2007年 07月 28日
ウォールストリートの暗雲 |
このブログは、アメリカ経済が好況に沸き、バイアウトブームの真っ只中だった2005年にNYの投資銀行で働いていた頃に書き始め、それから何かこのLBOブームを支えているのかや、いかにウォールストリートが潤って来たか、そしてここ半年位はバブル気味であったデットマーケットについて、色々とコメントをしてきました。
LBOは、企業買収(エントランス)時点では安価な資金調達を可能とする強固なレバレッジドファイナンスマーケット、企業売却(エグジット)時点ではM&AやIPOを含む株式市場の強弱によってリターン(IRR)が大きく左右される、典型的なシクリカル事業であることは、いつも書いている通りです。
レバレッジドファイナンス市場は、ここ数年の世界的な流動性の高まりや歴史的低水準のデフォルト率に支えられて、極めて有利な買収資金をLBOファンドに提供して来たと言える気がします。
また株式市場も、上場株式全体の1割近くがLBOファンドに買収されるという状況に、企業業績の改善と積極的な投資家還元も加わって、アメリカを代表する株式指数であるS&P 500は、過去5年で$800台から$1,400台まで大きく伸長して来ました。
そんなエクイティ・デットの両マーケットの好調は投資銀行にも最高益をもたらし、まさにウォールストリートはこの世の「春」を謳歌して来たと言える気がします。ただ「春」はいずれ必ず終わりを告げるものであり、ここ数日のアメリカの状況を見ていると、ウォールストリートにいよいよ暗雲が漂って来たかもしれません。
日本でも報道されていると思いますが、アメリカのサブプライムと呼ばれるハイリスク住宅ローン市場の劣化(デフォルト率上昇)を発端としたクレジットリスク拡大懸念は、レバレッジドファイナンスを含む、クレジット市場全体に確実に広がりつつあると言える気がします。市場では「ほんの数週間で(ブームの)状況がこんなに変わってしまうなんて」という、市場変動について有史以来繰り返されてきたであろう驚きの声も聞こえます。
そもそも住宅市場は、米国経済の根幹とも言える個人消費に大きな影響を及ぼすため、その市場の本格的冷え込みは、強く懸念されるところです。
今回はLBOやデット市場への影響という側面のみを見てみますが、KKRの創業者達の出身母体でありデットに強みを持つことで知られる大手投資銀行Bear Stearnsが運営していたヘッジファンドが、サブプライムローン投資の失敗によって最近破綻に追い込まれたことが、昨今のデット市場冷え込みのトリガーとなったと言えるかもしれません。
投資家が信用リスクに慎重になることは決して悪いことではなく、今までの状況が現場で見ていてもちょっと「異常」と言えたブームであったと言える気がします。
それでもLBOファンドにとっては、レバレッジドファイナンス市場の鈍化は安値での買収資金調達が困難になることを意味し、LBOを含むM&Aの本格的減少が起こってしまうと、フィー収入の減少によってウォールストリート全体に大きな影響を及ぼすことは、言うまでもありません。最近では大手投資銀行もバイアウトファンド化しているため、影響は更に大きくなってしまうかもしれません。
大型バイアウト案件が資金調達で苦しんでいるという話は、7月2日の「LBOブーム終焉の序曲?」でも触れましたが、ここ数日はその懸念が急拡大していると言える気がします。Cerberusが買収を予定している自動車大手のChryslerや、KKR案件であるFirst Data CorpやAlliance Bootsなど数兆円規模の案件が続く中、ここ数日ウォールストリートでは、「どのオファリングが遅延された、どの価格条件が悪化した」という話が、色々なところで飛び交っています。
またバイアウトファンドに有利なファイナンシングを約束した大手商業銀行などが、デット市場の急速な冷え込みを受けて条件変更をファンド側に迫っているという話も、WSJなどで伝えられていた気がします。一旦約束した条件を市場が悪化したからと言って引っ込めるなんて何とも都合のよい話であり、実際KKRなどは銀行からのそのような要求を拒んでいるそうですが、その結果JP MorganやCitigroupと言った大手金融機関が大きな損害を受けることを懸念して、投資家心理は急激に冷え込んでいると言える気がします。
また7月27日のWSJは、予定されていたKKR自体のIPOも延期されるかもしれないという話を伝えていました。業界IPOの先駆者であるBlackstoneの話は、6月24日の「コードネーム:BX」で触れましたが、$31で上場を果たし一時$38まで上昇した同社の株価(ユニット価格)は、7月27日現在で$24.30と、上場価格より2割以上下落しています。
大手バイアウトファンドのApolloも、Goldman Sachsが作った機関投資家専用の市場で上場を試みているようですが、上記WSJの記事によると、比較的魅力的なバリュエーションやディストレスト(破綻債権)ビジネスへのエクスポージャーにもかかわらず、投資家はバイアウトファンドの先行きに懸念の声を上げているそうです。
ただデットバブル破綻かと思われる状況は、何も新しいことではなく、同様の懸念は過去にもあった気がします。
例えば2年ほど前だったと思いますが、自動車最大手のGMの格付けが非投資適格に下げられた際には、ウォールストリートのトレーディングフロアに衝撃が走ったのを記憶しています。
また2002年に市場が冷え込み、M&Aや資金調達案件の急減を受けて投資銀行各社が大規模なリストラに追われた際にも、アメリカ市場は驚くべき弾力性で2年もしないうちに上昇局面に入ったのは、記憶に新しいところです。
そんなわけでCNBCやBloombergのテレビ報道を見ていても、色々な人がここ数日の株式市場の下落は「心理的要因」によるものであり、ファンダメンタルズは何も変わっていないと繰り返しコメントしています。ただクレジットリスクが本格的に金融機関に波及した暁には、ファンダメンタルズが毀損してしまうでしょうから、そこまで単純には楽観視できないかもしれません。
それでもファンダメンタルズから乖離した株価下落が実際にあったとすると、それが大きな投資機会をもたらすのは確かですし、サブプライム懸念が引き起こす可能性のある不動産市場の急速は冷え込み(2005年頃から冷え込んでいますが)も、経験ある投資家にとってはチャンスと映るかもしれません。またLBOファンドも、本業がスローダウンした際にはディストレスト案件を拡大することで、生き残りを図って行く気がします。
そんなわけで、「暗雲」=「終焉」では全くないわけですが、短期的には色々な痛みや混乱が広がってしまうかもしれません。これはウォールストリートに限った話ではなく、世界経済全体に波及する話なので、来週以降の株式・デット市場の成り行きとバイアウトブームの行方に注目したいと思います。
LBOは、企業買収(エントランス)時点では安価な資金調達を可能とする強固なレバレッジドファイナンスマーケット、企業売却(エグジット)時点ではM&AやIPOを含む株式市場の強弱によってリターン(IRR)が大きく左右される、典型的なシクリカル事業であることは、いつも書いている通りです。レバレッジドファイナンス市場は、ここ数年の世界的な流動性の高まりや歴史的低水準のデフォルト率に支えられて、極めて有利な買収資金をLBOファンドに提供して来たと言える気がします。
また株式市場も、上場株式全体の1割近くがLBOファンドに買収されるという状況に、企業業績の改善と積極的な投資家還元も加わって、アメリカを代表する株式指数であるS&P 500は、過去5年で$800台から$1,400台まで大きく伸長して来ました。
そんなエクイティ・デットの両マーケットの好調は投資銀行にも最高益をもたらし、まさにウォールストリートはこの世の「春」を謳歌して来たと言える気がします。ただ「春」はいずれ必ず終わりを告げるものであり、ここ数日のアメリカの状況を見ていると、ウォールストリートにいよいよ暗雲が漂って来たかもしれません。
日本でも報道されていると思いますが、アメリカのサブプライムと呼ばれるハイリスク住宅ローン市場の劣化(デフォルト率上昇)を発端としたクレジットリスク拡大懸念は、レバレッジドファイナンスを含む、クレジット市場全体に確実に広がりつつあると言える気がします。市場では「ほんの数週間で(ブームの)状況がこんなに変わってしまうなんて」という、市場変動について有史以来繰り返されてきたであろう驚きの声も聞こえます。
そもそも住宅市場は、米国経済の根幹とも言える個人消費に大きな影響を及ぼすため、その市場の本格的冷え込みは、強く懸念されるところです。今回はLBOやデット市場への影響という側面のみを見てみますが、KKRの創業者達の出身母体でありデットに強みを持つことで知られる大手投資銀行Bear Stearnsが運営していたヘッジファンドが、サブプライムローン投資の失敗によって最近破綻に追い込まれたことが、昨今のデット市場冷え込みのトリガーとなったと言えるかもしれません。
投資家が信用リスクに慎重になることは決して悪いことではなく、今までの状況が現場で見ていてもちょっと「異常」と言えたブームであったと言える気がします。
それでもLBOファンドにとっては、レバレッジドファイナンス市場の鈍化は安値での買収資金調達が困難になることを意味し、LBOを含むM&Aの本格的減少が起こってしまうと、フィー収入の減少によってウォールストリート全体に大きな影響を及ぼすことは、言うまでもありません。最近では大手投資銀行もバイアウトファンド化しているため、影響は更に大きくなってしまうかもしれません。
大型バイアウト案件が資金調達で苦しんでいるという話は、7月2日の「LBOブーム終焉の序曲?」でも触れましたが、ここ数日はその懸念が急拡大していると言える気がします。Cerberusが買収を予定している自動車大手のChryslerや、KKR案件であるFirst Data CorpやAlliance Bootsなど数兆円規模の案件が続く中、ここ数日ウォールストリートでは、「どのオファリングが遅延された、どの価格条件が悪化した」という話が、色々なところで飛び交っています。
またバイアウトファンドに有利なファイナンシングを約束した大手商業銀行などが、デット市場の急速な冷え込みを受けて条件変更をファンド側に迫っているという話も、WSJなどで伝えられていた気がします。一旦約束した条件を市場が悪化したからと言って引っ込めるなんて何とも都合のよい話であり、実際KKRなどは銀行からのそのような要求を拒んでいるそうですが、その結果JP MorganやCitigroupと言った大手金融機関が大きな損害を受けることを懸念して、投資家心理は急激に冷え込んでいると言える気がします。
また7月27日のWSJは、予定されていたKKR自体のIPOも延期されるかもしれないという話を伝えていました。業界IPOの先駆者であるBlackstoneの話は、6月24日の「コードネーム:BX」で触れましたが、$31で上場を果たし一時$38まで上昇した同社の株価(ユニット価格)は、7月27日現在で$24.30と、上場価格より2割以上下落しています。
大手バイアウトファンドのApolloも、Goldman Sachsが作った機関投資家専用の市場で上場を試みているようですが、上記WSJの記事によると、比較的魅力的なバリュエーションやディストレスト(破綻債権)ビジネスへのエクスポージャーにもかかわらず、投資家はバイアウトファンドの先行きに懸念の声を上げているそうです。
ただデットバブル破綻かと思われる状況は、何も新しいことではなく、同様の懸念は過去にもあった気がします。例えば2年ほど前だったと思いますが、自動車最大手のGMの格付けが非投資適格に下げられた際には、ウォールストリートのトレーディングフロアに衝撃が走ったのを記憶しています。
また2002年に市場が冷え込み、M&Aや資金調達案件の急減を受けて投資銀行各社が大規模なリストラに追われた際にも、アメリカ市場は驚くべき弾力性で2年もしないうちに上昇局面に入ったのは、記憶に新しいところです。
そんなわけでCNBCやBloombergのテレビ報道を見ていても、色々な人がここ数日の株式市場の下落は「心理的要因」によるものであり、ファンダメンタルズは何も変わっていないと繰り返しコメントしています。ただクレジットリスクが本格的に金融機関に波及した暁には、ファンダメンタルズが毀損してしまうでしょうから、そこまで単純には楽観視できないかもしれません。
それでもファンダメンタルズから乖離した株価下落が実際にあったとすると、それが大きな投資機会をもたらすのは確かですし、サブプライム懸念が引き起こす可能性のある不動産市場の急速は冷え込み(2005年頃から冷え込んでいますが)も、経験ある投資家にとってはチャンスと映るかもしれません。またLBOファンドも、本業がスローダウンした際にはディストレスト案件を拡大することで、生き残りを図って行く気がします。
そんなわけで、「暗雲」=「終焉」では全くないわけですが、短期的には色々な痛みや混乱が広がってしまうかもしれません。これはウォールストリートに限った話ではなく、世界経済全体に波及する話なので、来週以降の株式・デット市場の成り行きとバイアウトブームの行方に注目したいと思います。
by harry_g
| 2007-07-28 10:11
| LBO・プライベートエクイティ


