NYのマネージングディレクター像 |
ウォールストリートに限らず、ある業界入ったからにはその世界にドップリ漬かってそこの常識を疑わない方が楽なのですが、(更に言えばそれはそこで成功するためにはある程度必要なことなのですが、)金融のキャリアは自分自身の「長期投資」のようなものなので、それこそマーケットのトレンドに乗るだけではなく、常に長期視点とバランスを保っていたいと思っています。
と言うことで、投資銀行について述べる時も、出来るだけ客観的な評価をしているつもりです。
そしてその流れから(と言うか最近気になることが多かったので)、米国の投資銀行で成功しているインベストメント・バンカー(マネージング・ディレクター)とはどういう人間なのか、典型的な例をご紹介します。
米国のインベストメントバンクの職位がこんな感じであることは、前にも述べました。
<収益責任あり-クライアントサービス中心>
Managing Director
Executive Director (/Sr VP/Director/Principal)
Vice President (/Director)
<収益責任なし-分析作業中心>
Associate (Associate Director) -通常MBAかJD卒
Analyst -学卒
そのの最高位であるマネージングディレクターまで上り詰める人は、数字(モデリング)と文字(ドキュメンテーション)の両方に強く、記憶力がよく多くの人名や数字を覚えており、プレゼンテーション能力や交渉力(押しの強さと引き際の上手さ)があり、リーダーシップ(他人をコントロールする力)があり、更には新しいアイデアを考え出す能力まで兼ねそろえているような人達です。
典型的なMDのバックグラウンドは、学士は東海岸や地元のトップスクールで経済学(Econ)とエンジニアリングの二重専攻をし、GPA3.5以上(日本で言うところのほぼ「全優」)で卒業し、その後に投資銀行、コンサルティング、会計事務所、弁護士事務所などの専門企業に入ります。そして3年程度の「荒修行」を乗り越えた後に、MBA、JD(法学)またはその両方(JD/MBAと言う)を取るために、アイビーリーグの大学に戻ります。
大学院卒業後、アソシエイトとして投資銀行に戻り、M&Aやキャピタルマーケッツといった、いわゆるプロダクトグループで、特定のプロダクトについて徹底的に学びます。または弁護士になって、弁護士事務所でM&A業務を数年勤める人もかなり多くいます。
そしてVPと呼ばれるレベル以上になったある段階で、カバレッジと呼ばれる、いわゆる産業ごとのクライアント担当チームに異動します。そこからは徹底的に業界知識をつけつつ、プロダクトグループ時代に培った知識を武器に、業界との人脈を広げながら社内での立場を固めて行きます。そして最終的にはいくつかの大きなクライアントの信用を得、更には社内の同僚からの信認を兼ねそろえて、MDコミッティからの信任投票でMDに昇進するわけです。
当然このレベルにいたるまでに大学院を出てから10年程度を要し、その間には専門職にありがちな、週末もないような激務(仕事へのコミットメント)を強いられます。そして同僚が諸所の理由からどんどん業界を去って行く中、地道に激務に耐え続け、自分のキャリアを磨いて行きます。(これは弁護士事務所、会計事務所、コンサルティングファームでも同様だと聞きます。)
そんなMDたちを傍目から見ていると、経営意識の高い米国のクライアントをうならせるようなアイデアやプレゼンテーションをする人も多く、本当に大したものだと思います。こういう人達は、大手PEファンドや大企業CFOのポジションなども見えているでしょうが、「セルサイド」である投資銀行で「勝ち続け」ること、懇意にしているクライアントにサービスしながら産業界を動かしていくことを「エンジョイ」しているような人が大半です。
その反面、いつまでも過剰に忙しいMDの中には、思い込みが激しく言い出したら聞かなかったり、ジュニアバンカーの時間や苦労に対する配慮が無かったりと、チームプレーヤーとしては「ネガティブ」な面を抱えている人が多いことも事実です。映画「ウォールストリート」の中でGordon Gekkoが有利な投資情報を求める際に言った台詞、
I don't care where and how you get it. Just get it.
(お前がどこでどう手に入れようと知ったことじゃない。ともかく手に入れろ!)
なんていう態度を取る人もよくいます。
それでもこういう人達がウォールストリートを引っ張って、革新的なディールを生み出したり莫大な利益を上げたりしていることは間違いなく、彼ら・彼女ら(結構女性も多いです)を観察することは、色々な意味で大変興味深いです。