2006年 04月 26日
「ウォール」両側のカルチャー |
よく聞かれるので書いてみたいのですが、仕事の専門性が高い投資銀行では、チャイニーズウォール(情報隔壁)の両側、つまり投資銀行部サイドとマーケットサイドのカルチャーは大きく異なります。私はいい加減なキャリアプランニングから業界では珍しく両サイドで働いたことがあるのですが、このカルチャーの違いはかなり明確で、自分自身も相当驚いた記憶があります。
端的に言うと、発行体(主に事業法人)側を向いている投資銀行部(IBD)のカルチャーは、どちらかと言うとおとなしい、プロセスやチームワーク重視のカルチャーです。それに対してマーケットサイド(株式部、債券部、リサーチ)のカルチャーは、どちらかと言うとアグレッシブで、結果重視のカルチャーになります。前者が日本の銀行っぽく、後者が証券会社っぽいと言うと分かりやすいかもしれません。
このようなカルチャーの違いは主に仕事内容の違いから来ているように思います。
IBDの仕事は、企業から信頼を得て案件を取ってくる事業法人営業と、弁護士や会計士のように専門知識を使ってM&Aや資金調達のストラクチャーを考えたり、バリュエーションやドキュメンテーションを着実にこなす仕事の組み合わせになります。前者を広告業界用語を使って「ピッチ」、後者を「エクセキューション」と呼んでいますが、どれも数週間から数年に及ぶプロジェクトベースで動いており、常に数人のチームで動くため、チームワーク、上下関係、プロセスなどは極めて重要になります。
それに対してマーケットサイドでは、主な仕事が機関投資家への証券の売り込み(セールス)、証券の売買(トレーディング)、投資アイデアの検討(リサーチ)です。セールスもトレーディングも「PL」と言う形で幾ら稼いだかが数字で表されますし、リサーチは投資家からの人気投票で決まるリサーチランキングで個人ベースの評価が客観的に表されます。もちろん仕事はセールス、トレーダー、リサーチとチームで行うのですが、これだけ客観的な実績評価がなされると、どうしても個人ベース、結果重視のカルチャーになるのだと思います。
投資銀行の歴史を遡ってみると、元々インベストメントバンキング業務とブローカレッジ業務は別会社のように存在しており、オフィスの場所から給与体系から、何から何まで別だったと聞きます。それが後々徐々に接近して行ったわけですが、やはり究極的には「全く別物」と言える気がします。
昔働いていた某投資銀行でも、ニューヨークの本社ビルは低層階にマーケット部署が集まっており、広いトレーディングルームは大変活気があり、マネージャー席からは全体が見渡せるような設計になっていたのに対し、外部のテナントが入居する中層階を挟んで、投資銀行部のオフィスは眺めの良い高層階に入っていました。
低層階には短気なトレーダー達のニーズを満たすために直通の専用エレベーターがあり、昼食時間も無駄にならないように十分な食べ物を提供するパントリーも充実していました。それに対して高層階の眺めの良い投資銀行部のオフィスは、フロア毎に受付があり、複数のセキュリティ付のドアがあり、内部も細かくパーテーションや個室で仕切られ、通路や受付は木製の家具やら読書ランプやらが置かれ、弁護士事務所のような雰囲気になっていました。 ちなみにバイサイドでも、求められるスキルに関連して、プライベートエクイティはIBのカルチャーに近く、投信会社やヘッジファンドはマーケットサイドのカルチャーに近いと聞きます。もちろん運用会社にも短期のトレーディングショップのようなところからリサーチ重視の長期投資の会社もあるので一言では言えませんが、仕事のスタイルがチームベースか個人ベースかは大きな違いになると思います。
このような仕事の性格の違いに加えて、パフォーマンスの査定方法の違いもカルチャーに影響していると思います。チームプレーが必須であるIBDでは、個人がいくら仕事を取ってきたかやどんなアイデアを出したかと言うことよりも、会社やチームにどれくらい貢献したか、与えられた仕事の達成度はどうかが重視されます。給料も年功序列的であり、短期的に大きく稼ぐことは難しい反面、しっかりチームに貢献してキャリアを続けていれば、確実に昇給が期待出来ます。
それに対してマーケットサイドでは、やはり個人で幾ら稼いだかが最も重視されます。これは年齢や肩書きには基本的には関係なく、稼いだ者が一番偉い(よってトレーダーとデリバティブ部門が一番偉い)と言った雰囲気があります。
こんなカルチャーの違いがあるためか、IBDサイドの若者の中には、結果が給料に結びつきやすいマーケットサイドに憧れる人も多くいます。マーケットサイドはプロセス重視ではないので、勤務時間もはるかに短いのが普通です。IBDではどうしてもチームとの協調が求められるため、日本企業のような「Face Time(顔を見せるためだけに会社に残ること)」も必要になったりしますし、また週末の仕事も当たり前です。
マーケットサイドには、勤務時間がやたら長い割りに収益は自分達と大して変わらないIBを見下すような雰囲気があります。その反面、常に比較的高給に恵まれているIBを羨ましがるような雰囲気もあったりして、まさに「隣の芝は青い」状態と言えそうです。
ちなみにこういった現場の雰囲気をもっと知りたい方は、「大破局(フィアスコ)」、「投資銀行残酷日記」と言った業界に関する暴露本を読むとよいかもしれません。これらは暴露本の性格上物事が大いに誇張されて書いてありますし、筆者個人の経験に基づいているのでフェアな内容とは言えませんが、参考にはなると思います。
(写真は www.wirednewyork.com、www.gwathmeydesign.comより)
端的に言うと、発行体(主に事業法人)側を向いている投資銀行部(IBD)のカルチャーは、どちらかと言うとおとなしい、プロセスやチームワーク重視のカルチャーです。それに対してマーケットサイド(株式部、債券部、リサーチ)のカルチャーは、どちらかと言うとアグレッシブで、結果重視のカルチャーになります。前者が日本の銀行っぽく、後者が証券会社っぽいと言うと分かりやすいかもしれません。
このようなカルチャーの違いは主に仕事内容の違いから来ているように思います。
IBDの仕事は、企業から信頼を得て案件を取ってくる事業法人営業と、弁護士や会計士のように専門知識を使ってM&Aや資金調達のストラクチャーを考えたり、バリュエーションやドキュメンテーションを着実にこなす仕事の組み合わせになります。前者を広告業界用語を使って「ピッチ」、後者を「エクセキューション」と呼んでいますが、どれも数週間から数年に及ぶプロジェクトベースで動いており、常に数人のチームで動くため、チームワーク、上下関係、プロセスなどは極めて重要になります。
それに対してマーケットサイドでは、主な仕事が機関投資家への証券の売り込み(セールス)、証券の売買(トレーディング)、投資アイデアの検討(リサーチ)です。セールスもトレーディングも「PL」と言う形で幾ら稼いだかが数字で表されますし、リサーチは投資家からの人気投票で決まるリサーチランキングで個人ベースの評価が客観的に表されます。もちろん仕事はセールス、トレーダー、リサーチとチームで行うのですが、これだけ客観的な実績評価がなされると、どうしても個人ベース、結果重視のカルチャーになるのだと思います。
投資銀行の歴史を遡ってみると、元々インベストメントバンキング業務とブローカレッジ業務は別会社のように存在しており、オフィスの場所から給与体系から、何から何まで別だったと聞きます。それが後々徐々に接近して行ったわけですが、やはり究極的には「全く別物」と言える気がします。
昔働いていた某投資銀行でも、ニューヨークの本社ビルは低層階にマーケット部署が集まっており、広いトレーディングルームは大変活気があり、マネージャー席からは全体が見渡せるような設計になっていたのに対し、外部のテナントが入居する中層階を挟んで、投資銀行部のオフィスは眺めの良い高層階に入っていました。
低層階には短気なトレーダー達のニーズを満たすために直通の専用エレベーターがあり、昼食時間も無駄にならないように十分な食べ物を提供するパントリーも充実していました。それに対して高層階の眺めの良い投資銀行部のオフィスは、フロア毎に受付があり、複数のセキュリティ付のドアがあり、内部も細かくパーテーションや個室で仕切られ、通路や受付は木製の家具やら読書ランプやらが置かれ、弁護士事務所のような雰囲気になっていました。
このような仕事の性格の違いに加えて、パフォーマンスの査定方法の違いもカルチャーに影響していると思います。チームプレーが必須であるIBDでは、個人がいくら仕事を取ってきたかやどんなアイデアを出したかと言うことよりも、会社やチームにどれくらい貢献したか、与えられた仕事の達成度はどうかが重視されます。給料も年功序列的であり、短期的に大きく稼ぐことは難しい反面、しっかりチームに貢献してキャリアを続けていれば、確実に昇給が期待出来ます。
それに対してマーケットサイドでは、やはり個人で幾ら稼いだかが最も重視されます。これは年齢や肩書きには基本的には関係なく、稼いだ者が一番偉い(よってトレーダーとデリバティブ部門が一番偉い)と言った雰囲気があります。
こんなカルチャーの違いがあるためか、IBDサイドの若者の中には、結果が給料に結びつきやすいマーケットサイドに憧れる人も多くいます。マーケットサイドはプロセス重視ではないので、勤務時間もはるかに短いのが普通です。IBDではどうしてもチームとの協調が求められるため、日本企業のような「Face Time(顔を見せるためだけに会社に残ること)」も必要になったりしますし、また週末の仕事も当たり前です。
マーケットサイドには、勤務時間がやたら長い割りに収益は自分達と大して変わらないIBを見下すような雰囲気があります。その反面、常に比較的高給に恵まれているIBを羨ましがるような雰囲気もあったりして、まさに「隣の芝は青い」状態と言えそうです。
ちなみにこういった現場の雰囲気をもっと知りたい方は、「大破局(フィアスコ)」、「投資銀行残酷日記」と言った業界に関する暴露本を読むとよいかもしれません。これらは暴露本の性格上物事が大いに誇張されて書いてありますし、筆者個人の経験に基づいているのでフェアな内容とは言えませんが、参考にはなると思います。
(写真は www.wirednewyork.com、www.gwathmeydesign.comより)
by harry_g
| 2006-04-26 06:52
| キャリア・仕事