2006年 05月 03日
KKRへの投資機会 |
最近レバレッジドバイアウト老舗のKKRが、同社の名前を冠した投資ビークルをアムステルダムのユーロネクスト証券取引所に上場する、と言うことが話題になっています。
そのビークルの名前はKKR Private Equity Investors LPと言うそうですが、5月1日のFTやWSJによると、需要総額は$5bn(約5,600億円)に上るそうで、KKRが当初予定していた$1.5bn(約1,700億円)の3倍以上の人気を集めたと言うから驚きです。
PEファンドが投資ビークルを上場させると言うアイデアは、大手LBOファンドApollo Managementが、二年前にBDC(Business Development Company)と呼ばれる投資会社を米国で上場した際に始めて脚光を浴びたと記憶しています。
ApolloもKKRと並ぶ最大手15社程度の一角で、ニューヨークでKKRと同じビルの、しかも隣の階にオフィスを構えています。セントラルパークを見下ろすオフィスには入り口にアポロの大きな石造が置かれ、幅広な通路に並べられた歴史のありそうな家具の上にこれまた歴史のありそうな銃が飾ってあったり、パートナーの部屋が20人くらいは軽く入れそうな会議室くらいあったりと、オフィスもかつての投資銀行のような大層豪華な作りになっています。そのApolloのBDCの案件規模は$1bn以下だったことを考えると、今回のKKRのディールの大きさがうかがえます。
もちろん数年前と今ではLBOマーケットの活況さが大きく異なります。目論見書に開示されているKKRの最近の$6bnのファンドのパフォーマンスは、既に$3.7bnが投資され、その結果$7.2bnもの含み益を含むリターンを上げているそうです。これはフィーなどを差し引いたネットでも55.2%と言う驚異的なリターンであり、この数字を見た投資信託を中心とした投資家が、何とか自分もKKRに投資したいと思っても不思議ではありません。
ただKKR自身も認めている通り、プライベートエクイティ投資も万能と言うわけではありません。KKRも過去のファンドでは、IRRが15%と言うものもあるそうで、今のような活況が続くとは到底思えない、と目論見書の中で投資家に警告しています。いつも書いている通り、現在のLBOマーケットは巨大なレバレッジドファイナンス市場とIPO、M&A市場の活況に支えられています。それが今年に入ってアメリカの長期金利もじわじわと上昇してきており、これがデットや経済全体にどういう影響を与えてくるかには注意が必要です。
そもそもLBOファンドは、通常大手の機関投資家や富裕層などから段階的かつ定期的に資金を集める必要があるため、どうしてもマーケットサイクルからの影響を受けがちです。LBOのエグジットはIPOかM&Aによるポートフォリオ企業の売却であり、そういった市場はマーケット環境が悪化すると急速に縮小するからです。
アメリカにはLBOのセカンダリーマーケット(二次流通市場)も存在し、大手LBOファンドのポートフォリオ企業を買収することを専門にしているファンドも多く存在します。大手ファンドにとってはそういう会社は景気低迷時にありがたいエグジット先となるわけですが、それでもやはり市場環境が悪化し、その結果IRRが悪化し、そして投資家から資金が集めにくい環境は、PEファンドのマネージャーにとっては何とか避けたいところです。
過去に某大手LBOファンドと仕事をしている時に、あるアグレッシブなキャピタルストラクチャーを提案したところ、先方のパートナーが「そんな事が本当に出来るとFidelityに説明できるか?」と言っていたのを覚えています。さすがのLBOファンドもやはり後ろには厳しい投資家が控えている、と言うことなのかもしれません。
それに対して上場投資ビークルは、パブリックエクイティの形で「永久資本」を得ることが出来ます。もちろんこれもマーケットからの影響を完全に排することは出来ませんが、それでも一対一のネゴシエーションに頼った資金調達と比べると利便性が高いと考えられているようです。
そんなこともあってか、KKRの創業者の一人であるHenry Kravisは、今回の案件に3年間も取り掛かっていたそうです。ただこれは正確には、3年前から準備はしてあったがIPO市場とLBO市場の状況から判断して今まで待っていた、と言うのが本当かもしれません。そういった市場環境の判断が出来る辺りもさすがと言う感じです。
このKKRの上場投資ビークル、調達資金の最低75%はKKRがスポンサーとなっている案件に投資され、うち40%はKKRの2006年ファンドに直接投資されるそうです。そして残りの25%は、一般に「Opportunistic Investment」と呼ばれるもの、言いかえれば上場株や社債などにヘッジファンドのような形態で投資されることが予想されています。上場投資ビークルは借入金を利用することも出来るため、レバレッジを利かせて投資リターンの補強をすることも当然可能なのだと思います。
このレバレッジが使える辺りや、一般の投資家では手の出ないような大型LBO案件に投資できるという点は、不動産投資ファンド(REIT)と似たようなものと考えることも出来るかもしれません。ともかく、本体の上場など当然考えないであろうPEファンドが、そのネームバリューと上場市場の厚みを利用して一般投資家から広く資金を集める手段は実に斬新で、今後の成り行きにも注目したいと思います。
(写真はKKR創業者のHenry Kravis、WSJより)
そのビークルの名前はKKR Private Equity Investors LPと言うそうですが、5月1日のFTやWSJによると、需要総額は$5bn(約5,600億円)に上るそうで、KKRが当初予定していた$1.5bn(約1,700億円)の3倍以上の人気を集めたと言うから驚きです。
PEファンドが投資ビークルを上場させると言うアイデアは、大手LBOファンドApollo Managementが、二年前にBDC(Business Development Company)と呼ばれる投資会社を米国で上場した際に始めて脚光を浴びたと記憶しています。
ApolloもKKRと並ぶ最大手15社程度の一角で、ニューヨークでKKRと同じビルの、しかも隣の階にオフィスを構えています。セントラルパークを見下ろすオフィスには入り口にアポロの大きな石造が置かれ、幅広な通路に並べられた歴史のありそうな家具の上にこれまた歴史のありそうな銃が飾ってあったり、パートナーの部屋が20人くらいは軽く入れそうな会議室くらいあったりと、オフィスもかつての投資銀行のような大層豪華な作りになっています。そのApolloのBDCの案件規模は$1bn以下だったことを考えると、今回のKKRのディールの大きさがうかがえます。
もちろん数年前と今ではLBOマーケットの活況さが大きく異なります。目論見書に開示されているKKRの最近の$6bnのファンドのパフォーマンスは、既に$3.7bnが投資され、その結果$7.2bnもの含み益を含むリターンを上げているそうです。これはフィーなどを差し引いたネットでも55.2%と言う驚異的なリターンであり、この数字を見た投資信託を中心とした投資家が、何とか自分もKKRに投資したいと思っても不思議ではありません。
ただKKR自身も認めている通り、プライベートエクイティ投資も万能と言うわけではありません。KKRも過去のファンドでは、IRRが15%と言うものもあるそうで、今のような活況が続くとは到底思えない、と目論見書の中で投資家に警告しています。いつも書いている通り、現在のLBOマーケットは巨大なレバレッジドファイナンス市場とIPO、M&A市場の活況に支えられています。それが今年に入ってアメリカの長期金利もじわじわと上昇してきており、これがデットや経済全体にどういう影響を与えてくるかには注意が必要です。
そもそもLBOファンドは、通常大手の機関投資家や富裕層などから段階的かつ定期的に資金を集める必要があるため、どうしてもマーケットサイクルからの影響を受けがちです。LBOのエグジットはIPOかM&Aによるポートフォリオ企業の売却であり、そういった市場はマーケット環境が悪化すると急速に縮小するからです。
アメリカにはLBOのセカンダリーマーケット(二次流通市場)も存在し、大手LBOファンドのポートフォリオ企業を買収することを専門にしているファンドも多く存在します。大手ファンドにとってはそういう会社は景気低迷時にありがたいエグジット先となるわけですが、それでもやはり市場環境が悪化し、その結果IRRが悪化し、そして投資家から資金が集めにくい環境は、PEファンドのマネージャーにとっては何とか避けたいところです。
過去に某大手LBOファンドと仕事をしている時に、あるアグレッシブなキャピタルストラクチャーを提案したところ、先方のパートナーが「そんな事が本当に出来るとFidelityに説明できるか?」と言っていたのを覚えています。さすがのLBOファンドもやはり後ろには厳しい投資家が控えている、と言うことなのかもしれません。
それに対して上場投資ビークルは、パブリックエクイティの形で「永久資本」を得ることが出来ます。もちろんこれもマーケットからの影響を完全に排することは出来ませんが、それでも一対一のネゴシエーションに頼った資金調達と比べると利便性が高いと考えられているようです。
そんなこともあってか、KKRの創業者の一人であるHenry Kravisは、今回の案件に3年間も取り掛かっていたそうです。ただこれは正確には、3年前から準備はしてあったがIPO市場とLBO市場の状況から判断して今まで待っていた、と言うのが本当かもしれません。そういった市場環境の判断が出来る辺りもさすがと言う感じです。
このKKRの上場投資ビークル、調達資金の最低75%はKKRがスポンサーとなっている案件に投資され、うち40%はKKRの2006年ファンドに直接投資されるそうです。そして残りの25%は、一般に「Opportunistic Investment」と呼ばれるもの、言いかえれば上場株や社債などにヘッジファンドのような形態で投資されることが予想されています。上場投資ビークルは借入金を利用することも出来るため、レバレッジを利かせて投資リターンの補強をすることも当然可能なのだと思います。
このレバレッジが使える辺りや、一般の投資家では手の出ないような大型LBO案件に投資できるという点は、不動産投資ファンド(REIT)と似たようなものと考えることも出来るかもしれません。ともかく、本体の上場など当然考えないであろうPEファンドが、そのネームバリューと上場市場の厚みを利用して一般投資家から広く資金を集める手段は実に斬新で、今後の成り行きにも注目したいと思います。
(写真はKKR創業者のHenry Kravis、WSJより)
by harry_g
| 2006-05-03 23:54
| LBO・プライベートエクイティ