ディズニーとヘッジファンド |
ディズニーと言うと、ミッキーマウスやらディズニーランドを彷彿させがちですが、実は株式時価総額5.1兆円の、米国4大メディア企業の一つ(NYSE:DIS)です。ディズニー傘下の企業には、米4大テレビネットワークの一つであるABC、大手ラジオネットワークのABC Radio、人気スポーツチャンネルのESPN、映画配給大手のWalt Disney PicturesとTouchstone Picturesなどがあります。4大メディアの中で唯一ロサンゼルス郊外に本社キャンパスを置いているのですが、本社ビル「Team Disney Building」の壁面には、写真の通り巨大なディズニーキャラクターが彫刻してあります。
今回の資金調達スキームは、今後4年間に渡ってディズニーが製作する32本の映画の製作費の40%を、Kingdom Filmsと言うジョイントベンチャーから505百万ドル(約560億円)調達し、製作された映画の興行収入及びビデオ・DVD販売等の収入の40%を配分する、と言うものです。
ディズニーは、1980年代から、時折同様のジョイントベンチャーを作り、リスクの高い映画製作費用のリスク分散を図っていました。アメリカの映画製作費は一作品辺りの平均が2003年に100億円を超え、ますますハイリスク・ハイリターンのビジネスになっています。ただ、4年間、32本と多くの映画に分散投資することで、リスクを抑えつつ適度なリターンが期待出来る、との読みが、今回のスキームの裏にあるようです。
Kingdom Filmsは、大手投資銀行のCredit Suisse First Bostonが組成したファンドで、$135mmのエクイティと$370mmのデットで成り立っています。伝統的にハリウッド映画のファイナンシングは、配給権を担保にロサンゼルスにある特定の銀行からの借入れによって行われることが多いですが、今回はCSFB傘下のPEファンド、DLJ Investment Partnersがエクイティ出資の中心となり、他の資金をヘッジファンド、保険会社、メザニンファンドから調達したようです。
その記事の中でディズニーは、「数年前まで、ヘッジファンドの期待リターンはもっと高い所にあると言う印象があった。それが、流入する多額の資金の受け皿として、ハリウッドが期待するリターンと彼らが期待するリターンに接点が出てきた」とコメントしています。ヘッジファンド投資家から見ると、これはまさに、ファンド規模が大きくなりすぎることの弊害なのかもしれませんが、投資先の裾野が広がると言う意味では、ポジティブとも考えられます。
アメリカでは、現在メディア業界のストラクチャーシフトが進んでおり、従来主要メディアだった映画(館)や地上波ネットワークの視聴シェアが減少し、ケーブルネットワークやDVD、インターネットのシェアが急速に拡大しています。また、ComcastやTime Warne Cableと言ったケーブルテレビ配給会社が、従来の番組配信に加えて、高速インターネットや、更には電話サービスをバンドルして提供し始めた事に対抗するために、RBOCと呼ばれる米国の大手地域電話会社が、本格的なビデオ(番組配信)サービスへの参入を表明しています。
こうなってくると、コンテンツ配給の「パイプ」部分がどんどん拡大し、バリューが減少して行く一方で、川上にある優良コンテンツへのニーズが高まる事が予想されます。そういう業界のパラダイムシフトの中で、潜在的に大きなリターンが期待出来るコンテンツファンドへの投資は、今後も加速するのかもしれません。
更に興味深いのは、ディズニーはご想像通りハリウッドでも最もブランドや体面を気にする企業なのですが、そのディズニーが、一見リスキーと思われるヘッジファンドと手を組んだ資金調達スキームに乗り出した、と言う点です。アメリカの事業法人は、経済的にメイクセンスする行動、M&Aなり市場を通じた資金調達なりに、極めて前向きです。今回の件も、まさにその一例と言えるかもしれません。
そんな事業法人のニーズに応えるため、投資銀行では、日々様々なアイデアを思考して、お客様に提案することになります。その中には、PEファンドに対するLBOのソーシングのような、高度な金融・資金調達スキームの提案もあれば、まるでコンサルティング会社のような、業界トレンドの解説と戦略的方向性の提案のようなものもあります。
ただ共通しているのは、常にマーケットの視点から物事を見ている、と言う点です。ディズニーの案件のように経営的視点が入る事も多くありますが、基本的にはマーケットの代弁者として、どうする事が最も株主価値(または債権者価値)の増大につながるか、と言うことが、提案の柱になっています。企業経営者も、その事を自らの仕事の最重要課題と理解しているため、ウォールストリートのサービスや情報にフィーを払い、一緒になって物事を考えます。こういったクライアントのメンタリティは、良くも悪くも日本とは大分違う気がします。