記録、また更新? |
先日のWSJ(電子版)によると、大手ファンドTPGとKKRが、テキサス州の大手電力会社TXUに対して$44bn(約5.3兆円、うちエクイティは$32bn(約3.8兆円))のバイアウトを計画しているそうです。
今年の前半まではBlackstoneが不動産運用最大手のEquity Office Partnersに払った$23bn+$16bnの総額$39bn(約4.7兆円)が最大だったわけですが、TXUの案件次第では、その記録は早くも塗り替えられることになるかもしれません。
2006年はバイアウト業界にとって、いろいろな意味で史上最高の年だったと言われており、Bain Capital、KKR、Merrill Lynchが病院チェーン大手のHCAを$33bn(約4兆円)でバイアウトした際には、1988年にKKRがRJR Nabiscoを$25bn(約3兆円)で買収して以来破られていない記録がとうとう破られた、という感じで報道されていたと記憶しています。
ただその時から既に大手バイアウトファンドの幹部の口からは、「理論的には10兆円以上のバイアウトだってありえる」というコメントが聞かれていることはご存知の通りであり、その言葉は次々に現実になっていると言える気がします。
ウォールストリートでは、KKRとBlackstoneが業界No.1の座を競い合っており、バイアウトの案件規模競争もなんとなくそんなメンタリティを反映しているのでは、と指摘する人もいるようです。それはさておき、両社やTPGなどの大手が2兆円以上の規模のファンドレイジングを行っていることを考えると、規模競争は自然な流れと言える気がします。
ただ、言うまでもありませんが、LBOにはエクイティよりも大きなデットが必要となり、典型的なキャピタルストラクチャーは、エクイティが3割程度、それ以外はデットというものです。これはもちろんケースバイケースですが、案件規模の拡大に伴って、安全のためにエクイティレシオを上げる傾向がある、とも言われます。
それでもTXUのケースに3割・7割の数字を当てはめてみると、5.3兆円のキャピタルストラクチャーのうち3.5兆円強がおそらくデット(レバレッジドローンとハイイールド債の組み合わせ)でファイナンスされることになり、それだけの許容力がデット市場に求められるということになりそうです。
なんだか大きい数字を見慣れてしまって案件規模の感覚が麻痺しつつありますが、3.5兆円のデットオファリングとなると、これは相当大きい、との印象が正直なところであり、LBOの規模拡大競争をデット市場がどこまでサポートできるかについて、疑問視する人もいるようです。
また最近では、バイアウトファンドがマルチプルの拡大を前提に投資判断をする傾向が強まっていると言われており、それが過大な買収価格につながっている、またはデットの借りすぎにつながっているのでは、と指摘する人もいます。
それでもバイアウトファンドのトラックレコードを考えれば、そのような懸念を声高に主張する人はまだ少数であり、今後もLBO業界の活況と、それに支えられた投資銀行業界の活況は続くのかもしれません。