2007年 12月 24日
ウォールストリート年末の話題 |
通常年末になると、ウォールストリートでは、どこの投資銀行が幾らのボーナスを払ったかといった浮かれた話が多く聞かれます。

しかし今年の話題の中心は、残念ながらそのような明るい話ではなく、「クレジットクランチと金融機関の巨額損失」、「高まる景気後退の可能性とドル安の進行」、「石油を含むコモディティ価格の高騰」、そして「ソブリンウェルスファンド(SWF)の躍進」などのようです。
金融機関の巨額損失
サブプライム住宅ローンとクレジットクランチの問題はその後も広がりを見せており、欧米の大手金融機関は、軒並み巨額損失を計上しています。
WSJなどによると、大手証券のMerrill Lynchが最近$9bn(約9,900億円)の損失を出し、Morgan Stanleyは第3四半期と第4四半期合わせて$10.4bn(約1.2 兆円)、UBSは$14.2bn(約1.6兆円)、そしてCitigroupは、損失合計が最大で$13bn(約1.4兆円)に上る可能性があると言っているそうです。
これらの銀行・投資銀行の債券部門のリスクマネージャーと話をすると、サブプライムローンを何重にもリパッケージした証券化商品のリスクは、比較的早い段階から広く認知され、また指摘されていたそうです。ただ最終的な決断は経営者や部門の責任者の手にゆだねられ、彼ら・彼女らは、自分たちの会社やグループだけがみすみす利益機会を逃すことを嫌って、半ば意識的に、いわゆる「Greater Fool」のバブルゲームに参加してしまったそうです。
もちろん住宅ローンの証券化は最近に始まった事ではありませんし、その仕組みによって持ち家が有利な金利で手に入るようになったことは、間違いない気がします。またサブプライムも、元々は低所得者でも家が買えるようにと、政策的に導入されたものだと聞きます。
ただ市場では、事が行き過ぎたり加熱し過ぎたりすることはよくあることであり、今回の巨額損失も、そのような自然の成り行きの顛末と言える気がします。
このような事態を受けて、大手金融機関では、トップのすげ替えや担当者の総入れ替えといったことが軒並み行われているわけですが、これで問題が解決したと考えるのは、時期尚早かもしれません。
と言うのは、クレジットクランチは、住宅ローン市場のみならず、今後クレジットカードなど個人消費に直接関連している分野にも悪影響を与えて行く可能性があるからです。この点は12月1日のEconomistの中などでも指摘されていましたが、 クレジット問題の影響の全貌は、まだ見えていないと考えた方が妥当なのかもしれません。
ドル安の進行
また同誌の別の記事で指摘されていましたが、クレジット問題の中心がドル資産に偏っていたこともあり、米国からの投資資金の逃避という形でドル安が進行していることも、非常によく聞かれる話題と言える気がします。特にヨーロッパ人でNYで働いている人は、直接的にドル安ユーロ/ポンド高の影響を受けており、気が気ではないといった感じです。
景気に減速感がある米国では、FRBがここ最近、立て続けに25bps毎の利下げを行っており、また過去とは違ってユーロという代替準基軸通貨があることで、主に途上国で自国通貨をドルとリンクさせていた国の政府が外貨準備を分散させる動きを見せていることなども、ドル安の原因になっているのかもしれません。
株式・債券投資の大御所であるWarren Buffett氏やBill Gross氏がドル安への懸念を表明するに留まらず、ブラジルのスーパーモデルまでが給料をドル建ではなくユーロ建で支払うことを要求したと報じられ、ドル安進行もここまでかといった話題が出たこともありましたが、為替相場は経済全体に大きな影響を与えるため、今後の動きが注目されます。
実際Economist の中では、欧州航空大手のAirbusが、ユーロ高が業績に「致命的」影響を与えていると語っているという話が載っていました。また、サービス業への構造シフトが進まず、引続き経済が輸出に大きく依存している日本も、ドル安の被害を直接的に受けている国の一つと言える気がします。
中には中国の消費拡大が欧米の景気減速を相殺すると言った主張も聞きますが、欧米やアジアの主要メーカーが中国を介して先進国へ最終商品を輸出するなど、中国が「世界の工場」(輸出国)である以上、同経済だけ無傷で済むと考えるのは、少々楽観的過ぎるかもしれません。
コモディティ価格の高騰
オリンピックを前に設備投資を加速させる中国は、今のところ年率11%という高度成長を続けていますが、その旺盛な資源需要の影響などを受けて、原油やコモディティ価格が高騰しているということも、今年の後半に非常によく耳にした話題と言える気がします。特に原油価格が$100に迫った時などは、CNBCなどの金融メディアが、それこそ毎時のようにその話を報道していました。
コモディティの 話は専門外なので、詳しく触れることは避けますが、 原油価格の高騰により、アメリカではガソリン代がここ数年で3倍近くに跳ね上がるなど、多方面に多くの影響を与えているようです。ただでさえクレジットクランチによって、住宅市場、クレジットカードローンに依存している個人消費などが冷え込むことが懸念されている中、石油価格の高騰は「泣き面に蜂」と言えるかもしれません。
ソブリンウェルスファンド(SWF)
先進国経済の減速感が強まる一方で、石油価格の高騰は、産油国を大変潤わしていると言われています。そこと関連して最近のホットなトピックとして上げられるのが、ソブリンウェルスファンド(SWF)の躍進です。
SWFは、政府が国富を投資運用する目的で設ける投資運用会社です。原資は外貨通貨準備金、公的年金基金、石油利益基金などが中心だと言われており、投資先は、上場株式、外国債券、不動産、オルタナティブファンドなど様々です。
著名なところでは、アラブ首長国連邦のAbu Dhabi Investment Authority(ADIA)、シンガポールのGov't of Singapore Inv't Corp(GIC)、北欧の石油大国ノルウェーのThe Gov't Pension Fund of Norway(GPF)などがあります。また、サウジ、クウェート、カタールなどの中東各国や、中国、ロシアなども、積極的にSWFを運用しているようです。
詳しい運用資産総額は明らかではないですが、ADIAは$1.3 tril(143兆円)とも言われており、 またシンガポールは、GICともう一つの投資ビークルであるTemasekを合わせて$400bn(約44兆円)超、GPFも$300bn(約33兆円)超と言われているようです。12月1日のWSJの記事によると、世界のSWFの運用資産総額は$3 tril(約330兆円)とも言われているそうです。
1991年にCitibankが経営危機に瀕した際、当時のトップであったJohn Reed氏が中東に飛び、サウジアラビアの王子から救済投資を受けて危機を乗り切った話は有名ですが、最近のサブプライム危機による大手金融機関の株価下落は、SWFによる積極的な投資の呼び水になっているようです。
例えば 中東からは、 ADIAが$7.5bn(約8,300億円)を投じてCitigroupの株式4.9%を取得、また米PEファンド大手のCarlyleに7.5%を出資し、またスイス銀大手のUBSにも、巨額の出資をしたと言われているようです。(写真はADIAのオフィスです。)
またドバイにあるDubai Int'l Capital(DIC)は、英銀大手HSBCや大手ヘッジファンドのOch-Ziffに出資したり、ソニーの株式を1%程度取得したり、また英国で危機に陥っている住宅ローン会社Northern Rockの救済にVirgin Groupと共に参加するなど、その存在感を高めています。
$200bn(約22兆円)を運用するとされる中国のChina Investment Corp(CIC)も、 大手LBOファンドのBlackstoneにIPO前で$3bn(約3,300億円)投資したことが話題になりましたが、最近Morgan Stanleyに対する$5bn(約5,500億円)の投資を発表しており、イギリスの大手銀Barclaysにも投資を行うなど、最近その動きは注目を集めています。
またSWFの草分け的存在と言われるシンガポール政府は、その投資ビークルであるGICとTemasekを用いて、UBSに$9.7bn(約1.1兆円)の出資を決め、また12月21日にWSJなどで報じられた所によると、Merrill Lynchにも$5bn(約5,500億円)の出資を検討しているそうです。
これらのファンドは、SWFとしてひとくくりに語られる事が多いですが、実際は国によって投資基準はまちまちのようです。
例えばシンガポールのGICやGPFなどは、 純粋な資産運用ファンドに近いと言われていますし、中国などは高度成長期の日本がそうであったように、資源利権の確保を投資目的の中心に据えていると聞きます。また中東のファンドは、世界で通用する「プレミアブランド」を好む傾向があるなど、必ずしも純粋な投資利潤の追求を行っているかは定かではないとの声も聞かれます。
SWFの躍進ぶりが多方面からの注目を集めていることは間違いなく、一部にはバブル期に日本がアメリカの不動産を買い漁ったことと比較して、警戒感を強める向きもあるようです。今のところ、 SWFへの規制という話は特に聞かず、個別案件ごとに対処されているようですが、今後の動きは注目されます。
・・・今週はクリスマスが火曜日にあることもあり、NYは先週の金曜日から、完全に年末休暇モードに入っています。経済や市場環境が厳しさを増す中、余り明るい話を聞くことがない今日この頃ですが、人間の営みを凝縮した「景気」や「市場」はそもそもシクリカルなものだと考えると、過熱感が出れば冷え込むことがあるのも当然と言える気がします。
ただ不景気の長期化を喜ぶ人はあまりいないでしょうから、いつも書いている米国経済システムの「柔軟性」が、現実味が強まっている景気後退を、短期間で収束させてくれることを祈りたいと思います。

しかし今年の話題の中心は、残念ながらそのような明るい話ではなく、「クレジットクランチと金融機関の巨額損失」、「高まる景気後退の可能性とドル安の進行」、「石油を含むコモディティ価格の高騰」、そして「ソブリンウェルスファンド(SWF)の躍進」などのようです。
金融機関の巨額損失
サブプライム住宅ローンとクレジットクランチの問題はその後も広がりを見せており、欧米の大手金融機関は、軒並み巨額損失を計上しています。
WSJなどによると、大手証券のMerrill Lynchが最近$9bn(約9,900億円)の損失を出し、Morgan Stanleyは第3四半期と第4四半期合わせて$10.4bn(約1.2 兆円)、UBSは$14.2bn(約1.6兆円)、そしてCitigroupは、損失合計が最大で$13bn(約1.4兆円)に上る可能性があると言っているそうです。
これらの銀行・投資銀行の債券部門のリスクマネージャーと話をすると、サブプライムローンを何重にもリパッケージした証券化商品のリスクは、比較的早い段階から広く認知され、また指摘されていたそうです。ただ最終的な決断は経営者や部門の責任者の手にゆだねられ、彼ら・彼女らは、自分たちの会社やグループだけがみすみす利益機会を逃すことを嫌って、半ば意識的に、いわゆる「Greater Fool」のバブルゲームに参加してしまったそうです。
もちろん住宅ローンの証券化は最近に始まった事ではありませんし、その仕組みによって持ち家が有利な金利で手に入るようになったことは、間違いない気がします。またサブプライムも、元々は低所得者でも家が買えるようにと、政策的に導入されたものだと聞きます。
ただ市場では、事が行き過ぎたり加熱し過ぎたりすることはよくあることであり、今回の巨額損失も、そのような自然の成り行きの顛末と言える気がします。このような事態を受けて、大手金融機関では、トップのすげ替えや担当者の総入れ替えといったことが軒並み行われているわけですが、これで問題が解決したと考えるのは、時期尚早かもしれません。
と言うのは、クレジットクランチは、住宅ローン市場のみならず、今後クレジットカードなど個人消費に直接関連している分野にも悪影響を与えて行く可能性があるからです。この点は12月1日のEconomistの中などでも指摘されていましたが、 クレジット問題の影響の全貌は、まだ見えていないと考えた方が妥当なのかもしれません。
ドル安の進行
また同誌の別の記事で指摘されていましたが、クレジット問題の中心がドル資産に偏っていたこともあり、米国からの投資資金の逃避という形でドル安が進行していることも、非常によく聞かれる話題と言える気がします。特にヨーロッパ人でNYで働いている人は、直接的にドル安ユーロ/ポンド高の影響を受けており、気が気ではないといった感じです。
景気に減速感がある米国では、FRBがここ最近、立て続けに25bps毎の利下げを行っており、また過去とは違ってユーロという代替準基軸通貨があることで、主に途上国で自国通貨をドルとリンクさせていた国の政府が外貨準備を分散させる動きを見せていることなども、ドル安の原因になっているのかもしれません。
株式・債券投資の大御所であるWarren Buffett氏やBill Gross氏がドル安への懸念を表明するに留まらず、ブラジルのスーパーモデルまでが給料をドル建ではなくユーロ建で支払うことを要求したと報じられ、ドル安進行もここまでかといった話題が出たこともありましたが、為替相場は経済全体に大きな影響を与えるため、今後の動きが注目されます。実際Economist の中では、欧州航空大手のAirbusが、ユーロ高が業績に「致命的」影響を与えていると語っているという話が載っていました。また、サービス業への構造シフトが進まず、引続き経済が輸出に大きく依存している日本も、ドル安の被害を直接的に受けている国の一つと言える気がします。
中には中国の消費拡大が欧米の景気減速を相殺すると言った主張も聞きますが、欧米やアジアの主要メーカーが中国を介して先進国へ最終商品を輸出するなど、中国が「世界の工場」(輸出国)である以上、同経済だけ無傷で済むと考えるのは、少々楽観的過ぎるかもしれません。
コモディティ価格の高騰
オリンピックを前に設備投資を加速させる中国は、今のところ年率11%という高度成長を続けていますが、その旺盛な資源需要の影響などを受けて、原油やコモディティ価格が高騰しているということも、今年の後半に非常によく耳にした話題と言える気がします。特に原油価格が$100に迫った時などは、CNBCなどの金融メディアが、それこそ毎時のようにその話を報道していました。
コモディティの 話は専門外なので、詳しく触れることは避けますが、 原油価格の高騰により、アメリカではガソリン代がここ数年で3倍近くに跳ね上がるなど、多方面に多くの影響を与えているようです。ただでさえクレジットクランチによって、住宅市場、クレジットカードローンに依存している個人消費などが冷え込むことが懸念されている中、石油価格の高騰は「泣き面に蜂」と言えるかもしれません。
ソブリンウェルスファンド(SWF)
先進国経済の減速感が強まる一方で、石油価格の高騰は、産油国を大変潤わしていると言われています。そこと関連して最近のホットなトピックとして上げられるのが、ソブリンウェルスファンド(SWF)の躍進です。
SWFは、政府が国富を投資運用する目的で設ける投資運用会社です。原資は外貨通貨準備金、公的年金基金、石油利益基金などが中心だと言われており、投資先は、上場株式、外国債券、不動産、オルタナティブファンドなど様々です。
著名なところでは、アラブ首長国連邦のAbu Dhabi Investment Authority(ADIA)、シンガポールのGov't of Singapore Inv't Corp(GIC)、北欧の石油大国ノルウェーのThe Gov't Pension Fund of Norway(GPF)などがあります。また、サウジ、クウェート、カタールなどの中東各国や、中国、ロシアなども、積極的にSWFを運用しているようです。
詳しい運用資産総額は明らかではないですが、ADIAは$1.3 tril(143兆円)とも言われており、 またシンガポールは、GICともう一つの投資ビークルであるTemasekを合わせて$400bn(約44兆円)超、GPFも$300bn(約33兆円)超と言われているようです。12月1日のWSJの記事によると、世界のSWFの運用資産総額は$3 tril(約330兆円)とも言われているそうです。
1991年にCitibankが経営危機に瀕した際、当時のトップであったJohn Reed氏が中東に飛び、サウジアラビアの王子から救済投資を受けて危機を乗り切った話は有名ですが、最近のサブプライム危機による大手金融機関の株価下落は、SWFによる積極的な投資の呼び水になっているようです。
例えば 中東からは、 ADIAが$7.5bn(約8,300億円)を投じてCitigroupの株式4.9%を取得、また米PEファンド大手のCarlyleに7.5%を出資し、またスイス銀大手のUBSにも、巨額の出資をしたと言われているようです。(写真はADIAのオフィスです。)またドバイにあるDubai Int'l Capital(DIC)は、英銀大手HSBCや大手ヘッジファンドのOch-Ziffに出資したり、ソニーの株式を1%程度取得したり、また英国で危機に陥っている住宅ローン会社Northern Rockの救済にVirgin Groupと共に参加するなど、その存在感を高めています。
$200bn(約22兆円)を運用するとされる中国のChina Investment Corp(CIC)も、 大手LBOファンドのBlackstoneにIPO前で$3bn(約3,300億円)投資したことが話題になりましたが、最近Morgan Stanleyに対する$5bn(約5,500億円)の投資を発表しており、イギリスの大手銀Barclaysにも投資を行うなど、最近その動きは注目を集めています。
またSWFの草分け的存在と言われるシンガポール政府は、その投資ビークルであるGICとTemasekを用いて、UBSに$9.7bn(約1.1兆円)の出資を決め、また12月21日にWSJなどで報じられた所によると、Merrill Lynchにも$5bn(約5,500億円)の出資を検討しているそうです。
これらのファンドは、SWFとしてひとくくりに語られる事が多いですが、実際は国によって投資基準はまちまちのようです。
例えばシンガポールのGICやGPFなどは、 純粋な資産運用ファンドに近いと言われていますし、中国などは高度成長期の日本がそうであったように、資源利権の確保を投資目的の中心に据えていると聞きます。また中東のファンドは、世界で通用する「プレミアブランド」を好む傾向があるなど、必ずしも純粋な投資利潤の追求を行っているかは定かではないとの声も聞かれます。
SWFの躍進ぶりが多方面からの注目を集めていることは間違いなく、一部にはバブル期に日本がアメリカの不動産を買い漁ったことと比較して、警戒感を強める向きもあるようです。今のところ、 SWFへの規制という話は特に聞かず、個別案件ごとに対処されているようですが、今後の動きは注目されます。
・・・今週はクリスマスが火曜日にあることもあり、NYは先週の金曜日から、完全に年末休暇モードに入っています。経済や市場環境が厳しさを増す中、余り明るい話を聞くことがない今日この頃ですが、人間の営みを凝縮した「景気」や「市場」はそもそもシクリカルなものだと考えると、過熱感が出れば冷え込むことがあるのも当然と言える気がします。
ただ不景気の長期化を喜ぶ人はあまりいないでしょうから、いつも書いている米国経済システムの「柔軟性」が、現実味が強まっている景気後退を、短期間で収束させてくれることを祈りたいと思います。
by harry_g
| 2007-12-24 05:54
| 世界経済・市場トレンド


