RJRナビスコの記録 |

それでも最近LBOマーケットの状況は大きく変わって来ています。例えば同じ日に、Bain CapitalがTexas Instrumentsから低成長分野であったセンサー部門を$3 billion(約3,450億円)で買収する、と言うニュースがありました。
LBOについて解説してあるテキストには、R&Dや設備投資といった成長資金(=キャッシュのアウトフロー)を要するテクノロジー分野は最もLBOに向かない分野である、とあります。センサービジネスは投資銀行業界的に言えばGeneral Industrial(一般産業)分野であり、必ずしもテクノロジーとは言えませんが、それでも2005年には、KKRがAgilent Technologiesから半導体事業を$1.1 billion(約1,300億円)で買収したり、Silver Lake他のコンソーシアムがSunGard Data Systemsを$10.8 billion(約1.2兆円)で買収したりと、確実にテクノロジー関連のLBOは増えてきているようです。
また、先日から書いているように、$10 billion規模のファンドレイジングをする大手LBOファンドが何社も存在するようになり、それらのファンドは一つの案件に巨額のエクイティ投資をすることに全く抵抗を示さなくなって来ています。歴史的低金利が有利かつ巨額のデットファイナンシングを引続き支えており、またエグジットとしてのパブリックエクイティやM&Aのマーケットも活況が続いているため、KKRによるRJR NabiscoのLBOの打ち立てた記録が破られるのは、本当に時間の問題かもしれません。
他にも好調なLBOを支えている要因として、企業経営者のメンタリティを挙げる人もいます。最近では株主経営を徹底して経営のスリム化を図っても、なかなか株価に反映されないケースもあり、経営者の多くがフラストレーションを溜めているとの指摘があります。そんな中、LBOでは、現経営者が買収後の企業のエクイティの一部を保有する形態も珍しくなく、またLBOファンドによって経営者が交代させられる場合にも、魅力的な退職金が支払われることが多々あります。そう言ったことが企業経営者のLBOに対する受容的な態度に反映していても不思議ではありません。
とは言え最近では、1980年代とは異なり、最低でも買収金額の2割強はエクイティ出資が必要です。よって例えば$30 billion(約3.5兆円)のディールをやろうと思ったら、$6 billion(約6,900億円)超yと言う、巨額なエクイティ出資が必要となります。この規模になってくると、クラブディールで複数のスポンサーで分割したとしても、1社当りの出資額とリスクは相当なものとなります。そうなってくると、IPOや巨額のシナジーを生むM&Aなど相当確実なエグジットが見えない限り、ディールにゴーサインを出すのは難しいかもしれません。
また、買収に要するデットの規模も、$20 billion(約2.3兆円)超と言う巨額のものになります。最近では$10 billion規模のデット案件もかなりの頻度で見られるようになったので、マーケットは$20 billionのデット案件も受容出来るのかもしれませんが、やはり簡単にとは行かない気がします。
1980年代のLBOブームが、膨れ上がったデットが破裂する形で終焉したこともあり、あまりに巨額なLBOには疑問を呈する向きもあります。それでも巨額の資金がプライベートエクイティマーケットに流入していることを考えると、先日「HFの苦悩とLBOファンド」でも若干触れた通り、高いリターンを求めて巨大なディールを起こす力学が働くのは自然の流れな気がします。今年KKRが18年前に打ち立てた記録が破られるのか、注目されます。