2006年 06月 04日
宇宙事業のバイアウト |
この画像、何だかご存知でしょうか。 これはアメリカのLiftPort Groupと言う会社が開発中の「宇宙エレベーター」です。
同社の『リフトポート・スペース・エレベーター』構想では、上空10万キロの宇宙空間まで、カーボン・ナノチューブと呼ばれる鋼鉄の300倍の強度を持つ新素材で出来たケーブルを張り、そこにロボット昇降機を取り付けて、物資や人間を宇宙まで運搬する計画だそうです。地球上のベースとなるのは太平洋上の赤道付近に建設される海上プラットフォームで、そこからエレベーターの下面に張り付けられた太陽電池に強力なレーザー光線を照射することで、重さが20トン近くにもなると言う昇降機を動かす計画だそうです。このリンクに行くと、動画でこの計画を見ることが出来ます。
こんな荒唐無稽なものが実現するのかと思ってしまいますが、2018年4月12日の運行開始を目指しているそうです。技術開発には米航空宇宙局(NASA)も協力しているそうで、スペースステーションの建設などに関連した物資の運搬に、スペースシャトルを使うよりも大幅なコスト削減が見込めるそうです。スペースシャトルコロンビア号の惨事などを受け、今までと違う方法で宇宙に到達する方法の開発が注目される中での、一つの有力なアイデア案だそうです。
実現が15年も先と思われるこんな事業(?)ですが、現時点ではNASAやLiftPort社に加えて、色々な航空宇宙技術の開発に関する財団や大学が技術開発にお金を出してやっているようです。最終的にどういった事業になるのか分かりませんが、何とも夢のある話です。アメリカに住んでいると高い税金に悩まされますが、そのお金の一部がこういう技術の開発に使われていると思うと、若干フラストレーションも収まる気がします。
こういう話は何となくSF映画の中だけの話のように思えてしまいますが、実際には宇宙は現在でも、通信や放送など様々な形で広く利用されています。
例えばFSS(Fixed Satellite Services、固定衛星通信)と呼ばれる企業は、衛星を宇宙にある「鏡」のように利用して、大陸間やアメリカ国内でポイントからポイントでの画像やデータの送受信を行っている企業です。代表的なものには、かつて世界各国の政府によって保有されていたIntelsat、アメリカのPanAmSat、ヨーロッパのSESやEutelsatなどがあり、例えば全米に放送局を持つケーブルテレビ会社の映像を映像センターから各地に配信したり、大手地上通信会社の光ファイバーのバックアップ回線を提供したりしています。
投資銀行ではこうした会社にもM&Aやらファイナンシングやらのアドバイスを提供していますが、当時こうした会社のEarth Station(地上基地局)にアンテナを見に行ったり、打ち上げロケットに関するデューディリジェンスをしていると、それこそSF映画に入り込んだような不思議な気持ちになったものです。
FSSは、一基250億円ほどする衛星をいくつか打ち上げてしまえばその後は設備投資も不要で、かつサービス契約が10年前後にも及ぶため、キャッシュフローが極めて安定しかつ予測しやすい事業です。その結果衛星通信セクターは、格好のLBOのターゲットになって来ました。
代表的なものでも、IntelsatがApollo、MDP、Apax(英)、Permira(英)に、PanAmSatがKKR、Carlyle、Providenceに、EutelsatがまずLehman Brothersなど、後に別の欧州の投資家に、そしてIntelsatから分離したNewSkiesがBlackstoneに、LBOの形で買収されました。
SECのドキュメントでも確認できますが、買収の際に用いたレバレッジはEBITDAの6倍から7倍にも及びます。それでも厚いキャッシュフローが毎年確実に期待できるため、シニアのファイナンシングもつけやすく、またPIKと呼ばれるゼロクーポン債を利用してレバレッジの最大化を図ることも比較的容易になります。(ただしレバレッジの計算をする時には、15年に一度程度のタイミングで発生する設備投資を試用期間に渡って「標準化」してキャッシュフローを計算しています。)
設備投資が15年に一度とは言え、衛星が故障したりしたらどうするのか、と考える方もいるかもしれません。実際、軌道上にある衛星に保険をかけると極めて高くつくため、打ち上げの際にのみ保険をかけることが通常です。よって万が一衛星に何かあると、企業は全てのコストを負担することになります。そして実際、LBOが発表されてからクローズするまでに、PanAmSatもIntelsatも衛星の故障を経験しており、デットの投資家などからは心配の声が上がりました。
それでもLBOファンドから見てみると、これだけキャッシュフローの見通しが立て易いセクターは少なく、また当時のIPOやデット市場の強さを持ってすれば短期での投資元本の回収が可能、よってリスクは低いと判断したものと思われます。よって衛星の故障によって買収価格の再交渉をすることもなく、スムーズな買収が行われたと記憶しています。
このようにしてFSS企業をバイアウトしたファンドは、買収後1年以内にRecapを行って投資元本の多くを回収したり、すぐに株式を上場したりM&Aをして事業の一部から全部を売却することで、それこそ投資元本の何倍(IRRにして100%超)と言うリターンを手にしています。そんなアクションが前回にも書いた投資家からのPEファンドへの批判につながったこともありますが、ファンド側は市場環境を適切に判断した上で投資の実行を行ったまでであり、被りえたリスクを考えると、むしろ果敢かつ極めて適切な判断だったと言える気がします。
ともかくこんなわけでFSS業界は、文字通りLBOのモデルケースのようなセクターとなっています。関心のある方はフォローしてみると面白いかもしれません。
(写真はhttp://www.wired.com/news/images/0,2334,57536-6284,00.htmlより)
同社の『リフトポート・スペース・エレベーター』構想では、上空10万キロの宇宙空間まで、カーボン・ナノチューブと呼ばれる鋼鉄の300倍の強度を持つ新素材で出来たケーブルを張り、そこにロボット昇降機を取り付けて、物資や人間を宇宙まで運搬する計画だそうです。地球上のベースとなるのは太平洋上の赤道付近に建設される海上プラットフォームで、そこからエレベーターの下面に張り付けられた太陽電池に強力なレーザー光線を照射することで、重さが20トン近くにもなると言う昇降機を動かす計画だそうです。このリンクに行くと、動画でこの計画を見ることが出来ます。
こんな荒唐無稽なものが実現するのかと思ってしまいますが、2018年4月12日の運行開始を目指しているそうです。技術開発には米航空宇宙局(NASA)も協力しているそうで、スペースステーションの建設などに関連した物資の運搬に、スペースシャトルを使うよりも大幅なコスト削減が見込めるそうです。スペースシャトルコロンビア号の惨事などを受け、今までと違う方法で宇宙に到達する方法の開発が注目される中での、一つの有力なアイデア案だそうです。
実現が15年も先と思われるこんな事業(?)ですが、現時点ではNASAやLiftPort社に加えて、色々な航空宇宙技術の開発に関する財団や大学が技術開発にお金を出してやっているようです。最終的にどういった事業になるのか分かりませんが、何とも夢のある話です。アメリカに住んでいると高い税金に悩まされますが、そのお金の一部がこういう技術の開発に使われていると思うと、若干フラストレーションも収まる気がします。
こういう話は何となくSF映画の中だけの話のように思えてしまいますが、実際には宇宙は現在でも、通信や放送など様々な形で広く利用されています。
例えばFSS(Fixed Satellite Services、固定衛星通信)と呼ばれる企業は、衛星を宇宙にある「鏡」のように利用して、大陸間やアメリカ国内でポイントからポイントでの画像やデータの送受信を行っている企業です。代表的なものには、かつて世界各国の政府によって保有されていたIntelsat、アメリカのPanAmSat、ヨーロッパのSESやEutelsatなどがあり、例えば全米に放送局を持つケーブルテレビ会社の映像を映像センターから各地に配信したり、大手地上通信会社の光ファイバーのバックアップ回線を提供したりしています。
投資銀行ではこうした会社にもM&Aやらファイナンシングやらのアドバイスを提供していますが、当時こうした会社のEarth Station(地上基地局)にアンテナを見に行ったり、打ち上げロケットに関するデューディリジェンスをしていると、それこそSF映画に入り込んだような不思議な気持ちになったものです。
FSSは、一基250億円ほどする衛星をいくつか打ち上げてしまえばその後は設備投資も不要で、かつサービス契約が10年前後にも及ぶため、キャッシュフローが極めて安定しかつ予測しやすい事業です。その結果衛星通信セクターは、格好のLBOのターゲットになって来ました。
代表的なものでも、IntelsatがApollo、MDP、Apax(英)、Permira(英)に、PanAmSatがKKR、Carlyle、Providenceに、EutelsatがまずLehman Brothersなど、後に別の欧州の投資家に、そしてIntelsatから分離したNewSkiesがBlackstoneに、LBOの形で買収されました。
SECのドキュメントでも確認できますが、買収の際に用いたレバレッジはEBITDAの6倍から7倍にも及びます。それでも厚いキャッシュフローが毎年確実に期待できるため、シニアのファイナンシングもつけやすく、またPIKと呼ばれるゼロクーポン債を利用してレバレッジの最大化を図ることも比較的容易になります。(ただしレバレッジの計算をする時には、15年に一度程度のタイミングで発生する設備投資を試用期間に渡って「標準化」してキャッシュフローを計算しています。)
設備投資が15年に一度とは言え、衛星が故障したりしたらどうするのか、と考える方もいるかもしれません。実際、軌道上にある衛星に保険をかけると極めて高くつくため、打ち上げの際にのみ保険をかけることが通常です。よって万が一衛星に何かあると、企業は全てのコストを負担することになります。そして実際、LBOが発表されてからクローズするまでに、PanAmSatもIntelsatも衛星の故障を経験しており、デットの投資家などからは心配の声が上がりました。
それでもLBOファンドから見てみると、これだけキャッシュフローの見通しが立て易いセクターは少なく、また当時のIPOやデット市場の強さを持ってすれば短期での投資元本の回収が可能、よってリスクは低いと判断したものと思われます。よって衛星の故障によって買収価格の再交渉をすることもなく、スムーズな買収が行われたと記憶しています。
このようにしてFSS企業をバイアウトしたファンドは、買収後1年以内にRecapを行って投資元本の多くを回収したり、すぐに株式を上場したりM&Aをして事業の一部から全部を売却することで、それこそ投資元本の何倍(IRRにして100%超)と言うリターンを手にしています。そんなアクションが前回にも書いた投資家からのPEファンドへの批判につながったこともありますが、ファンド側は市場環境を適切に判断した上で投資の実行を行ったまでであり、被りえたリスクを考えると、むしろ果敢かつ極めて適切な判断だったと言える気がします。
ともかくこんなわけでFSS業界は、文字通りLBOのモデルケースのようなセクターとなっています。関心のある方はフォローしてみると面白いかもしれません。
(写真はhttp://www.wired.com/news/images/0,2334,57536-6284,00.htmlより)
by harry_g
| 2006-06-04 06:24
| LBO・プライベートエクイティ