株主アクティビズムの高まり |
6月18日のBloombergによると、アメリカ最大の公的年金ファンドであるCalPERS(カルフォルニア州公務員退職年金基金)が、アクティビストファンドへの投資額を、現在の$5bn(約6,150億円)から$12bn(約1.5超円)に増やすことを決定したそうです。
同記事によると、CalPERSのシニア・インベストメント・オフィサーであるChristy Wood氏は、「株主は以前に増して保有先企業の経営について関心を強めている」と述べ、ヨーロッパや日本で存在感を強めているTCIというアクティビストファンドが企業のM&A戦略に与えた影響について触れた上で、「経営に影響を与えるために大きな持ち分は必ずしも必要ではない」と述べていたそうです。
今回の決定により、同ファンドの株式投資に占めるアクティビストの割合は5%になるそうで、もともと企業統治に対して厳しい意見を言う機関投資家として知られていたCalPERSが、今後ますます「物言う株主」としての立場を強める動きを取り始めたと言えるかもしれません。
また6月11日のBusiness Weekによると、投資銀行、投資信託、プライベートバンキングの大手であり、先日東京でシェアホルダー・アクティビズムに関するカンファレンスを主催したUBS(スイス銀行)も、2006年に「UBS Activist Partners」と呼ばれるアクティビストファンドに投資を行うファンド・オブ・ヘッジファンズを私募で立ち上げたそうです。
このUBSのファンドの投資先は12のアクティビストファンドだそうで、Business Weekに挙げられていた具体的投資先は以下の通りです。
Carl Icahn氏 - Icahn Partners
Nelson Peltz氏 - Trian Partners
William Ackman氏 - Pershing Square Capital
Robert L. Chapman氏 - Chap-Cap Activist Partners
Warren Lichtenstein氏 - Steel Partners
Christopher Horn 氏 - The Children’s Investment(TCI)
Icahn氏についてはこのブログでも何度か取り上げていますが、その他のファンドについても、例えばPeltz氏のTrianは最近MBOが取り沙汰されているファーストフードチェーンのWendy’sに、またAckman氏のPershing Squareは人材派遣大手のCeridianに働きかけを行うなどして、活発なアクティビストと言える気がします。
スティールのLichtenstein氏については、 昨年韓国でIcahn氏と共に大手タバコメーカーKT&Gに圧力をかけ、ノンコア事業の売却と自社株買いによる株主価値の増強を求めたことも記憶に新しいところです。(プロキシーファイトの結果、Lichtenstein氏は KT&Gの取締役に選任されたそうです。)
CalPERSのような大手公的年金や、世界中に一流顧客を持つUBSやOppenheimerのような大手金融機関がアクティビスト投資を事実上「後押し」している背景には、その投資手法から期待される高いリターンが主因としてあるのかもしれません。
Business Weekの記事によると、IcahnファンドとTrianファンドは2006年にそれぞれ25%、37%というリターンをあげたそうで、これは市場全体のパフォーマンスを大きく上回るものであることは言うまでもありません。韓国KT&Gのケースでも、株主要求がなされた後に株価は6割近く上昇したそうです。
6月12日のBloombergでも、アクティビスト投資のリターンについて、Bank of New York とコロンビア・ビジネス・スクールの共同調査の結果に関する話を取り上げていました。その記事によると、アクティビストファンドのリターンはベンチマークよりも5~7%高いリターンを上げているそうです。
興味深いのは、アクティビストは短期的な利益取り行為だと批判されがちなのに対して、コロンビア大の調査では、「影響は短期的なものに留まらず、しばしば経営効率自体の改善にもつながっている」と結論付けている点です。具体的には、M&Aや事業売却など「事業ポートフォリオ」のリストラを行った企業の株価が最も高いパフォーマンスを上げ、逆にデットのリストラ(借換えなど)やCEOの更迭を行った企業の株価パフォーマンスは冴えなかったそうです。
この話は、欧米でバイアウトファンドがキャピタルストラクチャーの変更や経営陣の入れ替えによって大きなリターンを上げていることと比較して見ると、あくまで「上場」企業の価値上昇を目指す株主アクティビズムの特徴が浮き彫りになる、興味深い結果と言える気がします。
Bloombergの記事によると、2000年から2005年にかけて米国における株主要求のケースは51%増えたそうで、上記のBoNYとコロンビア大の調査によると、そのような投資家要求の成功率は、実に「3分の2」に及んでいるそうです。
それに対して日本では、最近でも株主要求の多くが否決されたり、特定株主に不利となる買収防衛策が裁判所で認められたりというニュースをよく見かけます。
もちろん日本には、欧米と違った独特の社会文化があるので、何でも欧米流とは行かない気がします。ただ、投資魅力のある市場を求めて資金がグローバルに移動する現代において、結果的に日本だけがその恩恵に預かれなくなってしまうのは、最終的には経済全体にとってネガティブな結果となると言えるかもしれません。
実際アメリカでは、最近の株主総会の結果を見て、「株主利益を顧みない日本市場には失望した、投資資金は他地域(中国など)に振り向ける」という声もヘッジファンドのマネージャーなどから聞こえてきますし、また日本企業に増配要求をしていた某外国人投資家の友人も、「世界の中で日本だけが時代の流れに逆行している」と嘆いていました。
同氏は日本で株主回りもしたそうなのですが、機関投資家の中には、投資決定者(アナリスト)と株主投票機能が分離していて、投資先企業の株主総会では自動的に経営者に賛成票を投じている会社もあったそうで、「投資利益の最大化が優先されない仕組みがなぜまかり通っているのか」と怪訝そうでした。
ここ数年の株高と不動産市場復活の要因と言われる外国人投資家がこのように失望していることは、景気回復途上にある日本にとって重要なインプリケーションを持っているかもしれません。株主アクティビズムが感情論も絡んで批判対象になりやすいのは理解出来ますが、日本の経済団体、メディア、行政などが、今後どのような論調やイニシアチブを取っていくか、注目したいと思います。