2007年 12月 01日
プライベートエクイティCEO |
アメリカがLBOブームで沸いていた2005年や2006年には、プライベートエクイティ業界などから「LBOによる企業の未上場化がいかに素晴しいか」という話がよく聞かれました。
06年9月に書いた「プライベート>パブリック?」というエントリーでは、アメリカの企業経営者が未上場化を推進する動機として、以下の3つの点に触れたと思います。
- ウォールストリートが嫌いだから
- 常に監視されるのが嫌だから
- 巨額の報酬が期待できるから
詳しくはそのエントリーを読んでもらえればと思いますが、企業経営者が「ウォールストリート嫌い」な理由を簡単に言うと、証券業界が四半期ベースの業績にこだわるために、長期的視点で経営をすることが困難になっているという理由からだったと思います。
二番目の「監視されたくない」というのも、上場企業は常に経営状態を株主や投資家からチェックされたりSarboxのような規制の縛りも受けるのに対して、未上場化すれば一般株主やアナリスト達からの監視から逃れて、経営に集中できるといった話だったと思います。
これらの話は戦略コンサルティング最大手のマッキンゼーが「Short-termism」というレポートを出すなどして取り上げたり、バイアウト業界の大物から「将来は全ての上場企業がバイアウトされ、市場に残るのはPEファンドのみになるだろう」などというコメントまで飛び出して話題を呼んだのは、記憶に新しいところです。
しかしLBOにはパブリックデット(上場債券)を用いるのが通常なので、バイアウト後もデットの投資家から引き続き監視されるでしょうし、投資リターンを最大化させることが本業のPEファンドが全株式を保有することになって、本当に「長期的視点での経営」が可能なのかと疑問に覚えた記憶があります。
上で三番目にあげた点についても、大きな報酬を得るにはファンドの利益最大化に貢献する必要があるのは言うまでもないと思います。そのためのプレッシャーは上場企業と同等かそれ以上なのではと思いますし、IRR最大化のためには長期的に企業を成長させる代わりに、短期的に企業の転売を目指した方が効果的である可能性もある気がします。
このように考えると、実際にバイアウトされた企業のCEOたちがどのように経営をしているのかには興味を引かれるところですが、Business Weekの11月5日号がカバーストーリーでその話を載せていました。その内容はタイトルの通りです。
「Perform or Perish」
(結果を出すか、死か)
この記事では、クレジット市場の悪化によってバイアウト資金の調達が困難になったため、LBOファンドがポートフォリオ企業の収益改善による利益最大化により注力せざるを得ず、「プライベートエクイティCEO」に大きなプレッシャーが降り注いでいるという話が色々取り上げられていました。PEファンド傘下企業のデフォルトも増えているそうで、それも経営者へのプレッシャー拡大につながっているのかもしれません。
記事の中のとあるCEOのコメントを取り上げてみると、例えばこんな感じです。
「You have to constantly drive returns.」
(常にリターンを出し続けなければいけない)
「Time will kill you.」
(時間をかけていると失敗する)
このCEOは、事業再編を前提としてバイアウトされた某企業を経営しており、昨今の市場悪化を受けてM&A市場が沈静化してしまったことで、ファンド側からのプレッシャーが大きくなっているといった話が書いてありました。
バイアウトのプロであるLBOファンドの経営監督が厳しいものであることは至極当然という気がしますが、記事の中では「CEOが計画を一年前倒しで実行すれば、ファンドは二年前倒せと迫る」というように説明してあり、某ファンド経営者のコメントとして、以下のようなコメントも載っていました。
「We expect CEOs to exceed our plan, and we talk to them daily or every other day.」
(CEOには計画を上回る成果をあげることを期待している。その為に毎日か一日おきには話している)
シカゴ大学の教授がPEファンド傘下の企業150社の経営陣を研究したところ、成功しているプライベートエクイティCEOに共通している能力は「強硬さ」であったそうです。その反面、上場企業の経営者に求められるような「ソフト」さ、つまり部下からのフィードバックを聞き入れる能力や社員の育成力などは余り役に立たないそうです。
「Successful private equity CEOs are cheetahs.」
(成功するプライベートエクイティCEOは短距離走者だ)
大手買収ファンドTPGの創業パートナーであるJames Coulter氏も、成功するプライベートエクイティCEOについて、「constructive paranoia (建設的な偏執症)」、つまり「現状に満足してリラックすることなく、リーダーとして常に変化をドライブできるような人物」と述べていました。
・・・もちろんこの記事には誇張もあるでしょうが、未上場化の理由として「株主からの監視から逃れて長期的視点で経営が出来る」ことを期待するのが困難なのは、明らかになって来た気がします。そう考えると未上場化を推進していたCEO達は、ファンドからの誘いに乗せられて予想とは違う仕事を引き受けてしまったか、そもそも短期的な巨額の報酬を期待した「確信犯」であったかの、どちらかなのかもしれません。
この記事はなかなか反響を呼んだようで、11月19日のBusiness Weekに、読者からのフィードバックが載っていました。中には「ファンドが企業経営に規律をもたらす事で、企業の競争力が増して従業員の雇用も安定化する」といったポジティブな意見もありましたが、さすがに多くの意見は、「効率化ばかりで成長戦略を欠いている」といったようなネガティブなものでした。
中には記事の中でCEOが取り上げられていた企業の元従業員のコメントとして、「PEファンドに買収された企業で外国(の安い労働力)に仕事を奪われたくなければ、人生とハート、魂を売り渡さなければならない」という厳しい意見も載っていました。
溢れるリクイディティに助けられてバイアウトがブーム化し、ファンド側が短期的利益の最大化に推進したことで、大手の労働組合が公にファンド批判を展開したり、ワシントンでPEファンドへの増税案が出てきたりしたことは、広く知られている通りです。
ただPE業界すべてが短期的な経営効率の追求ばかりを推進しているわけではなく、中にはじっくり事業を育てるようなファンドや、困難に陥っている企業を立て直すようなファンドもあるのではと言う気がします。
また読者からのフィードバックの中には、「(企業再建に)必要であれば給与引き下げに応じてもよいが、企業再建が成功した際には、従業員も上場株式の一部を受け取れるなどメリットを享受できるようにするべきだ」という現実的な意見があったのは、興味深いところです。
今日ではアメリカでも日本でも、多くの人が年金基金を通じて株主利益をシェアしているため、株主利益自体を否定してしまうことは、長期的に自らの首を絞めることにつながる気がします。上のような意見が従業員側から出るのは、アメリカ社会にはその理解が広がっていることを示しているのかもしれません。
ただ短期的には、リストラなどで株主利益と従業員利益の相反が起こることは避けられず、上で見られるLBOファンドへの批判も、その延長線上にある気がします。そこで従業員持ち株会を導入することは、企業の競争力を犠牲にすることなくステークホルダー間の利益相反問題を解消する手段として、有効かもしれません。
06年9月に書いた「プライベート>パブリック?」というエントリーでは、アメリカの企業経営者が未上場化を推進する動機として、以下の3つの点に触れたと思います。- ウォールストリートが嫌いだから
- 常に監視されるのが嫌だから
- 巨額の報酬が期待できるから
詳しくはそのエントリーを読んでもらえればと思いますが、企業経営者が「ウォールストリート嫌い」な理由を簡単に言うと、証券業界が四半期ベースの業績にこだわるために、長期的視点で経営をすることが困難になっているという理由からだったと思います。
二番目の「監視されたくない」というのも、上場企業は常に経営状態を株主や投資家からチェックされたりSarboxのような規制の縛りも受けるのに対して、未上場化すれば一般株主やアナリスト達からの監視から逃れて、経営に集中できるといった話だったと思います。
これらの話は戦略コンサルティング最大手のマッキンゼーが「Short-termism」というレポートを出すなどして取り上げたり、バイアウト業界の大物から「将来は全ての上場企業がバイアウトされ、市場に残るのはPEファンドのみになるだろう」などというコメントまで飛び出して話題を呼んだのは、記憶に新しいところです。
しかしLBOにはパブリックデット(上場債券)を用いるのが通常なので、バイアウト後もデットの投資家から引き続き監視されるでしょうし、投資リターンを最大化させることが本業のPEファンドが全株式を保有することになって、本当に「長期的視点での経営」が可能なのかと疑問に覚えた記憶があります。
上で三番目にあげた点についても、大きな報酬を得るにはファンドの利益最大化に貢献する必要があるのは言うまでもないと思います。そのためのプレッシャーは上場企業と同等かそれ以上なのではと思いますし、IRR最大化のためには長期的に企業を成長させる代わりに、短期的に企業の転売を目指した方が効果的である可能性もある気がします。
このように考えると、実際にバイアウトされた企業のCEOたちがどのように経営をしているのかには興味を引かれるところですが、Business Weekの11月5日号がカバーストーリーでその話を載せていました。その内容はタイトルの通りです。
「Perform or Perish」(結果を出すか、死か)
この記事では、クレジット市場の悪化によってバイアウト資金の調達が困難になったため、LBOファンドがポートフォリオ企業の収益改善による利益最大化により注力せざるを得ず、「プライベートエクイティCEO」に大きなプレッシャーが降り注いでいるという話が色々取り上げられていました。PEファンド傘下企業のデフォルトも増えているそうで、それも経営者へのプレッシャー拡大につながっているのかもしれません。
記事の中のとあるCEOのコメントを取り上げてみると、例えばこんな感じです。
「You have to constantly drive returns.」
(常にリターンを出し続けなければいけない)
「Time will kill you.」
(時間をかけていると失敗する)
このCEOは、事業再編を前提としてバイアウトされた某企業を経営しており、昨今の市場悪化を受けてM&A市場が沈静化してしまったことで、ファンド側からのプレッシャーが大きくなっているといった話が書いてありました。
バイアウトのプロであるLBOファンドの経営監督が厳しいものであることは至極当然という気がしますが、記事の中では「CEOが計画を一年前倒しで実行すれば、ファンドは二年前倒せと迫る」というように説明してあり、某ファンド経営者のコメントとして、以下のようなコメントも載っていました。
「We expect CEOs to exceed our plan, and we talk to them daily or every other day.」
(CEOには計画を上回る成果をあげることを期待している。その為に毎日か一日おきには話している)
シカゴ大学の教授がPEファンド傘下の企業150社の経営陣を研究したところ、成功しているプライベートエクイティCEOに共通している能力は「強硬さ」であったそうです。その反面、上場企業の経営者に求められるような「ソフト」さ、つまり部下からのフィードバックを聞き入れる能力や社員の育成力などは余り役に立たないそうです。
「Successful private equity CEOs are cheetahs.」
(成功するプライベートエクイティCEOは短距離走者だ)
大手買収ファンドTPGの創業パートナーであるJames Coulter氏も、成功するプライベートエクイティCEOについて、「constructive paranoia (建設的な偏執症)」、つまり「現状に満足してリラックすることなく、リーダーとして常に変化をドライブできるような人物」と述べていました。
・・・もちろんこの記事には誇張もあるでしょうが、未上場化の理由として「株主からの監視から逃れて長期的視点で経営が出来る」ことを期待するのが困難なのは、明らかになって来た気がします。そう考えると未上場化を推進していたCEO達は、ファンドからの誘いに乗せられて予想とは違う仕事を引き受けてしまったか、そもそも短期的な巨額の報酬を期待した「確信犯」であったかの、どちらかなのかもしれません。
この記事はなかなか反響を呼んだようで、11月19日のBusiness Weekに、読者からのフィードバックが載っていました。中には「ファンドが企業経営に規律をもたらす事で、企業の競争力が増して従業員の雇用も安定化する」といったポジティブな意見もありましたが、さすがに多くの意見は、「効率化ばかりで成長戦略を欠いている」といったようなネガティブなものでした。
中には記事の中でCEOが取り上げられていた企業の元従業員のコメントとして、「PEファンドに買収された企業で外国(の安い労働力)に仕事を奪われたくなければ、人生とハート、魂を売り渡さなければならない」という厳しい意見も載っていました。溢れるリクイディティに助けられてバイアウトがブーム化し、ファンド側が短期的利益の最大化に推進したことで、大手の労働組合が公にファンド批判を展開したり、ワシントンでPEファンドへの増税案が出てきたりしたことは、広く知られている通りです。
ただPE業界すべてが短期的な経営効率の追求ばかりを推進しているわけではなく、中にはじっくり事業を育てるようなファンドや、困難に陥っている企業を立て直すようなファンドもあるのではと言う気がします。
また読者からのフィードバックの中には、「(企業再建に)必要であれば給与引き下げに応じてもよいが、企業再建が成功した際には、従業員も上場株式の一部を受け取れるなどメリットを享受できるようにするべきだ」という現実的な意見があったのは、興味深いところです。
今日ではアメリカでも日本でも、多くの人が年金基金を通じて株主利益をシェアしているため、株主利益自体を否定してしまうことは、長期的に自らの首を絞めることにつながる気がします。上のような意見が従業員側から出るのは、アメリカ社会にはその理解が広がっていることを示しているのかもしれません。
ただ短期的には、リストラなどで株主利益と従業員利益の相反が起こることは避けられず、上で見られるLBOファンドへの批判も、その延長線上にある気がします。そこで従業員持ち株会を導入することは、企業の競争力を犠牲にすることなくステークホルダー間の利益相反問題を解消する手段として、有効かもしれません。
by harry_g
| 2007-12-01 11:57
| LBO・プライベートエクイティ


