2007年 02月 08日
PEファンドと日本のアクティビズム |
先日コロンビア大学のMBAに留学している友人から、日本のアクティビズムについての講演があったという話を聞きました。あくまで間接的な話になってしまいますが、なかなか興味深かったのでご紹介します。講演のスピーカーは、以前にUBS、CSFBの東京オフィスでマネジメントを担当し、後にSandringham Capitalというファンドをロンドンで立ち上げられたKoji Fusa氏と、$7.6bn(約9,000億円)を運用する大手ヘッジファンドRamius Capitalで日本のアクティビスト投資に従事しているAnthony Miller氏です。
公演内容は以下のような感じだったそうです。
◆多くのPEファンドがアクティビスト・ヘッジファンドの領域に入りつつある。その理由は、①高いフィーが請求できること、②買収手続きを経ずに手早く企業の株を取得できること、にある
まず、なぜアクティビストの方が高いフィーが請求出来るのかについては、PEファンドのフィーが投資された金額(案件)ベースで計算されるのに対して、ヘッジファンドは預かり資産を即全額投資できるため、総額ベースでフィーが計算されることが関連しているのかもしれません。(注:以下で幾つかコメントを頂いた通り、ファンドによっては案件の有無に係わらず、投資家がコミットした金額全額に対してマネジメントフィーを払うところもあるようです。私の元々の理解は違っていたのですが、もしかしたらご指摘頂いた方法が普通なのかもしれません。曖昧でどうもすいません。)
講演の中では、日本におけるプライベートエクイティファンドの規模はここ数年で10倍に膨れているが、案件数は3倍程度にしかなっていない、と述べられていたそうで、日本におけるバイアウト案件のソーシングの難しさを物語っています。
それより興味深いのは、二つ目に指摘されている点かもしれません。と言うのはPEファンドの強みは「コントロール」(経営権)を握る形で企業を取得し、リストラ等々を行ってバリューを搾り出すことだと一般的には考えられるからです。
「搾る」と言うのは少々表現が強すぎるかもしれませんが、経営の無駄を排除して資産や経営の効率を高めることでキャッシュフロー(=株主価値)を捻出するPE投資のプロセスは、非常に効率のよいものと欧米では評価されています。
ただ言うまでもありませんが、経営の効率化はすなわち人員リストラや子会社売却を意味することが多く、これが日本で文化的に難しいのは想像に難くありません。実際に日本でPE業務に従事している知人から聞いた話によると、買収の条件として、人員削減や資産売却を行わないことを提示される場合もあるようです。
これは、そもそも日本にM&Aが根付いていないことが背景としてあるのかもしれません。アメリカにおいては、企業の成長戦略として、オーガニック(設備投資)かアクイジション(買収)かという議論がよくなされますが、日本ではそのような議論はまだまだ少ない気がします。いわゆる「ストラテジック」M&A案件もそこまで普及していない状態で、投資ファンドに企業売却を決めるのは、経営にとっては相当勇気が必要なのかもしれません。
ただ悲観することはなく、90年代後半からの外資証券やPEファンドの活動活発化の影響もあってか、M&AやLBOは徐々に増加していくことが期待されます。ただそのペースが期待されるほど速くないため、PEファンドが早々にリターンを上げる方法としてマイノリティ出資を考えることは、ごく自然な流れと言える気がします。
◆日本におけるPEファンドは、欧米のアクティビストや一般機関投資家のような、「良い経営とは何か」について日本の経営陣を啓蒙する存在になりつつある
これは株主経営が当たり前な欧米から見ると自然な議論かもしれませんが、株主経営がそこまで広く浸透していない日本企業にとっては、かなり強い、ある意味横柄にも聞こえる主張かもしれません。
ただ株主経営浸透の遅れが日本市場の国際競争力を下げている、更には日本の金融機関の世界進出を妨げているなどの指摘があることも確かであり、更にはその傾向が外国人投資家や外資系証券の増加によって変わりつつあるのも事実な気がします。
そう考えるとPEファンドがアクティビスト化することも、その流れの延長にあると言えそうです。
◆日本は変わらなければいけない。経営者のM&Aに対する姿勢もそうだし、商法・税法も株主重視に改善される必要があるし、より透明度の高い代理投票(Proxy Voting)のシステムも必要である
これもまた理想論に近いと指摘されそうですが、この話の中では王子製紙が北越製紙に対して行った敵対的TOBによる買収が例示され、そのようなことが頻繁に起こることで企業の経営陣のメンタリティが徐々に変化することが期待される、と述べられていたそうです。確かに大企業が敵対的(アメリカでは「Unsolicited」という表現が使われます)M&Aを成長戦略の一環として積極的に行うようになると、より多くの企業経営者が、ライバル企業に買収されるくらいならホワイトナイトとなり得るファンドと一緒に会社をプライベタイズした方がよい、と考え出すかもしれません。
ただ経営陣に株主利益を代表しているという意識が薄く、自身で自社株を保有していることも稀であり、取締役の席も持ち回りであることが多い日本の大企業においては、特定の経営陣に巨額の報酬が転がり込むMBOが、オーナー企業以外でどの程度普及するのかは微妙かもしれません。
言うまでもなくこれは文化的なことが背景にあるため、なかなか難しい問題と言える気がします。それでも制度面のグローバルスタンダード化については、最近では金融庁などが真剣に検討しているそうで、一層の変革の進展やそれこそ欧米をリードするような仕組みの構築が期待されます。
◆PEファンドによる「フレンドリーなアクティビズム」はありえるのか?
これは、一般的にアメリカのアクティビストが、一方的に株を買い上げて経営陣を厳しく批判し(と言うか文字通り罵声を浴びせかけ)、配当の増額や子会社売却などの厳しい要求を突きつける「極めて攻撃的」存在であるのに対し、よりクリーンで友好的なイメージのあるPEファンドが、マイノリティ出資に乗り出して、経営陣と協力しながら経営改善を図ることは可能なのか、ということかと思います。
これが出来ると、PEファンドにとってはマジョリティ取得の手間もリスクも省ける上に、出資先企業の経営改善によってリターンの向上が狙えるため、まさに一石二鳥となるわけです。このような考えを持っているのはPEファンドに限らず、最近ではヘッジファンドやミューチュアルファンドでも、いわゆる「物言う株主」が増えていると言われています。
ただこの講演の中では、残念ながら特に中小企業の経営者にはこのようなアプローチの受けが悪く、結局はアグレッシブなアクティビストがもっと必要なのかもしれない、という結論になっていたようです。
日本企業は、そもそも株主を外部の人とみなす傾向があり、その人たちから経営に口を出されるという事実自体に拒否反応を起こすところが多い気がします。よってグリーンメイラーのような人に株を買い上げられた場合の反応も、何もせずに無視をする、または毅然とした対応する、と言う道よりも、お金を積んででも追い払う、という道を選択することが多い気がします。
ただこれは裏を返せば、アグレッシブなアクティビストが儲け続け得る状況が放置されていると言うことにもなり、最終的には市場のアービトラージ機能が働いて、市場全体の株価バリュエーションが適正化の方向に向かうことを意味しているのかもしれません。それはPEファンドにとっても悪い話ではない気がします。
以上、まとまりが悪いですが、日本においてはPEファンドがアクティビスト的な役割を果たして上場企業の経営に関与いくことが、今後のトレンドになっていくのかもしれません。これは欧米におけるプライベートエクイティの発展形態とは異なりますが、別の形で市場の効率化を推し進める動きにつながって行くのかもしれません。
by harry_g
| 2007-02-08 14:49
| LBO・プライベートエクイティ


