2007年 04月 01日
「Control」ではなく「Influence」? |
少し前になりますが、3月19日号のBusiness Weekに「Private Equity Goes Public」という記事がありました。このヘッドラインだけをぱっと見ると、最近よく書いているLBOファンドが上場するという話かと思いそうですが、実はこれは「もう一つのGoing Public」とも言うべき話で、要はプライベートエクイティファンドがPublic(上場証券)への投資を増やしている、という話です。
Business Weekで紹介されていた例は、LBOファンド大手のKKRが、傘下のファンドの一つで2007年1月に米サーバー最大手Sun Microsystemsの転換社債$700mm(約840億円)を購入したという話でした。Sun側は、KKRのこの行動を「リストラ成功期待が評価された(将来の株価上昇を信じてもらえた)」と非常に歓迎したそうで、また実際に同社の株価はこの後記事が書かれた時点までで7%上昇したそうです。
いつも書いている通り、プライベートエクイティ投資の活況は、より多額の資金を業界にひきつけ、その結果買収ターゲット(ディールのソーシング)を巡る競争は激化の一途を辿っていると言われます。
それでも大手ファンドは、レバレッジドファイナンスの好調さ(デット資金調達の容易さ)も手伝って、買収先を次々に発掘しているようですが、いくらデットで出資額を補えるとは言え、スマートインベスターであるこうしたファンドにとって、過払い(高すぎるバリュエーションでの買収)は出来るだけ避けたいところであろうことは、想像に難くありません。
プライベートエクイティ投資のビジネスモデルは、上場企業を完全買収することで、買収後に自由にメスを入れてバリューの創出が出来るという利点の反面、失敗してもエグジットが容易でないという大きなリスクが伴います。よって買収前のデューディリジェンス(DD)作業に、上場株のそれを大きく上回る精度が要求されることは想像に難くないですが、聞くところ最近の実態は、ビッド競争に負けないように、最短で一週間程度でDDを終わらせることも少なくないと聞きます。
このような業界の「過熱感」がもたらすLBOのリスク拡大とリターン低下という現状を受けて、プライベートエクイティファンドが上場証券への投資を拡大させ、自らが持つ「強み」をそこでも生かそうとすることは、自然な流れと言える気がします。
ではPEファンドの「強み」とは一体何なのか、と言うことになりますが、これは幾つか考えられます。
これはあくまでアメリカのケースですが、まずこれらのファンドは、いわゆる「プロのCEO、CFO」と呼ばれる人たちを社内外に多く擁しています。これらの人材を投資先の上場企業の取締役会に送り込むことで、その企業の経営を見かけ上ほぼ「無償で」サポートすることが出来るかもしれません。
また、LBOファンドはM&Aを生業とする存在であり、いわば買収戦略のプロとも言えます。そのノウハウを投資先事業会社の成長戦略に生かすことで、今まで投資銀行が提供していたようなアドバイザリーサービスを行うことも可能かもしれないと、Business Weekの記事では指摘されていました。
このようにファンドがマイノリティ出資をして、投資先企業のバリュー拡大を目指すというと、最近話題の「アクティビストファンド」を思い浮かべるかもしれません。ただPEファンドが目指しているのは、敵対的に経営者に要求を突きつけたり乗っ取りを行うようなスタイルではなく、いわばその「フレンドリー版」と言えるものであり、実際Sunのケースでは、同社経営陣は株価の「チアリーダー」としてKKRに大きく期待をしているそうです。
さらにこの戦略の利点は、バイアウトのように100%抱え込むことがないため、デューディリジェンスも更に短期化出来るかもしれませんし(まあ一週間という数字が本当だとすると既に上場株ファンドより短いかもしれませんが)、さらに大きな利点として、投資に失敗してもエグジットが比較的容易である、言い換えればリクイディティリスクが低い、ということがある気がします。
このように見るとPEファンドの上場株投資には大きな期待が出来そうですが、現実には色々なリスクも伴う気がします。
まず、取得額が大きいと結局大きなリクイディティリスクが伴うという点が挙げられます。アクティビストもこのリスクに晒されているわけですが、要は十数パーセントまで買い進んで会社側に要求を突きつけても、コントロール(50%)を持っていない以上、受け入れられるとは限りません。このような事態に直面した際にいざ株を売ろうとしても、規模が多すぎて全て売り切るのに何ヶ月もかかってしまい、その間に自らの売り圧力で株価が下落してしまうリスクがあるわけです。
村上ファンドは、こうした事態、つまり自らの狙い通りに経営陣が反応してくれない事態に直面した際に、自らのアナウンスメント効果で株価を吊り上げたりリクイディティを上げたりしつつ、実は自らは市場で売り抜けていた、と批判されることがあるのは、ご存知の通りです。
また、株式取得割合とマネジメントとの協力関係樹立のタイミングによっては、「インサイダー取引」のリスクがあるのでは、と指摘する人もいるようです。私は法律の専門家ではないので弁護士の友人達からのコメントを仰ぎたいと思いますが、経営陣が株主価値向上のためにPEファンドの出資を仰ぐと決断することがいわゆる「重要事項」に当たるのであれば、その決定がされた後、一般株主が知る前にPEファンドが株式を取得するのはどうなのか、ということのようです。
では経営陣の知らないところで株を買い進めればいいじゃないか、ということになりますが、経営陣はファンドが一方的に株を買い集めるのを歓迎しない傾向があるので、PEファンドがそのような方法で株を取得してしまうと、結局アクティビストと何が違うのか、ということになってしまうかもしれません。アクティビストは最終的に敵対的TOBをかけるという手がありますが、その最終手段なしに株を買い集めるのは、リスクが高いかもしれません。
上記のような点に加えて、上場証券に投資する以上、投資信託と同様に市場リスクや短期的なボラティリティリスクにも直接晒される、ということもよく言われるようです。
この点についてBusiness Weekでは、BlackstoneがDeutsche Telekomの4.5%を約$3.5bn(4,200億円)で取得して以来、既に$315mm(約380億円)程度の損失が出ているとの例が挙げられていました。
もちろんBlackstoneの本当の狙いについては全くわかりませんし、少なくとも投資ホライゾンをもっと長期で見ているのは間違いないでしょうが、市場価格が誰の目にも明らかである以上、投資家の中には心配する人も出てくるかもしれません。
またBusiness Weekでは、PE投資が数年間の投資ホライゾンで、IRR30%超(Blackstoneの開示資料によるともう少し低いようですが)のリターンを上げているからこそ投資家は高い手数料を払っているのであり、投資信託と似たような上場株投資をして、投資家をリスクに晒すのであれば、「手数料を下げろ」との要求が出てくる可能性についても指摘されていました。ファンドの経営陣にとっては、そのような事態は避けたいところなのではと思います。
このように考えていくと、プライベートエクイティファンドによる「フレンドリーアクティビズム」とも言うべき手法は、面白そうな利点と同時に、欠点・弱点があるのも間違いない気がします。特にアメリカでは、LBOの過熱化がソーシングの難しさを産み、IRRの低下を産み、そしてこの手法を生んだと考えられていることから、業界に対する心配の声は今後更に高まるかもしれません。
とは言え、特に株主と経営陣の利害が一致しているアメリカであれば、この手法は上手に実行すれば株主価値を高められるかもしれません。PEファンドにとっても、自らが有する株主価値向上のノウハウを生かして上場株投資から大きなリターンを上げるチャンスがあるのであれば、積極的に取り組んでいくべきなのかもしれません。彼ら・彼女らは投資の「プロ」であり、リスクは当然承知の上で、色々な作戦を練っているのは間違いない気がします。
Business Weekの記事の中で、とあるファンドの経営者が「これからはControl(買収)ではなくInfluence(影響)の時代だ」のように述べていたことが取り上げられていました。今までも次々に新しい金融技術が生まれ、巨大な価値を造り出してきたことを考えると、今後この戦略によってどのような成果が上がっていくのか、注目したいと思います。
Business Weekで紹介されていた例は、LBOファンド大手のKKRが、傘下のファンドの一つで2007年1月に米サーバー最大手Sun Microsystemsの転換社債$700mm(約840億円)を購入したという話でした。Sun側は、KKRのこの行動を「リストラ成功期待が評価された(将来の株価上昇を信じてもらえた)」と非常に歓迎したそうで、また実際に同社の株価はこの後記事が書かれた時点までで7%上昇したそうです。
いつも書いている通り、プライベートエクイティ投資の活況は、より多額の資金を業界にひきつけ、その結果買収ターゲット(ディールのソーシング)を巡る競争は激化の一途を辿っていると言われます。それでも大手ファンドは、レバレッジドファイナンスの好調さ(デット資金調達の容易さ)も手伝って、買収先を次々に発掘しているようですが、いくらデットで出資額を補えるとは言え、スマートインベスターであるこうしたファンドにとって、過払い(高すぎるバリュエーションでの買収)は出来るだけ避けたいところであろうことは、想像に難くありません。
プライベートエクイティ投資のビジネスモデルは、上場企業を完全買収することで、買収後に自由にメスを入れてバリューの創出が出来るという利点の反面、失敗してもエグジットが容易でないという大きなリスクが伴います。よって買収前のデューディリジェンス(DD)作業に、上場株のそれを大きく上回る精度が要求されることは想像に難くないですが、聞くところ最近の実態は、ビッド競争に負けないように、最短で一週間程度でDDを終わらせることも少なくないと聞きます。
このような業界の「過熱感」がもたらすLBOのリスク拡大とリターン低下という現状を受けて、プライベートエクイティファンドが上場証券への投資を拡大させ、自らが持つ「強み」をそこでも生かそうとすることは、自然な流れと言える気がします。
ではPEファンドの「強み」とは一体何なのか、と言うことになりますが、これは幾つか考えられます。
これはあくまでアメリカのケースですが、まずこれらのファンドは、いわゆる「プロのCEO、CFO」と呼ばれる人たちを社内外に多く擁しています。これらの人材を投資先の上場企業の取締役会に送り込むことで、その企業の経営を見かけ上ほぼ「無償で」サポートすることが出来るかもしれません。
また、LBOファンドはM&Aを生業とする存在であり、いわば買収戦略のプロとも言えます。そのノウハウを投資先事業会社の成長戦略に生かすことで、今まで投資銀行が提供していたようなアドバイザリーサービスを行うことも可能かもしれないと、Business Weekの記事では指摘されていました。
このようにファンドがマイノリティ出資をして、投資先企業のバリュー拡大を目指すというと、最近話題の「アクティビストファンド」を思い浮かべるかもしれません。ただPEファンドが目指しているのは、敵対的に経営者に要求を突きつけたり乗っ取りを行うようなスタイルではなく、いわばその「フレンドリー版」と言えるものであり、実際Sunのケースでは、同社経営陣は株価の「チアリーダー」としてKKRに大きく期待をしているそうです。
さらにこの戦略の利点は、バイアウトのように100%抱え込むことがないため、デューディリジェンスも更に短期化出来るかもしれませんし(まあ一週間という数字が本当だとすると既に上場株ファンドより短いかもしれませんが)、さらに大きな利点として、投資に失敗してもエグジットが比較的容易である、言い換えればリクイディティリスクが低い、ということがある気がします。
このように見るとPEファンドの上場株投資には大きな期待が出来そうですが、現実には色々なリスクも伴う気がします。
まず、取得額が大きいと結局大きなリクイディティリスクが伴うという点が挙げられます。アクティビストもこのリスクに晒されているわけですが、要は十数パーセントまで買い進んで会社側に要求を突きつけても、コントロール(50%)を持っていない以上、受け入れられるとは限りません。このような事態に直面した際にいざ株を売ろうとしても、規模が多すぎて全て売り切るのに何ヶ月もかかってしまい、その間に自らの売り圧力で株価が下落してしまうリスクがあるわけです。
村上ファンドは、こうした事態、つまり自らの狙い通りに経営陣が反応してくれない事態に直面した際に、自らのアナウンスメント効果で株価を吊り上げたりリクイディティを上げたりしつつ、実は自らは市場で売り抜けていた、と批判されることがあるのは、ご存知の通りです。
また、株式取得割合とマネジメントとの協力関係樹立のタイミングによっては、「インサイダー取引」のリスクがあるのでは、と指摘する人もいるようです。私は法律の専門家ではないので弁護士の友人達からのコメントを仰ぎたいと思いますが、経営陣が株主価値向上のためにPEファンドの出資を仰ぐと決断することがいわゆる「重要事項」に当たるのであれば、その決定がされた後、一般株主が知る前にPEファンドが株式を取得するのはどうなのか、ということのようです。
では経営陣の知らないところで株を買い進めればいいじゃないか、ということになりますが、経営陣はファンドが一方的に株を買い集めるのを歓迎しない傾向があるので、PEファンドがそのような方法で株を取得してしまうと、結局アクティビストと何が違うのか、ということになってしまうかもしれません。アクティビストは最終的に敵対的TOBをかけるという手がありますが、その最終手段なしに株を買い集めるのは、リスクが高いかもしれません。
上記のような点に加えて、上場証券に投資する以上、投資信託と同様に市場リスクや短期的なボラティリティリスクにも直接晒される、ということもよく言われるようです。
この点についてBusiness Weekでは、BlackstoneがDeutsche Telekomの4.5%を約$3.5bn(4,200億円)で取得して以来、既に$315mm(約380億円)程度の損失が出ているとの例が挙げられていました。もちろんBlackstoneの本当の狙いについては全くわかりませんし、少なくとも投資ホライゾンをもっと長期で見ているのは間違いないでしょうが、市場価格が誰の目にも明らかである以上、投資家の中には心配する人も出てくるかもしれません。
またBusiness Weekでは、PE投資が数年間の投資ホライゾンで、IRR30%超(Blackstoneの開示資料によるともう少し低いようですが)のリターンを上げているからこそ投資家は高い手数料を払っているのであり、投資信託と似たような上場株投資をして、投資家をリスクに晒すのであれば、「手数料を下げろ」との要求が出てくる可能性についても指摘されていました。ファンドの経営陣にとっては、そのような事態は避けたいところなのではと思います。
このように考えていくと、プライベートエクイティファンドによる「フレンドリーアクティビズム」とも言うべき手法は、面白そうな利点と同時に、欠点・弱点があるのも間違いない気がします。特にアメリカでは、LBOの過熱化がソーシングの難しさを産み、IRRの低下を産み、そしてこの手法を生んだと考えられていることから、業界に対する心配の声は今後更に高まるかもしれません。
とは言え、特に株主と経営陣の利害が一致しているアメリカであれば、この手法は上手に実行すれば株主価値を高められるかもしれません。PEファンドにとっても、自らが有する株主価値向上のノウハウを生かして上場株投資から大きなリターンを上げるチャンスがあるのであれば、積極的に取り組んでいくべきなのかもしれません。彼ら・彼女らは投資の「プロ」であり、リスクは当然承知の上で、色々な作戦を練っているのは間違いない気がします。
Business Weekの記事の中で、とあるファンドの経営者が「これからはControl(買収)ではなくInfluence(影響)の時代だ」のように述べていたことが取り上げられていました。今までも次々に新しい金融技術が生まれ、巨大な価値を造り出してきたことを考えると、今後この戦略によってどのような成果が上がっていくのか、注目したいと思います。
by harry_g
| 2007-04-01 14:57
| LBO・プライベートエクイティ


