2006年 04月 24日
ゴールドマンの悩み? |
米投資銀行大手のGoldman Sachsが、証券業務のみならず自己資本投資部門から大きな利益をあげ、業績が絶好調であるとの話を先月に書きました。
ゴールドマンは投資銀行業務の花形業務とされるM&Aで米国において長らくトップのポジションにあることに加えて、元財務長官のルービン氏が率いたリスクアービトラージ(株式トレーディング)デスクが莫大な利益をあげ、そこの出身者が多くの著名なヘッジファンドを設立して活躍していることなど話題に事欠かないことなどから、しばしば「最強の投資銀行」と言われます。
またゴールドマンは米国においてはバイサイドでも大きな存在感を持っており、資産運用のGSAMは投信業界の最大手の一画と言える規模ですし、日本や中国での活発な投資活動でも知られる自己資本投資部門も、その積極的且つアグレッシブな投資スタイルも手伝って、アメリカのLBOマーケットでトップ10社の一つに入るほどの存在感があります。
そんなゴールドマンですが、最近イギリスで、以前から投資銀行業界で懸念されていた問題が表面化しているようです。その問題とは、セルサイドである証券会社とバイサイドであるLBOファンドの両方を経営することによって発生する問題です。
LBOファンド大手のBlackstoneなどは、以前からセルサイドの投資銀行が積極的にプリンシパルインベストメントに進出していることに対して、アドバイザーであるはずの投資銀行がビッドで競合になるのは由々しき事態だと不満を表明していましたが、それでも結局ファイナンシングに投資銀行を使わざるを得ないことや、Blackstoneの場合はブティックM&Aグループが投資銀行の競合になっていることなどから、投資銀行とLBOファンドの同時経営は基本的には問題なく機能していました。
ところが最近、イギリスでゴールドマンの自己投資部門がいくつかのUnsolicited Bid(敵対的買収と言うとイメージが違うので、自発的買い付けオファーとでも言うのでしょうか)を行ったことで、イギリスの実業界から猛烈な批判を浴びているようです。このことについては4月18日付のフィナンシャルタイムズでも取り上げられており、ゴールドマンのHank Paulson CEOが、自社ファンドで自発的なビッドをしたりその案件に参加したりすることは基本的には禁止する、との発令を出したそうです。(「全面的に」ではないところがポイントですが。)
その記事によるとPaulson氏は、ゴールドマンとして買収ターゲットのマネジメントと敵対する意志がなかったり、既に敵対的買収に晒されている企業にとって「白馬の騎士」としてビッドに望んだり、また複数のファンドの一社としてコンソーシアムに参加したりするだけでも、「ゴールドマンによる買収だ」と見られてしまうことが大きなリスクだと述べています。
こんな問題が発生するのもゴールドマンのレピュテーションならではと言う感じがしますが、同社の強力なネームバリューがアドバイザリー業務や引受業務で非常に力を発揮することは間違いありません。よってこうした自己投資の結果会社の信頼に傷がつき、本業の投資銀行業務に大きな支障をきたしては元も子もないことから、同CEOは「いかなる投資機会も会社のレピュテーションと比べれば取るに足らないものだ」と強調しているそうです。
このような現状の背景には、最近イギリスでのBAA(空港オペレーター)、Mitchells & Butlers(パブチェーン)、ITV(テレビ局)、Associated British Portsなどの買収案件を受けて、「ゴールドマン=乗っ取り屋」的な評判をイギリスで受けてしまっていることが背景にあるようです。まさに投資銀行サイドから見れば、思わぬバックファイアーと言うことになります。
確かにLBOと言うのは、元来Unsolicitedであるケースもかなり多いですし、M&Aの主体となる大手の事業会社や独立系LBOファンドをクライアントとする投資銀行から見れば、コンフリクトの管理上かなりリスキーな商売となります。また、投資のノウハウは投資銀行(セル)サイドでのノウハウが生かせるとは言え、バランスシートリスクを取らないことで儲けを上げるのが投資銀行の元来のビジネスモデルですので、その点からも自己資本をコミットするバイアウトは異質なビジネスと言うことになります。
そんなこともあって、最近では大手の投資銀行がLBOファンド部門を切り離す傾向が見られます。FTにもありましたが、Morgan StanleyとDeutsche Bankは既に完全に切り離し、UBSとJP Morganもつながりを出来るだけ減らす方向で動いています。特にJP Morgan傘下のJP Morgan Partnersはかなり大手のファンドなので、親会社が切り離しの意向を最近表明した時には大きなニュースになりました。
ゴールドマンは今まではセルサイドとバイサイドのコンフリクトの管理に自信を見せており、こういった業界のトレンドには追従しないとのスタンスを取っていましたが、最近のイギリスでの問題如何では、もしかしたらバイサイド部門を切り離すかもしれません。またMerrill LynchやLehman Brothersも、今後の展開によっては自社ファンドの切り離しを検討する可能性がありそうです。
自己投資部門が最近のウォールストリートの好業績を支えていただけに、最近のイギリスでの動きは、今後思わぬ落とし穴になるかもしれません。
ゴールドマンは投資銀行業務の花形業務とされるM&Aで米国において長らくトップのポジションにあることに加えて、元財務長官のルービン氏が率いたリスクアービトラージ(株式トレーディング)デスクが莫大な利益をあげ、そこの出身者が多くの著名なヘッジファンドを設立して活躍していることなど話題に事欠かないことなどから、しばしば「最強の投資銀行」と言われます。
またゴールドマンは米国においてはバイサイドでも大きな存在感を持っており、資産運用のGSAMは投信業界の最大手の一画と言える規模ですし、日本や中国での活発な投資活動でも知られる自己資本投資部門も、その積極的且つアグレッシブな投資スタイルも手伝って、アメリカのLBOマーケットでトップ10社の一つに入るほどの存在感があります。
そんなゴールドマンですが、最近イギリスで、以前から投資銀行業界で懸念されていた問題が表面化しているようです。その問題とは、セルサイドである証券会社とバイサイドであるLBOファンドの両方を経営することによって発生する問題です。
LBOファンド大手のBlackstoneなどは、以前からセルサイドの投資銀行が積極的にプリンシパルインベストメントに進出していることに対して、アドバイザーであるはずの投資銀行がビッドで競合になるのは由々しき事態だと不満を表明していましたが、それでも結局ファイナンシングに投資銀行を使わざるを得ないことや、Blackstoneの場合はブティックM&Aグループが投資銀行の競合になっていることなどから、投資銀行とLBOファンドの同時経営は基本的には問題なく機能していました。
ところが最近、イギリスでゴールドマンの自己投資部門がいくつかのUnsolicited Bid(敵対的買収と言うとイメージが違うので、自発的買い付けオファーとでも言うのでしょうか)を行ったことで、イギリスの実業界から猛烈な批判を浴びているようです。このことについては4月18日付のフィナンシャルタイムズでも取り上げられており、ゴールドマンのHank Paulson CEOが、自社ファンドで自発的なビッドをしたりその案件に参加したりすることは基本的には禁止する、との発令を出したそうです。(「全面的に」ではないところがポイントですが。)
その記事によるとPaulson氏は、ゴールドマンとして買収ターゲットのマネジメントと敵対する意志がなかったり、既に敵対的買収に晒されている企業にとって「白馬の騎士」としてビッドに望んだり、また複数のファンドの一社としてコンソーシアムに参加したりするだけでも、「ゴールドマンによる買収だ」と見られてしまうことが大きなリスクだと述べています。
こんな問題が発生するのもゴールドマンのレピュテーションならではと言う感じがしますが、同社の強力なネームバリューがアドバイザリー業務や引受業務で非常に力を発揮することは間違いありません。よってこうした自己投資の結果会社の信頼に傷がつき、本業の投資銀行業務に大きな支障をきたしては元も子もないことから、同CEOは「いかなる投資機会も会社のレピュテーションと比べれば取るに足らないものだ」と強調しているそうです。
このような現状の背景には、最近イギリスでのBAA(空港オペレーター)、Mitchells & Butlers(パブチェーン)、ITV(テレビ局)、Associated British Portsなどの買収案件を受けて、「ゴールドマン=乗っ取り屋」的な評判をイギリスで受けてしまっていることが背景にあるようです。まさに投資銀行サイドから見れば、思わぬバックファイアーと言うことになります。
確かにLBOと言うのは、元来Unsolicitedであるケースもかなり多いですし、M&Aの主体となる大手の事業会社や独立系LBOファンドをクライアントとする投資銀行から見れば、コンフリクトの管理上かなりリスキーな商売となります。また、投資のノウハウは投資銀行(セル)サイドでのノウハウが生かせるとは言え、バランスシートリスクを取らないことで儲けを上げるのが投資銀行の元来のビジネスモデルですので、その点からも自己資本をコミットするバイアウトは異質なビジネスと言うことになります。
そんなこともあって、最近では大手の投資銀行がLBOファンド部門を切り離す傾向が見られます。FTにもありましたが、Morgan StanleyとDeutsche Bankは既に完全に切り離し、UBSとJP Morganもつながりを出来るだけ減らす方向で動いています。特にJP Morgan傘下のJP Morgan Partnersはかなり大手のファンドなので、親会社が切り離しの意向を最近表明した時には大きなニュースになりました。
ゴールドマンは今まではセルサイドとバイサイドのコンフリクトの管理に自信を見せており、こういった業界のトレンドには追従しないとのスタンスを取っていましたが、最近のイギリスでの問題如何では、もしかしたらバイサイド部門を切り離すかもしれません。またMerrill LynchやLehman Brothersも、今後の展開によっては自社ファンドの切り離しを検討する可能性がありそうです。
自己投資部門が最近のウォールストリートの好業績を支えていただけに、最近のイギリスでの動きは、今後思わぬ落とし穴になるかもしれません。
by harry_g
| 2006-04-24 01:32
| 投資銀行