じBloombergの記事の中では、大手バイアウトファンドのCerberusが買収したGMの金融子会社GMACも、ボンドが64セントで取引されておりデフォルトの可能性が82%であるという話も載っていました。また、テクノロジー会社の初の大型LBOとして注目された、Carlyle他によるFreescaleの買収も、ボンドの価格が73セントまで下落しているそうです。
これらと関連してIDD Magazineは、2月18日に「The Deals That Didn't Happen」(起こらなかったディール)という記事の中で、最近は多くのバイアウトファンドが、無理に案件をクローズして大きな損失を被る可能性に晒されるよりも、案件価格の3%程度の「ブレイクアップフィー」を支払って、投資から撤退するケースが増えているという話が載っていました。
例えばBlackstoneは、JP MorganとLehman Brothersからの資金調達が困難になったとの理由から、PHHの$1.8bn(約1,900億円)の買収に失敗し、$50mm(約54億円)のフィーを払うことになったそうです。Cerberusも、07年の7月にアナウンスされていた建設・運搬機械レンタル最大手のUnited Rentalsの$4bn(約4,300億円)のバイアウトから撤退し、$100mm(約107億円)のフィーを支払ったそうです。
このような逆境にあってもPEファンドは、LBO以外の投資機会を積極的に探っており、中でも期待されるのが「ディストレスト投資」と言えそうです。レバレッジドファイナンスのプロ中のプロであるPEファンドがこの投資においても強みを発揮するであろうことは、想像に難くありません。
このトレンドは既に始まっており、PEファンドに積極的に投資してきた機関投資家やFoF(ファンドオブファンズ)は、既にディストレストファンドへの投資額を増やしているようです。
そんな中2月14日のFTには、大手バイアウトファンドであるTPGがレイズしている$6bn(約6,500億円)のディストレストファンドのリードインベスターに、シンガポールのソブリンウェルスファンド(SWF)であるGIC(シンガポール投資庁)が名乗りを挙げているという話が載っていました。

TPGには、他にもカリフォルニア州の公的年金大手であるCalpersやCalstrsや中東のSWFも出資すると噂されており、また中国のSWFであるCICも、別のPEファンドであるJC Flowersの$4bn(約4,300億円)のディストレストファンドに投資する意向を示しているようです。
前回にLBOが低迷した2000年代初頭にも、同じようなディストレスト投資への関心の高まりがありましたが、規模的にはLBOには及ばず、バイアウトファンドは引続き、既存のディールやポートフォリオ企業への関与を続けることになります。それでも自らの持つデットやリストラのノウハウを活用し、市場低迷時でも積極的に投資機会を探ろうとする辺り、さすがという感じです。
ウォールストリートでは、最近投資銀行でのリストラの話や、案件数が低迷している話など、暗い話ばかりが聞かれます。また米国経済の最大の牽引役である個人消費が、住宅市場の低迷に大きな影響を受けているため、経済がリセッション入りするのはほぼ確実と考えられています。
こんな市場環境において、どのような投資手法が有効にリターンを挙げられるのか、気をつけて見て行きたいと思います。
2月5日のBloombergに、NYを拠点とする大手ファンドApollo Managementが07年に買収した、Realogy Corpについての話が載っていました。Realogyは、アメリカ在住であれば誰でも聞いたことがあるような大手の不動産ブローカー、Coldwell BankerやCentury 21の親会社で、Apolloは$6.6bn(約7,000億円)で同社を買収しています。
買収におけるキャピタルストラクチャーは、デットが70%、エクイティが30%という典型的なものだったようですが、住宅市場の急速な冷え込みの影響を直接受けることになった同社に投資された$2bn(約2,200億円)のエクイティは、現時点では事実上「無価値」になってしまっているそうです。
と言うのは、同案件の為に発行されたハイイールド債の価格が、1ドルの額面に対して61セントまで下落しており、この価格水準は、今後このボンドがデフォルト(債務不履行)に陥る可能性が80%以上であることを示しているからです。
同記事で取り上げられていた債券ファンドマネージャーによると、ボンドの価格が50セントから60セント台まで下落しているということは、一般にその発行会社が「破綻」(債務不履行)に向かっていると言える状況だそうです。
現時点で、過去2年間にLBO絡みで発行された合計$74bn(約7.9超円)のボンドのうち、実に27%が米国債の金利を10%以上上回る、いわゆる「ディストレスト債券」のカテゴリーに入っているそうで、また約18%が、80セント以下というハイイールド債の平均価格である91セントを大きく下回る水準で取引されているそうです。
「ディストレスト(破綻)債券」水準まで価格が下落すると、1年以内にデフォルトする可能性は20倍になるのだそうで、記事にコメントを寄せていた他の債券投資家は、LBOファンドが買収価格をつり上げ過ぎた結果、必要以上のデットが発行され、その幾つかは確実に破綻するだろうとコメントしていました。
毎日平均約5件というペースでLBOが発表された2006年と2007年が、バイアウトブームのピークであったことは疑いなく、投下された資金総額は、06年に$213bn(約23兆円)、07年に$189bn(約21兆円)に上ったそうです。中でも「The Class of 2007」(2007年組)と揶揄されるピーク中のピークの案件については、大手投資ファンドTH Lee Partnersの共同社長であるScott Sperling氏も、業界にとって大変な重しになるだろうとコメントしていました。
Bloombergによると、$41bn(約4.4兆円)を運用するApolloは、過去二年のディールに用いられたボンドの中で、パフォーマンスの悪いボンドを最も多く抱えることになってしまっているそうで、最初に挙げたRealogyのボンドは、記事が出ていた時点では、表面利回りが24%にも達しているそうです。
こういった指摘に対してApolloのスポークスマンは、記事の中で「ボンドの価格は重要でないとは言わないが、ディールの善し悪しを判断する最も適切な要素とは言いがたく、むしろ買収に用いられたキャピタルストラクチャーと買収後の資本構成の推移がどうであるかの方が大切だ」とコメントしていました。
2年ほど前に、キャッシュフロー(の改善)によってデットを5年程度かけて徐々に返済することでエクイティ価値を最大化するLBOが、最近では短期的なフィナンシャルエンジニアリングと化している、といった話を書いたことがあったと思いますが、上記のコメントは、まさにその話を裏付けている気がします。
確かにキャピタルストラクチャーやデットの性質は、LBOのパフォーマンスに大きな違いをもたらします。その為、案件を提案する投資銀行は、必死に知恵をしぼって、様々なストラクチャーを提案をして来ました。しかし買収企業のキャッシュフローの見通しよりも「買収方法」ばかりに注目が行くようになったことについては、反省すべき点がある気がします。
もちろんそれは、激しい競争環境の中では「言うに易く、行うに難い」ことであり、多くの銀行やがサブプライムで損失を被っているのも、リスクマネジャーが指摘していた通りに案件を回避していれば、自社だけ競争に乗り遅れるという気持ちがあったと言われます。案件がビッド競争になるLBOファンドについてはこの話は更に深刻で、出来るだけ多くのデットを積み上げられれば相手をアウトビッド出来るわけですから、クレジット市場が許す限り、許容リスクが拡大一辺倒になることは、想像に難くないかと思います。
話をLBOのデットに戻しますが、問題を抱えているのは、当然Apolloだけではありません。同じBloombergの記事の中では、大手バイアウトファンドのCerberusが買収したGMの金融子会社GMACも、ボンドが64セントで取引されておりデフォルトの可能性が82%であるという話も載っていました。また、テクノロジー会社の初の大型LBOとして注目された、Carlyle他によるFreescaleの買収も、ボンドの価格が73セントまで下落しているそうです。
これらと関連してIDD Magazineは、2月18日に「The Deals That Didn't Happen」(起こらなかったディール)という記事の中で、最近は多くのバイアウトファンドが、無理に案件をクローズして大きな損失を被る可能性に晒されるよりも、案件価格の3%程度の「ブレイクアップフィー」を支払って、投資から撤退するケースが増えているという話が載っていました。
例えばBlackstoneは、JP MorganとLehman Brothersからの資金調達が困難になったとの理由から、PHHの$1.8bn(約1,900億円)の買収に失敗し、$50mm(約54億円)のフィーを払うことになったそうです。Cerberusも、07年の7月にアナウンスされていた建設・運搬機械レンタル最大手のUnited Rentalsの$4bn(約4,300億円)のバイアウトから撤退し、$100mm(約107億円)のフィーを支払ったそうです。
このような逆境にあってもPEファンドは、LBO以外の投資機会を積極的に探っており、中でも期待されるのが「ディストレスト投資」と言えそうです。レバレッジドファイナンスのプロ中のプロであるPEファンドがこの投資においても強みを発揮するであろうことは、想像に難くありません。
このトレンドは既に始まっており、PEファンドに積極的に投資してきた機関投資家やFoF(ファンドオブファンズ)は、既にディストレストファンドへの投資額を増やしているようです。
そんな中2月14日のFTには、大手バイアウトファンドであるTPGがレイズしている$6bn(約6,500億円)のディストレストファンドのリードインベスターに、シンガポールのソブリンウェルスファンド(SWF)であるGIC(シンガポール投資庁)が名乗りを挙げているという話が載っていました。

前回にLBOが低迷した2000年代初頭にも、同じようなディストレスト投資への関心の高まりがありましたが、規模的にはLBOには及ばず、バイアウトファンドは引続き、既存のディールやポートフォリオ企業への関与を続けることになります。それでも自らの持つデットやリストラのノウハウを活用し、市場低迷時でも積極的に投資機会を探ろうとする辺り、さすがという感じです。
ウォールストリートでは、最近投資銀行でのリストラの話や、案件数が低迷している話など、暗い話ばかりが聞かれます。また米国経済の最大の牽引役である個人消費が、住宅市場の低迷に大きな影響を受けているため、経済がリセッション入りするのはほぼ確実と考えられています。
こんな市場環境において、どのような投資手法が有効にリターンを挙げられるのか、気をつけて見て行きたいと思います。
by harry_g
| 2008-02-25 13:33
| LBO・プライベートエクイティ


