2006年 10月 01日
Private化のメリットと問題点 |
テック業界のLBOと企業のPrivate化に関する最近のエントリーについて、「ふぉーりん・あとにーの憂鬱」の中山先生に「Going Privateのメリット?」の題名でトラックバックして頂いたので、追記のコメントをしたいと思います。ご存知の方も多いかと思いますが、中山先生のブログは9月21日の日経新聞でご本人の写真付で紹介されていた超人気ブログです。
更に、今度本も出版すると言う「ハーバード留学期」(および「続」)の人気ブロガー岩瀬氏も関連記事「Going Private再考」を書いていたので、そちらにも合わせてコメントしてみます。
二人とも私と違って実名ブロガーなので、名前を引用させて頂きました。(それぞれのブログへのリンクはページの左側参照。)コメントは少々長くなってしまいましたが、以下のリンクを参照してください。
まず中山先生のブログへのコメントから。
“Tailor-made Monitoring”
未上場化によって「情報開示に関わるコストの制約から免れられる」という指摘は、全くその通りだと思います。開示書類のみならず、アメリカ企業は各地での投資家ミーティングの開催やウェブキャストの同時実施など、IR活動に莫大な費用と人材を割いています。これが無くなるだけで、マージンが改善したりする会社もあるくらいです。
ただバイアウトは、数年でまた公開企業になる可能性が高い取引です。M&Aで売られる場合もありますが、それでも公開企業に買われれば、その一部門として結局は公開企業のディスクロージャールールに対応しなければいけません。その辺り、上記のコスト削減は短期的なものに留まってしまう気がするのですが、いかがでしょうか。

“Soft Information Flow”
情報開示については、これまたご指摘の通り、アメリカには厳しい規制があります。よって特定の投資家、例えば一生懸命取材をしてくるアナリストだけに情報を話すことは禁じられています。
その点で非上場になれば、話のできる特定株主に自由に情報開示が出来るようになるメリットはありそうな気がします。ただ、そのメリットを享受出来るのが一般の投資家ではなく、買収ファンドだけになるというのは残念な感じもします。
“Litigation Cost”
三番目に指摘されていた「集団訴訟のリスク」についても全くその通りで、非常によいポイントだと思います。更に言うならば、SOX法に関連して「法律の趣旨は分かるがマネジメントが個人的に責任を負わなければいけないと言うのは辛い、リスクに対してリターンが見合わない」、と愚痴るCEOやCFOに、過去に何人も会ったことがあります。
そう考えると、もう公開企業の経営はコリゴリだ、バイアウトしてキャッシュアウトしてしまえ、という気持ちになるのも、ある意味で自然なのかもしれません。
注記※5
ご指摘頂いた「社債を私募で発行すれば、四半期ベースの開示から逃れられるのでは」と言う点については、制度的にはその通りなのですが、ウォールストリートの慣行で、私募であっても公募と全く同じレベルの開示書類を作成し、またそのレベルの開示を続けることが常です。
その理由としては、「近い将来に上場企業になるのだから、今のうちから準備しておいた方がよい」、「大手投資家は私募でもそのレベルの開示を求める」などです。要は投資銀行として、そうじゃないとマーケティングに手間がかかるし後々のIPOの作業も面倒だ、と言うことなのかもしれません。
---------------------------------------------------
…次に岩瀬氏のブログへのコメントと、追加の書き込みです。
“なぜハイテク系企業のバイアウトが増えてきたか?”
この点について5点挙げていますが、概ね賛成です。中でも西海岸系のファンドが大きくなってきたという指摘は、興味深いと思います。アメリカではVC投資の大半がITとバイオ業界に偏っていたり、西海岸にテック業界に強いブティック投資銀行が存在したりします。そのノウハウがLBO業界に派生して行くことは、自然な流れなのかもしれません。
規模の増大によってボラティリティの高い事業にも投資するようになったと言う議論は、業界関係者に聞いてみたいところですが、テックLBOに関しては、やはり事業のボラティリティが低下していることが大きい気がします。先日の記事にわたりどりさんからもコメント頂きましたが、PC事業や半導体事業なども、もはや成長産業ではないと言うことなのでしょう。
手厚いデット市場の存在
また、ロンドンでFoF事業に従事されているCutting Edgeさんが、ちょっと前のエントリー「LBOを支えるヘッジファンド、相乗りするヘッジファンド、逆手に取るヘッジファンド」で大変興味深い指摘をされていましたが、デットのバブル(?)を引き起こしているのは、銀行のカネ余りに加えて、旺盛なデット系ヘッジファンドの存在があるようです。
アメリカではローンも債券と同様に普通にトレードされていますし、クレジットスワップなどのデリバティブ市場は現物市場の何倍にも膨らんでいます。それらの市場の充実は確実にレバレッジドファイナンス市場に流動性を提供しています。
自分自身も前に「アメリカでLBOが盛んな理由」と言うエントリーでも書きましたが、この辺りは日本とは大分違うようです。最近の事情にはそこまで詳しくありませんが、引続き信用リスクの受け手は大手銀行に偏っており、クレジットデリバティブの市場の成熟度もまだまだと聞きます。この辺りの市場の成長は、M&AやMBOの認知度の向上と相まって、日本のバイアウト市場の成長に欠かせないのかもしれません。
“非上場化で経営モニタリングはどう変わるか”
岩瀬氏が特に日本での事業再生型PEファンドを念頭において、「中期的な企業価値創造のためのモニタリングの担い手としては、パブリックインベスターよりも、PE投資家の方が優れている」と指摘している点は、まさにその通りだと思います。
そもそも小さな持分しか保有せず、年(または四半期)単位でリターンを上げることを目的とする広義の機関投資家(年金・投信・ヘッジファンドなど)は、数年という投資ホライゾンを持つPEファンドとは異なる存在です。運用現場でのゴールはまさに「株価当てゲーム」であり、経営についての深い議論は、出来もしないし興味もない、と言うのが現実だと思います。
最近ではCalPERSのように経営に口を出す機関投資家や、アクティビストのように強制手段に出る投資家も目立って来ましたが、5%を超える規模で株式を取得するこれらの投資家が、PEファンドに近いアプローチを取ることは、自然な気がします。それに対して大半のヘッジファンドなどは、流動性リスクを回避する目的から、持分を少額に限定するのが通常です。
「流動性」と「フェア・バリュエーション」
では経営のモニタリングも出来ないそれら一般の投資家の存在意義はそもそも何なのか、と言うことになりますが、これは強調して強調しすぎることはないのですが、株式市場にとって極めて重要な「流動性」を供給し、企業が正当なコストでエクイティファイナンスが出来るよう、株価に自動調整メカニズムを提供することだと思います。
市場経済には、トレーディング系ファンドや多くの個人投資家のように極短期的なリターンを狙う投資家から、Warren Buffettに代表される長期の投資家まで、様々なスタイルの投資家が存在します。そうした様々な投資家の存在が株式市場にいわゆる「厚み」を与えて、直接金融や市場経済の仕組みを支えているわけです。(余談ですがBuffettのこの本は名著です。日本語版はライフログに載せてあります。)
分かりやすい例で言えば、短期売買を志向する投資家がいなければ、長期の投資家やLBOファンドも、持分の売買が思うように出来なくなってしまいます。買いたい時に買いたい価格で買えない、売りたい時に売りたい価格で売れない事のリスクと非効率さは、容易に想像できるのではと思います。
PEファンドは数年単位(アメリカのLBOファンドは必ずしもそんなに長期ではありませんが)で投資を行うため、経営者として与しやすいのは理解できますが、ソーシングやエグジットの多くを市場に依存していること、また、経営者のインセンティブが株式やストックオプションであることが多く、換金に市場の流動性(つまり将来的な再上場)が必要であえることなどを考えると、ある意味ではPEファンドも短期の投資家の存在に依存している、と見ることも出来るかもしれません。
ウォールストリートにありがちな「行き過ぎ」に対する批判は賛同できるところですし、元バンカーとして企業のアドバイザーであった立場からも、長期的なビジョンと短期的なレポーティングの狭間で苦労する経営者の気持ちはよく理解出来ます。ただ、企業のインサイダーとは遠い存在である機関投資家は、投資判断の際に限られた情報に基づいて「理論株価」を計算する必要があり、その為に企業側から出来るだけ多くの情報を開示してもらいたいと思うのは、自然な流れな気がします。
そう考えると、四半期決算によって株価が動くのはあくまで「結果論」であり、市場経済に流動性を提供する一般投資家の重要さに鑑みると、口うるさいセルサイドアナリストに対峙していくことも、現代の企業経営者としての大変重要な役割だと言える気がします。
”Greed is good”, but…
プライベタイゼーションも含めてアメリカでM&AやLBOが頻発する原動力は、何と言っても「株主価値の最大化」と言う命題がクリアに存在しているからではないかと思います。
ここ数回のエントリーでは、マネジメントが金銭的インセンティブで動いていることをある程度批判的に捉えて来ましたが、実はこれは良くも悪くもアメリカ型資本主義の「根幹」であり、それが株主価値の最大化をもたらす健全な「Greed」であれば、むしろポジティブなことだと言えます。
アメリカでは、LBOや上場企業のM&Aに関わらず、企業オーナーが自らの事業を売却して大金持ちになる、更にはそのお金を別の事業に再投資する、と言うことは、その辺の商店レベルでも普通に行われています。その辺がアメリカの金融市場を発達させた本当の理由であり、制度面を模倣しても諸外国がなかなかアメリカに追いつけない理由であるとも考えられます。
ただ、成長が鈍化している企業のマネジメントが、最近のLBOブームの中で、仮に「今まで通りのやり方では一般株主の期待に添えなくなった」との理由からバイアウトを考えているとすると、やはり問題な気がします。
と言うのも、未上場化によって実現可能になる株主価値の多くは、公開企業であっても実現可能と思われるからです。最たる例は上場企業のRecapであり、アメリカでは多額のデットを発行して自社株買いなどの株主還元策を行う行為は、かなり頻繁にみられます。また積極的な戦略的M&Aの実施も、その一つの方策と言えるかもしれません。
では企業のPrivate化に関わるLBOファンドの功罪はと言うと、その投資手法は実にクリエイティブですし、その行動は市場の効率化とバリュエーションの正常化の大きな助けになっている、ポジティブなものだと思います。LBOファンドはその存在意義をかけて企業をバイアウトしようとするわけですが、その行動が一般の投資家と明らかに相反するものになった際には、MBOの問題点についてのエントリーでも書きましたが、色々と広く物議をかもすようになる気がします。(何事も「行き過ぎ」はよくない、と言うことかもしれません。)
繰り返しになりますが、長期的視点に立った経営は、私が勤めているヘッジファンドも含めて大半の機関投資家も望むところであり、四半期ベースのノイズどうのこうの、と言うアメリカの経営者の発言には、どうもシニカルにならざるを得ません。問題の根幹は、彼ら・彼女らの巨額の報酬が株価と連動しており、結果として自ら短期的株価の最大化を目指していることなのかもしれません。
以上、長くなりましたが、追加コメントでした。
更に、今度本も出版すると言う「ハーバード留学期」(および「続」)の人気ブロガー岩瀬氏も関連記事「Going Private再考」を書いていたので、そちらにも合わせてコメントしてみます。
二人とも私と違って実名ブロガーなので、名前を引用させて頂きました。(それぞれのブログへのリンクはページの左側参照。)コメントは少々長くなってしまいましたが、以下のリンクを参照してください。
まず中山先生のブログへのコメントから。
“Tailor-made Monitoring”
未上場化によって「情報開示に関わるコストの制約から免れられる」という指摘は、全くその通りだと思います。開示書類のみならず、アメリカ企業は各地での投資家ミーティングの開催やウェブキャストの同時実施など、IR活動に莫大な費用と人材を割いています。これが無くなるだけで、マージンが改善したりする会社もあるくらいです。
ただバイアウトは、数年でまた公開企業になる可能性が高い取引です。M&Aで売られる場合もありますが、それでも公開企業に買われれば、その一部門として結局は公開企業のディスクロージャールールに対応しなければいけません。その辺り、上記のコスト削減は短期的なものに留まってしまう気がするのですが、いかがでしょうか。

“Soft Information Flow”
情報開示については、これまたご指摘の通り、アメリカには厳しい規制があります。よって特定の投資家、例えば一生懸命取材をしてくるアナリストだけに情報を話すことは禁じられています。
その点で非上場になれば、話のできる特定株主に自由に情報開示が出来るようになるメリットはありそうな気がします。ただ、そのメリットを享受出来るのが一般の投資家ではなく、買収ファンドだけになるというのは残念な感じもします。
“Litigation Cost”
三番目に指摘されていた「集団訴訟のリスク」についても全くその通りで、非常によいポイントだと思います。更に言うならば、SOX法に関連して「法律の趣旨は分かるがマネジメントが個人的に責任を負わなければいけないと言うのは辛い、リスクに対してリターンが見合わない」、と愚痴るCEOやCFOに、過去に何人も会ったことがあります。
そう考えると、もう公開企業の経営はコリゴリだ、バイアウトしてキャッシュアウトしてしまえ、という気持ちになるのも、ある意味で自然なのかもしれません。
注記※5
ご指摘頂いた「社債を私募で発行すれば、四半期ベースの開示から逃れられるのでは」と言う点については、制度的にはその通りなのですが、ウォールストリートの慣行で、私募であっても公募と全く同じレベルの開示書類を作成し、またそのレベルの開示を続けることが常です。
その理由としては、「近い将来に上場企業になるのだから、今のうちから準備しておいた方がよい」、「大手投資家は私募でもそのレベルの開示を求める」などです。要は投資銀行として、そうじゃないとマーケティングに手間がかかるし後々のIPOの作業も面倒だ、と言うことなのかもしれません。
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…次に岩瀬氏のブログへのコメントと、追加の書き込みです。
“なぜハイテク系企業のバイアウトが増えてきたか?”
この点について5点挙げていますが、概ね賛成です。中でも西海岸系のファンドが大きくなってきたという指摘は、興味深いと思います。アメリカではVC投資の大半がITとバイオ業界に偏っていたり、西海岸にテック業界に強いブティック投資銀行が存在したりします。そのノウハウがLBO業界に派生して行くことは、自然な流れなのかもしれません。
規模の増大によってボラティリティの高い事業にも投資するようになったと言う議論は、業界関係者に聞いてみたいところですが、テックLBOに関しては、やはり事業のボラティリティが低下していることが大きい気がします。先日の記事にわたりどりさんからもコメント頂きましたが、PC事業や半導体事業なども、もはや成長産業ではないと言うことなのでしょう。
手厚いデット市場の存在
また、ロンドンでFoF事業に従事されているCutting Edgeさんが、ちょっと前のエントリー「LBOを支えるヘッジファンド、相乗りするヘッジファンド、逆手に取るヘッジファンド」で大変興味深い指摘をされていましたが、デットのバブル(?)を引き起こしているのは、銀行のカネ余りに加えて、旺盛なデット系ヘッジファンドの存在があるようです。
アメリカではローンも債券と同様に普通にトレードされていますし、クレジットスワップなどのデリバティブ市場は現物市場の何倍にも膨らんでいます。それらの市場の充実は確実にレバレッジドファイナンス市場に流動性を提供しています。
自分自身も前に「アメリカでLBOが盛んな理由」と言うエントリーでも書きましたが、この辺りは日本とは大分違うようです。最近の事情にはそこまで詳しくありませんが、引続き信用リスクの受け手は大手銀行に偏っており、クレジットデリバティブの市場の成熟度もまだまだと聞きます。この辺りの市場の成長は、M&AやMBOの認知度の向上と相まって、日本のバイアウト市場の成長に欠かせないのかもしれません。
“非上場化で経営モニタリングはどう変わるか”
岩瀬氏が特に日本での事業再生型PEファンドを念頭において、「中期的な企業価値創造のためのモニタリングの担い手としては、パブリックインベスターよりも、PE投資家の方が優れている」と指摘している点は、まさにその通りだと思います。
そもそも小さな持分しか保有せず、年(または四半期)単位でリターンを上げることを目的とする広義の機関投資家(年金・投信・ヘッジファンドなど)は、数年という投資ホライゾンを持つPEファンドとは異なる存在です。運用現場でのゴールはまさに「株価当てゲーム」であり、経営についての深い議論は、出来もしないし興味もない、と言うのが現実だと思います。最近ではCalPERSのように経営に口を出す機関投資家や、アクティビストのように強制手段に出る投資家も目立って来ましたが、5%を超える規模で株式を取得するこれらの投資家が、PEファンドに近いアプローチを取ることは、自然な気がします。それに対して大半のヘッジファンドなどは、流動性リスクを回避する目的から、持分を少額に限定するのが通常です。
「流動性」と「フェア・バリュエーション」
では経営のモニタリングも出来ないそれら一般の投資家の存在意義はそもそも何なのか、と言うことになりますが、これは強調して強調しすぎることはないのですが、株式市場にとって極めて重要な「流動性」を供給し、企業が正当なコストでエクイティファイナンスが出来るよう、株価に自動調整メカニズムを提供することだと思います。
市場経済には、トレーディング系ファンドや多くの個人投資家のように極短期的なリターンを狙う投資家から、Warren Buffettに代表される長期の投資家まで、様々なスタイルの投資家が存在します。そうした様々な投資家の存在が株式市場にいわゆる「厚み」を与えて、直接金融や市場経済の仕組みを支えているわけです。(余談ですがBuffettのこの本は名著です。日本語版はライフログに載せてあります。)分かりやすい例で言えば、短期売買を志向する投資家がいなければ、長期の投資家やLBOファンドも、持分の売買が思うように出来なくなってしまいます。買いたい時に買いたい価格で買えない、売りたい時に売りたい価格で売れない事のリスクと非効率さは、容易に想像できるのではと思います。
PEファンドは数年単位(アメリカのLBOファンドは必ずしもそんなに長期ではありませんが)で投資を行うため、経営者として与しやすいのは理解できますが、ソーシングやエグジットの多くを市場に依存していること、また、経営者のインセンティブが株式やストックオプションであることが多く、換金に市場の流動性(つまり将来的な再上場)が必要であえることなどを考えると、ある意味ではPEファンドも短期の投資家の存在に依存している、と見ることも出来るかもしれません。
ウォールストリートにありがちな「行き過ぎ」に対する批判は賛同できるところですし、元バンカーとして企業のアドバイザーであった立場からも、長期的なビジョンと短期的なレポーティングの狭間で苦労する経営者の気持ちはよく理解出来ます。ただ、企業のインサイダーとは遠い存在である機関投資家は、投資判断の際に限られた情報に基づいて「理論株価」を計算する必要があり、その為に企業側から出来るだけ多くの情報を開示してもらいたいと思うのは、自然な流れな気がします。
そう考えると、四半期決算によって株価が動くのはあくまで「結果論」であり、市場経済に流動性を提供する一般投資家の重要さに鑑みると、口うるさいセルサイドアナリストに対峙していくことも、現代の企業経営者としての大変重要な役割だと言える気がします。
”Greed is good”, but…
プライベタイゼーションも含めてアメリカでM&AやLBOが頻発する原動力は、何と言っても「株主価値の最大化」と言う命題がクリアに存在しているからではないかと思います。ここ数回のエントリーでは、マネジメントが金銭的インセンティブで動いていることをある程度批判的に捉えて来ましたが、実はこれは良くも悪くもアメリカ型資本主義の「根幹」であり、それが株主価値の最大化をもたらす健全な「Greed」であれば、むしろポジティブなことだと言えます。
アメリカでは、LBOや上場企業のM&Aに関わらず、企業オーナーが自らの事業を売却して大金持ちになる、更にはそのお金を別の事業に再投資する、と言うことは、その辺の商店レベルでも普通に行われています。その辺がアメリカの金融市場を発達させた本当の理由であり、制度面を模倣しても諸外国がなかなかアメリカに追いつけない理由であるとも考えられます。
ただ、成長が鈍化している企業のマネジメントが、最近のLBOブームの中で、仮に「今まで通りのやり方では一般株主の期待に添えなくなった」との理由からバイアウトを考えているとすると、やはり問題な気がします。
と言うのも、未上場化によって実現可能になる株主価値の多くは、公開企業であっても実現可能と思われるからです。最たる例は上場企業のRecapであり、アメリカでは多額のデットを発行して自社株買いなどの株主還元策を行う行為は、かなり頻繁にみられます。また積極的な戦略的M&Aの実施も、その一つの方策と言えるかもしれません。
では企業のPrivate化に関わるLBOファンドの功罪はと言うと、その投資手法は実にクリエイティブですし、その行動は市場の効率化とバリュエーションの正常化の大きな助けになっている、ポジティブなものだと思います。LBOファンドはその存在意義をかけて企業をバイアウトしようとするわけですが、その行動が一般の投資家と明らかに相反するものになった際には、MBOの問題点についてのエントリーでも書きましたが、色々と広く物議をかもすようになる気がします。(何事も「行き過ぎ」はよくない、と言うことかもしれません。)
繰り返しになりますが、長期的視点に立った経営は、私が勤めているヘッジファンドも含めて大半の機関投資家も望むところであり、四半期ベースのノイズどうのこうの、と言うアメリカの経営者の発言には、どうもシニカルにならざるを得ません。問題の根幹は、彼ら・彼女らの巨額の報酬が株価と連動しており、結果として自ら短期的株価の最大化を目指していることなのかもしれません。
以上、長くなりましたが、追加コメントでした。
by harry_g
| 2006-10-01 15:10
| LBO・プライベートエクイティ


