2009年 12月 04日
金融センター「ロンドン」の危機? |
年末になっても相変わらず、世界中で金融規制の強化や投資銀行の報酬に関するニュースが散見されますが、金融規制に関する議論では、アメリカよりヨーロッパの方が騒がしいように思います。そこから派生した面白い話が、12月2日のBloombergに載っていました。
その記事「Darling Tells France London Is Only Rival to New York(ニューヨークのライバルはロンドンだけ-英財務相が寄稿)」によると、Darling英財務相が2日付の英国Times紙への寄稿の中で、「他の(欧州)諸国が好もうと好まざると、ロンドンは真の国際金融センターとして、ニューヨークの唯一のライバルだ」とフランスに対して主張したそうです。

これは、フランスで外相経験のあるMichel Barnier氏が、欧州委員会で金融に関する統一規制を検討する、次期Single Market Commissioner(域内市場・サービス担当委員)に指名されたことで、フランスのSarkozy大統領が、イギリスの「Big loser(大きな敗北)」である、「アングロサクソンモデルが失敗したことの反省を受けた結果である」などと述べたことに対する、強い反発の意味があるようです。
国際金融市場では、ドルの地位が相対的に低下してユーロの地位が上がるなど、米英を中心としたモデルが若干変化しつつあるように、見えないこともありません。また中国など一部途上国の急成長や資源国の地位向上などもあり、今後世界は今までより多極化するのかもしれません。
そうした状況に対してイギリスも危機感を強めているのかもしれませんが、とは言えパリやフランクフルトが、国際金融センターとしてロンドンに代わって発展を遂げられるかと言うと、さすがに難しい気がします。
国際金融センターをざっくり定義すると、大手金融機関の拠点が集まり、知的・人的資源が集中している都市、と言えると思います。現時点で国際金融センターと呼べる主な都市は、ニューヨークとロンドンであり、他に香港とシンガポールがあると思います。
これらの国際金融センターに共通していることは、「英語圏である」という事です。極めて単純な話のようですが、世界で一流と言われる教育機関のほとんどが英語で教育を行っていることなどを考えると、そこを卒業してくる優秀な人材が如何なく力を発揮できる環境があることが、国際金融センターとしての必須条件であることは、間違いないと思います。

そう考えるとパリもフランクフルトも、ロンドンに対して圧倒的に不利であり、仮にEUの過剰規制によって、ロンドン市場が衰退してしまうようなことがあれば、ビジネスがニューヨークや別の金融センターに移ってしまうなどして、ヨーロッパ全体に大変な不利益になる気がします。
大陸欧州が米英発の金融危機に懲りて、金融規制の統一などで主導権を握りたい気持ちは理解できますが、LBOブームの際にも欧州各国は、米英を制するどころか、妬みのような感情を持って、一緒になってブームに乗っていた印象があります。それで危機が発生した後に、全て米英の責任にするというのも、どうかと思います。
翻ってアジアでは、日本の金融庁が東京をアジアの金融センターにする取り組みをしており、とても良い事だと思いましたが、やはり最大のネックは言語の問題になる気がします。多くの国がそうしているように、日本でも経済のためと割り切って英語教育を徹底すれば、状況が変わるかもしれませんが、そうでなければ国際金融センターとしての地位を築くのは、なかなか厳しいかもしれません。
せめて、日本経済が好調であればよいですが、昨今欧米の関心は完全に中国へ向いており、英Economist誌に「Land of the Setting Sun(日沈む国)」と書かれるなど、日本についての興味は下がる一方のように見えます。投資銀行でも今まで「日本株」と「日本以外のアジア株」とチームが分かれていたのが、最近は「アジアの中の日本」という形に統合・再編が進んでおり、アジアの拠点は香港に置くところが多いようです。
いつまでも日本経済が一方的に弱体化し、中国経済が伸び続けるということはないように思いますが、金融センターとして、税制、規制、言語などの面で金融業界を明確に優遇し、更に実質中華圏である香港とシンガポールは、アジアの金融センターとしての地位確保に、相対的有利な立場にいる気がします。
話はロンドンとニューヨークに戻りますが、この二都市はイギリスとアメリカという国家の中でも、国内のその他地域とは事実上断絶された「国際都市」となっていることは、広く知られている通りです。具体的データは見たことがありませんが、感覚的にはロンドンのシティで働く人の半数近く、ウォールストリートでも3割近くは外国人ではないかと思われます。
かつてロンドン勤務であった友人曰く、当地の投資銀行では、新卒時点で英国人の割合を5割以下にすると言ったガイドラインが、ある程度決まっているそうです。その他は大陸欧州や、インド、トルコ、ロシア、中東などの出身者であり、そうした人たちは、5年から10年ロンドンに留まって経験を積み、家族や子供が出来るようなタイミングで自国に帰って行くパターンが多いそうです。

それに対してニューヨークでは、一部の例外を除いて国籍で採用制限をするということは一切やっておらず、純粋に「実力主義」が徹底されている気がします。また、○○系アメリカ人という人も沢山いることから、誰が何国籍なのか、ほとんど分かりません。(私自身の国籍も、周囲の同僚は知らなかったと思います。)出身国の強みを生かして云々という事が通用しないというのは、ニューヨークの特徴と言えるかもしれません。
余談ですが、ロンドンはオフィス内で、イタリア人同士はイタリア語、ドイツ人同士はドイツ語で話しているのに対し、ニューヨークでは全員が英語で話すという不文律があります。例えば日本人同士だからとオフィスで日本語で話していたりすると、冷たい目で見られてしまいます。何となく国際都市と言う事と矛盾するようですが、移民国家であるアメリカ独特の文化と言えるかもしれません。
そんなロンドンとニューヨークの、国際金融センターとしての地位を比較すると、金融規制見直しの議論が、アメリカ、イギリス、大陸ヨーロッパの順に厳しいものになっている事に照らしても、とりあえずニューヨークは安泰であるように思います。それに対して、大陸欧州各国(と国内世論)に足を引っ張られる形となっているイギリスの焦りは、以下のFTの関連記事にも見られるように、相当であろうと想像します。
EU内で議論されている、プライベートエクイティ・ヘッジファンド規制と、それに対する業界団体からの強い反発にも見て取れるように、EU主導の規制強化は少々過剰なように思えます。よってその動向次第では、ロンドンの金融市場における地位低下は、あり得ない話ではないかもしれません。今後のヨーロッパにおける規制論議の展開は、注目して見ていたいと思います。
関連記事(FT)
Sarkozy cancels UK visit over City tension
Anglo-French tensions hit pan-EU ambitions
その記事「Darling Tells France London Is Only Rival to New York(ニューヨークのライバルはロンドンだけ-英財務相が寄稿)」によると、Darling英財務相が2日付の英国Times紙への寄稿の中で、「他の(欧州)諸国が好もうと好まざると、ロンドンは真の国際金融センターとして、ニューヨークの唯一のライバルだ」とフランスに対して主張したそうです。

これは、フランスで外相経験のあるMichel Barnier氏が、欧州委員会で金融に関する統一規制を検討する、次期Single Market Commissioner(域内市場・サービス担当委員)に指名されたことで、フランスのSarkozy大統領が、イギリスの「Big loser(大きな敗北)」である、「アングロサクソンモデルが失敗したことの反省を受けた結果である」などと述べたことに対する、強い反発の意味があるようです。
国際金融市場では、ドルの地位が相対的に低下してユーロの地位が上がるなど、米英を中心としたモデルが若干変化しつつあるように、見えないこともありません。また中国など一部途上国の急成長や資源国の地位向上などもあり、今後世界は今までより多極化するのかもしれません。
そうした状況に対してイギリスも危機感を強めているのかもしれませんが、とは言えパリやフランクフルトが、国際金融センターとしてロンドンに代わって発展を遂げられるかと言うと、さすがに難しい気がします。
国際金融センターをざっくり定義すると、大手金融機関の拠点が集まり、知的・人的資源が集中している都市、と言えると思います。現時点で国際金融センターと呼べる主な都市は、ニューヨークとロンドンであり、他に香港とシンガポールがあると思います。
これらの国際金融センターに共通していることは、「英語圏である」という事です。極めて単純な話のようですが、世界で一流と言われる教育機関のほとんどが英語で教育を行っていることなどを考えると、そこを卒業してくる優秀な人材が如何なく力を発揮できる環境があることが、国際金融センターとしての必須条件であることは、間違いないと思います。

そう考えるとパリもフランクフルトも、ロンドンに対して圧倒的に不利であり、仮にEUの過剰規制によって、ロンドン市場が衰退してしまうようなことがあれば、ビジネスがニューヨークや別の金融センターに移ってしまうなどして、ヨーロッパ全体に大変な不利益になる気がします。
大陸欧州が米英発の金融危機に懲りて、金融規制の統一などで主導権を握りたい気持ちは理解できますが、LBOブームの際にも欧州各国は、米英を制するどころか、妬みのような感情を持って、一緒になってブームに乗っていた印象があります。それで危機が発生した後に、全て米英の責任にするというのも、どうかと思います。
翻ってアジアでは、日本の金融庁が東京をアジアの金融センターにする取り組みをしており、とても良い事だと思いましたが、やはり最大のネックは言語の問題になる気がします。多くの国がそうしているように、日本でも経済のためと割り切って英語教育を徹底すれば、状況が変わるかもしれませんが、そうでなければ国際金融センターとしての地位を築くのは、なかなか厳しいかもしれません。
せめて、日本経済が好調であればよいですが、昨今欧米の関心は完全に中国へ向いており、英Economist誌に「Land of the Setting Sun(日沈む国)」と書かれるなど、日本についての興味は下がる一方のように見えます。投資銀行でも今まで「日本株」と「日本以外のアジア株」とチームが分かれていたのが、最近は「アジアの中の日本」という形に統合・再編が進んでおり、アジアの拠点は香港に置くところが多いようです。
いつまでも日本経済が一方的に弱体化し、中国経済が伸び続けるということはないように思いますが、金融センターとして、税制、規制、言語などの面で金融業界を明確に優遇し、更に実質中華圏である香港とシンガポールは、アジアの金融センターとしての地位確保に、相対的有利な立場にいる気がします。
話はロンドンとニューヨークに戻りますが、この二都市はイギリスとアメリカという国家の中でも、国内のその他地域とは事実上断絶された「国際都市」となっていることは、広く知られている通りです。具体的データは見たことがありませんが、感覚的にはロンドンのシティで働く人の半数近く、ウォールストリートでも3割近くは外国人ではないかと思われます。
かつてロンドン勤務であった友人曰く、当地の投資銀行では、新卒時点で英国人の割合を5割以下にすると言ったガイドラインが、ある程度決まっているそうです。その他は大陸欧州や、インド、トルコ、ロシア、中東などの出身者であり、そうした人たちは、5年から10年ロンドンに留まって経験を積み、家族や子供が出来るようなタイミングで自国に帰って行くパターンが多いそうです。

それに対してニューヨークでは、一部の例外を除いて国籍で採用制限をするということは一切やっておらず、純粋に「実力主義」が徹底されている気がします。また、○○系アメリカ人という人も沢山いることから、誰が何国籍なのか、ほとんど分かりません。(私自身の国籍も、周囲の同僚は知らなかったと思います。)出身国の強みを生かして云々という事が通用しないというのは、ニューヨークの特徴と言えるかもしれません。
余談ですが、ロンドンはオフィス内で、イタリア人同士はイタリア語、ドイツ人同士はドイツ語で話しているのに対し、ニューヨークでは全員が英語で話すという不文律があります。例えば日本人同士だからとオフィスで日本語で話していたりすると、冷たい目で見られてしまいます。何となく国際都市と言う事と矛盾するようですが、移民国家であるアメリカ独特の文化と言えるかもしれません。
そんなロンドンとニューヨークの、国際金融センターとしての地位を比較すると、金融規制見直しの議論が、アメリカ、イギリス、大陸ヨーロッパの順に厳しいものになっている事に照らしても、とりあえずニューヨークは安泰であるように思います。それに対して、大陸欧州各国(と国内世論)に足を引っ張られる形となっているイギリスの焦りは、以下のFTの関連記事にも見られるように、相当であろうと想像します。
EU内で議論されている、プライベートエクイティ・ヘッジファンド規制と、それに対する業界団体からの強い反発にも見て取れるように、EU主導の規制強化は少々過剰なように思えます。よってその動向次第では、ロンドンの金融市場における地位低下は、あり得ない話ではないかもしれません。今後のヨーロッパにおける規制論議の展開は、注目して見ていたいと思います。
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by harry_g
| 2009-12-04 17:30
| 世界経済・市場トレンド


