Bull vs. Bear |
9月25日のブログに、LBOファンドが投資銀行にとって最重要顧客セクターになっていると言う話を書きましたが、昨日のフィナンシャルタイムズによると、今年9月末までにLBOファンドが投資銀行に払ったフィーは、実に$8.2bn(約9,400億円)に上るそうです。5年前は$2.2bn(約2,500億円)と、今年の4分の1だったと言うから驚きです。ちなみにファンド別で最も投資銀行にフィーを払ったのは欧州ベースのApax Partnersで、$267mm(約307億円)、その次がTexas Pacific Groupの$255mm(約293億円)、三番目がKKRの$242mm(約278億円)だそうです。
投資銀行は、このような巨額のフィーでは満足せず、LBOファンドが投資から大きなリターンを上げるのを見て、自社のLBOファンドを立ち上げて、PEファンドと共同で投資するケースも増えています。最近のLBOのニュースでは、投資銀行がバイヤーとして登場するケースが増えているのにお気づきの方もいらっしゃるかと思います。PEファンドから見たら「アドバイザー」が突如「競合」になるわけですが、それでもバイアウトファンドは資金調達やディールのソーシングに投資銀行を必要とするため、微妙なバランスの上に業界が成り立っています。
原油高などの逆風にも負けずアメリカ経済は引続き堅調で、今朝方Merrill Lynchが記録的な業績を発表するなど、ウォールストリートも好景気に沸いてます。各社とも新卒や中途採用も加速していますし、来年始めには巨額のボーナスを受け取ったトレーダーやインベストメントバンカー達が、マンハッタン近辺で高級車や高級不動産を買い漁るシーンがまた見られると思います。
こう見ていると投資銀行やPEファンドはもの凄く儲かるビジネスのように見えます。実際マーケットが強気(ブルマーケット)の時には、みんなベア(弱気)マーケットの事を忘れてしまいがちです。ですが実態は、ウォールストリートは大きく景気の波の影響を受ける業界です。好景気の時には大量に人を採用してすごいボーナスを払いますが、資本市場が冷え込めば資金調達やM&Aが大幅に減少し、市場の流動性も低下するため、投資銀行は収益の激減を経験することなります。
実際、911や会計スキャンダルが重なった2002年~2003年はウォールストリートでは「過去20年で最悪の時」と言われ、各社とも大幅なリストラに踏み切りました。会社によっては、給料や昇進の凍結に加え、業績のボトム3分の1はクビ、何年入社のアソシエイトの50%はクビ、内定者の内定は全て取り消しなど、日本では考えられないようなリストラが断行されました。その前のテックバブルであぶく銭を手に入れた若手社員の中には、すっかり散財してしまった人も多く、自己破産に追い込まれたケースも結構あったと聞きます。
今では飛ぶ鳥を落とす勢いのLBOファンドも、市場が低迷した2000年代前半は冬の時代を経験しました。プライベートエクイティ投資はエグジット戦略としてM&AやIPO市場に依存しているため、市場低迷の煽りをまともに食らってしまいます。当時はリストラクチャリングファンド以外は案件数も投資利回りも激減し、厳しい状態になりました。ヘッジファンドがオルタナティブ投資の中で急速に拡大してきた理由には、景気に対する耐久力があるのかもしれません。(もちろん到底無傷では済みませんが。)自社でのプライベートエクイティ投資や不動産投資に積極的な投資銀行は、フィーの激減に加えて自己投資での損失も重なるでしょうから、ますます景気低迷の影響を受けることが懸念されます。
バブル崩壊が懸念される不動産業界では、不動産関連銘柄の株価が下がると値段が上がるといったデリバティブ商品が売りに出されているようですし、富裕層は金利も生まない「金」への投資を勧めているようですが、どちらもある意味投機的な感じがします。何か景気変動に対するヘッジとなるような、何かよい投資先はないでしょうか?