2007年 08月 11日
バイアウト反対の声? |
日本ではSteel Partnersに代表されるアクティビストファンドによる企業買収や配当増額要求と言った株主提案に対して、多くの株主が「会社の経営計画に反する提案でステークホルダー利益を毀損する」といった理由で反対しているようですが、アメリカではまた別のアングルから、バイアウト反対の声が上がっているようです。
7月23日のBusiness Weekにあった「Saying No to an LBO」によると、ここ数年非常に活発に行われているLBO(MBO)に対して、経営陣の利益を株主利益よりも優先しているとの批判が高まっているそうです。
この話と関連して、日本とアメリカでM&AやLBO案件に従事している友人の鈴木健太郎弁護士が、8月5日版の旬刊「商事法務」(No. 1807)に、米国MBOについての詳しい解説記事「MBOに関するデラウェア裁判所の審査基準の概要」を掲載していたので、合せてご紹介したいと思います。
さて、上記のBusiness Weekの記事によると、著名なアクティビストのCarl Icahn氏が、2月に自動車インテリア部品の最大手Lear Corpを前日株価の80%近いプレミアムで買収すると発表した際、同社の大株主であったClassic Fund Managementが買収に反対して案件をブロックするよう裁判所に提訴したそうです。
この案件では、企業売却に当たってCEOが仕事を維持したまま$11.6mm(約14億円)に及ぶ年金のキャッシュアウトを取締役会に要求していたことが問題視され、Classicは「企業売却の動機がCEOの個人的利益を優先したものである」としてこの案件を批判し、裁判所は原告側の訴えを認めた上で、会社に取締役報酬の事実を公表するよう命令したそうです。
案件の背景を詳しく知らないので、80%というプレミアムがどのように計算されたのか、投資銀行からしっかりフェアネスオピニオンを取ったのか、と言った話は分かりませんが、企業の経営者が自らの利益を株主利益に優先するような行動を取ることに対して、アメリカの株主の目は相当厳しいと言える気がします。
本件に関してアメリカ(デラウェア州)の裁判所は、「株主価値の最大化以外の目的、例えば経営陣へのペイアウトや保身目的で企業売却が成されるのであれば、それを明確にしなければならない」という立場だそうで、潜在的利害関係の開示(ディスクロージャー)重視の姿勢を明確にしていると言えるかもしれません。(詳しいことは専門家のコメントを期待したいと思います。)
一般的にアメリカの株主・投資家は、制度上株主利益を代表する立場にある取締役(とその任命する企業経営者)に対して、そこまで徹底するかというくらい、株主のことを考えた行動を取ることを求める傾向がある気がします。アメリカでは経営者も株主期待をよく理解しているため、株主価値を最大化するような事業投資やM&Aを積極的に進め、同時に短期的にはバランスシートの適切なマネジメントや余剰資金の払い戻しと言った点に徹底的に配慮するのが通常です。
それに対して日本では、文化的背景の違いや労働市場の硬直性もあり、企業は社員や債権者を含むステークホルダー全体の利益を過大に重視する傾向があり、適切な資本政策や株主還元といった上場企業に期待される行動は軽視されがちな気がします。(それこそがアクティビストにつけ入られる原因だと言えるかもしれません。)
ただアメリカでも、業績好調時には経営者は自らの関心を株主利益に優先してしまいがちであり、その結果株主価値を毀損してしまうケースも当然見受けられます。そのような株主と経営者間の「潜在的利益相反」の解決策と考えられているのが、プライベートエクイティファンドによる企業の買収(未上場化)であることは、広く知られているところです。
この話はプライベートエクイティ投資の強みと問題点についてまとめていた7月7日のEconomistの記事、「The business of making money」でも触れられていましたが、PEファンドに多額のデットを用いて買収された企業の経営者は、負債の返済に追われて資産の最適運営を強いられる上、唯一の株主であるファンドも経営者をより厳しく管理することが出来るため、上場企業の株主が抱えるような利益相反に陥りにくいと言うわけです。
しかし以前のブログ「MBOの違法性?」などでも書きましたが、アメリカでは経営陣がファンドと組んで企業の未上場化を行う「マネジメント・バイアウト(MBO)」の手法について、問題点がたびたび指摘されるようになっています。
冒頭に触れた鈴木弁護士の「商事法務」の記事によると、MBOにおける経営陣と株主の利益相反問題はアメリカでは20年ほど前から議論されていたそうで、売却価格の高低といった経済的利益相反に留まらず、MBOが経営陣にとって「買収防衛策」という意味合いを持っているという点についても指摘されていました。
詳しい話はその記事に譲りたいと思いますが、買収防衛策やMBOの妥当性については最近日本でも話題になっているようなので、そのような観点からアメリカのMBOについて見てみるのも面白いかもしれません。
7月23日のBusiness Weekにあった「Saying No to an LBO」によると、ここ数年非常に活発に行われているLBO(MBO)に対して、経営陣の利益を株主利益よりも優先しているとの批判が高まっているそうです。
この話と関連して、日本とアメリカでM&AやLBO案件に従事している友人の鈴木健太郎弁護士が、8月5日版の旬刊「商事法務」(No. 1807)に、米国MBOについての詳しい解説記事「MBOに関するデラウェア裁判所の審査基準の概要」を掲載していたので、合せてご紹介したいと思います。
さて、上記のBusiness Weekの記事によると、著名なアクティビストのCarl Icahn氏が、2月に自動車インテリア部品の最大手Lear Corpを前日株価の80%近いプレミアムで買収すると発表した際、同社の大株主であったClassic Fund Managementが買収に反対して案件をブロックするよう裁判所に提訴したそうです。
案件の背景を詳しく知らないので、80%というプレミアムがどのように計算されたのか、投資銀行からしっかりフェアネスオピニオンを取ったのか、と言った話は分かりませんが、企業の経営者が自らの利益を株主利益に優先するような行動を取ることに対して、アメリカの株主の目は相当厳しいと言える気がします。
本件に関してアメリカ(デラウェア州)の裁判所は、「株主価値の最大化以外の目的、例えば経営陣へのペイアウトや保身目的で企業売却が成されるのであれば、それを明確にしなければならない」という立場だそうで、潜在的利害関係の開示(ディスクロージャー)重視の姿勢を明確にしていると言えるかもしれません。(詳しいことは専門家のコメントを期待したいと思います。)
一般的にアメリカの株主・投資家は、制度上株主利益を代表する立場にある取締役(とその任命する企業経営者)に対して、そこまで徹底するかというくらい、株主のことを考えた行動を取ることを求める傾向がある気がします。アメリカでは経営者も株主期待をよく理解しているため、株主価値を最大化するような事業投資やM&Aを積極的に進め、同時に短期的にはバランスシートの適切なマネジメントや余剰資金の払い戻しと言った点に徹底的に配慮するのが通常です。
それに対して日本では、文化的背景の違いや労働市場の硬直性もあり、企業は社員や債権者を含むステークホルダー全体の利益を過大に重視する傾向があり、適切な資本政策や株主還元といった上場企業に期待される行動は軽視されがちな気がします。(それこそがアクティビストにつけ入られる原因だと言えるかもしれません。)
ただアメリカでも、業績好調時には経営者は自らの関心を株主利益に優先してしまいがちであり、その結果株主価値を毀損してしまうケースも当然見受けられます。そのような株主と経営者間の「潜在的利益相反」の解決策と考えられているのが、プライベートエクイティファンドによる企業の買収(未上場化)であることは、広く知られているところです。
この話はプライベートエクイティ投資の強みと問題点についてまとめていた7月7日のEconomistの記事、「The business of making money」でも触れられていましたが、PEファンドに多額のデットを用いて買収された企業の経営者は、負債の返済に追われて資産の最適運営を強いられる上、唯一の株主であるファンドも経営者をより厳しく管理することが出来るため、上場企業の株主が抱えるような利益相反に陥りにくいと言うわけです。
しかし以前のブログ「MBOの違法性?」などでも書きましたが、アメリカでは経営陣がファンドと組んで企業の未上場化を行う「マネジメント・バイアウト(MBO)」の手法について、問題点がたびたび指摘されるようになっています。
冒頭に触れた鈴木弁護士の「商事法務」の記事によると、MBOにおける経営陣と株主の利益相反問題はアメリカでは20年ほど前から議論されていたそうで、売却価格の高低といった経済的利益相反に留まらず、MBOが経営陣にとって「買収防衛策」という意味合いを持っているという点についても指摘されていました。
詳しい話はその記事に譲りたいと思いますが、買収防衛策やMBOの妥当性については最近日本でも話題になっているようなので、そのような観点からアメリカのMBOについて見てみるのも面白いかもしれません。
by harry_g
| 2007-08-11 05:34
| LBO・プライベートエクイティ