2006年 09月 13日
「MBO」の違法性? |
先週から出張していて日本語を書ける環境になかったのですが、ようやく日本語機能を獲得したので、ひとつ先日気になったネタについて書いてみます。9月3日にNew York Timesに載っていた記事の中で指摘されていたことなのですが、LBOの際に会社のマネジメントが買収の主体となる「MBO(マネジメント・バイアウト)」は違法性が高いのでは、というものです。
MBOはご存知の通り、LBOファンドが被買収企業の経営陣を仲間に引き入れてレバレッジド・バイアウトを行うスタイルのことで、80年代にアメリカでジャンクボンドを利用して頻繁に行われたLBOの形態です。
最近では日本に進出してきた大手の米系ファンドが、「日本の企業カルチャーに照らして日本でのバイアウト案件はMBOが中心になるだろう」と述べていたと記憶していますが、そんな形である意味大手LBOファンドに「お墨付き」をもらっているMBOの問題点について、NY Timesの記者が興味深い指摘をしています。
その記者は、自らが株式を保有していた会社がMBOされ、その直後にその経営者がTOB価格(株主であった同記者にとっては売却価格)の8倍もの価格で企業をバラバラに売りさばいた際に、何かおかしいと感じたのがきっかけで、MBOの違法性について考え始めたと指摘しています。
そんな簡単に企業価値を高めることができるのであれば、MBOでプライベタイズする前にその利益を実現し、一般の株主に分け与えるべきではないか、ということなのですが、確かにその指摘は真っ当なものに聞こえます。
更に興味深いのが、この記者が後に、あるMBOをブロックしようとSECに意見書を提出し、そのプロセスを通じて投資銀行やLBOファンドが案件検討用に使ったメモを入手したという点です。そのメモによると、潜在的な企業価値は一般投資家に提案されたTOBをはるかに上回るものだったそうで、個人投資家として非常な怒りを感じたと指摘しています。
ただこの議論には、簡単な反論が思いつきます。MBOが活発に行われた80年代後半のアメリカでは、株価が大幅に下落する一方で企業の資産価値がさほど打撃を受けていなかったため、安値で企業を買収してばらばらに売りさばくことで、簡単にアービトラージができた時代だったと言われます。
これは言い換えると、一般投資家がLBOファンドの気づいていた「潜在価値」に気づいていなかったのがいけないわけで、ある意味では自業自得といえるかもしれません。事実、LBOが盛んになった後には株価は調整され、その結果裁定機会が減少してLBOの案件数も激減したといわれています。
しかしこの記者の指摘はそんな単純な話ではなく、具体的にMBOの問題点について以下のように指摘しています。
① 経営者の義務(Fiduciary Duty Law)違反の可能性
企業の資産は株主のものであり、経営陣は、株主の価値を代表する存在としてその企業の経営に当たっているはずである。そうであれば、経営者は自分(及びLBOファンド)の個人的利益の追求を目的とするMBOで企業を安値で買収し、その後に資産を売りさばいて利益を実現させるのではなく、公開企業の状態で経営を改善するなり資産を売却するなりして企業の潜在価値を最大化させ、株主に利益を還元する「義務」があるはずである。
② 利害相反の可能性
企業の経営陣は株主の利益を代表する存在であり、当然のことながら株主との利益相反を避けなければならない。にもかかわらず、MBOに際しては企業を安く買収できればできるほど利益が大きくなるため、経営者の利益と一般株主の利益が真っ向から相反する。自分たちの「信託者」であるはずの株主に対してオークションでビッドをするような行為が許されるのは非常に不可解である。
③ ディスクロージャー違反の疑い
MBOでは経営陣は、企業の潜在価値が幾らで現在の株価でTOBすればどの程度のリターン(IRR)が見込めるかというメモを、LBOファンドに対して作成する。これはずばり、自らの信託者である株主からどれだけ安く会社を買い叩けるか、そして企業の本当の価値は幾らであるかを示したメモである。このメモは株主にとっては「最重要事項」ともいうべき情報であるにもかかわらず、一般株主やマーケットに公開されることはない。投資家や株主にとって企業の潜在利益についての情報異常に重要な事項があるだろうか?
④ インサイダー取引の疑い
企業の内部情報を知り得る者が、その情報に基づいて株式を若干でも売買すれば、インサイダー取引違反になるのは周知である。MBOは株式を「若干」ではなく「すべて」買い集める行為である。しかもその行為の背景には、インサイダーである経営陣しか知りえない企業価値に関する情報がある。これがインサイダー取引でなくて何であろうか?
…更にこの記事では、以上のような疑いがかけられた際にマネジメントから出てくる回答として、「投資銀行からフェアネスオピニオンを取っているのだからTOB価格は妥当である」というものだと指摘しています。
しかしこの記事では、フェアネスオピニオンが投資銀行のクライアントである経営陣の希望に基づいて書かれるものであることは明らかであり、そんなことは言い訳にならないと指摘しています。その際にこの記者は、とある学生が投資銀行でサマーインターンをしていた際に、上司の指示通りにフェアネスオピニオンのレターを書いた経験などを披露して議論を補強したりしていて、なかなか面白かったです。
私は法律の専門家ではないので何とも言えないのですが、確かに上の指摘を見ていると、MBOが非常に違法性が高いものに見えてきます。また皆さんの感想などをお聞かせください。
MBOはご存知の通り、LBOファンドが被買収企業の経営陣を仲間に引き入れてレバレッジド・バイアウトを行うスタイルのことで、80年代にアメリカでジャンクボンドを利用して頻繁に行われたLBOの形態です。
最近では日本に進出してきた大手の米系ファンドが、「日本の企業カルチャーに照らして日本でのバイアウト案件はMBOが中心になるだろう」と述べていたと記憶していますが、そんな形である意味大手LBOファンドに「お墨付き」をもらっているMBOの問題点について、NY Timesの記者が興味深い指摘をしています。
その記者は、自らが株式を保有していた会社がMBOされ、その直後にその経営者がTOB価格(株主であった同記者にとっては売却価格)の8倍もの価格で企業をバラバラに売りさばいた際に、何かおかしいと感じたのがきっかけで、MBOの違法性について考え始めたと指摘しています。
そんな簡単に企業価値を高めることができるのであれば、MBOでプライベタイズする前にその利益を実現し、一般の株主に分け与えるべきではないか、ということなのですが、確かにその指摘は真っ当なものに聞こえます。
更に興味深いのが、この記者が後に、あるMBOをブロックしようとSECに意見書を提出し、そのプロセスを通じて投資銀行やLBOファンドが案件検討用に使ったメモを入手したという点です。そのメモによると、潜在的な企業価値は一般投資家に提案されたTOBをはるかに上回るものだったそうで、個人投資家として非常な怒りを感じたと指摘しています。
ただこの議論には、簡単な反論が思いつきます。MBOが活発に行われた80年代後半のアメリカでは、株価が大幅に下落する一方で企業の資産価値がさほど打撃を受けていなかったため、安値で企業を買収してばらばらに売りさばくことで、簡単にアービトラージができた時代だったと言われます。
これは言い換えると、一般投資家がLBOファンドの気づいていた「潜在価値」に気づいていなかったのがいけないわけで、ある意味では自業自得といえるかもしれません。事実、LBOが盛んになった後には株価は調整され、その結果裁定機会が減少してLBOの案件数も激減したといわれています。
しかしこの記者の指摘はそんな単純な話ではなく、具体的にMBOの問題点について以下のように指摘しています。
① 経営者の義務(Fiduciary Duty Law)違反の可能性
企業の資産は株主のものであり、経営陣は、株主の価値を代表する存在としてその企業の経営に当たっているはずである。そうであれば、経営者は自分(及びLBOファンド)の個人的利益の追求を目的とするMBOで企業を安値で買収し、その後に資産を売りさばいて利益を実現させるのではなく、公開企業の状態で経営を改善するなり資産を売却するなりして企業の潜在価値を最大化させ、株主に利益を還元する「義務」があるはずである。
② 利害相反の可能性
企業の経営陣は株主の利益を代表する存在であり、当然のことながら株主との利益相反を避けなければならない。にもかかわらず、MBOに際しては企業を安く買収できればできるほど利益が大きくなるため、経営者の利益と一般株主の利益が真っ向から相反する。自分たちの「信託者」であるはずの株主に対してオークションでビッドをするような行為が許されるのは非常に不可解である。
③ ディスクロージャー違反の疑い
MBOでは経営陣は、企業の潜在価値が幾らで現在の株価でTOBすればどの程度のリターン(IRR)が見込めるかというメモを、LBOファンドに対して作成する。これはずばり、自らの信託者である株主からどれだけ安く会社を買い叩けるか、そして企業の本当の価値は幾らであるかを示したメモである。このメモは株主にとっては「最重要事項」ともいうべき情報であるにもかかわらず、一般株主やマーケットに公開されることはない。投資家や株主にとって企業の潜在利益についての情報異常に重要な事項があるだろうか?
④ インサイダー取引の疑い
企業の内部情報を知り得る者が、その情報に基づいて株式を若干でも売買すれば、インサイダー取引違反になるのは周知である。MBOは株式を「若干」ではなく「すべて」買い集める行為である。しかもその行為の背景には、インサイダーである経営陣しか知りえない企業価値に関する情報がある。これがインサイダー取引でなくて何であろうか?
…更にこの記事では、以上のような疑いがかけられた際にマネジメントから出てくる回答として、「投資銀行からフェアネスオピニオンを取っているのだからTOB価格は妥当である」というものだと指摘しています。
しかしこの記事では、フェアネスオピニオンが投資銀行のクライアントである経営陣の希望に基づいて書かれるものであることは明らかであり、そんなことは言い訳にならないと指摘しています。その際にこの記者は、とある学生が投資銀行でサマーインターンをしていた際に、上司の指示通りにフェアネスオピニオンのレターを書いた経験などを披露して議論を補強したりしていて、なかなか面白かったです。
私は法律の専門家ではないので何とも言えないのですが、確かに上の指摘を見ていると、MBOが非常に違法性が高いものに見えてきます。また皆さんの感想などをお聞かせください。
by harry_g
| 2006-09-13 00:59
| LBO・プライベートエクイティ