2010年 02月 28日
ヘッジファンドのシステミックリスク? |
金融規制強化の目的は「システミックリスクの抑え込み」に置くべきだということは、以前から書いて来た通りですが、欧州においては、大手金融機関(銀行・証券)に加えて、ヘッジファンドやプライベート・エクイティファンドといった投資ファンドも、規制強化の対象とすることが検討されています。
投資ファンドは投資銀行と並んで、何かと悪者扱いされることが多いですが、今回の金融危機の直接的原因になっていないという話は、何度か書いたと思います。そんな中、イギリスの金融庁(FSA)より、興味深い調査結果が発表されたようです。

イギリスのTelegraph紙が2月23日に報じたところによると、英FSAは、ヘッジファンドがシステミックリスクの発生の原因となり得るかについて、広範な調査を行ったそうです。そしてその結論は「そのリスクは低い」というものであったそうです。
英FSAの調査は、大手50社のヘッジファンドと、投資銀行が有するプライムブローカレッジ部門を対象として行われ、イギリス当局による初の大規模な業界調査であったということです。調査対象となったヘッジファンドは、合計で£300bn(約42兆円)を運用し、業界全体の20%を占めるそうです。
また、プライムブローカレッジとは、ヘッジファンドに対してレバレッジ(借入金)を提供したり、株式のショートセール(空売り)のための貸し株を提供したりする部署のことを言います。つまり今回の調査は、ヘッジファンドそのものだけではなく、そこと頻繁に取引をする、金融機関側も対象になったことになります。
その調査の肝心な結論は、以下の3点です。
1)大手金融機関が、信用取引のカウンターパーティ(取引相手)として、特定のヘッジファンドにリスクを集中させているという事実はない
2)ヘッジファンドは、大きなレバレッジを用いている(リスクの高い存在)と考えられがちだが、実際用いているレバレッジは相対的に低いものであり、取っているリスク量も抑制されたレベルである
3)大手金融機関複数社を合わせても、特定のヘッジファンドに対して、エクスポージャーが集中しているという状況はなく、特定のファンドの破綻が発生しても、システミックリスクの引き金とはならない
システミックリスクとは、一部の金融機関や投資ファンドの破綻が、金融システム全体に連鎖的に広がってしまう状況を言います。大手投資銀Lehman Brothersの破綻が、金融界全般や、さらには実体経済にまで大きな悪影響を及ぼしたことは、記憶に新しいところです。
よって今後の金融危機の発生を防ぐためには、モラルハザードを回避しつつ、そのようなシステミックリスクを抑え込む事が極めて重要となるわけですが、上記調査によると、ヘッジファンドの破綻がシステミックリスクを引き起こす可能性は低いと考えられ、またヘッジファンドのとっているリスク自体が、さほど高くない(よってそもそも破綻もしにくい)という事になると思います。
金融機関がヘッジファンドに提供するレバレッジに関しては、かつて最大手のヘッジファンドと言われたLTCMに対し、大手の金融機関が集合的に巨額のレバレッジを与えていたことで、1997年のロシア危機でLTCMが破綻の危機に晒された際にシテミックリスクが発生しそうなった苦い経験が、ウォールストリートにはあります。
その時は、危機発生を回避するために政府が介入したわけですが、そのことは大きな反省を持って受け止められており、現在特定のファンドへのリスク集中が行われていないのは、当然と言えるのかもしれません。
また、ヘッジファンド側が用いるレバレッジの規模についても、LTCMは数十倍から百倍と言った規模であったと言われますが、同社破綻後は、そのような大きなレバレッジが使われることは、無くなったと聞いています。
たとえば、現在業界で最も多いとされる「株式ロングショート」戦略のヘッジファンドが通常用いるレバレッジは、1~3倍程度と言われています。
ただし、ヘッジファンドを取り巻く環境は、すべての市場がそうであるように、めまぐるしく変化します。また、人気のある投資戦略も、市場環境などによって変化していくため、今回の調査段階でリスクが低いと判断されたからと言って、同じ状況がずっと続くとは、言い切れない気がします。
また、大手ヘッジファンドの多くが、似たようなポジションを取っているということは往々にしてあるため、そのうち一つが何らかの原因で破綻し、ポジションの解消を迫られた際に、パニック的な売り(もしくはショートの買戻し)が起こって損失が広がる可能性はあるかもしれません。
イギリスFSAは、今回の調査結果について、極めて大量のデータを集めたもので満足しているが、2009年10月末の状況に基づいたものであり、状況が急変する可能性はある、と述べているそうです。今後は、6ヶ月毎に調査を行うそうで、情報開示について批判を受けることの多いヘッジファンド業界の取っているリスクを透明化するのに、寄与することが期待されます。
ところで、イギリスがこのような調査を行った背景には、大陸欧州との政治的駆け引きも、あるのかもしれません。
欧州では、金融危機を受けて盛り上がった規制強化の流れに便乗して、米英が主導して来たヘッジファンドやプライベートエクイティ業界について、合わせて規制を強化しようとしている節がありました。英欧全体のヘッジファンドの8割が集中しているとされるロンドンを抱える英国は、過剰な規制を避けたい立場なのかもしれません。
先述の通り、ヘッジファンドやプライベートエクイティファンドが金融危機の引き金になった事実が特にないことは、業界側も強く主張しています。また、破綻した投資ファンドが公的資金で救済されたこともなく、なぜ業界に対する規制強化の話が欧州で盛り上がるのかについては、多方面で疑問の声が上がっています。
2007年に破綻してJP Morganに救済買収された、投資銀Bear Stearnsのケースでは、傘下のヘッジファンドのサブプライム関連証券への投資の失敗が引き金になりましたが、だからこそアメリカで、「Volcker Rule」のような金融機関からの自己売買部門の切り離し規制案が、出てきたのではと思います。
その「Volcker Rule」ですが、アメリカの一部メディアでは、オバマ政権は同プランを捨てるのではと報道しているようですが、実態は、同政権は引き続き同プランを法案にするつもりで議会での調整を続けているようです。現時点では内容が極めて曖昧で、具体的案が固まるまでに紆余曲折があるのかもしれませんが、引き続き成り行きには注目したいと思います。
投資ファンドは投資銀行と並んで、何かと悪者扱いされることが多いですが、今回の金融危機の直接的原因になっていないという話は、何度か書いたと思います。そんな中、イギリスの金融庁(FSA)より、興味深い調査結果が発表されたようです。

イギリスのTelegraph紙が2月23日に報じたところによると、英FSAは、ヘッジファンドがシステミックリスクの発生の原因となり得るかについて、広範な調査を行ったそうです。そしてその結論は「そのリスクは低い」というものであったそうです。
英FSAの調査は、大手50社のヘッジファンドと、投資銀行が有するプライムブローカレッジ部門を対象として行われ、イギリス当局による初の大規模な業界調査であったということです。調査対象となったヘッジファンドは、合計で£300bn(約42兆円)を運用し、業界全体の20%を占めるそうです。
また、プライムブローカレッジとは、ヘッジファンドに対してレバレッジ(借入金)を提供したり、株式のショートセール(空売り)のための貸し株を提供したりする部署のことを言います。つまり今回の調査は、ヘッジファンドそのものだけではなく、そこと頻繁に取引をする、金融機関側も対象になったことになります。
その調査の肝心な結論は、以下の3点です。
1)大手金融機関が、信用取引のカウンターパーティ(取引相手)として、特定のヘッジファンドにリスクを集中させているという事実はない
2)ヘッジファンドは、大きなレバレッジを用いている(リスクの高い存在)と考えられがちだが、実際用いているレバレッジは相対的に低いものであり、取っているリスク量も抑制されたレベルである
3)大手金融機関複数社を合わせても、特定のヘッジファンドに対して、エクスポージャーが集中しているという状況はなく、特定のファンドの破綻が発生しても、システミックリスクの引き金とはならない
システミックリスクとは、一部の金融機関や投資ファンドの破綻が、金融システム全体に連鎖的に広がってしまう状況を言います。大手投資銀Lehman Brothersの破綻が、金融界全般や、さらには実体経済にまで大きな悪影響を及ぼしたことは、記憶に新しいところです。
よって今後の金融危機の発生を防ぐためには、モラルハザードを回避しつつ、そのようなシステミックリスクを抑え込む事が極めて重要となるわけですが、上記調査によると、ヘッジファンドの破綻がシステミックリスクを引き起こす可能性は低いと考えられ、またヘッジファンドのとっているリスク自体が、さほど高くない(よってそもそも破綻もしにくい)という事になると思います。
金融機関がヘッジファンドに提供するレバレッジに関しては、かつて最大手のヘッジファンドと言われたLTCMに対し、大手の金融機関が集合的に巨額のレバレッジを与えていたことで、1997年のロシア危機でLTCMが破綻の危機に晒された際にシテミックリスクが発生しそうなった苦い経験が、ウォールストリートにはあります。
その時は、危機発生を回避するために政府が介入したわけですが、そのことは大きな反省を持って受け止められており、現在特定のファンドへのリスク集中が行われていないのは、当然と言えるのかもしれません。また、ヘッジファンド側が用いるレバレッジの規模についても、LTCMは数十倍から百倍と言った規模であったと言われますが、同社破綻後は、そのような大きなレバレッジが使われることは、無くなったと聞いています。
たとえば、現在業界で最も多いとされる「株式ロングショート」戦略のヘッジファンドが通常用いるレバレッジは、1~3倍程度と言われています。
ただし、ヘッジファンドを取り巻く環境は、すべての市場がそうであるように、めまぐるしく変化します。また、人気のある投資戦略も、市場環境などによって変化していくため、今回の調査段階でリスクが低いと判断されたからと言って、同じ状況がずっと続くとは、言い切れない気がします。
また、大手ヘッジファンドの多くが、似たようなポジションを取っているということは往々にしてあるため、そのうち一つが何らかの原因で破綻し、ポジションの解消を迫られた際に、パニック的な売り(もしくはショートの買戻し)が起こって損失が広がる可能性はあるかもしれません。
イギリスFSAは、今回の調査結果について、極めて大量のデータを集めたもので満足しているが、2009年10月末の状況に基づいたものであり、状況が急変する可能性はある、と述べているそうです。今後は、6ヶ月毎に調査を行うそうで、情報開示について批判を受けることの多いヘッジファンド業界の取っているリスクを透明化するのに、寄与することが期待されます。
ところで、イギリスがこのような調査を行った背景には、大陸欧州との政治的駆け引きも、あるのかもしれません。
欧州では、金融危機を受けて盛り上がった規制強化の流れに便乗して、米英が主導して来たヘッジファンドやプライベートエクイティ業界について、合わせて規制を強化しようとしている節がありました。英欧全体のヘッジファンドの8割が集中しているとされるロンドンを抱える英国は、過剰な規制を避けたい立場なのかもしれません。
先述の通り、ヘッジファンドやプライベートエクイティファンドが金融危機の引き金になった事実が特にないことは、業界側も強く主張しています。また、破綻した投資ファンドが公的資金で救済されたこともなく、なぜ業界に対する規制強化の話が欧州で盛り上がるのかについては、多方面で疑問の声が上がっています。
2007年に破綻してJP Morganに救済買収された、投資銀Bear Stearnsのケースでは、傘下のヘッジファンドのサブプライム関連証券への投資の失敗が引き金になりましたが、だからこそアメリカで、「Volcker Rule」のような金融機関からの自己売買部門の切り離し規制案が、出てきたのではと思います。
その「Volcker Rule」ですが、アメリカの一部メディアでは、オバマ政権は同プランを捨てるのではと報道しているようですが、実態は、同政権は引き続き同プランを法案にするつもりで議会での調整を続けているようです。現時点では内容が極めて曖昧で、具体的案が固まるまでに紆余曲折があるのかもしれませんが、引き続き成り行きには注目したいと思います。
by harry_g
| 2010-02-28 17:13
| ヘッジファンド・株式投資


