2006年 02月 14日
2種類のクライアント |
アメリカの投資銀行の業務内容は、クライアントのタイプによって大きく二種類に分かれる気がします。一つはLBOファンドやコングロマリット企業などを相手とした「株主価値創造」のサポート業務。そしてもう一つは、未上場企業や中小企業を相手とした「成長支援」業務です。
LBOファンドやプライベート・エクイティ・ファンドはいわば「M&Aのプロ」なので、買収アドバイザリー業務を必要としていません。よって投資銀行が提案するのは、ソーシング(案件の紹介)、資金調達ストラクチャーの提案及び実行、そしてエグジット戦略などになります。
コングロマリット企業を相手にしたプロジェクトも「セミプロ」相手と言えると思います。アメリカの大企業は、株主価値を高めるために、M&Aや財務戦略を専門に扱う部署を社内に抱えています。それらの部署は「Corporate Development」などと呼ばれており、MBAや投資銀行、コンサルティング会社などの出身メンバーで構成されています。この部署はCFOやCSO(最高戦略執行役)の直轄部署として、いわば「インハウス投資銀行」として機能しています。
今ではすっかり慣れましたが、NYに来たばかりの頃に某メディア企業とミーティングをした際、戦略担当の役員とそのスタッフが、バンカーと全く同じ言語を話し、「このマルチプルは0.5ポイントずれてるな、優先株の計算が違うんじゃないか?」とか、「あの会社のマルチプルは××倍だからな、今の金利水準じゃキャッシュディールでも完全にダイリューティブだよ」と普通に話しているのを聞いて、正直驚きました。
そういう会社に対して投資銀行では、特定のM&A案件に関する高度な財務分析、比較的手の込んだ資金調達方法の提案、信用格付と資本コストの関係の分析など、比較的高度なサービスを提供します。こうしたアドバイスのポイントは、いかに株主リターンを改善することが出来るか、いかに投資家の期待に応えることが出来るか、と言った点になります。
また、事業リストラや資本政策等についての「問題提起」は社内で行っていても、必ずしもその「解決策」まで自力で見出せるとは限りません。そこで投資銀行では、マーケットからの情報収集能力を利用して、例えば投資家はこんな要求をしていますが、過去の似たようなケースではこうやって解決されましたよ、とか、投資家はこういう成長ストーリーを求めていますが、実際に買収できる企業はこことここですよ、とか、そこを幾らでどう買収したら、買収後の想定される株価はこうなりますよ、と言ったアドバイスを実行します。
ご想像の通り、以上のようなアドバイスにはかなり手の込んだ財務分析が必要となります。そういった作業が日常的に発生するため、アメリカの投資銀行の若手は、モデリング(財務分析)作業に日々勤しむことになります。(新卒三年目までの若手が「アナリスト」と呼ばれるのには、こういった理由もあるのだと思います。)
このような業務に対して、未上場企業を相手としたIPO(株式上場)業務やM&A業務は、まさに対極的な仕事と言えます。未上場企業はエクイティマーケットと全く接したことがないマネジメントがいるケースも多く、株主価値と言っても具体的に投資家が何を期待しているのか、詳しく分かっていないケースが多くなります。そういった企業に対して投資銀行では、いかに投資家コミュニティと接していくか、自社を上場企業として成長させて行くかをアドバイスする業務を行っています。
例えば、最近米国の某プライベートエクイティファンドの傘下にある未上場企業のIPOディールを担当していますが、このディールでは、株式の投資家が何を期待しているか、バリュエーションについてはどう考えているか、成長ストーリーをどうやって投資家に浸透させるか、上場前に別の方法でファイナンシングが出来ないか、法的・制度的な上場準備は整っているかなど、非常に細かいことまでCEOやCFOと繰り返し話し合っています。その結果作業内容も、コングロマリット企業相手のプロジェクトと異なり、財務モデルの構築とバリュエーションはもちろんのこと、マネジメントプレゼンテーションを作成したり、投資家向けのQ&Aを作成したり、投資家ミーティングのリハーサルを行ったりと、相当多岐に渡ります。
通常IPOは、LBO後の「再上場」案件でもない限り、規模としては数百億円程度の小さいものが多いです。それでもIPOは、比較的フィーが厚いこと、IPOから経営陣との信頼関係を築いていれば後々多くのディールを獲得できる可能性があることから、投資銀行にとっては重要な仕事の一つになります。90年代後半に大手テック企業の案件を相次いで獲得し、最近ではGoogleのIPOの主幹事も勤めたMorgan StanleyとFirst Boston(現Credit Suisse)は、90年代前半にサン・マイクロシステムズやシスコ・システムズと言った企業がまだ小さかった時から、10年かけて関係を発展させて行ったそうです。
・・・こんな感じで二つの全く性格を異にするクライアントと仕事をしているわけですが、「ペース」の違いから苦労もあるものの、その対比はなかなか興味深いものがあります。
(写真はhttp://www.kellogg.northwestern.eduより)
LBOファンドやプライベート・エクイティ・ファンドはいわば「M&Aのプロ」なので、買収アドバイザリー業務を必要としていません。よって投資銀行が提案するのは、ソーシング(案件の紹介)、資金調達ストラクチャーの提案及び実行、そしてエグジット戦略などになります。
コングロマリット企業を相手にしたプロジェクトも「セミプロ」相手と言えると思います。アメリカの大企業は、株主価値を高めるために、M&Aや財務戦略を専門に扱う部署を社内に抱えています。それらの部署は「Corporate Development」などと呼ばれており、MBAや投資銀行、コンサルティング会社などの出身メンバーで構成されています。この部署はCFOやCSO(最高戦略執行役)の直轄部署として、いわば「インハウス投資銀行」として機能しています。
今ではすっかり慣れましたが、NYに来たばかりの頃に某メディア企業とミーティングをした際、戦略担当の役員とそのスタッフが、バンカーと全く同じ言語を話し、「このマルチプルは0.5ポイントずれてるな、優先株の計算が違うんじゃないか?」とか、「あの会社のマルチプルは××倍だからな、今の金利水準じゃキャッシュディールでも完全にダイリューティブだよ」と普通に話しているのを聞いて、正直驚きました。
そういう会社に対して投資銀行では、特定のM&A案件に関する高度な財務分析、比較的手の込んだ資金調達方法の提案、信用格付と資本コストの関係の分析など、比較的高度なサービスを提供します。こうしたアドバイスのポイントは、いかに株主リターンを改善することが出来るか、いかに投資家の期待に応えることが出来るか、と言った点になります。
また、事業リストラや資本政策等についての「問題提起」は社内で行っていても、必ずしもその「解決策」まで自力で見出せるとは限りません。そこで投資銀行では、マーケットからの情報収集能力を利用して、例えば投資家はこんな要求をしていますが、過去の似たようなケースではこうやって解決されましたよ、とか、投資家はこういう成長ストーリーを求めていますが、実際に買収できる企業はこことここですよ、とか、そこを幾らでどう買収したら、買収後の想定される株価はこうなりますよ、と言ったアドバイスを実行します。
ご想像の通り、以上のようなアドバイスにはかなり手の込んだ財務分析が必要となります。そういった作業が日常的に発生するため、アメリカの投資銀行の若手は、モデリング(財務分析)作業に日々勤しむことになります。(新卒三年目までの若手が「アナリスト」と呼ばれるのには、こういった理由もあるのだと思います。)
このような業務に対して、未上場企業を相手としたIPO(株式上場)業務やM&A業務は、まさに対極的な仕事と言えます。未上場企業はエクイティマーケットと全く接したことがないマネジメントがいるケースも多く、株主価値と言っても具体的に投資家が何を期待しているのか、詳しく分かっていないケースが多くなります。そういった企業に対して投資銀行では、いかに投資家コミュニティと接していくか、自社を上場企業として成長させて行くかをアドバイスする業務を行っています。
例えば、最近米国の某プライベートエクイティファンドの傘下にある未上場企業のIPOディールを担当していますが、このディールでは、株式の投資家が何を期待しているか、バリュエーションについてはどう考えているか、成長ストーリーをどうやって投資家に浸透させるか、上場前に別の方法でファイナンシングが出来ないか、法的・制度的な上場準備は整っているかなど、非常に細かいことまでCEOやCFOと繰り返し話し合っています。その結果作業内容も、コングロマリット企業相手のプロジェクトと異なり、財務モデルの構築とバリュエーションはもちろんのこと、マネジメントプレゼンテーションを作成したり、投資家向けのQ&Aを作成したり、投資家ミーティングのリハーサルを行ったりと、相当多岐に渡ります。
通常IPOは、LBO後の「再上場」案件でもない限り、規模としては数百億円程度の小さいものが多いです。それでもIPOは、比較的フィーが厚いこと、IPOから経営陣との信頼関係を築いていれば後々多くのディールを獲得できる可能性があることから、投資銀行にとっては重要な仕事の一つになります。90年代後半に大手テック企業の案件を相次いで獲得し、最近ではGoogleのIPOの主幹事も勤めたMorgan StanleyとFirst Boston(現Credit Suisse)は、90年代前半にサン・マイクロシステムズやシスコ・システムズと言った企業がまだ小さかった時から、10年かけて関係を発展させて行ったそうです。
・・・こんな感じで二つの全く性格を異にするクライアントと仕事をしているわけですが、「ペース」の違いから苦労もあるものの、その対比はなかなか興味深いものがあります。
(写真はhttp://www.kellogg.northwestern.eduより)
by harry_g
| 2006-02-14 11:30
| キャリア・仕事