2010年 01月 24日
ウォールストリート規制案への反応 |
先週オバマ大統領の発表したウォールストリート規制案(Volcker Plan)について、週末の間に金融メディアが、早速いくつかの反応を取り上げていました。取り急ぎ以下に、ヨーロッパ各国の反応と、プライベートエクイティ業界がこの規制案をどのように考えているかというFTの記事について、手短に取り上げてみたいと思います。(気のせいかもしれませんが、全般的にこの件に関する報道は、FTの方がWSJより多いように思います。)
Obama plans fail to forge EU consensus
(オバマ案、欧州での合意形成に失敗-FT、1月22日)
この記事は、オバマ大統領の発表した「Volcker Plan」は、欧州に於いて直ちにコミットメントを得るほどの合意形成には至っておらず、現時点では、Barclays、RBS、Deutsche Bankなどの欧州系大手金融機関が業績への影響の算出を急いでいる、と報じています。
欧州は、少なくとも先週までは、米国よりも遥かに積極的に、金融規制の強化に取り組んでいました。よって今回のオバマ大統領の提案を、驚きをもって捉えたことと思います。同時に、規制の枠組み設定でアメリカに主導権を握られることにもなり兼ねない上、投資銀行より商業銀行中心のヨーロッパの金融機関は、自己売買の禁止によるダメージが大きくなる可能性があるため、慎重な立場を取っているのかもしれません。
ただ予想された通りですが、金融規制を促す政治圧力の強い、英独仏などからは、基本的には歓迎のコメントが出ているようです。
フランス財務大臣のLagarde氏は、オバマの計画を「非常によい前進だ」と評価し、「米国大統領が、金融業界の過剰な行動の抑制とコントロールには規制が重要だという認識に立ってくれて嬉しい」と述べたそうです。また、フランスと歩調を合わせることの多いドイツの財務大臣も、オバマ大統領の提案は「今後の議論に助けとなるだろう」とコメントしたそうです。
イギリス政府は、提案された厳しい規制案に対し、あまり歓迎的ではないものの、自分たちが取ってきた方向とは一致していると考えているようで、詳細内容を吟味する、としているそうです。英財務省の関係者は、自己トレーディング規制に最も関心を寄せているが、バーゼルで別途議論される自己資本規制の強化の議論の中も、解決策の一つになるはずだとコメントしたそうです。
次に欧州系銀行への影響についてですが、欧州銀行株アナリストの間では、仮に規制が額面通り実施された場合、どの銀行が一番被害を受けるかで、議論が広がっているようです。ただ、欧州系銀行は金融危機後に、米系以上に「自己ポジションのトレーディング」業務を縮小しており、利益への貢献度は小さいはずだ、と記事の中では書かれていました。
具体的にUBSのアナリストが計算したところによると、プロップトレーディングの利益貢献度は、Credit Suisseで4.9%、Deutsche Bankで4.3%、Barclaysで4.2%となっているそうです。ただ対顧サービスの延長として行われてるトレーディング業務が、どのように規制対象となるかを判断するのは難しい、とも書いていました。
また、GoldmanやJP Morganと違い、ほとんどの欧州系銀行は、ヘッジファンドやプライベートエクイティ業務を拡大していないとUBSのアナリストは述べています。実際この規制案が出された後に英系大手RBSからは、「プロップトレーディング業務から既に撤退しており、PE投資へのエクスポージャーも非常に小さい」というコメントが出されたそうで、Barclaysも「PE部門は既にスピンオフした」と述べているそうです。
Buy-out groups unsure of impact
(プライベートエクイティ業界、規制の影響に確信持てず-FT、1月22日)
プライベートエクイティ(LBO)ファンドの経営者達は、現時点ではオバマ規制案がどのような影響をもたらすかについて「頭を掻いている」そうです。ただ$50bn(約4.5兆円)を運用するGoldman Sachs傘下のPEファンドの経営者でない限り、今回の規制案でLBO業界は、損失を受けると同時に利益も得るだろう、と多くの経営者は思っているようです。
影響の出方は二通り予想され、まずプライベートエクイティファンドに積極的に投資をしていた「投資家」という意味での銀行・証券業界に規制がかかると、投資資金の減少という意味から、マイナスの影響が出ることが予想されるとしています。FTでは主なPE投資家を、大きい順に、公的年金、私的年金、保険会社、銀行と投資銀行、としており、そのような大きな投資家がPEファンドに投資できなくなると、確かに影響は小さくない気がします。
しかしもう一つの影響として、自らのバランスシートを使ってプライベートエクイティ投資を進めてきた投資銀行が、その業務を出来なくなると、純粋な投資ファンドにとっては強力な競合他社が減ることになるため、大きなメリットがあると言える気がします。先日の記事でも、投資銀行のPE業界進出をファンド側は面白く思っていない、という話を書きましたが、今後その問題がなくなるのであれば、PE業界は「本音では」歓迎するように思います。
業界のあるエグゼクティブは、他社比で10倍近いPE投資を行っていたGoldman Sachsの動向が一番重要、と述べていたそうです。ウォールストリートで最も自己投資に積極的であることで知られるGoldmanは、$145bn(約13兆円)のオルタナティブ投資残高(含:ヘッジファンド、不動産ファンド)のうち、約10%を、プライベートエクイティ投資やマーチャントバンキング業務に当てているそうで、次に大きいJP Morganは、$6.8bn(約6100億円)を、大きく上回っているようです。
ただ、FTも指摘していましたが、PEファンドの投資先は、未上場企業や不動産のように、流動性の低い資産が中心であり、ファンドの清算には「10年近くを要する可能性がある」かもしれません。過去にLBOについて頻繁にブログに書いていた際にも触れた通り、PE投資のエグジットは、往々にして市況次第となりがちです。株式市場が強ければ、IPOやM&Aもやりやすいですし、他のPEファンドが追加でレバレッジを得ることで、セカンダリーでポートフォリオ企業を売却することも出来ます。よって、今後の市場動向次第では、確かにファンド清算には長い時間がかかるかもしれません。
・・・とりあえず現時点ではこんな感じです。また面白い反応がメディアに載っていたら、取り上げたいと思います。
Obama plans fail to forge EU consensus
(オバマ案、欧州での合意形成に失敗-FT、1月22日)
この記事は、オバマ大統領の発表した「Volcker Plan」は、欧州に於いて直ちにコミットメントを得るほどの合意形成には至っておらず、現時点では、Barclays、RBS、Deutsche Bankなどの欧州系大手金融機関が業績への影響の算出を急いでいる、と報じています。
欧州は、少なくとも先週までは、米国よりも遥かに積極的に、金融規制の強化に取り組んでいました。よって今回のオバマ大統領の提案を、驚きをもって捉えたことと思います。同時に、規制の枠組み設定でアメリカに主導権を握られることにもなり兼ねない上、投資銀行より商業銀行中心のヨーロッパの金融機関は、自己売買の禁止によるダメージが大きくなる可能性があるため、慎重な立場を取っているのかもしれません。
ただ予想された通りですが、金融規制を促す政治圧力の強い、英独仏などからは、基本的には歓迎のコメントが出ているようです。
フランス財務大臣のLagarde氏は、オバマの計画を「非常によい前進だ」と評価し、「米国大統領が、金融業界の過剰な行動の抑制とコントロールには規制が重要だという認識に立ってくれて嬉しい」と述べたそうです。また、フランスと歩調を合わせることの多いドイツの財務大臣も、オバマ大統領の提案は「今後の議論に助けとなるだろう」とコメントしたそうです。
イギリス政府は、提案された厳しい規制案に対し、あまり歓迎的ではないものの、自分たちが取ってきた方向とは一致していると考えているようで、詳細内容を吟味する、としているそうです。英財務省の関係者は、自己トレーディング規制に最も関心を寄せているが、バーゼルで別途議論される自己資本規制の強化の議論の中も、解決策の一つになるはずだとコメントしたそうです。
次に欧州系銀行への影響についてですが、欧州銀行株アナリストの間では、仮に規制が額面通り実施された場合、どの銀行が一番被害を受けるかで、議論が広がっているようです。ただ、欧州系銀行は金融危機後に、米系以上に「自己ポジションのトレーディング」業務を縮小しており、利益への貢献度は小さいはずだ、と記事の中では書かれていました。
具体的にUBSのアナリストが計算したところによると、プロップトレーディングの利益貢献度は、Credit Suisseで4.9%、Deutsche Bankで4.3%、Barclaysで4.2%となっているそうです。ただ対顧サービスの延長として行われてるトレーディング業務が、どのように規制対象となるかを判断するのは難しい、とも書いていました。
また、GoldmanやJP Morganと違い、ほとんどの欧州系銀行は、ヘッジファンドやプライベートエクイティ業務を拡大していないとUBSのアナリストは述べています。実際この規制案が出された後に英系大手RBSからは、「プロップトレーディング業務から既に撤退しており、PE投資へのエクスポージャーも非常に小さい」というコメントが出されたそうで、Barclaysも「PE部門は既にスピンオフした」と述べているそうです。
Buy-out groups unsure of impact
(プライベートエクイティ業界、規制の影響に確信持てず-FT、1月22日)
プライベートエクイティ(LBO)ファンドの経営者達は、現時点ではオバマ規制案がどのような影響をもたらすかについて「頭を掻いている」そうです。ただ$50bn(約4.5兆円)を運用するGoldman Sachs傘下のPEファンドの経営者でない限り、今回の規制案でLBO業界は、損失を受けると同時に利益も得るだろう、と多くの経営者は思っているようです。
影響の出方は二通り予想され、まずプライベートエクイティファンドに積極的に投資をしていた「投資家」という意味での銀行・証券業界に規制がかかると、投資資金の減少という意味から、マイナスの影響が出ることが予想されるとしています。FTでは主なPE投資家を、大きい順に、公的年金、私的年金、保険会社、銀行と投資銀行、としており、そのような大きな投資家がPEファンドに投資できなくなると、確かに影響は小さくない気がします。
しかしもう一つの影響として、自らのバランスシートを使ってプライベートエクイティ投資を進めてきた投資銀行が、その業務を出来なくなると、純粋な投資ファンドにとっては強力な競合他社が減ることになるため、大きなメリットがあると言える気がします。先日の記事でも、投資銀行のPE業界進出をファンド側は面白く思っていない、という話を書きましたが、今後その問題がなくなるのであれば、PE業界は「本音では」歓迎するように思います。
業界のあるエグゼクティブは、他社比で10倍近いPE投資を行っていたGoldman Sachsの動向が一番重要、と述べていたそうです。ウォールストリートで最も自己投資に積極的であることで知られるGoldmanは、$145bn(約13兆円)のオルタナティブ投資残高(含:ヘッジファンド、不動産ファンド)のうち、約10%を、プライベートエクイティ投資やマーチャントバンキング業務に当てているそうで、次に大きいJP Morganは、$6.8bn(約6100億円)を、大きく上回っているようです。
ただ、FTも指摘していましたが、PEファンドの投資先は、未上場企業や不動産のように、流動性の低い資産が中心であり、ファンドの清算には「10年近くを要する可能性がある」かもしれません。過去にLBOについて頻繁にブログに書いていた際にも触れた通り、PE投資のエグジットは、往々にして市況次第となりがちです。株式市場が強ければ、IPOやM&Aもやりやすいですし、他のPEファンドが追加でレバレッジを得ることで、セカンダリーでポートフォリオ企業を売却することも出来ます。よって、今後の市場動向次第では、確かにファンド清算には長い時間がかかるかもしれません。
・・・とりあえず現時点ではこんな感じです。また面白い反応がメディアに載っていたら、取り上げたいと思います。
by harry_g
| 2010-01-24 13:53
| 投資銀行