2006年 02月 26日
"Going Private"? |
Business Week2月27日号の特集記事「Going Private」、内容に賛同するかは別として、なかなか興味深いものでした。
この記事のタイトルである「Private」は、「非上場企業」と言う意味と「プライベートエクイティ・ファンド」と言う意味をかけてあり、最近のPEファンドの躍進の話と、上場企業のCEO達がPEファンドに参加したりPEファンド傘下の企業に経営者として雇われるケースについての話が取り上げられています。
いつもブログで書いているLBOもプライベートエクイティ投資の一つですが、PE投資はLBO以外にも、事業再建型やベンチャー投資など様々な投資手法が存在します。そして会社を買収して事業改革をすることで確実に株主価値を創り出すこの手法は、投資のエグジットが景気の波に左右されやすいと言う欠点があるものの、上場株投資に見られるようなリターンのボラティリティや不確定要因を最小化出来るスマートな投資手法として、欧米では広く利用されています。
プライベートエクイティ・ファンドは、企業を買収した後に事業再生や事業リストラを積極的に手がけることから、ファンドのパートナー(共同経営者)には事業会社の出身者も少なくありません。実際大手LBOファンドの投資家向けプレゼンテーションの中には、いかに自社が実業界とつながっており、優秀な経営経験者を抱えているかと言うことが強調してあったりします。
プライベートエクイティ投資は、経営者の視点に立つと、上場企業であるために必要なこと、例えば四半期毎の決算発表会やSECへのファイリングなどを心配せずに純粋な経営にフォーカスできるという利点があります。Business Weekの記事で取り上げられているCEO達も皆声を揃えて、株主利益の最大化を実現するための未上場会社経営のメリットを力説しています。
確かに短期的な業績のチェックは、長期的視点に立った経営を難しくするかもしれません。そのような理由からアメリカでは、PEファンドが絡まない未上場化のケースも見られます。例えば2004年に大手ケーブルテレビ運営会社であるCox Communicationsが自社株を買い戻す形で非上場化しましたが、その際に同社の経営者は、「今後の通信会社や衛星放送会社との競争に勝ち抜くために必要な投資は、必ずしも短期的に株主に理解されないかもしれない。それでも会社の存続には必要なことなのだ」というような事を言っていたと記憶しています。
これらの議論は真っ当に聞こえるのですが、別に株式を上場していようがいまいが、株主価値を最大化させる経営をしなければいけない事実は変わらないはずです。仮に未上場にしてしまった方が何でも好きなように出来ると言うことであれば、必ずしも株主にとって利益があるとは限りません。
実際、最近LBOファンドが企業を買収した後にDividend Recapによりキャッシュを吐き出し、1年以内に市場に再上場させるようなケースが増えていますが、そのようなIPOに対する株式投資家の目は、相当厳しいものになっています。
とこうして色々と考えてみると、現実の「Going Private」案件には、経営的視点以外のインセンティブが強く働いている気がします。
例えば、「株価が割安である(=自社を割安で「買収」できる)」、「ハイイールドマーケットからの資金調達が容易である」などが、一般に言われるインセンティブとして挙げられます。しかし中でも大きいと思われるのが、以前のブログにも書きましたが、PEファンドやLBO/MBOの、金銭報酬のスキームです。
Business Weekにもありましたが、PEファンドの報酬は、「運用手数料」と「成功報酬」に分かれます。運用手数料は一般的には1.5%程度で、成功報酬はリターンの20%程度と言われています。
例えば1,000億円のファンドを運用し、今年30%のリターンを上げたとします。そうすると、まず運用手数料として15億円が入り、更には1,000億円の30%である300億円の20%、つまり60億円の、合計75億円が入って来ます。このファンドをパートナー4人程度で運営したとすると、75億円から諸経費やパートナー以外の社員の給料を支払った後の60億円程度を4人で山分けすることになり、一人当たりの収入は、実に15億円にもなります。
ファンドの規模は、そのファンドがリターンを上げ続ければ上げ続ける程大きくなって行きます。と言うことは、投資に成功すればするほど、運用手数料、成功報酬共にどんどん増えて行くことになります。そう考えると、リターンを上げるためのインセンティブの大きさは計り知れません。
また、PEファンドに雇われる側の経営者達はどうかと言うと、ファンドのパートナーではないのでフィーの分け前はもらえませんが、その代わりに企業買収時にエクイティの一部を共同投資することが許されます。これはLBOでは比較的一般的に見られるもので、そうすることによって経営者のインタレストを株主価値の向上と直結させるわけです。
インターネットバブルの時代には、ストックオプションを貰い受けた経営者が、企業を出来るだけ短期でIPOさせることで莫大な富を得たケースが多くメディアで取りざたされました。今でもアメリカの大企業のエグゼクティブ達は、10億円、20億円と言った日本では考えられないような給料をもらっているケースも見られます。それでもPE投資のスキームのように、会社の5%、10%といった株式を握れるようなことは稀であり、アップサイドと言う点から、上場企業経営よりも未上場企業の経営の方が、経営者にとってのインセンティブが大きいのだろうと想像されます。
Business Weekでは、アパレル大手のAnnTaylorとGapのトップを歴任し、現在は大手LBOファンドであるTPG(Texas Pacific Group)傘下で、J. Crew GroupのCEOを勤めるMicky Drexlerの話が取り上げられていました。同氏の給料は若干20万ドル(約2,400万円)だそうですが、TPGと一緒に自己資金$10mm(約12億円)を投資したおかげで、現在J. Crewの22%の大株主になっているそうです。同氏は企業リストラのプロとして知られており、もしJ. Crewも成功裏に再生して再上場にこぎつければ、同氏の持分は$300mm(約360億円)超にもなる可能性があるそうです。
日本人から見ると、何十億円と言う報酬をもらい、そのために会社を買収してリストラすることで株主利益を出すなんて、何とも卑しく見えるかもしれません。また投資ファンドに代表されるような株主価値を過大に重視した経営スタイルが、失業率の上昇や貧富の差の拡大に代表されるような、様々な社会問題を引き起こしているとの指摘もあります。
ただ個人ベースでの金銭的インセンティブは、アメリカ経済の原動力としてうまく機能していることだけは間違いないと思います。そして何よりも、「生き残りたければ勝ち残れ」的なこのアメリカ独特のカルチャーは、良くも悪くもそうそう変わるものではない気がします。
この記事のタイトルである「Private」は、「非上場企業」と言う意味と「プライベートエクイティ・ファンド」と言う意味をかけてあり、最近のPEファンドの躍進の話と、上場企業のCEO達がPEファンドに参加したりPEファンド傘下の企業に経営者として雇われるケースについての話が取り上げられています。いつもブログで書いているLBOもプライベートエクイティ投資の一つですが、PE投資はLBO以外にも、事業再建型やベンチャー投資など様々な投資手法が存在します。そして会社を買収して事業改革をすることで確実に株主価値を創り出すこの手法は、投資のエグジットが景気の波に左右されやすいと言う欠点があるものの、上場株投資に見られるようなリターンのボラティリティや不確定要因を最小化出来るスマートな投資手法として、欧米では広く利用されています。
プライベートエクイティ・ファンドは、企業を買収した後に事業再生や事業リストラを積極的に手がけることから、ファンドのパートナー(共同経営者)には事業会社の出身者も少なくありません。実際大手LBOファンドの投資家向けプレゼンテーションの中には、いかに自社が実業界とつながっており、優秀な経営経験者を抱えているかと言うことが強調してあったりします。
プライベートエクイティ投資は、経営者の視点に立つと、上場企業であるために必要なこと、例えば四半期毎の決算発表会やSECへのファイリングなどを心配せずに純粋な経営にフォーカスできるという利点があります。Business Weekの記事で取り上げられているCEO達も皆声を揃えて、株主利益の最大化を実現するための未上場会社経営のメリットを力説しています。
確かに短期的な業績のチェックは、長期的視点に立った経営を難しくするかもしれません。そのような理由からアメリカでは、PEファンドが絡まない未上場化のケースも見られます。例えば2004年に大手ケーブルテレビ運営会社であるCox Communicationsが自社株を買い戻す形で非上場化しましたが、その際に同社の経営者は、「今後の通信会社や衛星放送会社との競争に勝ち抜くために必要な投資は、必ずしも短期的に株主に理解されないかもしれない。それでも会社の存続には必要なことなのだ」というような事を言っていたと記憶しています。
これらの議論は真っ当に聞こえるのですが、別に株式を上場していようがいまいが、株主価値を最大化させる経営をしなければいけない事実は変わらないはずです。仮に未上場にしてしまった方が何でも好きなように出来ると言うことであれば、必ずしも株主にとって利益があるとは限りません。
実際、最近LBOファンドが企業を買収した後にDividend Recapによりキャッシュを吐き出し、1年以内に市場に再上場させるようなケースが増えていますが、そのようなIPOに対する株式投資家の目は、相当厳しいものになっています。
とこうして色々と考えてみると、現実の「Going Private」案件には、経営的視点以外のインセンティブが強く働いている気がします。
例えば、「株価が割安である(=自社を割安で「買収」できる)」、「ハイイールドマーケットからの資金調達が容易である」などが、一般に言われるインセンティブとして挙げられます。しかし中でも大きいと思われるのが、以前のブログにも書きましたが、PEファンドやLBO/MBOの、金銭報酬のスキームです。
Business Weekにもありましたが、PEファンドの報酬は、「運用手数料」と「成功報酬」に分かれます。運用手数料は一般的には1.5%程度で、成功報酬はリターンの20%程度と言われています。
例えば1,000億円のファンドを運用し、今年30%のリターンを上げたとします。そうすると、まず運用手数料として15億円が入り、更には1,000億円の30%である300億円の20%、つまり60億円の、合計75億円が入って来ます。このファンドをパートナー4人程度で運営したとすると、75億円から諸経費やパートナー以外の社員の給料を支払った後の60億円程度を4人で山分けすることになり、一人当たりの収入は、実に15億円にもなります。
ファンドの規模は、そのファンドがリターンを上げ続ければ上げ続ける程大きくなって行きます。と言うことは、投資に成功すればするほど、運用手数料、成功報酬共にどんどん増えて行くことになります。そう考えると、リターンを上げるためのインセンティブの大きさは計り知れません。
また、PEファンドに雇われる側の経営者達はどうかと言うと、ファンドのパートナーではないのでフィーの分け前はもらえませんが、その代わりに企業買収時にエクイティの一部を共同投資することが許されます。これはLBOでは比較的一般的に見られるもので、そうすることによって経営者のインタレストを株主価値の向上と直結させるわけです。
インターネットバブルの時代には、ストックオプションを貰い受けた経営者が、企業を出来るだけ短期でIPOさせることで莫大な富を得たケースが多くメディアで取りざたされました。今でもアメリカの大企業のエグゼクティブ達は、10億円、20億円と言った日本では考えられないような給料をもらっているケースも見られます。それでもPE投資のスキームのように、会社の5%、10%といった株式を握れるようなことは稀であり、アップサイドと言う点から、上場企業経営よりも未上場企業の経営の方が、経営者にとってのインセンティブが大きいのだろうと想像されます。
Business Weekでは、アパレル大手のAnnTaylorとGapのトップを歴任し、現在は大手LBOファンドであるTPG(Texas Pacific Group)傘下で、J. Crew GroupのCEOを勤めるMicky Drexlerの話が取り上げられていました。同氏の給料は若干20万ドル(約2,400万円)だそうですが、TPGと一緒に自己資金$10mm(約12億円)を投資したおかげで、現在J. Crewの22%の大株主になっているそうです。同氏は企業リストラのプロとして知られており、もしJ. Crewも成功裏に再生して再上場にこぎつければ、同氏の持分は$300mm(約360億円)超にもなる可能性があるそうです。日本人から見ると、何十億円と言う報酬をもらい、そのために会社を買収してリストラすることで株主利益を出すなんて、何とも卑しく見えるかもしれません。また投資ファンドに代表されるような株主価値を過大に重視した経営スタイルが、失業率の上昇や貧富の差の拡大に代表されるような、様々な社会問題を引き起こしているとの指摘もあります。
ただ個人ベースでの金銭的インセンティブは、アメリカ経済の原動力としてうまく機能していることだけは間違いないと思います。そして何よりも、「生き残りたければ勝ち残れ」的なこのアメリカ独特のカルチャーは、良くも悪くもそうそう変わるものではない気がします。
by harry_g
| 2006-02-26 17:05
| LBO・プライベートエクイティ


