2006年 06月 17日
PEブームと市場の効率化 |
最近のMarketWatchの記事によると、今年の米国のLBOは、また記録的水準に達しているそうです。今年の6月14日時点でプライベートエクイティによるM&A案件は、案件数で既に500件超、金額ベースでは実に$157bn(約18兆円)規模がアナウンスされているそうです。これは昨年の同期間と比較しても倍の規模だそうで、また別のデータによると、数年前までグローバルM&A市場に占めるLBOの割合は5%程度だったのが最近では30%近くになっているということです。
米国では長期金利がじわじわと上昇していましたが、レバレッジドファイナンス(ローン、ハイイールド債)市場は引き続き堅調で、ここ数年で巨額の資金を調達し投資先を必死に探しているLBOファンドの後押しをしているようです。
こんな状況はウォールストリートにも大きな利益をもたらし、それが最近Lehman、Goldman、Bearと立て続けに記録的収益を発表したことにつながっているのは間違いないと思います。しかし「春」に必ず終わりがあるように、このような好調がいつまでも続くとは考えにくく、徐々に変調も感じられるようになっているようです。
例えばレバレッジドローンの市場では、米国のJP Morgan Chase、Citigroup、Bank of Americaの三大銀行や、欧州のDeutsche Bank、Credit Suisse、Barclaysなどが引き続き積極的に資金を出していますが、それらの銀行の投資家は、過剰な貸し出しと信用リスクの拡大に懸念を表明するようになっているようです。各行とも様々な形でリスクヘッジをしているでしょうが、それは同時にリスクの拡散も意味するため、CDOなどのパフォーマンスを心配する声も聞かれます。
また先日KKRが上場ビークルをアムステルダムに上場させて永久資本を調達したと言う話を書きましたが、その後に同種の案件を行った大手LBOファンドのApolloは、目標の$2.5bn(約2,800億円)を大きく下回る$1.5bn(約1,700億円)程度しか調達できなかったそうです。これはKKRの案件が市場の需要を吸い上げてしまったことも関係しているでしょうが、投資家のプライベートエクイティ投資の過熱に対する懸念を示しているのかもしれません。KKRの投資ビークルも、上場後に13%程度株価を下げているそうです。こんな流れを受けて、ApolloやKKRと同様の案件を計画していたBlackstoneとCarlyleは、案件ローンチの延期を決めたと言われています。またTexas Pacific Groupも、$5bn(約5,700億円)規模の投資ビークルの上場を計画していると噂されていますが、これもどうなるか微妙との声も聞かれます。
このようなリスクの拡大に加えて、ここ数年の破竹の勢いが「儲けすぎ」などと批判につながることも多かったプライベートエクイティファンドですが、それでも市場で果たしている役割は、非常に大きいと思います。
まずPEファンドは、株価バリュエーションにフロア(底値)を提供したり、株式価格の適正化に寄与していると考えられます。PEファンドの典型的な買収ターゲットは、「つまらない」産業で、株価が割安で且つキャッシュフローが将来に渡って安定しているところなわけですが、一般の投資家はバリュエーションの際にLBOモデルを用いることで、理論的な株価の「底値」を知ることが出来ます。
また最近のLBOでは、厚いデット市場に支えられてPEファンドがストラテジックバイヤー以上の価格を提示するケースも多いので、企業の経営陣が買収対策としてキャッシュフローのROI改善を図るなどの企業経営の効率化を図り、それが結果的に株価のサポート材料になっているケースを見受けます。人々の年金や保険が広く株式で運用されていることを考えると、これは確実に利益のあることだと言えると思います。
バリュエーションのフロアと言えば、米国では株価が下落すると自社株買いを加速させる傾向があるため、株価の大幅な値下がりは自動調整メカニズムによって修正されやすい環境にあります。投資銀行も「資本構成の最適化」の名目でデットの借り入れによる自社株買いを日常的に提案しています。米国株でショートポジションを取る場合には、こんな点にも留意する必要がありそうです。
と話がそれましたが、日本にも目を向けてみると、最近話題の村上ファンドも、市場株価の歪みを修正する「アービトラージャー」として、米国でPEファンドが果たす役割に似た意味を持っていた気がします。
もちろんインサイダー取引や風説の流布による個人投資家の煽動などは言語道断ですが、いわゆるフィナンシャルスポンサー(買収ファンド)が市場に存在することは、日本でも市場や企業経営の効率化の観点から極めてポジティブだと思われます。それを政財界が「金の亡者」と一斉に批判する姿には、若干の怖さを感じます。そんな「有名人税」にめげずに、PEファンドの一層の活躍と、それによる株式バリュエーションの適正化の流れを期待したいと思います。
(Euronextの写真はhttp://www.beleggersbelangen.nl/web/show/id=60703/contentid=33012より)
by harry_g
| 2006-06-17 07:24
| LBO・プライベートエクイティ


