2012年 06月 03日
中国は世界を救・・・えない? |
第1四半期の株式市場の上昇が、たった1ヶ月でもろくも吹き飛ぶ様を目の当たりにした市場では、「6月危機」という言葉が最近よく聞かれます。これはここ数年、年央に何らかの政治的危機によって市場が暴落した経緯があるためと思われますが、今年は昨年2011年に引続き、ギリシャの財政危機とEURO圏崩壊の可能性から目が放せない状況になっています。
リーマン危機が発生して以来、「世界経済の命運は中国が握っている」という言葉が、ウォールストリートや金融メディアの間で、頻繁に聞かれて来ました。日本を抜いて世界第二位の経済大国となり、それでも10%近い実質GDP成長率を維持し続けて来た中国のみが、世界経済をけん引する力を持っているという期待をこめてのことだと思います。

しかし足元の経済情勢を見てみると、ヨーロッパの経済が、財政危機の結果もたらされた緊縮財政によって急速に冷え込む中、中国の景気も、明らかな減速傾向を示しています。その原因は、リーマン危機後の無理をした景気刺激策のツケなど色々な要因が指摘されますが、やはり一番大きな要因は、最大の輸出先であるヨーロッパ経済が、マヒ状態に陥りつつあることではないかという気がします。
今更言うまでもない話ですが、リーマン危機の本質は、欧米のクレジットバブルの崩壊です。そして、その後に発生した不景気は通常の景気サイクルによるものではなく、より深刻な「バランスシート不況」であろうという話は、当ブログでも当時から何度も触れて来ました。
バランスシート不況では、カネという血液が経済に行き渡らなくなるため、財政・金融政策の万策を尽くして、銀行のバランスシートの修復や、財政出動による需要創出によるカネの流通を担保することが求めらることは、リーマン危機後のアメリカの経済政策と、その後の景気の推移から、ある程度明白であると言える気がします。
同様のバランスシート不況にバブル崩壊後に陥った日本では、不良債権処理などで後手に回ってしまった結果、貸し渋り、貸し剥がしと言った信用収縮がデフレスパイラルを招き、今日に至る20年間に渡って、景気の本格浮上を妨げていることは、よく知られるところです。
そうしたバブル現象を研究対象としていたBernanke氏をトップに据えていた米FRBは、日本が13年かかった銀行の不良債権処理を13ヶ月という短期間で断行し、「(空から札をばら撒く)ヘリコプター・ベン」と揶揄されながらも、二度の量的緩和や財政拡大の促進などをホワイトハウスと協同して行うことによって、バランスシート不況の解決に奔走して来ました。
それに対してEUでは、欧州中央銀行(ECB)は今日に至るまで、不況の本質を認識していないか、もしくは現実逃避に走っているように見えます。クレジットの過剰拡大によって住宅バブルが発生したのは、ヨーロッパもアメリカと全く同じであったにも関わらず、ECBは積極的な金融緩和を躊躇し、また財政政策に至っては、ドイツが「無駄遣いで怠け者の南ヨーロッパ各国は、緊縮財政(支出削減)で財政再建せよ」の大号令をかけています。

これは例えて言うならば、アメリカが病人に対して、手段を選ばずにその病気の治癒に専念するために、様々な薬の投入や手術の実施を促したのに対して、ヨーロッパの対応は、薬は副作用もあるからと投入を躊躇し、そもそも病気になった怠惰な生活態度が悪いのだと、重病人に「ジョギングに行って鍛えなおして来い」と言っているようなものです。
ギリシャやスペインでは、政府も銀行もバランスシートがボロボロで、経済活動に必要な信用供給や、場合によっては公務員への給料支払いが出来ない状況にあるようです。にも関わらず、そこに緊縮財政(支出の強制的削減)を迫って、経済規模のさらなる収縮を発生させてしまったら、ギリシャ人がデモを起こしたり、社会主義政党が選挙に勝利するのを見届けるまでもなく、経済の一層の減速がバランスシートを破壊してしまうのは、目に見えている気がします。
実際、最近では、ギリシャのEURO残留については、諦めの声がよく聞かれるようになっているように感じます。そして議論の方向は、いかに秩序立ててギリシャをEUROから離脱させるか、そうでない場合の各国経済への影響はどれくらいになるか、と言ったことに向かっているようです。

しかし、同じようなモラルハザードへの懸念からLehman Brothersを倒産させたことが、世界経済にいかに深刻な影響を与えたかを考えると、ギリシャのEURO脱退が、世界経済の致命傷になり得るのではないだろうかと感じるのは、私のようなマクロ経済の素人だけではない気がします。
実際、Lehmanを破綻させた後に何が起こったかと言うと、次はMerrill Lynchだ、その次はMorgan Stanleyだと、連鎖破綻の恐怖でした。こうした恐怖心は瞬時に信用収縮を招き、まさに心臓麻痺のように経済活動を停止させてしまいました。その結果アメリカ政府は、BOAにMLを救済させ、AIGを直接救済し、MSとGoldman Sachsを銀行に業態変更させることでFRBの保護下に置くなどのウルトラCを次々に繰り出して、危機の収束を図る羽目になりました。あの一週間に、アメリカ政府が対応を誤っていれば、今頃世界経済は、暗闇のどん底にいたかもしれません。
時計の針を早送りして2012年を見てみると、今まさに破綻しようとしているのは、投資銀行一社などではなく、ギリシャという国家です。今までEUROという信用に支えられて来たギリシャ経済やその国の資産が、突如まったく価値の違った通貨でしか評価できなくなることの影響がどんなものか、正直想像がつきません。
しかし間違いなく言えることは、ギリシャがEUROを離脱したら、「次はスペインか、アイルランドか、イタリアか」となることが目に見えている、ということです。遥かに経済規模の大きいそうした国が、万が一経済破綻するようなことになれば、EURO経済圏は事実上崩壊し、EURO建の資産価値は大混乱、欧州経済がストップして世界経済は奈落の底、というシナリオも、非現実的と言い切れないかもしれません。

では今回も2009年のように、中国による世界経済の救援が期待できるのでしょか?残念ながら、答えは明確に「否」である気がします。
中国経済は、よく「設備投資(FAI)が成長の大半を担っている」と言われます。実際にGDPの成長率を分解してみると、FAIの貢献度は過半数前後に達します。中国には、鉄道や道路といったインフラから都市低所得住宅まで、幅広な投資需要があり、また、極めて高い貯蓄率と外貨準備高、外国資産残高を誇る中国は、そうした設備投資のほとんどを国内資金で賄うことが出来ます。
よって過去に韓国やアルゼンチンを襲ったような通貨危機の心配をすることなく、北京政府はGDP成長を後押しすることが出来るように見えます。それが2009年の巨額の景気刺激策に繋がり、先進国が軒並み大幅なGDP縮小を経験するなかで、中国だけは同年も10%近い成長を達成して、世界経済の下支えとなりました。
しかし今日の現実は、そんなに簡単ではありません。と言うのは、リーマン危機後に投入した巨額の景気刺激策(その多くが国営銀行による強制的な貸し出し=クレジットの拡大でした)が、不動産バブルを発生させてしまい、その結果の貧富の差の拡大は、政府の汚職問題と絡んで、社会不安を大幅に増大させる結果となってしまった為です。
中国共産党にとって、社会不安の抑制は最優先事項であり、それが「次の景気刺激策」を打ち出しにくい決定的要因となっています。よく中国の投資家からは、「中国にはまだまだ資金余力があり、取るべき手立ては沢山残されている。だから中国経済は、世界経済とデカップリングしているんだ」という楽観的な声が聞かれます。しかし実際には、思った以上に中国政府の手足は縛られているかもしれません。
更に悪いことに、中国経済がFAIのみに依存しているというのは誤解であり、実態は相当部分が輸出に依存しているものと思われます。実際にGDPに占める総輸出(輸出から輸入を引いた純輸出ではなく)の割合は3割超に達しており、これはアメリカと比較しても、明らかに遥かに高い数字です。(チャートの数字は2010年11月時点での予想値)

リーマン後の日本でもそうでしたが、実際には輸出そのものが減少するのみならず、関連する製造業の設備投資(FAIの3分の1近くを占める)や、そうした製造業の多くを抱える沿海部の消費なども、一気に冷え込むことが予想されます。これらの合計は、中国のGDPの過半数近くに達している可能性もあり、そうなると最大の輸出先であるヨーロッパ経済が崩壊してしまえば、中国は国内の努力では如何ともしがたい、致命的打撃を受けかねません。
これは、今までの世界経済のけん引役に、急ブレーキがかかることを意味しますので、その影響は世界の隅々にまで及ぶものと思われます。例えば中国に大きく依存している資源国(オーストラリア、ブラジル、ロシア、中東など)の経済が大打撃を受けることは想像に難くありませんし、中国人による旺盛な食料品、高級品需要なども、急速に減退してしまうことと思われます。日本企業や韓国企業なども、生産拠点や最終需要地としての中国依存を大幅に高めているため、中国経済の大幅な減速は、短期的にも長期的にも、極めて深刻な問題となってしまう気がします。
このように考えてみると、ギリシャという地中海の小国の財政破綻が、EURO脱退に繋がった場合、その連鎖反応の広がりを軽く見ることは、懸命ではないように思われます。6月半ばに実施される選挙の結果、ギリシャ人がEURO脱退を選ぶかどうかに市場が注目するのには、そのような理由があるものと思われます。
それでは世界経済の命運を握っているのは、ギリシャ国民なのでしょうか?私はそうではない、と思っています。では誰がその立場にいるかというと、「ドイツ」である気がします。
勤勉なドイツ人が、怠け者に見えるギリシャ人のツケを自分達の税金で払うことを嫌がる気持ちは、十分に理解できます。しかもドイツでは、第一次世界大戦の賠償金を支払うための貨幣の乱発によって発生したハイパーインフレが、ナチス台頭を招いたこともあり、中央銀行のブンデスバンクを筆頭に、病的と言えるほどインフレを恐れる傾向があると言われます。

しかし、そんなドイツ人の時代遅れにも見える感情とは関係なく、実際に今日のヨーロッパで発生してしまった「バランスシート不況」の処方箋は、一見インフレを引き起こしてしまうように見える、大幅な金融緩和や財政出動であるように思えます。バランスシートの穴が埋まるまでは、どんなに札をばら撒いたところで、インフレは一切発生しないことは、アメリカ経済の現状を見れば明らかです。
確かにアメリカの量的緩和は、世界に通貨安競争をもたらすなど、様々な副作用を引き起こしています。それでも世界最大の経済であるアメリカが、日本のように、インフレなどより遥かに恐ろしいデフレに陥ってしまうことのデメリットの方が、遥かに大きい気がします。実際に日本では、日銀がゼロ金利政策をとっているにも関わらず、その名目金利からインフレ率(デフレなのでマイナス)を引いた「実質金利」が高止まりしてしまうという、まさに「スパイラル(死の螺旋)」と呼ぶに相応しい状況に陥ってしまっています。
しかもバランスシート不況の対策は、単純な量的緩和にとどまらず、アメリカ政府が国民からの猛烈な批判を浴びながらも、ウォールストリートの救済を行ったように、財政や金融システムの積極的な修復など、やるべきことは沢山あるように思えます。これもまた、日本では、当時批判を集めていた住専や銀行の救済を躊躇した結果、取り返しの付かない結果になったことからの、教訓とも言える気がします。
要するに、ドイツやECBが、インフレ懸念によって積極的な財政拡大や、銀行システムの救済、量的緩和などを躊躇しているとするならば、それは全くの的外れであるように思えます。それを敏感に感じ取ってのことか分かりませんが、EUにおけるドイツの不可分のパートナーであるフランスでは、緊縮財政に後ろ向きな社会主義者の大統領が、誕生するに至っています。
ドイツのMerkel首相にとって不幸なことは、足元のドイツ経済が、EURO安を受けて好調に推移していることです。日本や韓国と並んで代表的な工業輸出国であるドイツが、通貨安の恩恵を受けやすいことは、想像に難くないと思います。それによって彼女は、(彼女が問題の本質を理解していればの話ですが、)有権者の前で現状の政策を覆すことが、極めて困難になってしまっているのではという気がします。
しかしドイツの輸出先の4割がEU域内であることを考えると、ギリシャやスペインのEURO離脱は、共通経済圏の崩壊という形で、確実にドイツに跳ね返る気がします。また、ユーロ域内で最も低い金利を享受しているドイツでは、住宅バブルも発生しつつあり、これでは信用バブルをまた繰り返すことになりかねません。
ではドイツ・EUは、どうすれば良いのでしょうか?
やはり最初のステップとして、「バランスシート不況」という問題の本質を認めた上で、その解決策をアメリカから学ぶことである気がします。実際アメリカも、その対応策を「日本のバブル後の対応から学んだ」と認めており、それがアメリカ経済を、現時点では世界で唯一「相対的に」マシな状況に維持している助けとなっている気がします。
しかしドイツは、自国がEURO圏の他国の信用補完をすることになるユーロ共通債についても、欧州安定メカニズム(ESM)の増額についても、最近持ち上がった域内銀行共同サポートシステムの設置についても、スペインのBankia救済計画で注目を集めている中央銀行による金融機関救済についても、そして何より各国の国民が強く要求している緊縮財政の路線変更についても、全て反対しています。要するに、アメリカがうまく金融危機を抑え込むために使った手法は、全て「否」と言うわけです。
かつてドイツ人の友人が、「ドイツは歴史的に、何か問題が発生すると、常に他人を批判する傾向にある」と自嘲的に話してくれたことがあります。最近では東西ドイツ統一直後の経済混乱期にそのような傾向が見てとれたようですが、現状もまさに同様であるように見えます。そもそも、EURO域内でバブルが発生したのも、リーマン危機後のECBの処理が後手に回ったのも、全てドイツはその「原因」であって、単なる「犠牲者」では決して無い気がします。
かつてダーウィンは進化論の中で、「生き残るのは、強い種族ではなく、最も柔軟に環境に適応できる種族である」といった趣旨のことを述べたそうですが、これは現在の世界経済についても、当てはまることかもしれません。現在、世界経済の命運は、頑固一徹で知られるドイツ人に握られているように見えます。
EURO誕生のルーツは、第二次大戦後に設立された、欧州石炭鉄鋼共同体であると言われます。それはドイツとフランスが、戦争の手段であるエネルギーと鉄を共同保有することで、二度と悲惨な戦いを繰り返さないという強い意志を表明したことと等しかったと言えます。そうした背景があるからこそ、明らかに拙いECBやドイツの対応にも拘らず、EUROは今日まで、ある程度の価値を保って来たと言えるかもしれません。
少々極端かもしれませんが、中国による救済が期待できない今、ドイツ国民がそうしたEUROの真の価値を忘れておらず、自国の短期的利益や立場を頑固に重視しすぎる結果、世界経済を奈落の底に引きずり込まないことを、祈るばかりです。

リーマン危機が発生して以来、「世界経済の命運は中国が握っている」という言葉が、ウォールストリートや金融メディアの間で、頻繁に聞かれて来ました。日本を抜いて世界第二位の経済大国となり、それでも10%近い実質GDP成長率を維持し続けて来た中国のみが、世界経済をけん引する力を持っているという期待をこめてのことだと思います。

しかし足元の経済情勢を見てみると、ヨーロッパの経済が、財政危機の結果もたらされた緊縮財政によって急速に冷え込む中、中国の景気も、明らかな減速傾向を示しています。その原因は、リーマン危機後の無理をした景気刺激策のツケなど色々な要因が指摘されますが、やはり一番大きな要因は、最大の輸出先であるヨーロッパ経済が、マヒ状態に陥りつつあることではないかという気がします。
今更言うまでもない話ですが、リーマン危機の本質は、欧米のクレジットバブルの崩壊です。そして、その後に発生した不景気は通常の景気サイクルによるものではなく、より深刻な「バランスシート不況」であろうという話は、当ブログでも当時から何度も触れて来ました。
バランスシート不況では、カネという血液が経済に行き渡らなくなるため、財政・金融政策の万策を尽くして、銀行のバランスシートの修復や、財政出動による需要創出によるカネの流通を担保することが求めらることは、リーマン危機後のアメリカの経済政策と、その後の景気の推移から、ある程度明白であると言える気がします。
同様のバランスシート不況にバブル崩壊後に陥った日本では、不良債権処理などで後手に回ってしまった結果、貸し渋り、貸し剥がしと言った信用収縮がデフレスパイラルを招き、今日に至る20年間に渡って、景気の本格浮上を妨げていることは、よく知られるところです。
そうしたバブル現象を研究対象としていたBernanke氏をトップに据えていた米FRBは、日本が13年かかった銀行の不良債権処理を13ヶ月という短期間で断行し、「(空から札をばら撒く)ヘリコプター・ベン」と揶揄されながらも、二度の量的緩和や財政拡大の促進などをホワイトハウスと協同して行うことによって、バランスシート不況の解決に奔走して来ました。
それに対してEUでは、欧州中央銀行(ECB)は今日に至るまで、不況の本質を認識していないか、もしくは現実逃避に走っているように見えます。クレジットの過剰拡大によって住宅バブルが発生したのは、ヨーロッパもアメリカと全く同じであったにも関わらず、ECBは積極的な金融緩和を躊躇し、また財政政策に至っては、ドイツが「無駄遣いで怠け者の南ヨーロッパ各国は、緊縮財政(支出削減)で財政再建せよ」の大号令をかけています。

これは例えて言うならば、アメリカが病人に対して、手段を選ばずにその病気の治癒に専念するために、様々な薬の投入や手術の実施を促したのに対して、ヨーロッパの対応は、薬は副作用もあるからと投入を躊躇し、そもそも病気になった怠惰な生活態度が悪いのだと、重病人に「ジョギングに行って鍛えなおして来い」と言っているようなものです。
ギリシャやスペインでは、政府も銀行もバランスシートがボロボロで、経済活動に必要な信用供給や、場合によっては公務員への給料支払いが出来ない状況にあるようです。にも関わらず、そこに緊縮財政(支出の強制的削減)を迫って、経済規模のさらなる収縮を発生させてしまったら、ギリシャ人がデモを起こしたり、社会主義政党が選挙に勝利するのを見届けるまでもなく、経済の一層の減速がバランスシートを破壊してしまうのは、目に見えている気がします。
実際、最近では、ギリシャのEURO残留については、諦めの声がよく聞かれるようになっているように感じます。そして議論の方向は、いかに秩序立ててギリシャをEUROから離脱させるか、そうでない場合の各国経済への影響はどれくらいになるか、と言ったことに向かっているようです。

しかし、同じようなモラルハザードへの懸念からLehman Brothersを倒産させたことが、世界経済にいかに深刻な影響を与えたかを考えると、ギリシャのEURO脱退が、世界経済の致命傷になり得るのではないだろうかと感じるのは、私のようなマクロ経済の素人だけではない気がします。
実際、Lehmanを破綻させた後に何が起こったかと言うと、次はMerrill Lynchだ、その次はMorgan Stanleyだと、連鎖破綻の恐怖でした。こうした恐怖心は瞬時に信用収縮を招き、まさに心臓麻痺のように経済活動を停止させてしまいました。その結果アメリカ政府は、BOAにMLを救済させ、AIGを直接救済し、MSとGoldman Sachsを銀行に業態変更させることでFRBの保護下に置くなどのウルトラCを次々に繰り出して、危機の収束を図る羽目になりました。あの一週間に、アメリカ政府が対応を誤っていれば、今頃世界経済は、暗闇のどん底にいたかもしれません。
時計の針を早送りして2012年を見てみると、今まさに破綻しようとしているのは、投資銀行一社などではなく、ギリシャという国家です。今までEUROという信用に支えられて来たギリシャ経済やその国の資産が、突如まったく価値の違った通貨でしか評価できなくなることの影響がどんなものか、正直想像がつきません。
しかし間違いなく言えることは、ギリシャがEUROを離脱したら、「次はスペインか、アイルランドか、イタリアか」となることが目に見えている、ということです。遥かに経済規模の大きいそうした国が、万が一経済破綻するようなことになれば、EURO経済圏は事実上崩壊し、EURO建の資産価値は大混乱、欧州経済がストップして世界経済は奈落の底、というシナリオも、非現実的と言い切れないかもしれません。

では今回も2009年のように、中国による世界経済の救援が期待できるのでしょか?残念ながら、答えは明確に「否」である気がします。
中国経済は、よく「設備投資(FAI)が成長の大半を担っている」と言われます。実際にGDPの成長率を分解してみると、FAIの貢献度は過半数前後に達します。中国には、鉄道や道路といったインフラから都市低所得住宅まで、幅広な投資需要があり、また、極めて高い貯蓄率と外貨準備高、外国資産残高を誇る中国は、そうした設備投資のほとんどを国内資金で賄うことが出来ます。
よって過去に韓国やアルゼンチンを襲ったような通貨危機の心配をすることなく、北京政府はGDP成長を後押しすることが出来るように見えます。それが2009年の巨額の景気刺激策に繋がり、先進国が軒並み大幅なGDP縮小を経験するなかで、中国だけは同年も10%近い成長を達成して、世界経済の下支えとなりました。
しかし今日の現実は、そんなに簡単ではありません。と言うのは、リーマン危機後に投入した巨額の景気刺激策(その多くが国営銀行による強制的な貸し出し=クレジットの拡大でした)が、不動産バブルを発生させてしまい、その結果の貧富の差の拡大は、政府の汚職問題と絡んで、社会不安を大幅に増大させる結果となってしまった為です。
中国共産党にとって、社会不安の抑制は最優先事項であり、それが「次の景気刺激策」を打ち出しにくい決定的要因となっています。よく中国の投資家からは、「中国にはまだまだ資金余力があり、取るべき手立ては沢山残されている。だから中国経済は、世界経済とデカップリングしているんだ」という楽観的な声が聞かれます。しかし実際には、思った以上に中国政府の手足は縛られているかもしれません。
更に悪いことに、中国経済がFAIのみに依存しているというのは誤解であり、実態は相当部分が輸出に依存しているものと思われます。実際にGDPに占める総輸出(輸出から輸入を引いた純輸出ではなく)の割合は3割超に達しており、これはアメリカと比較しても、明らかに遥かに高い数字です。(チャートの数字は2010年11月時点での予想値)

リーマン後の日本でもそうでしたが、実際には輸出そのものが減少するのみならず、関連する製造業の設備投資(FAIの3分の1近くを占める)や、そうした製造業の多くを抱える沿海部の消費なども、一気に冷え込むことが予想されます。これらの合計は、中国のGDPの過半数近くに達している可能性もあり、そうなると最大の輸出先であるヨーロッパ経済が崩壊してしまえば、中国は国内の努力では如何ともしがたい、致命的打撃を受けかねません。
これは、今までの世界経済のけん引役に、急ブレーキがかかることを意味しますので、その影響は世界の隅々にまで及ぶものと思われます。例えば中国に大きく依存している資源国(オーストラリア、ブラジル、ロシア、中東など)の経済が大打撃を受けることは想像に難くありませんし、中国人による旺盛な食料品、高級品需要なども、急速に減退してしまうことと思われます。日本企業や韓国企業なども、生産拠点や最終需要地としての中国依存を大幅に高めているため、中国経済の大幅な減速は、短期的にも長期的にも、極めて深刻な問題となってしまう気がします。
このように考えてみると、ギリシャという地中海の小国の財政破綻が、EURO脱退に繋がった場合、その連鎖反応の広がりを軽く見ることは、懸命ではないように思われます。6月半ばに実施される選挙の結果、ギリシャ人がEURO脱退を選ぶかどうかに市場が注目するのには、そのような理由があるものと思われます。
それでは世界経済の命運を握っているのは、ギリシャ国民なのでしょうか?私はそうではない、と思っています。では誰がその立場にいるかというと、「ドイツ」である気がします。
勤勉なドイツ人が、怠け者に見えるギリシャ人のツケを自分達の税金で払うことを嫌がる気持ちは、十分に理解できます。しかもドイツでは、第一次世界大戦の賠償金を支払うための貨幣の乱発によって発生したハイパーインフレが、ナチス台頭を招いたこともあり、中央銀行のブンデスバンクを筆頭に、病的と言えるほどインフレを恐れる傾向があると言われます。

しかし、そんなドイツ人の時代遅れにも見える感情とは関係なく、実際に今日のヨーロッパで発生してしまった「バランスシート不況」の処方箋は、一見インフレを引き起こしてしまうように見える、大幅な金融緩和や財政出動であるように思えます。バランスシートの穴が埋まるまでは、どんなに札をばら撒いたところで、インフレは一切発生しないことは、アメリカ経済の現状を見れば明らかです。
確かにアメリカの量的緩和は、世界に通貨安競争をもたらすなど、様々な副作用を引き起こしています。それでも世界最大の経済であるアメリカが、日本のように、インフレなどより遥かに恐ろしいデフレに陥ってしまうことのデメリットの方が、遥かに大きい気がします。実際に日本では、日銀がゼロ金利政策をとっているにも関わらず、その名目金利からインフレ率(デフレなのでマイナス)を引いた「実質金利」が高止まりしてしまうという、まさに「スパイラル(死の螺旋)」と呼ぶに相応しい状況に陥ってしまっています。
しかもバランスシート不況の対策は、単純な量的緩和にとどまらず、アメリカ政府が国民からの猛烈な批判を浴びながらも、ウォールストリートの救済を行ったように、財政や金融システムの積極的な修復など、やるべきことは沢山あるように思えます。これもまた、日本では、当時批判を集めていた住専や銀行の救済を躊躇した結果、取り返しの付かない結果になったことからの、教訓とも言える気がします。
要するに、ドイツやECBが、インフレ懸念によって積極的な財政拡大や、銀行システムの救済、量的緩和などを躊躇しているとするならば、それは全くの的外れであるように思えます。それを敏感に感じ取ってのことか分かりませんが、EUにおけるドイツの不可分のパートナーであるフランスでは、緊縮財政に後ろ向きな社会主義者の大統領が、誕生するに至っています。
ドイツのMerkel首相にとって不幸なことは、足元のドイツ経済が、EURO安を受けて好調に推移していることです。日本や韓国と並んで代表的な工業輸出国であるドイツが、通貨安の恩恵を受けやすいことは、想像に難くないと思います。それによって彼女は、(彼女が問題の本質を理解していればの話ですが、)有権者の前で現状の政策を覆すことが、極めて困難になってしまっているのではという気がします。
しかしドイツの輸出先の4割がEU域内であることを考えると、ギリシャやスペインのEURO離脱は、共通経済圏の崩壊という形で、確実にドイツに跳ね返る気がします。また、ユーロ域内で最も低い金利を享受しているドイツでは、住宅バブルも発生しつつあり、これでは信用バブルをまた繰り返すことになりかねません。
ではドイツ・EUは、どうすれば良いのでしょうか?
やはり最初のステップとして、「バランスシート不況」という問題の本質を認めた上で、その解決策をアメリカから学ぶことである気がします。実際アメリカも、その対応策を「日本のバブル後の対応から学んだ」と認めており、それがアメリカ経済を、現時点では世界で唯一「相対的に」マシな状況に維持している助けとなっている気がします。
しかしドイツは、自国がEURO圏の他国の信用補完をすることになるユーロ共通債についても、欧州安定メカニズム(ESM)の増額についても、最近持ち上がった域内銀行共同サポートシステムの設置についても、スペインのBankia救済計画で注目を集めている中央銀行による金融機関救済についても、そして何より各国の国民が強く要求している緊縮財政の路線変更についても、全て反対しています。要するに、アメリカがうまく金融危機を抑え込むために使った手法は、全て「否」と言うわけです。
かつてドイツ人の友人が、「ドイツは歴史的に、何か問題が発生すると、常に他人を批判する傾向にある」と自嘲的に話してくれたことがあります。最近では東西ドイツ統一直後の経済混乱期にそのような傾向が見てとれたようですが、現状もまさに同様であるように見えます。そもそも、EURO域内でバブルが発生したのも、リーマン危機後のECBの処理が後手に回ったのも、全てドイツはその「原因」であって、単なる「犠牲者」では決して無い気がします。
かつてダーウィンは進化論の中で、「生き残るのは、強い種族ではなく、最も柔軟に環境に適応できる種族である」といった趣旨のことを述べたそうですが、これは現在の世界経済についても、当てはまることかもしれません。現在、世界経済の命運は、頑固一徹で知られるドイツ人に握られているように見えます。
EURO誕生のルーツは、第二次大戦後に設立された、欧州石炭鉄鋼共同体であると言われます。それはドイツとフランスが、戦争の手段であるエネルギーと鉄を共同保有することで、二度と悲惨な戦いを繰り返さないという強い意志を表明したことと等しかったと言えます。そうした背景があるからこそ、明らかに拙いECBやドイツの対応にも拘らず、EUROは今日まで、ある程度の価値を保って来たと言えるかもしれません。
少々極端かもしれませんが、中国による救済が期待できない今、ドイツ国民がそうしたEUROの真の価値を忘れておらず、自国の短期的利益や立場を頑固に重視しすぎる結果、世界経済を奈落の底に引きずり込まないことを、祈るばかりです。

by harry_g
| 2012-06-03 23:19
| 世界経済・市場トレンド


