2006年 10月 12日
LBOファンド間の確執? |
先日のブログで触れてコメントも頂いたFreescale SemiconductorのLBOは興味深い話なので、発表当時の記事などを参考に、もう少し見ておきたいと思います。
同案件で買収対象となったのは、携帯電話大手であるMotorolaがスピンオフした携帯電話向け半導体の製造会社、Freescale Semiconductorです。
報道によると同案件は、Blackstone率いるコンソーシアムが$16bn(約1.9兆円)での買いつけを発表する直前に、KKRが率いるコンソーシアムが対抗オファーを入れたそうです。最終的にはBlackstone側が10%オファープライスを上げて$17.6bn(約2.1兆円)で買収することで決着したそうですが、そこに至るまでには相当激しいやり取りがなされたことが想像されます。
先日ご紹介頂いたTheStreet.comの記事によると、Blackstoneは数ヶ月に及ぶ交渉の末、$37-38ドルの買収価格を交渉していたそうです。それがディール発表の直前にKKRが$40-42の買収価格を提示したそうで、その際にKKR側は、自社が持つポートフォリオ企業(Philips Semiconductor)とのシナジーが期待出来るとの理由から、「他のどんなバイヤーよりも高い値段が払える」と主張したそうです。
ちなみに最終的なBlackstoneによる買収価格が$40ですが、KKR側は、より高い買収価格を提示していたことになります。KKR側の提示したレンジの最低ラインでBlackstoneへの売却を決めた理由としては、KKRがPhilipsとFreescaleの両方に本当にファイナンシングを付けられるか分からない点と、Blackstoneが自らのオファーは受けるか失うかのどちらかだとプッシュした為だ、と言われているようです。
これはどちらもよく聞くような話ですが、前者に関しては、KKRがファイナンス出来ない案件があるはずもないので、要は典型的なM&Aの駆け引きの結果だったことが想像されます。もちろん短期的に大量かつ多額のLBO関連のデットが市場に出ることで、需給が悪化する可能性はあるかもしれませんが、それは買い手が誰でも同じことなので、やはり理由にならない気がします。(フィナンシャルスポンサーの集中リスク、などと言う話は個人的には聞いたことがありません。)
ともかくこの案件が特筆に価するのは、プライベートエクイティ業界には先日も少々触れたような「紳士協定」があり、いわゆる「Done Deal(決着済みのディール)」に他のグループが対抗ビッドを入れない、と言うのが業界の慣例だったと考えられているからだと思います。NY Timesの9月24日の報道によると、KKR側が行ったような行動は、過去数年間に渡ってほとんど例がないそうです。
現場にいた時にはあまりそのようなことを意識したことはありませんでしたが、改めて考えてみると、確かに戦略的M&AやLBOのエグジットに関わるM&Aでは、対抗ビッダーが突然案件をさらって行くようなことは当たり前だった気がします。それに対してLBOでは、一度ディールがアナウンスされてしまえば、別のグループが対抗したビッドを入れたと言うケースは記憶にありません。
またこれもNY Timesで指摘されていましたが、多くの案件では、買収の合意に至る前の段階でも、ビッダーが2グループ以上あるケースはほとんどなかった気がします。投資銀行ではファイナンシングパッケージを用意して、可能性のあるLBOファンド幾つもに話を持ち込むわけですが、早々の段階でLBOファンドがお互いに話してコンソーシアムを組み、結果的にそれぞれの参加するファンドにアプローチしていた投資銀行は、複数(多い時には6社など)でファイナンシングを提供していました。
この背景には、案件規模の拡大にともなって、そもそも2つ以上のコンソーシアムが組めるような状況ではなかった事があるのかもしれません。ただそれは1兆円を超える金額のファンドを運用する会社が数社だった時はよかったかもしれませんが、今ではKKR、Blackstone、Carlyle、TPG、Bain、Goldman Sachsなどがその規模のファンドを運営しており、昔のような「紳士協定」の維持が困難になっているのかもしれません。
上記のNY Timesの記事によると、中でもアグレッシブなのが業界の重鎮KKRだそうで、例えば最近発表された病院チェーンHCAのLBO($33bn)では、歴史的にKKRとコンソーシアムを組んできたファンドが案件発表後にKKRにコンソーシアム参加を打診しても、断られたなどと伝えられています。
また、スペイン語放送最大手のUnivisionがTelevisaによる買収提案を受け、TelevisaがKKRをパートナーに選んだ際には、KKRはその他のファンドはどこにするか自らが選ぶと強く主張したと同記事では報じていました。その結果、シカゴを本拠とする大手MDPや、メディア通信業界のLBO最大手Providenceなどが外され、CarlyleとBlackstoneが選ばれたそうです。(最終的にProvidenceの率いるグループがビッドに勝ったと言うのは興味深い話です。)
ウォールストリートでは、「100億円の案件も1000億円の案件も手間は変わらない、だからこそメガディールを狙いに行け」などと言われますが、これはまさにPE業界でも同じことが言える気がします。巨額のファンドの全てを何らかの投資に回すには、案件あたりのエクイティ投資額を膨らませたい、その為には1兆円を上回るような案件から漏れたくないし、仲間も出来るだけ減らしたい、と言う気持ちになるのかもしれません。
その結果、業界内での確執が広がることも、もしかしたらあるのかもしれません。ちなみに投資銀行業界では、案件を取り合う際や共同でアドバイザリーに当たる際などに、投資銀行間で激しい主導権争いが行われます。
プライベートエクイティ業界の人が、「投資銀行から人材がPE業界に大量に流入した結果、PE業界もすっかりIBのような『ハードコア』カルチャーになってしまったよ」と嘆いていたのが思い出されますが、そんな人材移動も、LBOファンドがアグレッシブになっている背景にはあるのかもしれません。
(ちなみにアメリカでは一般的に、PE業界がIB業界を見下す傾向にあるようです。これは特にジュニアレベルで顕著なのですが、それはPEがIBから最も優秀な人材(上位5%のみ)を引き抜いていることや、IBの厳しい職場環境に起因しているのかもしれません。ただ職場環境の「エグさ」という意味では、今では大手LBOファンドはIB以上との話です。)
LBOファンド間のビッド競争はパブリックマーケットの側から見るとポジティブであり、競争原理はバリュエーションの公正化につながりますし、またノンコアアセットの切り出しのような企業行動の拡大も期待できるかもしれません。ビッド競争がLBOマーケットの冷や水になってしまっては元も子もありませんが、現段階では、ファイナンスの教科書ではありえないような、フィナンシャルスポンサーがストラテジックバイヤーをアウトビッドするような状況があることを考えると、そのような心配は時期尚早かもしれません。
しかし昨日の「独禁法」の話も、先月辺りに書いた「MBOの違法性」の話もそうですが、最近はPE業界に対するネガティブな報道が目立つ気がします。このような世間からの厳しい目を受けて、LBOマーケット全体がスローダウンしてしまうような状況にならないことを祈るばかりです。
同案件で買収対象となったのは、携帯電話大手であるMotorolaがスピンオフした携帯電話向け半導体の製造会社、Freescale Semiconductorです。報道によると同案件は、Blackstone率いるコンソーシアムが$16bn(約1.9兆円)での買いつけを発表する直前に、KKRが率いるコンソーシアムが対抗オファーを入れたそうです。最終的にはBlackstone側が10%オファープライスを上げて$17.6bn(約2.1兆円)で買収することで決着したそうですが、そこに至るまでには相当激しいやり取りがなされたことが想像されます。
先日ご紹介頂いたTheStreet.comの記事によると、Blackstoneは数ヶ月に及ぶ交渉の末、$37-38ドルの買収価格を交渉していたそうです。それがディール発表の直前にKKRが$40-42の買収価格を提示したそうで、その際にKKR側は、自社が持つポートフォリオ企業(Philips Semiconductor)とのシナジーが期待出来るとの理由から、「他のどんなバイヤーよりも高い値段が払える」と主張したそうです。
ちなみに最終的なBlackstoneによる買収価格が$40ですが、KKR側は、より高い買収価格を提示していたことになります。KKR側の提示したレンジの最低ラインでBlackstoneへの売却を決めた理由としては、KKRがPhilipsとFreescaleの両方に本当にファイナンシングを付けられるか分からない点と、Blackstoneが自らのオファーは受けるか失うかのどちらかだとプッシュした為だ、と言われているようです。
これはどちらもよく聞くような話ですが、前者に関しては、KKRがファイナンス出来ない案件があるはずもないので、要は典型的なM&Aの駆け引きの結果だったことが想像されます。もちろん短期的に大量かつ多額のLBO関連のデットが市場に出ることで、需給が悪化する可能性はあるかもしれませんが、それは買い手が誰でも同じことなので、やはり理由にならない気がします。(フィナンシャルスポンサーの集中リスク、などと言う話は個人的には聞いたことがありません。)
ともかくこの案件が特筆に価するのは、プライベートエクイティ業界には先日も少々触れたような「紳士協定」があり、いわゆる「Done Deal(決着済みのディール)」に他のグループが対抗ビッドを入れない、と言うのが業界の慣例だったと考えられているからだと思います。NY Timesの9月24日の報道によると、KKR側が行ったような行動は、過去数年間に渡ってほとんど例がないそうです。
現場にいた時にはあまりそのようなことを意識したことはありませんでしたが、改めて考えてみると、確かに戦略的M&AやLBOのエグジットに関わるM&Aでは、対抗ビッダーが突然案件をさらって行くようなことは当たり前だった気がします。それに対してLBOでは、一度ディールがアナウンスされてしまえば、別のグループが対抗したビッドを入れたと言うケースは記憶にありません。
またこれもNY Timesで指摘されていましたが、多くの案件では、買収の合意に至る前の段階でも、ビッダーが2グループ以上あるケースはほとんどなかった気がします。投資銀行ではファイナンシングパッケージを用意して、可能性のあるLBOファンド幾つもに話を持ち込むわけですが、早々の段階でLBOファンドがお互いに話してコンソーシアムを組み、結果的にそれぞれの参加するファンドにアプローチしていた投資銀行は、複数(多い時には6社など)でファイナンシングを提供していました。
この背景には、案件規模の拡大にともなって、そもそも2つ以上のコンソーシアムが組めるような状況ではなかった事があるのかもしれません。ただそれは1兆円を超える金額のファンドを運用する会社が数社だった時はよかったかもしれませんが、今ではKKR、Blackstone、Carlyle、TPG、Bain、Goldman Sachsなどがその規模のファンドを運営しており、昔のような「紳士協定」の維持が困難になっているのかもしれません。
上記のNY Timesの記事によると、中でもアグレッシブなのが業界の重鎮KKRだそうで、例えば最近発表された病院チェーンHCAのLBO($33bn)では、歴史的にKKRとコンソーシアムを組んできたファンドが案件発表後にKKRにコンソーシアム参加を打診しても、断られたなどと伝えられています。
また、スペイン語放送最大手のUnivisionがTelevisaによる買収提案を受け、TelevisaがKKRをパートナーに選んだ際には、KKRはその他のファンドはどこにするか自らが選ぶと強く主張したと同記事では報じていました。その結果、シカゴを本拠とする大手MDPや、メディア通信業界のLBO最大手Providenceなどが外され、CarlyleとBlackstoneが選ばれたそうです。(最終的にProvidenceの率いるグループがビッドに勝ったと言うのは興味深い話です。)
その結果、業界内での確執が広がることも、もしかしたらあるのかもしれません。ちなみに投資銀行業界では、案件を取り合う際や共同でアドバイザリーに当たる際などに、投資銀行間で激しい主導権争いが行われます。
プライベートエクイティ業界の人が、「投資銀行から人材がPE業界に大量に流入した結果、PE業界もすっかりIBのような『ハードコア』カルチャーになってしまったよ」と嘆いていたのが思い出されますが、そんな人材移動も、LBOファンドがアグレッシブになっている背景にはあるのかもしれません。
(ちなみにアメリカでは一般的に、PE業界がIB業界を見下す傾向にあるようです。これは特にジュニアレベルで顕著なのですが、それはPEがIBから最も優秀な人材(上位5%のみ)を引き抜いていることや、IBの厳しい職場環境に起因しているのかもしれません。ただ職場環境の「エグさ」という意味では、今では大手LBOファンドはIB以上との話です。)
LBOファンド間のビッド競争はパブリックマーケットの側から見るとポジティブであり、競争原理はバリュエーションの公正化につながりますし、またノンコアアセットの切り出しのような企業行動の拡大も期待できるかもしれません。ビッド競争がLBOマーケットの冷や水になってしまっては元も子もありませんが、現段階では、ファイナンスの教科書ではありえないような、フィナンシャルスポンサーがストラテジックバイヤーをアウトビッドするような状況があることを考えると、そのような心配は時期尚早かもしれません。
しかし昨日の「独禁法」の話も、先月辺りに書いた「MBOの違法性」の話もそうですが、最近はPE業界に対するネガティブな報道が目立つ気がします。このような世間からの厳しい目を受けて、LBOマーケット全体がスローダウンしてしまうような状況にならないことを祈るばかりです。
by harry_g
| 2006-10-12 13:05
| LBO・プライベートエクイティ


