2006年 08月 30日
「クラブディール」のリスク? |
最近アメリカでは、長く続いてきたFEDによる利上げも収束し、経済指標も専ら弱いものが多いことから、来年初頭にもまた利下げが行われるのではないかという話になっています。これは裏を返せば景気が減速しているということで手放しには喜べないのですが、投資銀行の今年のボーナスも去年のレベルを上回りそうな勢いですし、5%を突破していた長期金利も4%台に下げてきて、引き続きLBOは活発に行われています。
LBOファンドのパートナー達からも、もちろん宣伝の意味もあるのでしょうが、引き続きLBOは拡大するとの声がメディアを通じて聞かれますし、投資銀行が出す「潜在的LBOターゲットリスト」のようなレポートには、10兆円規模のLBOも十分に起こり得る、といったような強気なコメントも見られます。(もちろんそれが投資銀行の仕事なのですが。)
そんな中、先日のFTに、米国の年金ファンドのマネージャーが、最近大型のバイアウト案件で主流になっている「クラブディール」に懸念を示したという記事が載っていました。
クラブディールとは、言うまでもなく複数のPEファンドが共同でバイアウトを行う案件のことで、2年ほど前からほとんどの大型案件はクラブディールになっています。その背景には、案件の大型化によるファンド側でのリスク分散ということもありますし、また高いリターンを期待できるような美味しい案件が減りつつある中、PEセクターにお金だけは大量に流入し、その結果不毛なビッド合戦になっていたのを回避できるというメリットもあります。
ともかくそんな形でクラブディールはここ数年欧米のLBOの主流になっていたわけですが、LBOファンドに投資する大元の投資家である年金ファンドのマネージャーにしてみると、これは必ずしも喜ばしい状況とはいえないようです。
年金ファンドは最近LBOファンドにエクイティを提供していた主要な投資家であり、2005年には公的年金だけで$100bn(約11.5兆円)もの資金がプライベートエクイティセクターに投資されたと言われています。この数字は10年前には$26bn(約3兆円)程度だったというので、年利の成長率にすると実に14.4%にもなります。
しかし年金ファンドのマネージャーからすると、複数のLBOファンドに投資をすることはリスク分散の意味合いがあるため、例えばKKR、Bain Capital、Merrill Lynchを最も投資魅力のあるファンドと選定して3社に分散して投資したところ、先月発表されたHCAの案件($33bn)のように、この三社が一緒になってビッドしたのでは、その分散効果がなくなってしまうというわけです。
FTの記事によると、2006年のクラブディールの総額は$265bn(約30兆円)で、金額ベースにすると全LBO案件の7割以上にも上るそうです。これは複数ファンドに投資してリスク分散をしたいファンドマネージャーにとっては頭の痛いところかもしれません。
ただ、この記事でクラブディールへの懸念を示していたとある年金ファンドのマネージャーは、$3.6bn(約4,000億円)を152ものプライベートエクイティファンドに投資しているそうです。正直なところ、こんなに多くのファンドのデューディリジェンスを一体どうやってやったのかという気もしますし、それだけ分散されていれば、クラブディールが増えていても問題ない気もします。
またPEファンドのマネージャーからすると、投資家から預かった資金をしっかりと投資することが重要であり、単独でビッドして負けてしまったり、結果的に高いバリュエーションを払うことになったら、元も子もないことになります。中型(1000億円台)の案件がどんどん減っている中で、1兆円を越える大型のLBOに活路を見出したいのは大手ファンドの本音であり、そこに単独で行くというのは、リスクを鑑みても困難かもしれません。
投資銀行にとっても、案件は大きくなってくれた方がファイナンシングで儲ける機会が増えるわけで、望ましいといえます。またLBO案件で大量に発行されたハイイールド債に投資するヘッジファンドも急拡大しているといわれており、お金の出し手という意味でも、エクイティの投資家(LBOファンド)もデットの投資家(ヘッジファンド)も十分にいる状況なのかもしれません。
ちなみに話はそれますが、投資銀行が株式オファリングの案件を行う際には、ジョイントブックランナー(共同主幹事)が比較的仕事を分け合いながら作業を進めるのに対して、ハイイールドの案件では一社が「クオーターバック」と呼ばれるポジションに専任され、全てのプロセスを仕切るのが通常です。呼び名の違いも含めて何故なんだろうと思ったりもしますが、それがウォールストリートの商慣行のようです。
話を戻すと、今のところ、クラブディールによる集中リスクが大きな問題になっているという話はほとんど聞かない気がします。ただ、そこまでしても投資リターンが思ったように上がらなくなったとき、本当の問題が起こるのかもしれません。そしてそれはM&AやIPO市場が冷え込んだとき、更に言えば一般の株式市場や景気が低迷したときに起こりやすいので、最近の経済指標と相俟って、そんな懸念も年金ファンドマネージャーの頭の中にはあるのかもしれません。
LBOファンドのパートナー達からも、もちろん宣伝の意味もあるのでしょうが、引き続きLBOは拡大するとの声がメディアを通じて聞かれますし、投資銀行が出す「潜在的LBOターゲットリスト」のようなレポートには、10兆円規模のLBOも十分に起こり得る、といったような強気なコメントも見られます。(もちろんそれが投資銀行の仕事なのですが。)
そんな中、先日のFTに、米国の年金ファンドのマネージャーが、最近大型のバイアウト案件で主流になっている「クラブディール」に懸念を示したという記事が載っていました。
クラブディールとは、言うまでもなく複数のPEファンドが共同でバイアウトを行う案件のことで、2年ほど前からほとんどの大型案件はクラブディールになっています。その背景には、案件の大型化によるファンド側でのリスク分散ということもありますし、また高いリターンを期待できるような美味しい案件が減りつつある中、PEセクターにお金だけは大量に流入し、その結果不毛なビッド合戦になっていたのを回避できるというメリットもあります。
ともかくそんな形でクラブディールはここ数年欧米のLBOの主流になっていたわけですが、LBOファンドに投資する大元の投資家である年金ファンドのマネージャーにしてみると、これは必ずしも喜ばしい状況とはいえないようです。
年金ファンドは最近LBOファンドにエクイティを提供していた主要な投資家であり、2005年には公的年金だけで$100bn(約11.5兆円)もの資金がプライベートエクイティセクターに投資されたと言われています。この数字は10年前には$26bn(約3兆円)程度だったというので、年利の成長率にすると実に14.4%にもなります。
しかし年金ファンドのマネージャーからすると、複数のLBOファンドに投資をすることはリスク分散の意味合いがあるため、例えばKKR、Bain Capital、Merrill Lynchを最も投資魅力のあるファンドと選定して3社に分散して投資したところ、先月発表されたHCAの案件($33bn)のように、この三社が一緒になってビッドしたのでは、その分散効果がなくなってしまうというわけです。
FTの記事によると、2006年のクラブディールの総額は$265bn(約30兆円)で、金額ベースにすると全LBO案件の7割以上にも上るそうです。これは複数ファンドに投資してリスク分散をしたいファンドマネージャーにとっては頭の痛いところかもしれません。
ただ、この記事でクラブディールへの懸念を示していたとある年金ファンドのマネージャーは、$3.6bn(約4,000億円)を152ものプライベートエクイティファンドに投資しているそうです。正直なところ、こんなに多くのファンドのデューディリジェンスを一体どうやってやったのかという気もしますし、それだけ分散されていれば、クラブディールが増えていても問題ない気もします。
またPEファンドのマネージャーからすると、投資家から預かった資金をしっかりと投資することが重要であり、単独でビッドして負けてしまったり、結果的に高いバリュエーションを払うことになったら、元も子もないことになります。中型(1000億円台)の案件がどんどん減っている中で、1兆円を越える大型のLBOに活路を見出したいのは大手ファンドの本音であり、そこに単独で行くというのは、リスクを鑑みても困難かもしれません。
投資銀行にとっても、案件は大きくなってくれた方がファイナンシングで儲ける機会が増えるわけで、望ましいといえます。またLBO案件で大量に発行されたハイイールド債に投資するヘッジファンドも急拡大しているといわれており、お金の出し手という意味でも、エクイティの投資家(LBOファンド)もデットの投資家(ヘッジファンド)も十分にいる状況なのかもしれません。
ちなみに話はそれますが、投資銀行が株式オファリングの案件を行う際には、ジョイントブックランナー(共同主幹事)が比較的仕事を分け合いながら作業を進めるのに対して、ハイイールドの案件では一社が「クオーターバック」と呼ばれるポジションに専任され、全てのプロセスを仕切るのが通常です。呼び名の違いも含めて何故なんだろうと思ったりもしますが、それがウォールストリートの商慣行のようです。
話を戻すと、今のところ、クラブディールによる集中リスクが大きな問題になっているという話はほとんど聞かない気がします。ただ、そこまでしても投資リターンが思ったように上がらなくなったとき、本当の問題が起こるのかもしれません。そしてそれはM&AやIPO市場が冷え込んだとき、更に言えば一般の株式市場や景気が低迷したときに起こりやすいので、最近の経済指標と相俟って、そんな懸念も年金ファンドマネージャーの頭の中にはあるのかもしれません。
by harry_g
| 2006-08-30 09:08
| LBO・プライベートエクイティ