投資銀行のLBO業務とヘッジファンド |
さて、ウォールストリートでは、年度末(通常11月末)前で、かつ学生のリクルーティングに追われる、多忙な時期を迎えています。
前回までLBOファンドの話ばかりしていましたが、投資銀行がLBOにどう関わっているのか、少々書いてみたいと思います。
LBOファンド(一般にはFinancial Sponsorまたは単にスポンサーと呼んでいます)は、事業法人と比べて純粋に「投資価値」だけで行動するため、投資銀行にとっては上客です。LBO案件において投資銀行が提供するサービスは、以下のような感じです。
①セクター知識を生かした買収先企業のソーシング
②ターゲットのレバレッジアビリティとバリュエーション
③キャピタル・ストラクチャーの提案(どんなデットを使って買収するか)
④M&Aのエクセキューション(これはファンド独自でやる場合も多い)
⑤買収資金の調達(レバレッジド・ローン、HY債等のオファリング)
数千億円規模のLBOがザラにあるアメリカでは、投資銀行にとってLBOのファイナンシングは非常に儲かるビジネスです。そのためどこの投資銀行も、必死に案件をソーシングをし、何とかファイナンシングを取ろうとします。その結果、ハイイールドマーケットの状況にもよりますが、LBO案件が次々と発掘される→PEファーム・投資銀行共に儲かる→さらに案件が増える・・・という流れになっています。
この辺り、銀行が取引先をPEファンドに投資先として紹介し、更にはローンも出してファイナンシングもまかなってしまう日本とは、大分違うようです。クレジットマーケットが未発達なので仕方が無いですが、今後は変わっていくのでしょうか。ファイナンシングで儲からなければ、投資銀行にとってソーシングのインセンティブも低いのではないかと想像します。(アメリカでもM&Aフィーをスポンサーから取るのは難しくなっています。)
ともかく投資銀行は、色々な形でLBOファンドの「大もうけ」(ほんと天文学的大もうけです)に貢献し、その見返りに、案件規模の数%と言うフィーを稼ぎます。更には、投資期間中にDividend Recapを行うための追加のファイナンシング(PIKノートと呼ばれるディープ・ディスカウント債を使う事が多い)や、一部換金するためのIPO(再上場)や株式オファリング、エグジットやキャッシュフロー補強のためのM&Aなどもアレンジし、更に儲けることを狙います。
そのため一度プロジェクトチームに入ると、LBOモデルの作成、デット・ストラクチャーの検討、HYオファリングのアレンジ、IPOやM&Aの検討と更なるモデリング、と、次から次へと作業が発生することになります。
・・・具体的な業務内容を書き始める前に、念の為、LBOの概要を説明してみたいと思います。
LBO(レバレッジド・バイアウト)とは、一言で言うと企業買収の際の資金調達手法のことです。多額の負債(レバレッジ)を利用して会社を「完全」買収し、投資期間中にその会社が生み出すキャッシュフローで買収に要した負債を返済していくことでエクイティ価値を増大させ、最終的に売却してエクイティを回収(バイアウト)します。買収した企業は株式が非公開化されるので、「プライベート・エクイティ=未公開株」と呼ばれるわけです。1970年代後半にKKRによって開発されたと言われるLBOは、株主経営が浸透し、M&Aが活発なアメリカでは、オルタナティブ投資の一手法として完全に確立しています。
教科書的に言うと、LBOファンドの買収ターゲットは、成熟企業であまり成長性が見込めず、一般の株式投資家からみると魅力的でない業界(=バリュエーションが割安)で、かつ成長のための設備投資等も必要なく、キャッシュフローの予想が容易な(=デットの返済プランが立てやすい)会社、と言うことになります。
例えば企業価値(株式と負債の時価総額の合計)が100の会社を、エクイティ20、デット80で買収したとします。何もしなければキャッシュフローの成長率は0なので、5年後も企業価値は変わらず、リターンはゼロになります。(実際にはお金の時間価値と取引コスト分損失になります。)
その会社を、買収後に自社が生み出すキャッシュフローを全額負債の返済に充てることで、買収時に80あったデットを、5年で30まで減らしたとします。その結果、エクイティ価値は100−30(デット)=70(エクイティ)に増大し、「元々の投資額20→売却時のエクイティ70」が、PEファンドのリターンになります。5年の内部収益率(IRR)を計算すると、28.5%となります。
このリターン、純粋に投資リターンとして考えると相当魅力的ですが、公開株投資と比べてリスクの高い投資だけに、ある程度の期待リターンは当然と言えるかもしれません。時の金利水準にもよりますが、ターゲットIRRは20%から30%というのが一般的です。
もちろん、実態はそう教科書通りにはいかず、「キャッシュフローは厚いがバリュエーションの低い企業」なんていう会社があれば、多くのPEファームが一斉にビッドし、その結果バリュエーションが上がってしまう→より多くのデットまたはエクイティが必要になる→リターンが下がる、といった結果になってしまいます。
その為PEファームでは、買収後にいかに経営を効率化しキャッシュフローを捻出することが出来るか、または既に保有しているポートフォリオ企業などと合併させることでどれだけシナジーが出せるかなどを入念に検討します。また、経営に介入すると言っても日々の業務まで見るわけではなく、せいぜいCEOとCFOを送り込むくらいなので、既存のマネジメントも含め、PEファームの手足となって働いてくれるような、インセンティブプラン(ワラントや株式のロールオーバー)をアレンジします。
そういった作業と同時に、複数の投資銀行と、どこまでレバレッジをかけられるか(幾らまで払えるか)、どれくらいのコストで資金を調達できるか、を検証することになります。これはPEファンドにとっては、IRRに直結する最重要事項になります。
余談ですが、LBOが最初に栄えた1980年代には、ハイイールド市場も未発達で小さな案件が多く、買収手法もしばしば「敵対的」で、資金の回収方法も企業を解体して売りさばく、といったことが多く見られたそうです。映画「Pretty Woman」でRichard Gereが演じたEdward Lewis、「Wall Street」でMichael Douglasが演じたGordon Gekkoなどが、まさにそういうプレーヤーでしょう。(ちなみにGordon Gekkoの「Greed is good」のスピーチは、投資会社IBFコープなどを経営し、アービトラージで稼ぎまくった挙句にインサイダー取引疑惑で逮捕されたIvan Boeskyが、カリフォルニア大学で行ったスピーチが元になっているそうです。)
今では敵対的買収ファンドはほとんど鳴りを潜め、大半がセクターフォーカス、キャッシュフローフォーカスの、「友好的買収」ファンドとなっています。それは90年代に入り、レバレッジド・ファイナンスやM&Aの手法の発達とあいまって、BlackstoneやKKRと言ったファンドが徐々に大企業化したことが主因と思われます。それでも複数のファンドが共同で買収する「クラブディール」が増えて平均の案件規模が$500 millionを超えたのは、2002年のことです。(S&Pによると、2005年上半期は、実に平均案件規模は$1.2 billionに達しています。)
その一方で、多額の資金の運用先に困った大手ヘッジファンドが「アクティビスト」化して、Meaningful minority stakeを取得して企業に敵対的に要求を突きつけている姿は興味深いです。
ヘッジファンド市場は2004年には$1 trillion(約110兆円)を突破したと言われており、2005年6月時点でのトップ10のヘッジファンドの運用資産額は、合計で$111.5bn(約12兆円)にもなります。その10社は以下の通りです。(Institutional Investorsより)
$12.5bn: Farallon Capital
$11.5bn: Bridgewater
$11.2bn: GSAM
$11.2bn: GLG Partners
$11.1bn: Man Investments
$11.0bn: Citadel
$10.8bn: Caxton
$10.8bn: D.E. Shaw
$10.7bn: Och-Ziff (diwase氏がインターンした会社です)
$10.7bn: Vega
th4844さんのCutting Edgeに詳述されていましたが、今後ますますアブソリュート・リターンが追求されるようになると、ヘッジファンドへの資金流入は止まらないでしょうから、アクティビストファンドの増加は必然なのかもしれません。