Googleは何がすごいのか |
若干繰り返しになりますが、筆者は最近のネット業界のトレンドとして、高速インターネットやIT機器の幅広い普及と、それが可能にしたオープンソースと呼ばれる大衆参加型の様々な現象により、「細かい情報を世界中から集めてそれ全体を把握し活用すること」、「ネット上で自動でお金が稼げるようなバーチャル経済圏の確立」、「ロングテール(埋れていた価値)の掘り起こし」が可能になったと主張しています。
分かるような分からないようなそんな感じですが、ともかくそんな最新トレンドの全てを体言している企業が、検索エンジン最大手のGoogleだそうです。Googleのすごさについてはアメリカでは広く知られており、ビジネス雑誌などでも頻繁にGoogle特集を見かけます。「ウェブ進化論」にまとめてあった話も実に興味深いので、Googleの何がそんなにすごいのか、この本に基づいて書いてみたいと思います。
Googleは1998年にスタンフォード大学のコンピュータサイエンス専攻の学生2人が設立した会社で、アメリカでは「サーチとGoogleは同義語」と言われるほどに普及しています。同社は急拡大する事業を支えるために2005年に株式を上場しましたが、以来の時価総額はアメリカ最大手のメディア企業Time Warnerを上回る規模になり、その結果、株主の中に10人以上のビリオネア(純資産1,000億円以上)と1,000人以上のミリオネア(純資産1億円以上)を生んだと言われています。
そんな話に、Google Earthと呼ばれる地球上ほぼ全ての地図(衛星写真)を宇宙からズームアップして見れるサービスや、シリコンバレー特有の「アンチ権力」的なカッコよさも加わって、その人気はとどまるところを知りません。(Google Earthは、ダウンロードするとみんな自宅を探したりと仕事が手につかなくなるので、うちの会社ではアクセス拒否になっています。)
よくGoogleはYahoo!と比較されますが、著者も書いている通り、この二つの企業は似て非なるものです。互いに検索エンジンとして発達し、今ではポータルとして広く普及しているわけですが、Yahoo!が情報の選別や配置に人間(従業員)を介して、「メディア企業」としての性格を強めているのに対して、Googleは「世界中の情報を整理しつくす」と言うミッションを行うのは全てコンピュータであると言う、「テクノロジー企業」としての立場を明確にしています。例えばYahoo!の人気サービスYahoo! Newsは人間が面白そうな記事を選んでいるのに対し、Google Newsはアクセス数の多かった記事をコンピュータが自動検索していると言うわけです。
そんなGoogleですが、「ウェブ進化論」の著者は同社を「ネット上に存在するコンピュータメーカーである」と言っています。通常コンピュータメーカーと言うと、パソコンやサーバーを実際に作って売っているDellやSun Microsystemsのような会社を想像します。我々はメールや文書ファイルなどの情報を全てパソコンのHDDに保存し、情報処理もCPUやメモリーなど手元にあるハードに頼っているのが普通です。それに対してGoogleは、そういった情報の保存や処理を行うコンピュータをインターネットの「向こう側」に一つだけ構築し、それを世界中のユーザーに広く提供しようと言うわけです。
そんなことが可能なら個人でパソコンを買ったりソフトをアップグレードしたりと言う手間やコストの大半は必要なくなり、最低限ネットに接続できるハードさえ持っていれば、あとは全てネット(正確にはGoogleのコンピュータ)に依存できることになります。筆者が言うところの「チープ革命」でネット接続やパソコンが極めて廉価になった今なら、こんなことも不可能ではないかもしれません。
またGoogleのこの「向こう側のコンピュータ」と言う考えが優れているのは、コンピュータを物理的に配布する必要がないため、IT機器の進化を支える規模の経済性を自社内部のみで自由に追求することが出来る上、日進月歩で新化していくコンピュータサイエンスの最新技術を即時に反映したシステムを常に維持することが出来ると言う点だそうです。特に後者はハードやソフトのメーカーにとっては実現が非常に難しいらしく、その点がGoogleの革新的点であるとも言えそうです。
この部分だけでもGoogleの「先鋭さ」が十分に伝わって来ますが、著者によると同社の凄さはそこに留まりません。最初にも書いたとおり、ネット業界の進化のトレンドを全て体現しているのがGoogleと言うわけで、その真髄はそのサービスにあるようです。
これは上で書いたようなコンピュータシステムを作り上げて一体どうやって金を儲けているのかと言う話と関連してきますが、Googleのビジネスモデルは基本的には広告収入です。インターネット会社は発祥以来、利益の多くを広告収入に頼っており、ポータルサイトのビジネスモデルはテレビ局が視聴率を上げてより多くの広告費を取ろうとするのと同じようなものです。これがインターネット=ニューメディアと呼ばれる所以であり、伝統的メディアの経営者が自分達から広告費を奪い取るインターネット企業を忌避する理由でもあります。
しかし一般に考えるような広告とGoogleの「アドセンス」と呼ばれるサービスは、決定的に違うようです。と言うのは、Google Newsと同じような感じで、この広告がコンピュータシステムによって「自動配信」されるからです。
広告主はGoogleに対して出稿を希望しておけば、Googleの検索技術が同社のサービスに登録されている世界中のサイトの中で最も関連のありそうなサイトを自動的に選び出し、そこに自動的に広告が配信されるそうです。これにより広告主は追加コストを広告会社に払うことなく広告効果の継続的増大が期待出来るのみならず、今までメディア企業がリーチすることが出来なかったニッチの部分にまでリーチ出来るようになります。ウェブサイトをGoogleに登録している個人や企業にとっても、何もしなくても誰かが自分のサイトから広告をクリックするだけでお金が落ちるため、リスクフリー、アップサイドは無限大の、しかも「自動の」ビジネスチャンスが提供されることになります。
このビジネスをGoogle側から見てみると、自社の検索技術を活用することでお金が自動的に動き、その一部が自分に入ってくるわけで、広告主→Google→サイトのオーナーと言う「バーチャル経済圏」がネット上に作り上げられたことになります。更に、今まで見向きもされなかったようなニッチのサイトからお金が集まって来る、つまり無に近かったものが集積することで大きな収益源となるわけで、まさに「ロングテール」の活用なわけです。
更にGoogleは、自社が持つ様々な情報、例えば地図情報を一般に広く公開することで、その周辺に育ったビジネスからも利益を吸い上げていると言います。この話はAmazon.comの例を見た方が分かりやすいのですが、Amazonは、自社が有する最も価値ある情報とも言うべき書籍や音楽ソフトの検索情報を一般に公開し、その情報を用いて誰でも好きに商売をしていいですよ、その代わりそこからの儲けの一部だけAmazonに払って下さいね、と言うビジネスモデルを採用したそうです。Amazonが貴重な検索情報を公開(オープンソース化)したことで、実際周辺に多くの関連ビジネスが勝手に立ち上がり、Amazonはそこから自動的に入ってくる収入を大きな成長源にしているそうです。
このようなオープンソースによるバーチャル経済圏設立の動きを、インターネットの第二世代と言う意味を込めて「Web 2.0」と呼ぶそうです。これは、ユーザーを囲い込んでその価値に基づいて広告やEコマースで儲けるという「Web 1.0」と呼ばれる企業が進化した形として、今シリコンバレーで注目されているそうです。(著者は楽天やライブドアなどはこういう技術に対する関心が低く、Web 1.0に留まっていると指摘しています。)
以上の話は専門家でも何でもない私の勝手な理解に基づいているのですが、少なくともこの本で取り上げられていたGoogleやAmazonの例に見られるように、既に十分成功していたビジネスモデルを根本から覆し、一見ものすごくリスキーに見えるオープンソースのステップを踏んで更なる成長を実現してしまった辺り、その勇気と先見の明は賞賛に値する気がします。
こんな「すごい会社」Googleですが、同社の「組織」や「従業員」についての考え方も、ネット業界と全く関係ない世界で働いている人にとっても実に興味深いものです。アメリカIT業界の先鋭さは広く知られているところですが、そういった新しいアイデアやコンセプトがどういう環境で生まれてくるのかと言うことまでは、あまり知られていない気がするからです。
これはウォールストリートについても言えることで、よく外資系は不良債権ビジネスやらプライベートエクイティ投資やら先進的なプロダクトやサービスを生み出すと言われますが、その理由までは良く知られていない気がします。興味深いことに、この「ウェブ進化論」を読んでいて、Googleの組織についての考え方はウォールストリートにも通じるところが多いと感じました。そんなこともまたそのうち書いてみたいと思います。