2011年 01月 31日
スイス発、世界の関心事2011 |
昨年末のエントリーで、2011年の市場の主な関心事は、アメリカの景気の回復、ユーロ圏の安定化、途上国でのインフレ懸念になりそうだという話しを書きました。1月の終わりに、スイスアルプスのスキーリゾート、ダボスで開催されたWorld Economic Forum(WEF)に関連する特集を読んでいても、そうした世界の関心事の所在が、比較的よく分かる気がします。

WEFは、ジュネーブに拠点を置く非営利団体で、1971年にUniversity of Genevaの経営学教授Klaus Schwab氏によって設立されました。当時は西欧の経営者の集まりで、名前もEuropean Management Forumだったそうですが、1987年より世界全体を対象とすることとして、現在の名前になったそうです。(余談ですが、ジュネーブ以外のオフィスが、ニューヨークと、そして北京にあるというのは、興味深い話です。)
WEFの会議内容は、ウェブやメディアを通じて世界中に広く配信されていますので、参加者の主な目的は、会議から何かを学ぶと言うよりも、むしろネットワーキングに尽きるのだろうと思います。日本でも、菅直人首相が、ヘッジファンド経営者のGeorge Soros氏と会談して、同氏の環境保全活動への協力を約束した、などと報道されていたと思います。
そんなWEFに関連して、英Financial Timesの特集コーナーでは、「Six Big Ideas for 2011」と言う2011年の6大テーマ記事を載せていました。内容は、「ユーロを救え」「サイバー戦争」「金融規制改革」「米国財政の修復」「インドの市民ID」「G20を超えて」です。その中から、ウォールストリートに関係ありそうで、寄稿した人が面白かったり、ダボスで起こったとされるやりとりが興味深かったりしたものを、以下で簡単に触れてみます。

ユーロは救えるか?
「Saving the Euro(ユーロを救え)」というテーマの記事は、ニューヨーク大学スターンビジネススクールの教授Nouriel Roubini氏が寄稿していました。
危機の専門家とも言える同氏は、記事の中で初っ端から、「ギリシャとアイルランドから、ポルトガル、スペイン、ひいてはイタリアにも広がりを見せる財政危機は、ユーロ参加国が抜本的な改革を実行しない限り、メンバー国のデフォルト、そして最悪の場合ユーロの崩壊もありえる」と、警鐘を鳴らしていました。世界最大の経済地域であるユーロ圏の先行きは、ウォールストリートからの注目度も極めて高いと言える気がします。
Roubini氏によると、ユーロ圏の現在までの対応は、財政危機に陥った国に資金を提供することで、問題の本質が「支払い能力の欠如」ではなく、あくまで「流動性の問題」であると希望的に考えている。しかし本当の問題の根幹は、多くの国が経済的競争力を失っていることだとして、ECBによる金融緩和の拡大や、ドイツによる財政再建の停止・財政支出の拡大などを、提案しています。
同氏はまた、現在の緊急資金は、ギリシャ、アイルランド、ポルトガルまではカバーできるが、スペインは厳しいと指摘した上で、資金確保の為に、事実上ドイツの信用力にバックアップされた「ユーロゾーン債」を発行することが肝要だ、と指摘しています。
そして最後に、IMFやEUのような超国家組織は、流動性危機に陥った国を救済することはしても、支払い能力が欠如した国を救済し続けるべきではない、として、最近ユーロ圏で合意されたように2013年まで待つことなしに、2011年中に市場を通じて、問題国の既存債券の借り換えを行う必要がある、としています。これを早期に実施すれば、大幅な損失発生は回避することが出来、ある程度の損失が民間投資家に発生する程度に限られるだろう(と同時に、民間投資家は、それなりの損失を引き受けるべきだ)と言うのが、同氏の主張となっていました。
共通通貨ユーロが元来もっていた問題が、一気に噴出したのが、2010年であったと言えるかもしれません。それから半年超が経ち、メンバー各国は、強い意志のもとに、色々な対策を打ってきました。問題の根本解決にはほど遠いにせよ、ユーロという共通通貨を生み出すのに、欧州人、特にドイツ人が、第二次大戦後に傾けてきた努力と情熱は、半端なものではありません。
それを考えると、いかに現行のシステムや、いくつかの国に、未解決の問題が山積しているとは言え、一部の悲観論者が言うように、ユーロが崩壊して欧州経済が大混乱に陥る、というシナリオは、描きにくい気がします。それでも、ドイツの納税者の忍耐が永遠に持つとも限らないため、2011年は引続き、ユーロの動向からは目が離せなくなりそうです。
金融規制-Goldman社長の舌禍?
FTの記事「Financial reform(金融業界改革)」という記事を寄稿した、London School of Economistのディレクターで、元FSA長官であるHoward Davies氏は、2008年から幾度となく繰り返されて来たサミットを経ても、世界は今でもグローバルに金融規制を実行するメカニズムを確立していないとして、金融規制改革のモメンタムが緩むことのないよう、ダボスで引続き話し合いが行われるべきだ、と書いていました。
実際、2011年のWEFに出席した銀行業界(ウォールストリート)関係者には、かなりの安堵感の広がりが見て取れたそうで、米大手銀のGoldman SachsとMorgan Stanleyに至っては、CEOを派遣しませんでした。Goldmanは、代りに社長のGary Cohn 氏を派遣したのですが、このCohn氏が行った銀行業界規制に関する発言が、物議をかもしたようです。
FTの記事「Hedge funds rebuke Goldman Sachs regulation call(ヘッジファンド業界、ゴールドマンの業界規制要求に強く反対)」によると、1月26日に開催されたパネルディスカッションで、Cohn氏が、これ以上銀行業界を規制すると、リスクの高い活動が、規制がゆるく不透明な「シャドー・バンキング・セクター」に移ってしまう、と発言したそうです。

言うまでもなくこれは、ヘッジファンドを指しており、別の記事では、ヘッジファンドを最上顧客の一つとするGoldmanの経営者からこのような発言が出るのは極めて異例だ、と書いていました。この発言は準備されたものではなく、小さなパネルディスカッションで出てきたものだったそうですが、その発言についての記事は、同社の責任棚上げ感が読み取られる内容でした。
その結果、ヘッジファンド業界はやはり強く反発したようで、上記記事の中で、業界団体Managed Funds Associationの社長兼CEOであるRichard Baker氏は「(GoldmanのCohn社長の)一連の発言は、純粋に誤りである。ヘッジファンドは規制の対象とされているし、金融危機を引き起こしたわけでもないし、税金による救済も一切受けていない」と、強く反論したそうです。
同氏は更に、「最近の金融危機は、適切なリスク管理の方法を知らず、過大なレバレッジを使っていた金融機関によって引き起こされた。私が最も懸念するのは、また金融危機が起こるとすると、それは2008年の金融危機を引き起こしたのと同じ金融機関が、過去の過ちから十分に学ばなかった結果になるのではないか、ということだ」と述べたそうです。
確かに金融危機は、規制されていた投資銀行の、いわば「社内ヘッジファンド」の破綻によって引き起こされたものであり、その当事者とも言えるCohn氏が「社外ヘッジファンド」を悪者扱いするのは、少々おかしい気がします。FTでは、ヘッジファンド経営者の発言として、「Cohn氏は、規制当局の目をそらそうとしているのだろう。18ヶ月前まではGoldman こそが、世界最大のヘッジファンドだったのだから」という話を取り上げていました。
金融危機後に何かと注目を集めるようになってしまったGoldman Sachsは、Volcker Ruleが法制化されたことを受けて、大方の予想に反し、期限一杯待つことなく2011年に、同社の収益の柱と考えられてきた自己取引部門(プロップデスク)の解体を発表しています。その潔さの裏には、実は忸怩たる思いがあり、それがスイスのスキーリゾートで舌を滑らせることに繋がってしまったのかもしれません。
岐路に立たされる米国(と先進国)
FTのWEF特集の、他のいくつかの記事でも取り上げられていましたが、ダボスでの会議に出席した世界中の経営者やエコノミストの間には、2011年の景気見通しについて、楽観的な意見が多かったようです。実際、アメリカの株式市場の代表的指数であるS&P 500は、過去3ヶ月で8%ほど上昇しており、金融機関や大企業の中には、2007年の最高益を更新するような企業も出てきています。
景気が回復するとなると、市場の懸念は、デフレからインフレに移り、財政規律の回復を求める声が、政治的にも力を得がちです。しかし、失速する住宅価格や、高止まりする失業率にも見て取れる通り、アメリカ経済が力強く回復してきたと考えるのは、時期尚早な気がします。
とは言え、2008年以降続いて来た、巨額の財政出動によって、先進国の財政が大きく痛んでいることは、間違いありません。その事に関連して、FTに「Fixing America(アメリカを修復する)」と言う記事を寄稿したのは、クリントン政権の財務長官で、ウォールストリートの著名経営者でもあるRobert Rubin氏です。
同氏は、財政が逼迫した欧米日の先進国では、財政をどう立て直すかが2011年の主要な話題になるだろう、と述べた上で、「グローバル経済が歴史的な変革を遂げる中、先進民主国は、極めて重要な岐路に立たされている。選択肢は、重要な財政出動に余力を残しつつ、財政再建の課題に正しく対峙するか、それとも経済競争力を失い、最終的に経済危機によって選択幅の極めて狭い改革を強制されるかだ」と指摘しています。
Rubin氏は、この記事の中で、2011年にアメリカが財政問題を考える際に、3つの重要な事実がある、と指摘しています。
一つ目は、2011年に景気が回復するとしても、失業率の高止まりなどによって、力弱いものとなることが予想されること。二つ目は、現在の財政構造の方向性は継続不能であり、中長期的に、負債の膨張や利払いの拡大といった、深刻かつ複数の問題を引き起こし得ること。そして三つ目は、アメリカは、教育、インフラ、リサーチと言った、長期的に経済競争力を維持するのに必須な分野に対して、十分な公共投資を行っていないこと、だそうです。
同氏による、短長期、両方の問題に関する解決策は、二つの特徴をもった財政再建策であるそうです。一つ目の特徴は、中期的に国債のGDP比が減少に向かうような財政規律策を「今、考えて、実行に移すのは数年後とする」こと。二つ目は、支出に対して徹底的な費用対効果分析を行って、長期的競争力の維持や、国防、社会セーフティネットなどの分野に、重点的に資金を配分することです。
面白いのは、同氏の主張は、経済を長期回復軌道に乗せるために、市場が懸念する財政問題についての明快な解決策を、今、提示する必要があるが、同時に2011年は、景気を回復軌道に乗せるための財政出動を緩める時ではない、と暗示していることです。アメリカでは中間選挙後に、共和党の財政再建派の声が大きくなっていますが、足元の景気の力弱さや、バランスシート不況と言われる現在の不況の性質を鑑みると、同氏の見解は、極めて的確と言える気がします。
また、かつてGoldman Sachsで花形自己投資部門を率いていた、投資家としても超一流の同氏だけに、財政への不信から生まれる市場の「心理作用」に注目し、それが米国債(金利)や為替市場、弱気な投資・消費行動の結果としての税収減など、いかに大きなネガティブを米国経済に与え得るか、ということについて、繰り返し指摘していました。こうしたことは、あまり議論されることがありませんが、極めて重要な考察だと言える気がします。
同氏の結論は、しっかりとした財政再建策なしに、景気回復による税収増を願って「なんとなくやり過ごそうとする」のは非現実的であり、難しい改革を実行するか、それを厳しく強要されるかの二者択一である、と言うことです。これが、アメリカだけではなく、ヨーロッパや日本についても当てはまる話であることは、言うまでもありません。
Rubin氏は、アメリカが、歴史的に証明してきた政治経済の耐久力と、柔軟な国民性を持って、正しい方向に進みだすことを信じているが、必要とされる決断は、大変難しいものである。よって2011年は、アメリカの政治家に強い意志があるかどうか、試される年になりそうだ、と、この記事を結んでいました。
・・・ダボスでの会議は数日の日程を無事終了したようですが、2011年も引続き、すぐに「視界良好」とはならない年になりそうです。米欧中日の各主要経済地域が、しっかりとした政治的意志を持って、必要な改革を実行してくれることを、願うばかりです。


WEFは、ジュネーブに拠点を置く非営利団体で、1971年にUniversity of Genevaの経営学教授Klaus Schwab氏によって設立されました。当時は西欧の経営者の集まりで、名前もEuropean Management Forumだったそうですが、1987年より世界全体を対象とすることとして、現在の名前になったそうです。(余談ですが、ジュネーブ以外のオフィスが、ニューヨークと、そして北京にあるというのは、興味深い話です。)
WEFの会議内容は、ウェブやメディアを通じて世界中に広く配信されていますので、参加者の主な目的は、会議から何かを学ぶと言うよりも、むしろネットワーキングに尽きるのだろうと思います。日本でも、菅直人首相が、ヘッジファンド経営者のGeorge Soros氏と会談して、同氏の環境保全活動への協力を約束した、などと報道されていたと思います。
そんなWEFに関連して、英Financial Timesの特集コーナーでは、「Six Big Ideas for 2011」と言う2011年の6大テーマ記事を載せていました。内容は、「ユーロを救え」「サイバー戦争」「金融規制改革」「米国財政の修復」「インドの市民ID」「G20を超えて」です。その中から、ウォールストリートに関係ありそうで、寄稿した人が面白かったり、ダボスで起こったとされるやりとりが興味深かったりしたものを、以下で簡単に触れてみます。

ユーロは救えるか?
「Saving the Euro(ユーロを救え)」というテーマの記事は、ニューヨーク大学スターンビジネススクールの教授Nouriel Roubini氏が寄稿していました。
危機の専門家とも言える同氏は、記事の中で初っ端から、「ギリシャとアイルランドから、ポルトガル、スペイン、ひいてはイタリアにも広がりを見せる財政危機は、ユーロ参加国が抜本的な改革を実行しない限り、メンバー国のデフォルト、そして最悪の場合ユーロの崩壊もありえる」と、警鐘を鳴らしていました。世界最大の経済地域であるユーロ圏の先行きは、ウォールストリートからの注目度も極めて高いと言える気がします。
Roubini氏によると、ユーロ圏の現在までの対応は、財政危機に陥った国に資金を提供することで、問題の本質が「支払い能力の欠如」ではなく、あくまで「流動性の問題」であると希望的に考えている。しかし本当の問題の根幹は、多くの国が経済的競争力を失っていることだとして、ECBによる金融緩和の拡大や、ドイツによる財政再建の停止・財政支出の拡大などを、提案しています。同氏はまた、現在の緊急資金は、ギリシャ、アイルランド、ポルトガルまではカバーできるが、スペインは厳しいと指摘した上で、資金確保の為に、事実上ドイツの信用力にバックアップされた「ユーロゾーン債」を発行することが肝要だ、と指摘しています。
そして最後に、IMFやEUのような超国家組織は、流動性危機に陥った国を救済することはしても、支払い能力が欠如した国を救済し続けるべきではない、として、最近ユーロ圏で合意されたように2013年まで待つことなしに、2011年中に市場を通じて、問題国の既存債券の借り換えを行う必要がある、としています。これを早期に実施すれば、大幅な損失発生は回避することが出来、ある程度の損失が民間投資家に発生する程度に限られるだろう(と同時に、民間投資家は、それなりの損失を引き受けるべきだ)と言うのが、同氏の主張となっていました。
共通通貨ユーロが元来もっていた問題が、一気に噴出したのが、2010年であったと言えるかもしれません。それから半年超が経ち、メンバー各国は、強い意志のもとに、色々な対策を打ってきました。問題の根本解決にはほど遠いにせよ、ユーロという共通通貨を生み出すのに、欧州人、特にドイツ人が、第二次大戦後に傾けてきた努力と情熱は、半端なものではありません。
それを考えると、いかに現行のシステムや、いくつかの国に、未解決の問題が山積しているとは言え、一部の悲観論者が言うように、ユーロが崩壊して欧州経済が大混乱に陥る、というシナリオは、描きにくい気がします。それでも、ドイツの納税者の忍耐が永遠に持つとも限らないため、2011年は引続き、ユーロの動向からは目が離せなくなりそうです。
金融規制-Goldman社長の舌禍?
FTの記事「Financial reform(金融業界改革)」という記事を寄稿した、London School of Economistのディレクターで、元FSA長官であるHoward Davies氏は、2008年から幾度となく繰り返されて来たサミットを経ても、世界は今でもグローバルに金融規制を実行するメカニズムを確立していないとして、金融規制改革のモメンタムが緩むことのないよう、ダボスで引続き話し合いが行われるべきだ、と書いていました。
実際、2011年のWEFに出席した銀行業界(ウォールストリート)関係者には、かなりの安堵感の広がりが見て取れたそうで、米大手銀のGoldman SachsとMorgan Stanleyに至っては、CEOを派遣しませんでした。Goldmanは、代りに社長のGary Cohn 氏を派遣したのですが、このCohn氏が行った銀行業界規制に関する発言が、物議をかもしたようです。
FTの記事「Hedge funds rebuke Goldman Sachs regulation call(ヘッジファンド業界、ゴールドマンの業界規制要求に強く反対)」によると、1月26日に開催されたパネルディスカッションで、Cohn氏が、これ以上銀行業界を規制すると、リスクの高い活動が、規制がゆるく不透明な「シャドー・バンキング・セクター」に移ってしまう、と発言したそうです。

言うまでもなくこれは、ヘッジファンドを指しており、別の記事では、ヘッジファンドを最上顧客の一つとするGoldmanの経営者からこのような発言が出るのは極めて異例だ、と書いていました。この発言は準備されたものではなく、小さなパネルディスカッションで出てきたものだったそうですが、その発言についての記事は、同社の責任棚上げ感が読み取られる内容でした。
その結果、ヘッジファンド業界はやはり強く反発したようで、上記記事の中で、業界団体Managed Funds Associationの社長兼CEOであるRichard Baker氏は「(GoldmanのCohn社長の)一連の発言は、純粋に誤りである。ヘッジファンドは規制の対象とされているし、金融危機を引き起こしたわけでもないし、税金による救済も一切受けていない」と、強く反論したそうです。
同氏は更に、「最近の金融危機は、適切なリスク管理の方法を知らず、過大なレバレッジを使っていた金融機関によって引き起こされた。私が最も懸念するのは、また金融危機が起こるとすると、それは2008年の金融危機を引き起こしたのと同じ金融機関が、過去の過ちから十分に学ばなかった結果になるのではないか、ということだ」と述べたそうです。
確かに金融危機は、規制されていた投資銀行の、いわば「社内ヘッジファンド」の破綻によって引き起こされたものであり、その当事者とも言えるCohn氏が「社外ヘッジファンド」を悪者扱いするのは、少々おかしい気がします。FTでは、ヘッジファンド経営者の発言として、「Cohn氏は、規制当局の目をそらそうとしているのだろう。18ヶ月前まではGoldman こそが、世界最大のヘッジファンドだったのだから」という話を取り上げていました。
金融危機後に何かと注目を集めるようになってしまったGoldman Sachsは、Volcker Ruleが法制化されたことを受けて、大方の予想に反し、期限一杯待つことなく2011年に、同社の収益の柱と考えられてきた自己取引部門(プロップデスク)の解体を発表しています。その潔さの裏には、実は忸怩たる思いがあり、それがスイスのスキーリゾートで舌を滑らせることに繋がってしまったのかもしれません。
岐路に立たされる米国(と先進国)
FTのWEF特集の、他のいくつかの記事でも取り上げられていましたが、ダボスでの会議に出席した世界中の経営者やエコノミストの間には、2011年の景気見通しについて、楽観的な意見が多かったようです。実際、アメリカの株式市場の代表的指数であるS&P 500は、過去3ヶ月で8%ほど上昇しており、金融機関や大企業の中には、2007年の最高益を更新するような企業も出てきています。
景気が回復するとなると、市場の懸念は、デフレからインフレに移り、財政規律の回復を求める声が、政治的にも力を得がちです。しかし、失速する住宅価格や、高止まりする失業率にも見て取れる通り、アメリカ経済が力強く回復してきたと考えるのは、時期尚早な気がします。
とは言え、2008年以降続いて来た、巨額の財政出動によって、先進国の財政が大きく痛んでいることは、間違いありません。その事に関連して、FTに「Fixing America(アメリカを修復する)」と言う記事を寄稿したのは、クリントン政権の財務長官で、ウォールストリートの著名経営者でもあるRobert Rubin氏です。
同氏は、財政が逼迫した欧米日の先進国では、財政をどう立て直すかが2011年の主要な話題になるだろう、と述べた上で、「グローバル経済が歴史的な変革を遂げる中、先進民主国は、極めて重要な岐路に立たされている。選択肢は、重要な財政出動に余力を残しつつ、財政再建の課題に正しく対峙するか、それとも経済競争力を失い、最終的に経済危機によって選択幅の極めて狭い改革を強制されるかだ」と指摘しています。
Rubin氏は、この記事の中で、2011年にアメリカが財政問題を考える際に、3つの重要な事実がある、と指摘しています。一つ目は、2011年に景気が回復するとしても、失業率の高止まりなどによって、力弱いものとなることが予想されること。二つ目は、現在の財政構造の方向性は継続不能であり、中長期的に、負債の膨張や利払いの拡大といった、深刻かつ複数の問題を引き起こし得ること。そして三つ目は、アメリカは、教育、インフラ、リサーチと言った、長期的に経済競争力を維持するのに必須な分野に対して、十分な公共投資を行っていないこと、だそうです。
同氏による、短長期、両方の問題に関する解決策は、二つの特徴をもった財政再建策であるそうです。一つ目の特徴は、中期的に国債のGDP比が減少に向かうような財政規律策を「今、考えて、実行に移すのは数年後とする」こと。二つ目は、支出に対して徹底的な費用対効果分析を行って、長期的競争力の維持や、国防、社会セーフティネットなどの分野に、重点的に資金を配分することです。
面白いのは、同氏の主張は、経済を長期回復軌道に乗せるために、市場が懸念する財政問題についての明快な解決策を、今、提示する必要があるが、同時に2011年は、景気を回復軌道に乗せるための財政出動を緩める時ではない、と暗示していることです。アメリカでは中間選挙後に、共和党の財政再建派の声が大きくなっていますが、足元の景気の力弱さや、バランスシート不況と言われる現在の不況の性質を鑑みると、同氏の見解は、極めて的確と言える気がします。
また、かつてGoldman Sachsで花形自己投資部門を率いていた、投資家としても超一流の同氏だけに、財政への不信から生まれる市場の「心理作用」に注目し、それが米国債(金利)や為替市場、弱気な投資・消費行動の結果としての税収減など、いかに大きなネガティブを米国経済に与え得るか、ということについて、繰り返し指摘していました。こうしたことは、あまり議論されることがありませんが、極めて重要な考察だと言える気がします。
同氏の結論は、しっかりとした財政再建策なしに、景気回復による税収増を願って「なんとなくやり過ごそうとする」のは非現実的であり、難しい改革を実行するか、それを厳しく強要されるかの二者択一である、と言うことです。これが、アメリカだけではなく、ヨーロッパや日本についても当てはまる話であることは、言うまでもありません。
Rubin氏は、アメリカが、歴史的に証明してきた政治経済の耐久力と、柔軟な国民性を持って、正しい方向に進みだすことを信じているが、必要とされる決断は、大変難しいものである。よって2011年は、アメリカの政治家に強い意志があるかどうか、試される年になりそうだ、と、この記事を結んでいました。
・・・ダボスでの会議は数日の日程を無事終了したようですが、2011年も引続き、すぐに「視界良好」とはならない年になりそうです。米欧中日の各主要経済地域が、しっかりとした政治的意志を持って、必要な改革を実行してくれることを、願うばかりです。

by harry_g
| 2011-01-31 16:03
| 世界経済・市場トレンド


