オーバーウェイト・ジャパン |
そこで見たように、資本効率を改善させることで経済や株価が活力を取り戻せば、給与水準も税収も年金も増えて、日本のためになる気はします。とは言え何でもアメリカ的に改革すればよい訳ではないと思いますし、程度や善悪の判断は、外国人に言われるまでもなく日本自身がすれば良いことだと思います。
ともかく公平性を期するために、「日本株をオーバーウェイトにするべきだ」という人たちの議論も、簡単にご紹介したいと思います。
1.株価の割安感
最初に必ず出てくるのは、株価バリュエーションの下落という話です。株価に限らず万物に「適正価格」があると考える多くの投資家にとって、これは至極当然な議論と言える気がします。
具体的数字を見てみると、日本復活への期待が高まった2005年頃から「割高だ」と指摘されてきた日本の株価も、最近ではTOPIXのPERが18倍と、アメリカのS&P 500の15倍と比較して+20%前後という水準まで下落しています。日本株が買いだという人の議論は、ここまで下がれば金利環境や企業利益の成長性を考えても、十分に買える水準なのではという話です。
ひとつ注意が必要なのは、市場PERは今期の「予想」利益に基づいて計算されており、そもそもその予想利益が保守的過ぎると思う強気派の人にとっては、PERは18倍ではなく、既に16倍にも15倍にも見えているかもしれないということです。逆に予想利益が高すぎる、つまりアメリカ景気の減速なり円高なりの影響で今後日本企業の業績は悪化すると考えている人にとっては、分母である利益が小さく見えているはずのため、18倍ではなく20倍にも22倍にも見えているかもしれません。
このような企業業績の「方向感」についてマクロから考えるのはかなり困難であり、メーカーのような輸出産業にとっては、アメリカ景気が後退すれば直接的に利益押し下げ要因になるでしょうが、国内だけで事業をしている業界にとっては、海外の景気はあまり関係ないかもしれません。ともかく株価の割高・割安の判断には将来利益が反映され、加えて期待感でマルチプル(倍率)自体も上下すると言うことは、理解しておく必要があると思います。
2.M&Aの増加
日本企業が外国企業を買収するという話はあまり聞かないかもしれませんが、国内では大手銀行の再編に始まって、メーカーにしろ小売・デパートにしろ、M&Aを用いた産業再編が着実に進んでいるように見えます。日本株強気派から聞かれる話は、その傾向はリストラ期に起こった一時的なものではなく、今後もその勢いは衰えることはない、ということです。
実際にM&Aが社会的タブーではなくなって、自由に企業再編が行われるようになると、経営者にとって自らの企業の値段となる「株価」の重要性が増し、資本効率の向上により意識が向くようになるかもしれません。
アメリカでは、事業拡大のための設備投資と企業買収は、成長のための資金使途としてほぼ同列のように語られます。合併や売却によって事業の効率化が進んだり、今まで企業内で眠っていた、数%の金利しか生んでいない現金資金が何かに投資されて働き出せば、景気に多くのプラスのインパクトが期待出来ると思います。
ちなみに「事業の効率化=リストラ=人員削減」と考えられがちですが、これは違うと思います。もちろん人員削減は確実なコスト削減方法であり、赤字経営に苦しんでいるような会社には止むを得ない場合もあるかもしれませんが、日本に限らず従業員の削減は「最終手段」だと思います。
そのような危機的状況に追い込まれる前に、経営改善を行う事の重要性は言うまでもありませんが、M&Aがもたらしてくれるシナジーには、生産設備の統廃合や、ばらばらでは競争力がない事業を一つに束ねることで競争力を獲得する、一社では負担できないR&D費用を合併することで共同で負担するなどなど、様々なものがあると思います。
3.中国からの恩恵
中国は引続きGDP10%以上の成長力を維持していますが、これは日本企業にとって大きなチャンスになるという話も、日本株をサポートする議論の主要な要素になっているようです。
既に現状で、鉄鋼、船舶、建設機械、産業機械など設備投資関連の多くの日本企業が、中国の経済成長の恩恵を受けていると聞きます。今後中国の内需が拡大して来たた際には、日本の消費財メーカーやサービス産業なども、日本国内の市場縮小を相殺して余り得るチャンスを手にするかもしれません。
ただし国民一人辺りのGDPが日本の30分の1以下であることを考えると、大型テレビや自動車など高価な消費財を扱うメーカーにとっては、少なくとも今後しばらくの間は、北米と欧州が売上のほとんどを占める状況が続くことは、間違いないかもしれません。
4.企業経営に改善の余地が大きい
日本株強気派から究極的に聞かれるのは、「企業の経営が非効率であるのは間違いないので、裏を返せば大きな改善の余地がある」という話です。
奇跡の戦後復興を遂げた日本から、トヨタに代表されるような世界に君臨するメーカーが多数生まれ、その製造現場から生まれた「KAIZEN(改善)」と言う言葉が、そのまま英語になるほど高く評価されているのは、よく知られた話です。
今後企業「本社」でも同じようなメンタリティで資本効率のカイゼンが進めば、高度成長の再来とまではいかないまでも、経済や株価の成長を実現させるポテンシャルがあることは、間違いない気がします。
それが実現するかどうはは、ひとえに日本国民の「モチベーション」に懸かっていると言えるかもしれません。
戦後復興期には、日本国民の間に「アメリカのように豊かになりたい、マイホームをもって、三種の神器を手に入れたい」という強いモチベーションがあり、それが奇跡の経済成長をもたらしたと聞きます。そのようなモチベーションを今日期待することは困難でしょうから、別の角度からのアプローチが必要なのかもしれません。
この点についてアメリカでは、国民の間に将来年金を受け取るためには株価の改善が必要であり、企業セクターに利益成長を続けてもらわないと困るという理解が、かなり浸透している気がします。またそれが経営者の報酬体系にも反映されていることも、株価の継続的な改善に、直接的なモチベーションとして大きな効果を与えている気がします。
また保守的と考えられがちな欧州なども、アメリカに負けてたまるかと同様の経済改革を進めていることは、興味深いところです。好む好まざるにかかわらず、世界経済がグローバル化してお金の流れがボーダーレスになっている中で、「資本の論理」にはそれなりの普遍性が見出されているということなのかもしれません。
ただ資本の論理をあまり追求すると、社会の格差が拡大するではないかという懸念もあると思います。ただそれも程度の問題であり、ある程度の競争が社会や企業に活力を与えるのは間違いない気がします。そんな意識が浸透して経済がまた活力を取り戻せば、給与も年金も増える上、税収も増えて社会福祉も地方経済も充実させることが出来るかもしれません。
ともかく世界第二位の経済大国である日本の経済が、今後どちらに向かっていくかは、世界中の投資家が注目しているところです。どのようなきっかけであるにしろ、人々の将来不安を払拭し、生活者が実感できるような日本経済の真の復活を、期待したいと思います。