2011年 08月 25日
Going East |
このウォールストリート日記は、気が付くともう6年も続いています。何回か前のエントリーで「あなたは何人で、何をやっている人なのか」というご質問を頂きましたが、このブログをお読み頂いている方も、6年間で大きく変遷しているのだろうと思います。よって今回は、ウォールストリートの仕事が「東」へ流れているという、最近のジョブマーケットのトレンドに関連させながら、簡単なブログ紹介をしてみたいと思います。
最初に確認までですが、当ブログはあくまでも匿名で続けさせて頂いております。内容は、全てメディア等での公開情報と、それに基づく個人的な所感となっていて、具体的な仕事内容(勤務先、担当したディール、投資ポジション等)については、ブログ開始当初より一切触れておりません。個人的なお問い合わせをコメント頂く場合には、お手数ですが「非公開」設定を宜しくお願い致します。
バックグラウンド
ウォールストリート日記を開始した2005年当時、私はニューヨークのとある欧米系投資銀行で、いわゆるインベストメントバンカーをしていました。と言っても、要は財務モデリングなどの下働きが主であり、やたらとコンペティティブな上司や現地企業のクライアント相手に、アメリカ流のコーポレートファイナンスやビジネスマナーを叩き込まれる毎日でした。
しかし幸い当時は景気が良く、私が主に扱っていた金融商品は、LBO関連のレバレッジドファイナンスでした。LBOは、80年代のジャンクボンドブーム以来の盛り上がりを見せていましたが、日本ではまだほとんど見られない商品でした。よって、「ウォールストリートで得ている知識や経験は貴重なので、日本の同業者にフィードバックすべし」という先輩からのアドバイスを頂き、このブログは開始されました。
それ以来、当ブログでは、実際に自分がこちらで見聞きしたり体験したりした事で、日本にあまり伝わっていないと思われる話について、基本的にはメディア報道をベースに、出来るだけフェアに取り上げることを主眼においています。(業界関係者の皆様、内容の薄さやレベルの低さは、どうぞご容赦下さい。)
エントリー内容は、当初は投資銀行やLBOについての話が多かったですが、途中で私が投資銀行からヘッジファンドに移ったことや、リーマン危機に代表される市場環境の大きな変化が起こったことを受けて、徐々にマクロ的な内容や業界規制の話なども増えて行ったように思います。
ちなみに先にご質問頂いた私のバックグラウンドですが、普通の日本人です。ただ、勤務先がずっといわゆる外資系で、しかも現地採用であることから、そういう扱いを受けて来ています。ニューヨークは競争が激しく大変ですが、同時に頑張れば誰でも受け入れてくれる寛容さもあります。最大のメリットは、本当に優秀な人に出会う機会が多いことである気がします。
ヘッジファンドでは、アジアを中心に欧米株も一部担当していましたが、リーマン危機後の欧米でのリスク許容度の低下や、更にはBRICs経済の急拡大を受けて、ここ数年でNYから高成長地域へと、人材が移動しているように感じます。実は私も、近々10年近く住んだNYを一旦離れて、アジアに活動の場を移そうと考えています。
その事を知っている友人には、「ウォールストリート日記」のタイトルはどうするのか、と聞かれます。ウォールストリートは、言うまでもなく、アメリカの証券業界を指す言葉であり、2005年当初は私はその中にいました。ヘッジファンドに移ってからも、勝手に「広義の欧米の金融業界」との定義で、同じタイトルでブログを続けています。
その意味では、アジアに移っても、引続き欧米の金融業界の状況や、世界経済の潮流が見て取れると感じられれば、このまま書き続けるかもしれませんし、そうでなければブログを終了するか、名前を変更するかもしれません。中国経済が欧米先進国やBRICs経済に大きく影響を与えている事を考えると、アジアから世界を見るのも面白いのでは、と感じています。
最初に「日本にフィードバックを云々」などと偉そうな事を書きましたが、実際にこのブログを通じて多くの方々と知り合う機会に恵まれ、私自身が一番メリットを享受してしまっているように感じます。そのような機会を頂いて、大いに感謝しています。ブログ紹介はこの程度にして、主題の「Going East」について以下で書きたいと思います。
Going East?
2011年4月14日のEconomistに、「Go east, young moneyman(金融界の若者よ、東を目指せ)」という記事が載っていました。記事の内容は、MBAでインターンシップをする若者から、既にウォールストリートで働いている人まで、多くの人がアジアを中心とした途上国を、より望ましい勤務地と考えているようだという話です。
言うまでもなくウォールストリートは、景気が良い時の方が潤います。企業の資金需要も旺盛で、ディールも多く起こりますし、株式市場も債券市場も堅調で、売買高も増える傾向にあります。それがリーマン危機後に欧米の景気は減速し、方や途上国経済は、引き続き堅調さを維持しているように見えます。ウォールストリートのジョブマーケットの動向は、そんな世界経済情勢に、敏感に反応していると言えるかもしれません。
Economistの記事の中で取り上げられていたデータによると、2010年のアジア地域での金融機関による中途採用のうち、実に31%がアメリカかイギリスからの採用であり、それ以前の8%から大きく飛躍したそうです。投資銀行や投資ファンドは、現地で経験ある人材の採用に苦しんでいるそうで、人材獲得競争によって給料も上がってしまい、金融機関のマージンが下がっている、との話も紹介されていました。
イギリスやアメリカにいる業界人に対する、「魅力的な海外勤務地はどこか」という質問に対する回答も、同記事では紹介されていました。イギリスでは「アメリカ、シンガポール、香港」の順であり、アメリカでは「イギリス、香港、シンガポール」の順だったそうです。過去データがないので、かつてがどうであったか分かりませんが、アジアへの注目の高さが見て取れます。
シンガポールは、インドにも近い東南アジアの首都と言った雰囲気で、高温多湿ですが、とてもキレイな都市環境で知られています。香港は、中国を含む東アジアの中心地という位置付けで、街は他に無い活気があります。両国とも、かねてよりイギリスとの関係が深く、英語が使えるプロフェッショナルが、フロントオフィスはもちろんバックオフィスやサービス業者の人材も、多数存在します。それでいてBRICsの大国二つに近い為、ウォールストリートにとっては非常に魅力的な拠点と映ります。
また、シンガポールと香港は、所得税も10%台半ばと、NYやロンドンの最高実効税率の5割超と比べて、非常に競争力があります。キャピタルゲイン税もゼロであり、資産形成にも非常に有利な税制となっているようです。(アメリカ人は世界のどこでも連邦税等をアメリカに納める必要があるので、利益が少ないですが。)
香港には、日本からも、かなりの数のプロフェッショナルが移住しているようです。飛行機で4時間前後と近く、時差も1時間の香港は、日本をカバーする人にとっても魅力的な場所となりつつあるのかもしれません。特に震災後は、外国人(特にヨーロッパ系)を中心に、東京から香港への異動が盛んだと聞きます。
アジア市場は、かつての「日本と日本以外のアジア(Japan vs. AXJ)」という枠組みから、「中国と中国以外のアジア(China vs. AXC)」と言う枠組みに、すっかり変化した感があります。そうしたウォールストリートの意識変化も、香港やシンガポールへの人材移動を加速させている要因であるように思います。
NYやロンドンはどうか
途上国経済が、いかに高成長が期待されるとは言え、世界最大の金融センターとしてのニューヨークの地位や、米国以外の地域の金融センターとしてのロンドンの地位は、今後も揺らがないと思います。これは資金量のみならず、人材面や情報面で圧倒的優位にあることがその理由です。上記のEconomistの記事でも、Goldman Sachsなどは、米国や英国で採用した途上国向けの人材を、1年間は米英の本拠で訓練する、という話が紹介されていました。
しかし、欧米諸国の経済を見ると、クレジットバブルの後遺症から、まだまだ立ち直っていないように見えます。ヨーロッパは2010年5月のギリシャ危機から統一通貨ユーロの危機が叫ばれ始めて景気が減速し、アメリカも2011年中ごろから、予想されていた通りではありますが、景気の腰折れ感が出てきています。
特に前回のエントリーでも書いた通り、今最も必要とされている政治の指導力が低下しており、その結果、ウォールストリートのみならず、経済界全般が、自信を消失しつつあるように思います。S&Pによる米国債格付のAAAからAA+への格下げは、まさにそのようなタイミングで起こったことになります。
欧州のソブリンデット危機についても、南欧諸国を中心に、政府部門や経済全体の非効率性という問題の根は深く、ギリシャに続いて、アイルライド、ポルトガル、スペイン、イタリアと、次々に問題の国の名前が出て来ます。しまいには「次にAAAを失うのはフランスか」と言われるほどであり、一国のデフォルトやユーロ離脱が、連鎖的な銀行破たんにつながり、リーマン危機のようなシステム危機を引き起こすリスクがあることを考えると、引続き目が離せません。
このように自分達の足元に火がついている時には、欧米の金融機関や投資ファンドは、リスク回避的になります。よって、既にBRICsに積極的なコミットすることを決めていた金融機関は、途上国地域の業務を香港やブラジルと言った現地オフィスに一層任せる傾向を強めており、逆に、まだ途上国にあまり関わっていないファンドは、自分達にとってのホームマーケットである欧米のみにフォーカスしている感があるように思います。
そんな中で、チャンスを探す人材がアジアや南米に流出するのは、当たり前なのかもしれませんが、同時に、こうした動きはただのバブルじゃないか、中国経済や途上国全般の経済を支えるコモディティバブルが弾けたら、投資銀行もファンドも撤退するのではないか、という見方も、当然出来るかと思います。
実際に、中国に関して言えば、2000年から2010年までの奇跡の成長とも言える軌跡を今後10年も繰り返すのは、難しいように思います。まだまだ成長の伸びシロがあるマーケットですが、同時に過去10年で格差拡大や過剰流動性によるインフレなど、多くの問題が表面化してしまっています。世の中に「中国バブル崩壊」を信じる人がいるのも、不思議ではない気がします。
と同時に、既に世界経済の中で極めて重要な地位を占め、規模でも世界第二位になっている中国が、突然また世界とは無関係なレベルまで経済地位を縮小させる可能性は、あまり無いように思われます。途上国経済は、どうしても先進国が決める世界経済のルールに振り回されがちであり、恐らく中国もその例外ではないでしょうが、そんな中国が今後10年でどうなるかは、世界が注目するところではと思います。
欧米の足元には不安が多いですが、それでもアメリカ経済が今後数年で上手く立ち直り、またヨーロッパもソブリン問題に解決策を見い出せれば、最も効率的な市場を抱え、かつ人口動態の問題もない両マーケットが復活することは、間違いない気がします。その時には、今度は生活環境の良い欧米都市に向かって、途上国マーケットからの人材の逆流が、起こるのかもしれません。
今まで「ニューヨークに行くから会えないか」と、ブログを通じてご連絡を下さった皆様、どうもありがとうございました。今後しばらくはアジアをベースにすることになると思いますので、宜しければ、ぜひそちらでお会いできれば幸いです。
バックグラウンド
ウォールストリート日記を開始した2005年当時、私はニューヨークのとある欧米系投資銀行で、いわゆるインベストメントバンカーをしていました。と言っても、要は財務モデリングなどの下働きが主であり、やたらとコンペティティブな上司や現地企業のクライアント相手に、アメリカ流のコーポレートファイナンスやビジネスマナーを叩き込まれる毎日でした。
しかし幸い当時は景気が良く、私が主に扱っていた金融商品は、LBO関連のレバレッジドファイナンスでした。LBOは、80年代のジャンクボンドブーム以来の盛り上がりを見せていましたが、日本ではまだほとんど見られない商品でした。よって、「ウォールストリートで得ている知識や経験は貴重なので、日本の同業者にフィードバックすべし」という先輩からのアドバイスを頂き、このブログは開始されました。
それ以来、当ブログでは、実際に自分がこちらで見聞きしたり体験したりした事で、日本にあまり伝わっていないと思われる話について、基本的にはメディア報道をベースに、出来るだけフェアに取り上げることを主眼においています。(業界関係者の皆様、内容の薄さやレベルの低さは、どうぞご容赦下さい。)
エントリー内容は、当初は投資銀行やLBOについての話が多かったですが、途中で私が投資銀行からヘッジファンドに移ったことや、リーマン危機に代表される市場環境の大きな変化が起こったことを受けて、徐々にマクロ的な内容や業界規制の話なども増えて行ったように思います。
ちなみに先にご質問頂いた私のバックグラウンドですが、普通の日本人です。ただ、勤務先がずっといわゆる外資系で、しかも現地採用であることから、そういう扱いを受けて来ています。ニューヨークは競争が激しく大変ですが、同時に頑張れば誰でも受け入れてくれる寛容さもあります。最大のメリットは、本当に優秀な人に出会う機会が多いことである気がします。
ヘッジファンドでは、アジアを中心に欧米株も一部担当していましたが、リーマン危機後の欧米でのリスク許容度の低下や、更にはBRICs経済の急拡大を受けて、ここ数年でNYから高成長地域へと、人材が移動しているように感じます。実は私も、近々10年近く住んだNYを一旦離れて、アジアに活動の場を移そうと考えています。
その事を知っている友人には、「ウォールストリート日記」のタイトルはどうするのか、と聞かれます。ウォールストリートは、言うまでもなく、アメリカの証券業界を指す言葉であり、2005年当初は私はその中にいました。ヘッジファンドに移ってからも、勝手に「広義の欧米の金融業界」との定義で、同じタイトルでブログを続けています。
その意味では、アジアに移っても、引続き欧米の金融業界の状況や、世界経済の潮流が見て取れると感じられれば、このまま書き続けるかもしれませんし、そうでなければブログを終了するか、名前を変更するかもしれません。中国経済が欧米先進国やBRICs経済に大きく影響を与えている事を考えると、アジアから世界を見るのも面白いのでは、と感じています。
最初に「日本にフィードバックを云々」などと偉そうな事を書きましたが、実際にこのブログを通じて多くの方々と知り合う機会に恵まれ、私自身が一番メリットを享受してしまっているように感じます。そのような機会を頂いて、大いに感謝しています。ブログ紹介はこの程度にして、主題の「Going East」について以下で書きたいと思います。
Going East?
2011年4月14日のEconomistに、「Go east, young moneyman(金融界の若者よ、東を目指せ)」という記事が載っていました。記事の内容は、MBAでインターンシップをする若者から、既にウォールストリートで働いている人まで、多くの人がアジアを中心とした途上国を、より望ましい勤務地と考えているようだという話です。
言うまでもなくウォールストリートは、景気が良い時の方が潤います。企業の資金需要も旺盛で、ディールも多く起こりますし、株式市場も債券市場も堅調で、売買高も増える傾向にあります。それがリーマン危機後に欧米の景気は減速し、方や途上国経済は、引き続き堅調さを維持しているように見えます。ウォールストリートのジョブマーケットの動向は、そんな世界経済情勢に、敏感に反応していると言えるかもしれません。
Economistの記事の中で取り上げられていたデータによると、2010年のアジア地域での金融機関による中途採用のうち、実に31%がアメリカかイギリスからの採用であり、それ以前の8%から大きく飛躍したそうです。投資銀行や投資ファンドは、現地で経験ある人材の採用に苦しんでいるそうで、人材獲得競争によって給料も上がってしまい、金融機関のマージンが下がっている、との話も紹介されていました。
イギリスやアメリカにいる業界人に対する、「魅力的な海外勤務地はどこか」という質問に対する回答も、同記事では紹介されていました。イギリスでは「アメリカ、シンガポール、香港」の順であり、アメリカでは「イギリス、香港、シンガポール」の順だったそうです。過去データがないので、かつてがどうであったか分かりませんが、アジアへの注目の高さが見て取れます。
シンガポールは、インドにも近い東南アジアの首都と言った雰囲気で、高温多湿ですが、とてもキレイな都市環境で知られています。香港は、中国を含む東アジアの中心地という位置付けで、街は他に無い活気があります。両国とも、かねてよりイギリスとの関係が深く、英語が使えるプロフェッショナルが、フロントオフィスはもちろんバックオフィスやサービス業者の人材も、多数存在します。それでいてBRICsの大国二つに近い為、ウォールストリートにとっては非常に魅力的な拠点と映ります。
また、シンガポールと香港は、所得税も10%台半ばと、NYやロンドンの最高実効税率の5割超と比べて、非常に競争力があります。キャピタルゲイン税もゼロであり、資産形成にも非常に有利な税制となっているようです。(アメリカ人は世界のどこでも連邦税等をアメリカに納める必要があるので、利益が少ないですが。)
香港には、日本からも、かなりの数のプロフェッショナルが移住しているようです。飛行機で4時間前後と近く、時差も1時間の香港は、日本をカバーする人にとっても魅力的な場所となりつつあるのかもしれません。特に震災後は、外国人(特にヨーロッパ系)を中心に、東京から香港への異動が盛んだと聞きます。
アジア市場は、かつての「日本と日本以外のアジア(Japan vs. AXJ)」という枠組みから、「中国と中国以外のアジア(China vs. AXC)」と言う枠組みに、すっかり変化した感があります。そうしたウォールストリートの意識変化も、香港やシンガポールへの人材移動を加速させている要因であるように思います。
NYやロンドンはどうか
途上国経済が、いかに高成長が期待されるとは言え、世界最大の金融センターとしてのニューヨークの地位や、米国以外の地域の金融センターとしてのロンドンの地位は、今後も揺らがないと思います。これは資金量のみならず、人材面や情報面で圧倒的優位にあることがその理由です。上記のEconomistの記事でも、Goldman Sachsなどは、米国や英国で採用した途上国向けの人材を、1年間は米英の本拠で訓練する、という話が紹介されていました。
しかし、欧米諸国の経済を見ると、クレジットバブルの後遺症から、まだまだ立ち直っていないように見えます。ヨーロッパは2010年5月のギリシャ危機から統一通貨ユーロの危機が叫ばれ始めて景気が減速し、アメリカも2011年中ごろから、予想されていた通りではありますが、景気の腰折れ感が出てきています。
特に前回のエントリーでも書いた通り、今最も必要とされている政治の指導力が低下しており、その結果、ウォールストリートのみならず、経済界全般が、自信を消失しつつあるように思います。S&Pによる米国債格付のAAAからAA+への格下げは、まさにそのようなタイミングで起こったことになります。
欧州のソブリンデット危機についても、南欧諸国を中心に、政府部門や経済全体の非効率性という問題の根は深く、ギリシャに続いて、アイルライド、ポルトガル、スペイン、イタリアと、次々に問題の国の名前が出て来ます。しまいには「次にAAAを失うのはフランスか」と言われるほどであり、一国のデフォルトやユーロ離脱が、連鎖的な銀行破たんにつながり、リーマン危機のようなシステム危機を引き起こすリスクがあることを考えると、引続き目が離せません。
このように自分達の足元に火がついている時には、欧米の金融機関や投資ファンドは、リスク回避的になります。よって、既にBRICsに積極的なコミットすることを決めていた金融機関は、途上国地域の業務を香港やブラジルと言った現地オフィスに一層任せる傾向を強めており、逆に、まだ途上国にあまり関わっていないファンドは、自分達にとってのホームマーケットである欧米のみにフォーカスしている感があるように思います。
そんな中で、チャンスを探す人材がアジアや南米に流出するのは、当たり前なのかもしれませんが、同時に、こうした動きはただのバブルじゃないか、中国経済や途上国全般の経済を支えるコモディティバブルが弾けたら、投資銀行もファンドも撤退するのではないか、という見方も、当然出来るかと思います。
実際に、中国に関して言えば、2000年から2010年までの奇跡の成長とも言える軌跡を今後10年も繰り返すのは、難しいように思います。まだまだ成長の伸びシロがあるマーケットですが、同時に過去10年で格差拡大や過剰流動性によるインフレなど、多くの問題が表面化してしまっています。世の中に「中国バブル崩壊」を信じる人がいるのも、不思議ではない気がします。
と同時に、既に世界経済の中で極めて重要な地位を占め、規模でも世界第二位になっている中国が、突然また世界とは無関係なレベルまで経済地位を縮小させる可能性は、あまり無いように思われます。途上国経済は、どうしても先進国が決める世界経済のルールに振り回されがちであり、恐らく中国もその例外ではないでしょうが、そんな中国が今後10年でどうなるかは、世界が注目するところではと思います。
欧米の足元には不安が多いですが、それでもアメリカ経済が今後数年で上手く立ち直り、またヨーロッパもソブリン問題に解決策を見い出せれば、最も効率的な市場を抱え、かつ人口動態の問題もない両マーケットが復活することは、間違いない気がします。その時には、今度は生活環境の良い欧米都市に向かって、途上国マーケットからの人材の逆流が、起こるのかもしれません。
今まで「ニューヨークに行くから会えないか」と、ブログを通じてご連絡を下さった皆様、どうもありがとうございました。今後しばらくはアジアをベースにすることになると思いますので、宜しければ、ぜひそちらでお会いできれば幸いです。
by harry_g
| 2011-08-25 13:39
| キャリア・仕事