2006年 05月 13日
キャリアの選択 |
アメリカでは投資銀行(セルサイド)で業務経験を積んだ後に投信運用会社やLBOファンドなどのいわゆるバイサイドに移って行く人が比較的多いと言う話をいつか書いた気がしますが、私自身もこのたび7年ほど勤めた投資銀行業界を辞めて、バイサイドに移ることにしました。
投資銀行ではM&Aや資金調達のアレンジをすると言う仕事をしてきましたが、今後は企業分析を行うという仕事内容こそほぼ共通しているものの、その目的は今までのようなクライアントサービス(案件の創出)ではなく、自己の投資判断(投資機会の創出)と言うことになると思います。
私が入るのは「株式ロングショート」と呼ばれる投資戦略を採用しているヘッジファンドで、本社はコネチカット州グリニッヂにあります。
グリニッヂはNYのグランドセントラル駅から電車でボストン方面に向かって1時間くらい行った所にある郊外の住宅地なのですが、かつてLTCMもここに本拠を構えており、今でも全ヘッジファンドの3割強がこの地域に集中していると言われています。(その次に多いのが、NYのPark Avenue沿いだそうです。)
「株式ロングショート」とは、上場株の買い持ち(ロング)と売り持ち(ショート)ポジションを組み合わせることで、マーケットリスクをヘッジしながら「ストックピッキング(銘柄選択)」の精度によって絶対的リターンを上げようとするファンドの総称です。これらのファンドは、一般に考えられるようなヘッジファンドのアグレッシブなイメージと異なり、投資期間も長いものでは1年を超えます。そんなことから、ある意味では投資信託やプライベートエクイティに似ている、と言う人もいるようです。
また銘柄選択のプロセスでは企業のリサーチが必要となるため、ファンドのメンバーにはトレーディング部門の出身者よりも、投資銀行部門(IBD)やプライベートエクイティ、株式調査部門(リサーチ)の出身者が多いようです。現在ではヘッジファンド業界のほぼ半数がこの「株式ロングショート」の戦略を採用していると言われ、90年代に為替市場や債券市場で世界を震撼させたソロスやLTCMなどの「グローバルマクロ」と呼ばれるファンドは、現在では業界全体の10分の1以下に縮小したといわれています。
今回の投資銀行からヘッジファンドへの転職について、「せっかく投資銀行でキャリアを積んで来たのに何でまた最初からやり直すようなことをするのか」と聞かれることもあります。確かに投資銀行と株式投資の業務内容はまさに「似て非なるもの」であり、スポーツに例えるならば、基礎となる体力や筋力は共通しているものの、競技ルールは全く異なると言えるかもしれません。
それでも私は若干のトレーディング業務の経験があったり、またアメリカで不動産投資をやっていたりすることからもお分かりの通り、前々から「投資」と言うことが好きだったこと、また日本とアメリカでの投資銀行でのキャリアに、自分なりの達成感があったことなども、今回の決断の助けになったと思います。
また「バイサイドでもなぜPEファンドでなくヘッジファンドなのか」とは、面接などでも必ず聞かれましたが、個人的にマーケットに関連する仕事が好きなこと、ベアマーケットでも平均的にリターンを上げられるような長期の投資手法を学びたいと思ったこと、自分にとって「スキルのポータビリティ」、つまり世界のどこでも出来るような仕事が望ましかったことなどが、主な理由と言えると思います。
ともかく今回のようなセルサイドからバイサイドと言う動きはアメリカでは比較的頻繁に見られるものですが、投資銀行業務を通じて、企業価値の向上と経営・財務戦略の策定と言う観点から様々なプロダクトの経験を積むことが出来ることは、ロングショートのファンドに行くにしろPEファンドに行くにしろ、非常に大きなメリットになると思います。セルサイドでは案件数が多いほど収益が増える構造になっているため、PEファンドなどと比較しても、必然的に短期間でより多くの経験を積めると言うメリットもある気がします。
もちろんセルサイドでの経験が直接バイサイドで使えるわけではなく、その意味では就職活動には色々な面倒が伴いますし、また以前のブログにも書いた通り、キャリアのタイミングなども重要になってきます。それでもウォールストリートで一般的に見られる一つのキャリアパスとして、挙げられると思います。
ところで私は、今までのキャリアを通じて2回ほど会社を移っています。転職が頻繁に行われるこの業界では別に珍しいことではないかもしれませんが、東京でキャリアを始めた私の場合は、両方とも「ニューヨーク勤務」と言う条件を得ることが目的だったと言っても過言ではありません。
今ではすっかりアメリカが地元になっていますが、アメリカで現地採用のポジションを得るというのは、米国籍か永住権を持っているか、アメリカでの職経験がない限り、なかなか手間のかかる話です。そんな無駄な苦労をしなくても、東京で十分仕事のチャンスはあるかと思いますが、何としてもウォールストリートで働いてみたいという人もいるかもしれないので、そんな話についても、そのうち書いてみたいと思います。
尚、ヘッジファンドは正確には「ウォールストリート(=証券業界)」ではなく、また当面はNY勤務でもなくなるのでブログのタイトルが微妙な感じがしますが、今までも実際の仕事に関することは一切書けなかったこともあり、とりあえずブログは続けられるだけ続ける予定です。引き続き宜しくお願い致します。
(写真はhttp://elenaginsberggreenwichrealtor.com/greenwichlife.htm、http://www.vrtnieuws.net/nieuwsnet_master/versie2/nieuws/details/051007NYSE/index.shtmlより)
投資銀行ではM&Aや資金調達のアレンジをすると言う仕事をしてきましたが、今後は企業分析を行うという仕事内容こそほぼ共通しているものの、その目的は今までのようなクライアントサービス(案件の創出)ではなく、自己の投資判断(投資機会の創出)と言うことになると思います。
私が入るのは「株式ロングショート」と呼ばれる投資戦略を採用しているヘッジファンドで、本社はコネチカット州グリニッヂにあります。
グリニッヂはNYのグランドセントラル駅から電車でボストン方面に向かって1時間くらい行った所にある郊外の住宅地なのですが、かつてLTCMもここに本拠を構えており、今でも全ヘッジファンドの3割強がこの地域に集中していると言われています。(その次に多いのが、NYのPark Avenue沿いだそうです。)
「株式ロングショート」とは、上場株の買い持ち(ロング)と売り持ち(ショート)ポジションを組み合わせることで、マーケットリスクをヘッジしながら「ストックピッキング(銘柄選択)」の精度によって絶対的リターンを上げようとするファンドの総称です。これらのファンドは、一般に考えられるようなヘッジファンドのアグレッシブなイメージと異なり、投資期間も長いものでは1年を超えます。そんなことから、ある意味では投資信託やプライベートエクイティに似ている、と言う人もいるようです。
また銘柄選択のプロセスでは企業のリサーチが必要となるため、ファンドのメンバーにはトレーディング部門の出身者よりも、投資銀行部門(IBD)やプライベートエクイティ、株式調査部門(リサーチ)の出身者が多いようです。現在ではヘッジファンド業界のほぼ半数がこの「株式ロングショート」の戦略を採用していると言われ、90年代に為替市場や債券市場で世界を震撼させたソロスやLTCMなどの「グローバルマクロ」と呼ばれるファンドは、現在では業界全体の10分の1以下に縮小したといわれています。
今回の投資銀行からヘッジファンドへの転職について、「せっかく投資銀行でキャリアを積んで来たのに何でまた最初からやり直すようなことをするのか」と聞かれることもあります。確かに投資銀行と株式投資の業務内容はまさに「似て非なるもの」であり、スポーツに例えるならば、基礎となる体力や筋力は共通しているものの、競技ルールは全く異なると言えるかもしれません。
それでも私は若干のトレーディング業務の経験があったり、またアメリカで不動産投資をやっていたりすることからもお分かりの通り、前々から「投資」と言うことが好きだったこと、また日本とアメリカでの投資銀行でのキャリアに、自分なりの達成感があったことなども、今回の決断の助けになったと思います。
また「バイサイドでもなぜPEファンドでなくヘッジファンドなのか」とは、面接などでも必ず聞かれましたが、個人的にマーケットに関連する仕事が好きなこと、ベアマーケットでも平均的にリターンを上げられるような長期の投資手法を学びたいと思ったこと、自分にとって「スキルのポータビリティ」、つまり世界のどこでも出来るような仕事が望ましかったことなどが、主な理由と言えると思います。
ともかく今回のようなセルサイドからバイサイドと言う動きはアメリカでは比較的頻繁に見られるものですが、投資銀行業務を通じて、企業価値の向上と経営・財務戦略の策定と言う観点から様々なプロダクトの経験を積むことが出来ることは、ロングショートのファンドに行くにしろPEファンドに行くにしろ、非常に大きなメリットになると思います。セルサイドでは案件数が多いほど収益が増える構造になっているため、PEファンドなどと比較しても、必然的に短期間でより多くの経験を積めると言うメリットもある気がします。
もちろんセルサイドでの経験が直接バイサイドで使えるわけではなく、その意味では就職活動には色々な面倒が伴いますし、また以前のブログにも書いた通り、キャリアのタイミングなども重要になってきます。それでもウォールストリートで一般的に見られる一つのキャリアパスとして、挙げられると思います。
ところで私は、今までのキャリアを通じて2回ほど会社を移っています。転職が頻繁に行われるこの業界では別に珍しいことではないかもしれませんが、東京でキャリアを始めた私の場合は、両方とも「ニューヨーク勤務」と言う条件を得ることが目的だったと言っても過言ではありません。
今ではすっかりアメリカが地元になっていますが、アメリカで現地採用のポジションを得るというのは、米国籍か永住権を持っているか、アメリカでの職経験がない限り、なかなか手間のかかる話です。そんな無駄な苦労をしなくても、東京で十分仕事のチャンスはあるかと思いますが、何としてもウォールストリートで働いてみたいという人もいるかもしれないので、そんな話についても、そのうち書いてみたいと思います。
尚、ヘッジファンドは正確には「ウォールストリート(=証券業界)」ではなく、また当面はNY勤務でもなくなるのでブログのタイトルが微妙な感じがしますが、今までも実際の仕事に関することは一切書けなかったこともあり、とりあえずブログは続けられるだけ続ける予定です。引き続き宜しくお願い致します。
(写真はhttp://elenaginsberggreenwichrealtor.com/greenwichlife.htm、http://www.vrtnieuws.net/nieuwsnet_master/versie2/nieuws/details/051007NYSE/index.shtmlより)
by harry_g
| 2006-05-13 14:56
| キャリア・仕事