Blackstoneの上場目的 |
WSJの記事によると、案件規模は$4bn(約4,800億円)とかなりの額であり、上場先はNYSEになるようです。「調達資金使途」についてWSJには、一部をパートナーが保有する持分の買取に使い、残りは新たに設立するBlackstone Holdingsの出資金とする、と書いていました。
先日のFTの報道では主幹事にGoldmanが入っていましたが、ファイリングを見る限りでは実質的な主幹事はMorgan StanleyとCitigroup、共同主幹事と言うべき立場としてLehman Brothers、Merrill Lynch、Credit Suisse、そして一段下にDeutscheの名前が挙がっていました。(正式には全社が主幹事であること、また私自身は本案件への投資検討の担当者ではないことを付け加えておきます。)
これで同社を率いるSchwarzman氏のビジョンがまた一歩現実に近づいたと言えそうですが、個人的に最も興味があるのは、やはり同社の上場目的です。
それについてファイリング(S-1)には、以下の5点が記載してありました。
① 既存事業および新事業に使える「永久資本」の獲得
② 価値ある資産である会社のブランド力強化
③ 買収通貨としての上場株式の獲得
④ 従業員の獲得・維持に有効なインセンティブ報酬手段の獲得
⑤ 既存オーナーに対する、徐々に持分価値を現金化する手段の提供
これらはある意味で予想通りであり、①と⑤以外は先日上場を遂げたFortressと同じ内容と言える気がします。
中でも注目されるのは、やはり③であり、Fortressと同様にマルチストラテジーファンドと呼べるBlackstoneも、今後業界内での優良中小ファンドを吸収合併していくのかもしれません。
またBlackstoneの上場株を手に入れる一般投資家は株主としての権利をある程度制限され、まあこれも予想通りですが、端的に言うと経営陣の選出などには関与できないようなストラクチャーになるようです。
一般企業のIPOであれば、以前に新聞大手のNew York Timesについてオーナー支配に批判的な声が多いという話の際にも書きましたが、このような取り決めは、投資家から厳しい声が上がることが通常です。ただBlackstoneのケースでは、必ずしもそうならないのかもしれません。
そんなこととも関連して、BlackstoneのIPOファイリングには上場目的以外にも色々と興味深い表記があるようですが、中でもこの部分が目に留まったのでご紹介します。(非常に雑な訳で恐縮ですが。)
「我々はちょっと違った上場企業を目指す」
世界で主導的地位を占める資産運用及びアドバイザリー企業として、上場企業のメリットを享受しつつ会社文化を継承するために、以下のような企業となることをめざす。
① 上場企業と異なるプライベートエクイティ投資のメリットは、何と言っても長期的観点での経営が可能な点である。このメリットは上場後も堅持し、(四半期ベースのような)短期的視点での経営は行わない
② Limited Partnerという立場で投資して来た既存の投資家を今まで同様に尊重する
③ 引続き大きなレバレッジを投資に利用する
④ 21年間培ってきたパートナーシップ制による経営スタイルは今後も維持継続する
⑤ 退職する経営陣に対して、一般企業でよく見られるような巨額報酬を支払わない
⑥ 710名いるSr Managing Director(注:投資銀行のMDに相当)以外の従業員全員に対して、株式による報酬体系を導入する
⑦ 自己資本から1億5千万ドル(約180億円)を新設する慈善信託基金に拠出し、積極的なコミュニティへの還元を行う
・・・上記の多く、特に前半のポイントは、よく指摘されるPEファンド上場の矛盾を積極的に開示し、それに対する考えを明快に示しているという点では投資家から評価されるかもしれません。
③の点などは、IPO後の1、2年はある程度レバレッジを抑えることが可能だと思われるが、その後また上昇することを予想している、と書いています。また⑤については、同社トップのSchwarzman氏の給料はIPO後も35万ドル(約4,200万円)に過ぎないとしていますが、同時に同氏は過去の投資から得られたキャリーの大部分を保有するとも表記してありました。
これらはどれも非常に興味深いポイントですが、それが完全にPEファンド上場の矛盾解消につながるかは、今後IPOの成功や株価の推移を通じて、証明されていくのではと思います。
これら以外にも、S-1には会社概要、成長戦略、リスクファクターと言った、通常のファイリングに当然含まれている点が色々と表記してありますので、機会があれば原文を見てみると面白いかもしれません。相当のページ数なため、プリントして週末にカフェで、と言うわけには行かないかもしれませんが、念のためリンクを貼っておきます。
http://www.sec.gov/Archives/edgar/data/1393818/000104746907002068/a2176832zs-1.htm
最後に余談ですが、ここ5年くらいでBlackstoneは急速に台頭してきた感があり、今では業界最大手と言える立場にあると言える気がします。
それまでは当然、業界最大手は老舗のKKRであり、ファンドの額も世界一だったと思いますが、Blackstoneはそれを上回るファンドをレイズしたり、案件規模でもKKRが保有していた記録を塗り替えたりと、半ば意図的にNo.1の座を狙っていた気がします。
そして今回、本体のIPOも業界一番乗りで実現するわけで、そう考えるとKKR本体の上場も、もしかしたら近いのかもしれません。もちろんKKRはビークルを既に上場させるなど引続き主導的立場にあり、またカルチャーの違いからプライベートであり続ける道を選ぶかもしれませんが。
KKRの創業者はBear Stearns、BlackstoneはLehman Brothersと、ライバル(?)投資銀行の出身であることを、最後に付け加えておきます。