世界最大のLBOファンド、上場へ |
FTによると、Goldman、Lehman、Citigroupが既に主幹事として選出されているようで、ファイリングのタイミングは数週間以内と言われているそうです。
Blackstoneを含む大手のLBOファンドは、ここ数年来IPOの手法とタイミングについて色々検討を進めて来たと言われており、今回のBlackstoneの上場が成功すれば、KKR、Carlyle、TPGといった他の大手PEファンドも上場に向かって一気に動き出すかもしれません。
ただこのような業界の流れは昨日今日に始まった話ではなく、少し前に書いた、ヘッジファンド部門とプライベートエクイティ部門を有する大手米投資ファンドのFortressがNYSEに成功裏に上場した際にも、このような話がかなり指摘されていた気がします。
また2006年に、Apolloに続いてKKRが投資ビークルを欧州で上場させた際にも、大手のLBOファンドが後に続くのではとの話が盛り上がったのも記憶に新しいところです。ただ実際は、ビークルの上場はそれほど活性化せず、他のファンドが上場取り止めの判断を下したとも聞いています。
(余談ですがApolloとKKRはNYの同じビルの隣階に入居しており、Fortressもそこから徒歩5分程度のところに本拠を構えています。両方ともセントラルパークを見下ろす好ロケーションです。)
FortressとKKRのIPOの大きな違いは、KKRは投資ビークルを上場させることでいわゆる「永久資本」を獲得することが目的であったと考えられているのに対して、Fortressは投資顧問である本体が上場することで、投資家は同社が稼ぎ出すマネジメントフィーにもアクセスできること、と言われています。
また、マルチストラテジー・ファンドであるFortressの上場目的は、何よりも公開株を使ったM&A戦略の追求であるとIPOのファイリングにも明記されており、その意味ではKKRのビークル上場よりも業界全体の今後に与えるインパクトとしては大きかったといえる気がします。
その観点から言うと、今回のBlackstoneの上場も恐らくFortressと同じ形態であり、LBO部門以外にも巨大な不動産投資ファンドやM&Aアドバイザリーの部門などを有するBlackstoneも、今後は買収成長戦略を取っていくのかもしれません。
Blackstoneは、Lehman Brothersのシニアバンカーが1985年に立ち上げたファンドであるという話はかなり以前に書きましたが、IPOのファイリングを通じて同社の内部事情がわかるようになるのは、多くの業界関係者にとって興味の尽きないところかと思います。Fortressの上場や、最近大手ヘッジファンドCitadelがパブリックデットによる資金調達を行ってファイリングを行った際にも、業界関係者からの注目度は相当高かった気がします。
売出規模などストラクチャーの詳細はファイリングまで明らかになりませんが、創業者パートナーであるPeterson氏とSchwarzman氏が80歳と60歳と高齢であることから、FTではパートナーによる株の売出しを示唆するようなことも述べられていました。
Fortressのケースでは売出しは無かったと記憶していますが、Blackstoneの場合はありえる話であり、両人が幾らキャッシュインするかとの話題が、またウォールストリートを盛り上げるかもしれません。(写真のPeterson氏は、LehmanのCEOや米国商務長官を歴任した経験の持ち主です。)
もしくは売り出しを行って手に入れた資金を用いて、一部のパートナーが別のファンドを立ち上げる可能性もあるかもしれません。もちろんそれだけが上場の目的とは考えにくいですが、Blackstoneほどの大手になると、可能性は否定できない気がします。
バリュエーションについては、FTがMcKinseyが行ったリサーチについて書いていたところによると、$60bn(約7.2兆円)だそうです。この数字は他の大手KKRやCarlyleより低いそうですが、直感的には業界最大規模のファンドを有し、また巨額の不動産投資も行っているBlackstoneの価値は、相当の値段で評価される気がします。
ともかくこの案件は、見すると絶好調のLBO業界に更に花を添えるようなものに一見えるかもしれません。しかしFTでは、マルチストラテジーファンドであるFortressと比べると、成熟したLBO市場へのエクスポージャーが高いBlackstoneのIPOには、投資家から成長性について疑問符がつくのでは、との指摘もされていました。
このような指摘に対してLBOファンド側は、恐らく案件規模の拡大や投資対象セクターの広がりが成長性を担保する、と言った反論をするかと思いますが、最近米国でサブプライムローンの状況が悪化して、その影響がクレジットマーケット全体に波及することが懸念されていることを考えると、Blackstoneは成長性のエクイティストーリー作りに苦労するかもしれません。
この点以外にもFTでは、BlackstoneはIPOをすることで、未上場化(Privatization)の最大メリットの一つである「デットを積み上げてリターンを叩き出す」手法が取りにくくなるのではないか、またHBSの教授のコメントを引用して、同社のカルチャーが損なわれるのではないか、などの懸念点も指摘されていました。
カルチャーへの影響が避けられないのは間違いないでしょうが、20世紀を通じてGoldman SachsやLehman Brothersといった会社も次々と上場を経験し、それでも尚、独特のカルチャーを保って存続していることを考えると、これは企業の成長段階で避けて通れない道であり、決定的影響は無いのかもしれません。
ともかく今回のBlackstoneのIPOは、ここ数年で米国を中心に急速に広がっている企業の未上場化の動きの更に「先」にあると考えられている、ファンド上場を通じたバリューの「再パブリック化」の流れに先鞭をつけるのかもしれません。
とある大手ファンドのパートナーが、「21世紀にはPEファンドが全ての上場企業を買収し、その結果市場に残る上場企業は、最終的には買収ファンドだけになる」と豪語していた話も以前に書きましたが、その話もあながち誇張ではないのかもしれません。