2006年 05月 29日
プライベートエクイティの「イメージ」戦略 |
先日のウォールストリートジャーナルに、アメリカのLBOファンドが自社の広報活動で色々と頭を悩ませているという話が載っていました。投資の際にショート(空売り)を必要とするヘッジファンドが一般からのイメージが悪いのは分かりやすい話ですが、最近欧米では、確かに飛ぶ鳥を落とす勢いのLBOファンドに対する批判の声も目立ちます。
例えばGoldmanの投資ファンド部門がイギリスで「乗っ取り屋」の批判を浴びてしまった話は以前に書いた通りですし、ここ1、2年はアメリカでも、公開企業を買収し、特に事業の立て直しをするわけでもなく、Recapなどのいわば「ファイナンシャルエンジニアリング」を利用してお金を吐き出させた上に、即転売(M&A)や再上場(IPO)をするという手法は、さすがに一般投資家や金融メディアからの批判の対象になっています。
このような批判はドイツや韓国といったより保守的な国では更に強いそうで、これらの国ではPEファンドは政治家などから「いなご(突然やって来て全てを食い荒らして去っていく存在)」と呼ばれたりしているそうです。これは日本で政治家が外資系ファンドを「ハゲタカ」と呼ぶのと似たような感じかもしれませんが、確かに企業を短期間で売買したり、大量の従業員を解雇したり、負債を負わせてその資金を自分達に配当金で吐き出させたりと言うことだけを聞くと、悪いイメージがつきまとうのも仕方が無いのかもしれません。
ともかくこの問題について、最大手LBOファンド、Blackstone GroupのプレジデントであるTony James氏も、「プライベートエクイティにはイメージの問題がある」と認めているそうで、その対策としてこの記事にあったPEファンドの広報活動は非常に興味深いものです。
例えばBlackstoneでは、積極的に金融ジャーナリストをフォーシーズンズホテルやロンドンの豪奢なオフィスでの朝食会に招いて、自社の活動についてPRを行っているそうで、これなどは投資銀行などが行うアナリストミーティングなどとも共通するものを感じます。それだけ一般からのプライベートエクイティへの注目度が高まったということを意味するのかもしれません。
また、大手LBOファンドTexas Pacific Group (TPG)のアジア部門であるNewbridge Capitalは、韓国で20億円以上を慈善団体に寄付したり、日本や中国では地元の会社にも儲けさせるために、市場に参入した際にあえて地元企業との合弁を設立したりしているそうです。
極めつけは、この話は以前にHBSの友人から聞いたことがある気がしますが、Carlyle Groupの創業者であるDavid Rubenstein氏などは、HBSやMITでプライベートエクイティが企業の競争力アップや雇用の創出に大きく貢献していると積極的に公演したり、更には投資アイデアを考えて、それがCarlyleに採用された学生には、$500,000(約5,500万円)相当の謝礼を払うなどと言うことまでやっているそうです。
以前に常にメディアの批判に晒されるアクティビストファンドの経営者が、広く自分達の活動を「弁護」する手紙を公表したという話を書きましたが、こうして見ていると、欧米の金融業界で「エリート中のエリート」とされる大手のLBOファンドでも、色々な苦労があるようです。
日本では、まず「正当な対価を払って企業を買収する」と言うところから、相手がフィナンシャルバイヤーであるというだけで、心理的抵抗感があると聞きます。そして買収した後も、PEファンドが当然行うような事業のリストラが非常に困難だったりと言うこともあるそうで、欧米に比べて更に苦労が多い気がします。ただそれだけに、うまく案件を得ることが出来れば欧米よりも大きなリターンが期待できるのかもしれません。
ちなみに、PEファンドに対する「辛い」評価は、ウォールストリートからの評価とは大きく異なります。むしろPEファンドが短期間での取引で大きなリターンを上げたりすると、むしろ羨望のまなざしを向けることになり、だからこそ投資銀行が自らバイアウト事業に進出したりしているわけです。
また投資銀行にとっては、積極的なM&A、デットファイナンシング、IPOなどを繰り返すLBOファンドは、投資銀行部や資本市場部にとっては多くのフィーを払ってくれる非常に重要なクライアントですし、またヘッジファンドも、株式部や債券部といったマーケットサイドにとって、コミッションを落としてくれる重要な顧客ということになります。よってPEファンドやヘッジファンドと一緒になっていろいろな取引のアイデアを考案し、その実行まで手助けすることになります。
また、生命保険会社や年金基金などの機関投資家から見ても、受益者のためにも高いリターンを出し続けているプライベートエクイティは、オルタナティブ投資の一つとして是非投資したい先であることは間違いないのではと思います。
(写真は右側がRubenstein氏、http://media.collegepublisher.com/media/paper343/stills/17enlp75.jpgより)
例えばGoldmanの投資ファンド部門がイギリスで「乗っ取り屋」の批判を浴びてしまった話は以前に書いた通りですし、ここ1、2年はアメリカでも、公開企業を買収し、特に事業の立て直しをするわけでもなく、Recapなどのいわば「ファイナンシャルエンジニアリング」を利用してお金を吐き出させた上に、即転売(M&A)や再上場(IPO)をするという手法は、さすがに一般投資家や金融メディアからの批判の対象になっています。
このような批判はドイツや韓国といったより保守的な国では更に強いそうで、これらの国ではPEファンドは政治家などから「いなご(突然やって来て全てを食い荒らして去っていく存在)」と呼ばれたりしているそうです。これは日本で政治家が外資系ファンドを「ハゲタカ」と呼ぶのと似たような感じかもしれませんが、確かに企業を短期間で売買したり、大量の従業員を解雇したり、負債を負わせてその資金を自分達に配当金で吐き出させたりと言うことだけを聞くと、悪いイメージがつきまとうのも仕方が無いのかもしれません。
ともかくこの問題について、最大手LBOファンド、Blackstone GroupのプレジデントであるTony James氏も、「プライベートエクイティにはイメージの問題がある」と認めているそうで、その対策としてこの記事にあったPEファンドの広報活動は非常に興味深いものです。
例えばBlackstoneでは、積極的に金融ジャーナリストをフォーシーズンズホテルやロンドンの豪奢なオフィスでの朝食会に招いて、自社の活動についてPRを行っているそうで、これなどは投資銀行などが行うアナリストミーティングなどとも共通するものを感じます。それだけ一般からのプライベートエクイティへの注目度が高まったということを意味するのかもしれません。
また、大手LBOファンドTexas Pacific Group (TPG)のアジア部門であるNewbridge Capitalは、韓国で20億円以上を慈善団体に寄付したり、日本や中国では地元の会社にも儲けさせるために、市場に参入した際にあえて地元企業との合弁を設立したりしているそうです。
極めつけは、この話は以前にHBSの友人から聞いたことがある気がしますが、Carlyle Groupの創業者であるDavid Rubenstein氏などは、HBSやMITでプライベートエクイティが企業の競争力アップや雇用の創出に大きく貢献していると積極的に公演したり、更には投資アイデアを考えて、それがCarlyleに採用された学生には、$500,000(約5,500万円)相当の謝礼を払うなどと言うことまでやっているそうです。
以前に常にメディアの批判に晒されるアクティビストファンドの経営者が、広く自分達の活動を「弁護」する手紙を公表したという話を書きましたが、こうして見ていると、欧米の金融業界で「エリート中のエリート」とされる大手のLBOファンドでも、色々な苦労があるようです。
日本では、まず「正当な対価を払って企業を買収する」と言うところから、相手がフィナンシャルバイヤーであるというだけで、心理的抵抗感があると聞きます。そして買収した後も、PEファンドが当然行うような事業のリストラが非常に困難だったりと言うこともあるそうで、欧米に比べて更に苦労が多い気がします。ただそれだけに、うまく案件を得ることが出来れば欧米よりも大きなリターンが期待できるのかもしれません。
ちなみに、PEファンドに対する「辛い」評価は、ウォールストリートからの評価とは大きく異なります。むしろPEファンドが短期間での取引で大きなリターンを上げたりすると、むしろ羨望のまなざしを向けることになり、だからこそ投資銀行が自らバイアウト事業に進出したりしているわけです。
また投資銀行にとっては、積極的なM&A、デットファイナンシング、IPOなどを繰り返すLBOファンドは、投資銀行部や資本市場部にとっては多くのフィーを払ってくれる非常に重要なクライアントですし、またヘッジファンドも、株式部や債券部といったマーケットサイドにとって、コミッションを落としてくれる重要な顧客ということになります。よってPEファンドやヘッジファンドと一緒になっていろいろな取引のアイデアを考案し、その実行まで手助けすることになります。
また、生命保険会社や年金基金などの機関投資家から見ても、受益者のためにも高いリターンを出し続けているプライベートエクイティは、オルタナティブ投資の一つとして是非投資したい先であることは間違いないのではと思います。
(写真は右側がRubenstein氏、http://media.collegepublisher.com/media/paper343/stills/17enlp75.jpgより)
by harry_g
| 2006-05-29 10:00
| LBO・プライベートエクイティ