2006年 04月 25日
バンカーの「エグジット」 |
以前にアメリカのインベストメントバンカーの「エグジットプラン」について若干書いたことがあるかと思います。投資銀行業務の知識やスキルは比較的汎用性の高いものであるため、退職後に色々なことをやっている人がいる、と言う話しです。
この話は一般的にはその通りと言えるのですが、バンカー職もレベルによってその「専門度」が変わって来るため、必然的にエグジット先も変わってくるようです。こんな話は何の参考にもなりませんが、興味本位で最近の同僚の退職理由についてタイトル別にちょっと考えてみたいと思います。
投資銀行の社内タイトルが大きく分けて以下の5段階になっていると言うのは、以前にも書いた通りです。
Managing Director
Executive Director (またはDirector、Senior VP)
Vice President (またはDirector)
Associate (またはAssociate Director)
Analyst
それぞれの役割をざっくり言うと、上の2ランクが顧客カバレッジやプロダクトの責任者、VPがプロジェクトマネージャー(現場監督)、そして下のジュニアバンカー2ランクが分析作業やリサーチなどで実際に手を動かす、と言う感じです。
マネージングディレクターは、社内での尊敬度合い的にも給料的にも大変魅力あるポジションですが、ここまでたどり着くにはMBA取得後10年はかかります。その間は週末のカンファレンスコールやら無数の出張やら、尋常でない仕事へのコミットメントが求められるため、MDになる人は相当バンキング業務が好きな人と言えます。その結果このレベルで「何でこの人が?」と思うような人は極めて少なく、毎年多額のフィーを稼げる強力なクライアントリレーションシップと業界知識を持っていたり、M&Aやレバレッジドファイナンスといったプロダクトの深い専門知識を持っていたりします。
そんなMDのエグジットは、大抵同業他社からの引き抜きです。どんなに能力があってもチーム構成などによって自分のカバーしたいクライアントがカバーできなかったり、グループヘッドの地位に上り詰められなかったりと言うことは起こり得ます。こういう人は他社にとって格好の引抜き対象となり、そうした人材移動がよくウォールストリートジャーナルやフィナンシャルタイムズの紙面を賑わせています。
またMDの場合には、大手事業会社のCFOとして引き抜かれるケースも比較的よく見られます。実際クライアントと仕事をしていると、バンカー出身のCFOと出会う機会は非常に多いです。(彼らは我々の内情をよく知っているので非常に働きにくいですが。)また大成功したMDの中には、社内で更に昇進する人や、40歳前後でリタイアする人も中にはいるようです。
次にエグゼクティブディレクターですが、この人たちは実績次第でMDに昇進する予定の人たちです。この人たちが辞める時と言うのは、ここまで勢いで来てしまったけど実は違うことがやりたい、と言って独立などをするケースか、MDと同様に他社からの引き抜きが多いようです。また、事業法人のシニアなポジションで引き抜かれるケースもたまに見られます。最近でも、自分の出身地にある地方銀行のNo.3くらいになった人がいました。
ただEDはMD目前な為か、辞める人は比較的少ないように思います。VP時代に頭角を表わして、将来MDになるポテンシャルを示さないとEDに昇進できないことなども、EDが自信を持って仕事をしている理由なのかもしれません。(と同時にいつまでもMDになれないと、同業他社にMDとして引き抜かれるケースも多くあります。)
バイスプレジデントは、下積みのジュニアバンカーを卒業し、社内的には最終的にはMDになることを期待された人達、と言う位置づけになっています。よってVPを集めた研修では、「皆さんはもはや『199x年入社組』ではなく、『200x年MD組』です!」と言ったような激が飛びます。
そんなVPレベルの人の退社理由で頻繁に見られるのは、外国人バンカーが母国に帰ると言うパターンな気がします。別にNYで外国人バンカーが上り詰められないというわけではありませんが、投資銀行ではクライアントとの関係を何年もかけて構築する必要があるため、外国人にとっては国に帰るならこの段階がベストとなります。
実際、ここ1年で出身国に転勤したり現地の同業他社に転職してしまった同僚が何人もいます。これはさびしい話ですが、ニューヨーク本社で経験を積んだり名を上げた人が世界中のオフィスに散っていくというのは組織全体としては望ましい結果なのかもしれません。
アソシエイトは、MBA卒業後で基本的にモチベーションが高く、ようやく夢のウォールストリートに入れた、この給料なら学生ローンもすぐ返済できるし頑張ろう、と言う人が大半です。と同時に、投資銀行業務の現実を知らないで入社する人も多く、こんなにキツイとは思わなかった、こんな仕事は続けられない、という人もいます。
よってアソシの退社理由の大半は、せっかく入った業界を辞めて別の業界に移るというものです。私の同僚でも、親戚の会社のCEOになると言って辞めた人間、弁護士出身でやはりリーガルの仕事がしたいとスタートアップのジェネラルカウンセルになった人間など、様々な人がいます。また、MBA新卒で入った会社とカルチャーが合わず、同業他社に自ら希望して移っていく人もたまにいるようです。
またアソシエイトレベルでは、PEファンドやヘッジファンドに引き抜かれるケースもたまに見られます。バイサイドの会社から見ると、知識レベル的には即戦力になり、且つマチュリティ(年齢)的にも丁度良いレベルと見えるのかもしれません。
そして最後に、学卒3年目までのアナリストですが、その典型的なエグジット(?)はMBAに行く前にPEファンドやヘッジファンドに移るというものです。最近MBAでは、かつてのように「投資銀行のアナリストプログラムで3年間経験を積みました」と言うだけではなく、もう一つの仕事としてバイサイドか事業法人を経験していることが入学試験の際に強力な「売り」になるそうです。
また、アナリストは投資銀行の中でも最もキツイ、労働時間「無限」の仕事なため、多くの人が二年間で燃え尽きて、MBA前のもう2年間をもっとノンビリ過ごしたい、と言うケースも多いようです。
以上、アメリカではバンカーのエグジットが色々あるように思っていましたが、実際には中堅クラスでのエグジットは比較的困難で、MBA前後くらいの段階で別の道に移って行くか、さもなければMDレベルまで上り詰めるかのどちらかが最も効率が良いようです。投資銀行は元来人の入れ替わりの激しいところですし、アメリカでは「転職=悪」と言う考えはなく、自分のキャリアやライフスタイルに合った仕事にみんなどんどん転職して行きます。それでも行き先に関しては、やはり個人の持つスキルや報酬のレベルに大きく制約されると言うのが現実のようです。
(写真はhttp://sciencecareers.sciencemag.orgより)
この話は一般的にはその通りと言えるのですが、バンカー職もレベルによってその「専門度」が変わって来るため、必然的にエグジット先も変わってくるようです。こんな話は何の参考にもなりませんが、興味本位で最近の同僚の退職理由についてタイトル別にちょっと考えてみたいと思います。
投資銀行の社内タイトルが大きく分けて以下の5段階になっていると言うのは、以前にも書いた通りです。
Managing Director
Executive Director (またはDirector、Senior VP)
Vice President (またはDirector)
Associate (またはAssociate Director)
Analyst
それぞれの役割をざっくり言うと、上の2ランクが顧客カバレッジやプロダクトの責任者、VPがプロジェクトマネージャー(現場監督)、そして下のジュニアバンカー2ランクが分析作業やリサーチなどで実際に手を動かす、と言う感じです。
マネージングディレクターは、社内での尊敬度合い的にも給料的にも大変魅力あるポジションですが、ここまでたどり着くにはMBA取得後10年はかかります。その間は週末のカンファレンスコールやら無数の出張やら、尋常でない仕事へのコミットメントが求められるため、MDになる人は相当バンキング業務が好きな人と言えます。その結果このレベルで「何でこの人が?」と思うような人は極めて少なく、毎年多額のフィーを稼げる強力なクライアントリレーションシップと業界知識を持っていたり、M&Aやレバレッジドファイナンスといったプロダクトの深い専門知識を持っていたりします。
そんなMDのエグジットは、大抵同業他社からの引き抜きです。どんなに能力があってもチーム構成などによって自分のカバーしたいクライアントがカバーできなかったり、グループヘッドの地位に上り詰められなかったりと言うことは起こり得ます。こういう人は他社にとって格好の引抜き対象となり、そうした人材移動がよくウォールストリートジャーナルやフィナンシャルタイムズの紙面を賑わせています。
またMDの場合には、大手事業会社のCFOとして引き抜かれるケースも比較的よく見られます。実際クライアントと仕事をしていると、バンカー出身のCFOと出会う機会は非常に多いです。(彼らは我々の内情をよく知っているので非常に働きにくいですが。)また大成功したMDの中には、社内で更に昇進する人や、40歳前後でリタイアする人も中にはいるようです。
次にエグゼクティブディレクターですが、この人たちは実績次第でMDに昇進する予定の人たちです。この人たちが辞める時と言うのは、ここまで勢いで来てしまったけど実は違うことがやりたい、と言って独立などをするケースか、MDと同様に他社からの引き抜きが多いようです。また、事業法人のシニアなポジションで引き抜かれるケースもたまに見られます。最近でも、自分の出身地にある地方銀行のNo.3くらいになった人がいました。
ただEDはMD目前な為か、辞める人は比較的少ないように思います。VP時代に頭角を表わして、将来MDになるポテンシャルを示さないとEDに昇進できないことなども、EDが自信を持って仕事をしている理由なのかもしれません。(と同時にいつまでもMDになれないと、同業他社にMDとして引き抜かれるケースも多くあります。)
バイスプレジデントは、下積みのジュニアバンカーを卒業し、社内的には最終的にはMDになることを期待された人達、と言う位置づけになっています。よってVPを集めた研修では、「皆さんはもはや『199x年入社組』ではなく、『200x年MD組』です!」と言ったような激が飛びます。
そんなVPレベルの人の退社理由で頻繁に見られるのは、外国人バンカーが母国に帰ると言うパターンな気がします。別にNYで外国人バンカーが上り詰められないというわけではありませんが、投資銀行ではクライアントとの関係を何年もかけて構築する必要があるため、外国人にとっては国に帰るならこの段階がベストとなります。
実際、ここ1年で出身国に転勤したり現地の同業他社に転職してしまった同僚が何人もいます。これはさびしい話ですが、ニューヨーク本社で経験を積んだり名を上げた人が世界中のオフィスに散っていくというのは組織全体としては望ましい結果なのかもしれません。
アソシエイトは、MBA卒業後で基本的にモチベーションが高く、ようやく夢のウォールストリートに入れた、この給料なら学生ローンもすぐ返済できるし頑張ろう、と言う人が大半です。と同時に、投資銀行業務の現実を知らないで入社する人も多く、こんなにキツイとは思わなかった、こんな仕事は続けられない、という人もいます。
よってアソシの退社理由の大半は、せっかく入った業界を辞めて別の業界に移るというものです。私の同僚でも、親戚の会社のCEOになると言って辞めた人間、弁護士出身でやはりリーガルの仕事がしたいとスタートアップのジェネラルカウンセルになった人間など、様々な人がいます。また、MBA新卒で入った会社とカルチャーが合わず、同業他社に自ら希望して移っていく人もたまにいるようです。
またアソシエイトレベルでは、PEファンドやヘッジファンドに引き抜かれるケースもたまに見られます。バイサイドの会社から見ると、知識レベル的には即戦力になり、且つマチュリティ(年齢)的にも丁度良いレベルと見えるのかもしれません。
そして最後に、学卒3年目までのアナリストですが、その典型的なエグジット(?)はMBAに行く前にPEファンドやヘッジファンドに移るというものです。最近MBAでは、かつてのように「投資銀行のアナリストプログラムで3年間経験を積みました」と言うだけではなく、もう一つの仕事としてバイサイドか事業法人を経験していることが入学試験の際に強力な「売り」になるそうです。
また、アナリストは投資銀行の中でも最もキツイ、労働時間「無限」の仕事なため、多くの人が二年間で燃え尽きて、MBA前のもう2年間をもっとノンビリ過ごしたい、と言うケースも多いようです。
以上、アメリカではバンカーのエグジットが色々あるように思っていましたが、実際には中堅クラスでのエグジットは比較的困難で、MBA前後くらいの段階で別の道に移って行くか、さもなければMDレベルまで上り詰めるかのどちらかが最も効率が良いようです。投資銀行は元来人の入れ替わりの激しいところですし、アメリカでは「転職=悪」と言う考えはなく、自分のキャリアやライフスタイルに合った仕事にみんなどんどん転職して行きます。それでも行き先に関しては、やはり個人の持つスキルや報酬のレベルに大きく制約されると言うのが現実のようです。
(写真はhttp://sciencecareers.sciencemag.orgより)
by harry_g
| 2006-04-25 08:34
| キャリア・仕事