2011年 11月 20日
ウォールストリート占拠と中国経済の破綻? |
前回のエントリーで報告した通り、2011年9月の中旬に、ニューヨークからアジアの金融センター香港に移りました。9月と10月は引越しで忙しく、ブログ更新が滞ってしまいましたが、その間にも世界は大きく動いていました。
特に気になったのは、日々トップニュースになっている欧州の財政問題ではなく、ニューヨークから発生して世界中に広がった「Occupy Wall Street(ウォールストリートを占拠せよ)」デモの話と、中国株式市場を直撃した「中国経済はとうとうハードランディングするのか」というセンチメントの急激な盛り上がりです。どちらも当ブログに相応しいネタのように思われますので、所感を述べてみます。
ウォールストリートを占拠せよ

最初に、ウォールストリートのお膝元ニューヨークで発生した、「反・ウォールストリート」デモについてです。11月に入って、とうとう強制排除に至ったようですが、発生当時の友人達の話では、観光客が近寄っても全く問題ないような落ち着いた動きで、食料調達係、救護班などのシステムもしっかりしており、「まるで集団キャンプのよう」だと聞いていました。
それでも「ウォールストリート=資本主義=悪」という主張のデモがここまで広がるという事は、注目に値する気がします。当初メディアは、右寄りの「茶会党(Tea Party)」に対抗する左寄りのムーブメントである、それにしてはリーダーや明確な主張が不在である、などと述べていました。しかし徐々にデモの主張は明確になり、貧富の差の解消と、企業家の貪欲さへの反発、それを助長しているように見えるウォールストリートへの反発、などであるようです。
ここ香港でも、金融街Central(中環)にある、香港上海銀行(HSBC)アジア本店下の広場において、同様のデモが繰り広げられています。Queen’s Road 1番地にある同社ビルの隣には、HSBCと並んで香港ドルの発行銀行であるStandard Chartered銀ビル、反対隣にはChina Clubが入居旧・中国銀行ビルがあり、また道の向かいには香港最大手財閥の一つである長江実業集団が建設し、Goldman SachsやBarclays、Bloombergなどが入居するCheung Kong Centerがあります。

香港のデモも、NY同様かなりオーガナイズされており、テントが置かれ、受付のようなデスクも出され、夜には街頭コンサートなども開催されています。しかし、中国ブームに大いに沸き、金融や貿易、商業、不動産によって支えられて、資本主義の牙城と言っても過言ではない香港でもアンチ・ウォールストリートのデモが起こっていることは、興味深い限りです。
このムーブメントの根底にあるのが、高止まりする失業率や、貧富の差の拡大であることは、間違いないように思います。ニューヨークでは、デモ隊は高級住宅街であるパークアベニューまで進み、高額所得者のCEOらに対しての怒りも声高に叫んだと聞いています。
パークアベニューは、マンハッタン東部を南北に走る大通りで、特にミッドタウンのグランドセントラルから北側の45丁目から59丁目までは、大手プライベートエクイティファンド、ヘッジファンド、不動産投資ファンドなどが軒並みオフィスを構えています。JP Morganの本社などもあり、第二のウォールストリートと言っても過言ではありません。
その北側の、セントラルパークの東側に広がるアッパーイーストサイドの60丁目から86丁目くらいまでは、いわゆる「オールドマネー」や、銀行家、経営者、医師、弁護士事務所のパートナーなどが住む、超高級住宅エリアです。デモ隊はそこまで繰り出して行ったそうですが、彼ら・彼女らが批判対象としている人達の耳にも、その不満の声は、ある程度は届いたものと想像します。

貧富の差はウォールストリートのせい?
しかし、高失業率や貧富の差の解消を叫ぶ人が、ウォールストリートを目の敵にするのは何故でしょうか?
そもそも、貧富の差が小さかった時代というのは、いつのどんな時代だったのかと考えると、恐らくそれは、幅広い中間所得層がいた時代、つまり西側先進国においては、第二次世界大戦から1990年前後くらいまでだったのではという気がします。
当時は先進国でもモノが不足しており、多くの人が製造業(モノづくり)に従事していた時代であったのだろうと思います。製造業は大人数を雇用しますし、スキルが付くのに時間がかかり、その間に徐々に給料も上がっていくため、中間所得者層が多く生まれて、貧困層の数は減っていったのだろうと想像します。日本の団塊世代が、アメリカの「芝生の庭付きの家に、マイカー」という生活に憧れたという話は有名です。
しかし、90年代に入ると、先進国には十分にモノが行き渡り、また冷戦終結によって世界は一気にグローバル化しました。
その結果、先進国では、もはや製造業に経済を依存することが困難になり、製造業はどんどん海外へと進出して行きました。
この流れこそが、中間層の消失を招いて、結果的に貧富の差を拡大させてしまったのかもしれません。
そう考えると、今日の先進国における貧富の差の拡大や高失業率に関して、ウォールストリートが批判対象になるというのは、どうもおかしな話です。もちろんウォールストリートに非がないとは言えません。過剰なまでの株主利益の追求は、短期的にリストラを引き起こしたり、過大なリスクテイクによって世界的な経済危機を引き起こしてしまったことは、疑いのない事実です。
しかし製造業人口が減少の一途を辿ることになった先進国では、その受け皿として第三次産業(サービス業)の強化が必須であり、中でも最大の産業の一つが金融業であったことを考えると、ウォールストリートの肥大化もまた、時代の流れの結果であったようにも思えます。特に冷戦後のIT技術の飛躍的発展が、金融機関の能力を格段に高めたことは、広く知られるところです。
(追記:当初は本文内で「製造業の衰退」という表現を用いていましたが、コメントでご指摘を頂いた「製造業の衰退はウソである」という点はごもっともであり、そもそもの意図をより正確にするために、「製造業人口の減少」と書き直しました。参照されていたプレジデントロイターの記事の中で、APPLEが例として取り上げられていましたが、同社はまさに、グローバル化によって製造業労働が海外に転じた格好の例のように思います。
尚、上記のプレジデントロイターの記事の中で「なぜアメリカ金融エリートの報酬は下がらないのか-肥大する「超格差社会」のカラクリ」という本が紹介されていました。アマゾンの書評を読む限りだと、以前に当ブログのエントリー「貪欲国家?アメリカの真実」でも紹介した、「超・格差社会アメリカの真実」という本と、似たような内容のように見受けられますが、機会があったらこちらの本も読んでみたいと思います。)
グローバル化は悪か
では、そもそもグローバル化なんて何のメリットもないじゃないか、と言うことになるかもしれません。おかげで先進国の労働者は職の確保に苦労をし、給料のデフレに苦しんでいます。
また、リーマンショックや、進行中のギリシャ危機が良い例ですが、一企業、一国の危機が世界経済全体に一瞬で波及してしまうなど、明らかにグローバル化のデメリットが目に付くようになっています。
しかしグローバル化は、世界に多くの恩恵もまたもたらしているように思います。先進国では、インフレ無くモノの溢れた豊かな生活ができるようになり、鉱山労働のようなきつく危険な仕事に従事する必要も激減しました。企業の資本コストや海外進出のハードルは低く抑えられ、途上国では多くの人が貧困ラインから脱出しつつあると言われます。
恐らく失業に苦しむアメリカのデモ参加者達も、今までにグローバル化やウォールストリートの発展によるメリットを、色々享受したことと思います。それは日本も同じであり、アメリカ経済が好調であった2007年位までは、円安の進行もあって輸出産業は大いに潤い、小泉政権の経済運営の助けもあって、日本経済は戦後最長の好景気をエンジョイしていました。
「ウォールストリートを占拠せよ」デモの参加者のフラストレーションは理解できますが、そもそもウォールストリートを解体することで、いわゆるホワイトカラー予備軍であるデモ参加者の状況が改善するとは、とても思えません。
生活面で色々迷惑を受けているニューヨークでは、デモへの批判的な声が、かなり高まっているようです。アメリカのウェブ上で話題になったやり取りの要約を取り上げて、この話題の締めとしたいと思います。
デモ参加者 「ウォールストリートは今すぐ大幅な人員削減をして、事業を縮小せよ!」
反論者 「そんな事をして本当にいいのか?ウォールストリートの連中は、休みも取らずに、毎日15時間は働くんだぞ。そんな奴らが労働市場に溢れ出してみろ。お前ら教師なんかの仕事は、一瞬で奴らに取られてしまうだろうさ。」
中国経済のハードランディング?
次に中国経済について、少々書いてみたいと思います。
言うまでもなく中国は、世界中がリーマン危機の後遺症に苦しむ中、経済成長を急減速させることなく、世界経済の成長ドライバーとなって来ました。しかし、そんな中国経済にも、2011年の夏前ごろから、「ハードランディング」シナリオが囁かれるようになりました。
事の発端は、2011年に入って、北京政府が景気の過熱感、特に不動産市場をクールダウンさせるために取った、いくつもの引締め政策にあったように思います。
その効果は5-6月頃から経済の多方面で顕著になり、「とうとう不動産バブルが弾けるのか」という恐怖感が広がりました。
その結果、香港ハンセン指数は、4月のピークから10月のボトムに向けて、実に33%も値下がりし、11月18日現在でも、年初来で20%もの下落となっています。
世界中の投資家の中で、もっとも中国に対して悲観的だったのは、アメリカの投資家だと聞きます。サブプライム破綻の記憶冷めないアメリカの投資家は、中国のマンション建設ラッシュや、一般人の年収の10倍以上に及んでいる価格を見て、破綻は時間の問題、トリガーは政府の過剰な引締めによる不動産会社の破綻と、そこから連鎖的に発生する銀行の破綻、という考えを、急速に強めていったようです。
中国に関する誤解
しかし実際に中国に来て、こちらから海外の投資家を見たり、話をしたりしていると、中国に関して幾つかの大きな誤解というか、情報の欠如があるように感じます。中でも最大のものは、公式統計で示されている所得のデータが、恐らく大幅に過小評価されているであろう、というものです。このことが、「平均年収の10倍でも買えないはずのマンションが飛ぶように売れるのはバブルだ」と言った結論を生んでいるように思います。
では中国人が、どうやってそのような高額なマンションを買っているかと言うと、アメリカのようにレバレッジを使いまくって・・・ではありません。中国では、不動産取得額の4割から6割は、現金であると言われています。よって不動産価格が1-2割下落したからと言って、パニック売りが起こったり、ローンのデフォルトが大発生するといった事態には至っていません。
そもそも何故、不動産がブームになったのかを考えてみると、政府の規制下にある銀行預金金利がインフレ率を下回っていることが、不動産が現金のプール先として人気を博した最大の原因の一つであるように思います。そこに更に、海外(華僑、台湾等)や資源ブームに沸く内陸部からの資金が一気に流入しました。

また、一人っ子政策の中国では、両親とその両親の6人の大人が、子供が巣立つ際に徹底支援をし、マンションや車を買い与える風習があります。しかし北京や上海などの大都市においては、都市化の進展に伴って優良住宅が圧倒的に不足する状態にありました。・・・とこのように色々見てみると、不動産ブームが起こったのは自然の流れである気がします。
不動産会社の破綻が、銀行の破綻を招く、という懸念についても、大手の不動産会社や銀行が全て国有であることを考えると、政府財政が破綻しない限り、連鎖倒産という事態には至らない気がします。中国政府の対GDP比の負債比率は4割程度であり(そもそもGDPは過少評価されていると思いますが)、2009年に経済支援のために行われた巨額の銀行融資が仮に全額焦げ付いて政府の負担となったとしても、負債比率は6割程度にとどまると言われます。
むしろ足元では、政府は不動産会社の下位3割程度が破綻に追い込まれ、業界の再編統合が進まない限り、規制の手を緩めないのではという意見が、建設業界の関係者からは聞かれます。これは、ここもとで期待が高まっている、中小企業を苦しめている金融引締めの緩和や、停止されていた公共事業(特に高速鉄道建設)の再開とは別次元の話であり、社会不穏の原因となっている不動産バブル封じ込めへの中国政府の意気込みが、強く感じられます。
中国の問題と今後
もちろん、官僚腐敗が社会問題化している中国においては、日本の公共事業も顔負けの非効率な事業や、高速鉄道事故に象徴されるような手抜き事業が沢山あるのは、間違いない気がします。そのような非効率な投資を今後も続けていけば、いつまでも産業競争力が付かないまま、いずれ国富は底を付き、本格的な財政危機や経済危機が発生してしまうかもしれません。
しかもGDP統計上はそこまで明確に分からないものの、やはり中国経済の大きなドライバーの一つは、輸出加工業である気がします。大都市周辺部の高速道路を走っていると、そこに広がる光景は、まるで東海道新幹線からの眺めのようで、多くの工場や、そこに部品を納入しているのであろう中小企業が見て取れます。その輸出が、欧米経済のダブルディップによって急減退すれば、中国経済は厳しい状態に追い込まれるかもしれません。
政府による管理経済の域を脱しないまま、すでに規模では世界第二位の経済大国となった中国。その実態は、外から見ていても、なかなか計り知れないものがあります。特に欧米の投資家からすると、地元の市場がかなり効率的且つ透明度も高いことから、まさに「得体の知れない」、しかしある程度は関わらざるを得ない市場なのであろうと思います。
中国(香港)の株式市場は、流動性や銘柄数もまだまだであり、かつ企業経営者のメンタリティについても、コーポレートガバナンスの考えが欠如しているケースが多く見受けられるなど、なかなか難しい市場です。とは言え、中国経済の大きな成長潜在力は魅力ですし、せっかくアジアに来たわけなので、今後は中国関連の話も、色々書けたらと思います。

特に気になったのは、日々トップニュースになっている欧州の財政問題ではなく、ニューヨークから発生して世界中に広がった「Occupy Wall Street(ウォールストリートを占拠せよ)」デモの話と、中国株式市場を直撃した「中国経済はとうとうハードランディングするのか」というセンチメントの急激な盛り上がりです。どちらも当ブログに相応しいネタのように思われますので、所感を述べてみます。
ウォールストリートを占拠せよ

最初に、ウォールストリートのお膝元ニューヨークで発生した、「反・ウォールストリート」デモについてです。11月に入って、とうとう強制排除に至ったようですが、発生当時の友人達の話では、観光客が近寄っても全く問題ないような落ち着いた動きで、食料調達係、救護班などのシステムもしっかりしており、「まるで集団キャンプのよう」だと聞いていました。
それでも「ウォールストリート=資本主義=悪」という主張のデモがここまで広がるという事は、注目に値する気がします。当初メディアは、右寄りの「茶会党(Tea Party)」に対抗する左寄りのムーブメントである、それにしてはリーダーや明確な主張が不在である、などと述べていました。しかし徐々にデモの主張は明確になり、貧富の差の解消と、企業家の貪欲さへの反発、それを助長しているように見えるウォールストリートへの反発、などであるようです。
ここ香港でも、金融街Central(中環)にある、香港上海銀行(HSBC)アジア本店下の広場において、同様のデモが繰り広げられています。Queen’s Road 1番地にある同社ビルの隣には、HSBCと並んで香港ドルの発行銀行であるStandard Chartered銀ビル、反対隣にはChina Clubが入居旧・中国銀行ビルがあり、また道の向かいには香港最大手財閥の一つである長江実業集団が建設し、Goldman SachsやBarclays、Bloombergなどが入居するCheung Kong Centerがあります。

香港のデモも、NY同様かなりオーガナイズされており、テントが置かれ、受付のようなデスクも出され、夜には街頭コンサートなども開催されています。しかし、中国ブームに大いに沸き、金融や貿易、商業、不動産によって支えられて、資本主義の牙城と言っても過言ではない香港でもアンチ・ウォールストリートのデモが起こっていることは、興味深い限りです。
このムーブメントの根底にあるのが、高止まりする失業率や、貧富の差の拡大であることは、間違いないように思います。ニューヨークでは、デモ隊は高級住宅街であるパークアベニューまで進み、高額所得者のCEOらに対しての怒りも声高に叫んだと聞いています。
パークアベニューは、マンハッタン東部を南北に走る大通りで、特にミッドタウンのグランドセントラルから北側の45丁目から59丁目までは、大手プライベートエクイティファンド、ヘッジファンド、不動産投資ファンドなどが軒並みオフィスを構えています。JP Morganの本社などもあり、第二のウォールストリートと言っても過言ではありません。
その北側の、セントラルパークの東側に広がるアッパーイーストサイドの60丁目から86丁目くらいまでは、いわゆる「オールドマネー」や、銀行家、経営者、医師、弁護士事務所のパートナーなどが住む、超高級住宅エリアです。デモ隊はそこまで繰り出して行ったそうですが、彼ら・彼女らが批判対象としている人達の耳にも、その不満の声は、ある程度は届いたものと想像します。

貧富の差はウォールストリートのせい?
しかし、高失業率や貧富の差の解消を叫ぶ人が、ウォールストリートを目の敵にするのは何故でしょうか?
そもそも、貧富の差が小さかった時代というのは、いつのどんな時代だったのかと考えると、恐らくそれは、幅広い中間所得層がいた時代、つまり西側先進国においては、第二次世界大戦から1990年前後くらいまでだったのではという気がします。
当時は先進国でもモノが不足しており、多くの人が製造業(モノづくり)に従事していた時代であったのだろうと思います。製造業は大人数を雇用しますし、スキルが付くのに時間がかかり、その間に徐々に給料も上がっていくため、中間所得者層が多く生まれて、貧困層の数は減っていったのだろうと想像します。日本の団塊世代が、アメリカの「芝生の庭付きの家に、マイカー」という生活に憧れたという話は有名です。
しかし、90年代に入ると、先進国には十分にモノが行き渡り、また冷戦終結によって世界は一気にグローバル化しました。その結果、先進国では、もはや製造業に経済を依存することが困難になり、製造業はどんどん海外へと進出して行きました。
この流れこそが、中間層の消失を招いて、結果的に貧富の差を拡大させてしまったのかもしれません。
そう考えると、今日の先進国における貧富の差の拡大や高失業率に関して、ウォールストリートが批判対象になるというのは、どうもおかしな話です。もちろんウォールストリートに非がないとは言えません。過剰なまでの株主利益の追求は、短期的にリストラを引き起こしたり、過大なリスクテイクによって世界的な経済危機を引き起こしてしまったことは、疑いのない事実です。
しかし製造業人口が減少の一途を辿ることになった先進国では、その受け皿として第三次産業(サービス業)の強化が必須であり、中でも最大の産業の一つが金融業であったことを考えると、ウォールストリートの肥大化もまた、時代の流れの結果であったようにも思えます。特に冷戦後のIT技術の飛躍的発展が、金融機関の能力を格段に高めたことは、広く知られるところです。
(追記:当初は本文内で「製造業の衰退」という表現を用いていましたが、コメントでご指摘を頂いた「製造業の衰退はウソである」という点はごもっともであり、そもそもの意図をより正確にするために、「製造業人口の減少」と書き直しました。参照されていたプレジデントロイターの記事の中で、APPLEが例として取り上げられていましたが、同社はまさに、グローバル化によって製造業労働が海外に転じた格好の例のように思います。
尚、上記のプレジデントロイターの記事の中で「なぜアメリカ金融エリートの報酬は下がらないのか-肥大する「超格差社会」のカラクリ」という本が紹介されていました。アマゾンの書評を読む限りだと、以前に当ブログのエントリー「貪欲国家?アメリカの真実」でも紹介した、「超・格差社会アメリカの真実」という本と、似たような内容のように見受けられますが、機会があったらこちらの本も読んでみたいと思います。)
グローバル化は悪か
では、そもそもグローバル化なんて何のメリットもないじゃないか、と言うことになるかもしれません。おかげで先進国の労働者は職の確保に苦労をし、給料のデフレに苦しんでいます。また、リーマンショックや、進行中のギリシャ危機が良い例ですが、一企業、一国の危機が世界経済全体に一瞬で波及してしまうなど、明らかにグローバル化のデメリットが目に付くようになっています。
しかしグローバル化は、世界に多くの恩恵もまたもたらしているように思います。先進国では、インフレ無くモノの溢れた豊かな生活ができるようになり、鉱山労働のようなきつく危険な仕事に従事する必要も激減しました。企業の資本コストや海外進出のハードルは低く抑えられ、途上国では多くの人が貧困ラインから脱出しつつあると言われます。
恐らく失業に苦しむアメリカのデモ参加者達も、今までにグローバル化やウォールストリートの発展によるメリットを、色々享受したことと思います。それは日本も同じであり、アメリカ経済が好調であった2007年位までは、円安の進行もあって輸出産業は大いに潤い、小泉政権の経済運営の助けもあって、日本経済は戦後最長の好景気をエンジョイしていました。
「ウォールストリートを占拠せよ」デモの参加者のフラストレーションは理解できますが、そもそもウォールストリートを解体することで、いわゆるホワイトカラー予備軍であるデモ参加者の状況が改善するとは、とても思えません。
生活面で色々迷惑を受けているニューヨークでは、デモへの批判的な声が、かなり高まっているようです。アメリカのウェブ上で話題になったやり取りの要約を取り上げて、この話題の締めとしたいと思います。
デモ参加者 「ウォールストリートは今すぐ大幅な人員削減をして、事業を縮小せよ!」
反論者 「そんな事をして本当にいいのか?ウォールストリートの連中は、休みも取らずに、毎日15時間は働くんだぞ。そんな奴らが労働市場に溢れ出してみろ。お前ら教師なんかの仕事は、一瞬で奴らに取られてしまうだろうさ。」
中国経済のハードランディング?
次に中国経済について、少々書いてみたいと思います。
言うまでもなく中国は、世界中がリーマン危機の後遺症に苦しむ中、経済成長を急減速させることなく、世界経済の成長ドライバーとなって来ました。しかし、そんな中国経済にも、2011年の夏前ごろから、「ハードランディング」シナリオが囁かれるようになりました。
事の発端は、2011年に入って、北京政府が景気の過熱感、特に不動産市場をクールダウンさせるために取った、いくつもの引締め政策にあったように思います。その効果は5-6月頃から経済の多方面で顕著になり、「とうとう不動産バブルが弾けるのか」という恐怖感が広がりました。
その結果、香港ハンセン指数は、4月のピークから10月のボトムに向けて、実に33%も値下がりし、11月18日現在でも、年初来で20%もの下落となっています。
世界中の投資家の中で、もっとも中国に対して悲観的だったのは、アメリカの投資家だと聞きます。サブプライム破綻の記憶冷めないアメリカの投資家は、中国のマンション建設ラッシュや、一般人の年収の10倍以上に及んでいる価格を見て、破綻は時間の問題、トリガーは政府の過剰な引締めによる不動産会社の破綻と、そこから連鎖的に発生する銀行の破綻、という考えを、急速に強めていったようです。
中国に関する誤解
しかし実際に中国に来て、こちらから海外の投資家を見たり、話をしたりしていると、中国に関して幾つかの大きな誤解というか、情報の欠如があるように感じます。中でも最大のものは、公式統計で示されている所得のデータが、恐らく大幅に過小評価されているであろう、というものです。このことが、「平均年収の10倍でも買えないはずのマンションが飛ぶように売れるのはバブルだ」と言った結論を生んでいるように思います。
では中国人が、どうやってそのような高額なマンションを買っているかと言うと、アメリカのようにレバレッジを使いまくって・・・ではありません。中国では、不動産取得額の4割から6割は、現金であると言われています。よって不動産価格が1-2割下落したからと言って、パニック売りが起こったり、ローンのデフォルトが大発生するといった事態には至っていません。
そもそも何故、不動産がブームになったのかを考えてみると、政府の規制下にある銀行預金金利がインフレ率を下回っていることが、不動産が現金のプール先として人気を博した最大の原因の一つであるように思います。そこに更に、海外(華僑、台湾等)や資源ブームに沸く内陸部からの資金が一気に流入しました。

また、一人っ子政策の中国では、両親とその両親の6人の大人が、子供が巣立つ際に徹底支援をし、マンションや車を買い与える風習があります。しかし北京や上海などの大都市においては、都市化の進展に伴って優良住宅が圧倒的に不足する状態にありました。・・・とこのように色々見てみると、不動産ブームが起こったのは自然の流れである気がします。
不動産会社の破綻が、銀行の破綻を招く、という懸念についても、大手の不動産会社や銀行が全て国有であることを考えると、政府財政が破綻しない限り、連鎖倒産という事態には至らない気がします。中国政府の対GDP比の負債比率は4割程度であり(そもそもGDPは過少評価されていると思いますが)、2009年に経済支援のために行われた巨額の銀行融資が仮に全額焦げ付いて政府の負担となったとしても、負債比率は6割程度にとどまると言われます。
むしろ足元では、政府は不動産会社の下位3割程度が破綻に追い込まれ、業界の再編統合が進まない限り、規制の手を緩めないのではという意見が、建設業界の関係者からは聞かれます。これは、ここもとで期待が高まっている、中小企業を苦しめている金融引締めの緩和や、停止されていた公共事業(特に高速鉄道建設)の再開とは別次元の話であり、社会不穏の原因となっている不動産バブル封じ込めへの中国政府の意気込みが、強く感じられます。
中国の問題と今後
もちろん、官僚腐敗が社会問題化している中国においては、日本の公共事業も顔負けの非効率な事業や、高速鉄道事故に象徴されるような手抜き事業が沢山あるのは、間違いない気がします。そのような非効率な投資を今後も続けていけば、いつまでも産業競争力が付かないまま、いずれ国富は底を付き、本格的な財政危機や経済危機が発生してしまうかもしれません。
しかもGDP統計上はそこまで明確に分からないものの、やはり中国経済の大きなドライバーの一つは、輸出加工業である気がします。大都市周辺部の高速道路を走っていると、そこに広がる光景は、まるで東海道新幹線からの眺めのようで、多くの工場や、そこに部品を納入しているのであろう中小企業が見て取れます。その輸出が、欧米経済のダブルディップによって急減退すれば、中国経済は厳しい状態に追い込まれるかもしれません。
政府による管理経済の域を脱しないまま、すでに規模では世界第二位の経済大国となった中国。その実態は、外から見ていても、なかなか計り知れないものがあります。特に欧米の投資家からすると、地元の市場がかなり効率的且つ透明度も高いことから、まさに「得体の知れない」、しかしある程度は関わらざるを得ない市場なのであろうと思います。
中国(香港)の株式市場は、流動性や銘柄数もまだまだであり、かつ企業経営者のメンタリティについても、コーポレートガバナンスの考えが欠如しているケースが多く見受けられるなど、なかなか難しい市場です。とは言え、中国経済の大きな成長潜在力は魅力ですし、せっかくアジアに来たわけなので、今後は中国関連の話も、色々書けたらと思います。

by harry_g
| 2011-11-20 01:59
| 中国の経済


