2009年 07月 25日
ウォールストリートの見張り役? |
少々前の事になりますが、6月半ばにアメリカのオバマ大統領が、昨年の金融危機の発生の反省を受けた、金融規制の枠組みの改革案を提示しました。
これは、銀行・証券・保険などの金融機関の監督権限を、Fed(連邦準備制度理事会)に一元化し、また金融消費者保護庁という組織を創設する、というもので、同大統領はこの提案は「金融規制の仕組みを徹底的に修復する」大恐慌依頼最大の改革である、と主張していました。
このブログでも以前より、システミックリスクを防ぐ規制の枠組みをどう作るかが注目点だ、と書いて来たので、少々この話に触れてみたいと思います。
WSJは6月16日の記事「Blueprint to Avoid Market Meltdowns」(市場のメルトダウンを防ぐ青写真)と言う記事の中で、この改革案について「発生した問題とオバマの解決法」という形式で、その内容を簡単に紹介しています。まずこちらを簡単に取り上げてみます。(以下、抄訳)
問題1:
いくつかの金融機関は巨大すぎて、それらの破綻が金融システム全体を危機に陥れた。しかもそのうちのいくつかは、(厳しく規制されている)銀行ではなかった。(注:投資銀行のLehman Brothersは銀行持ち株会社ではないため、Fedの監督下にはなく、AIGは保険会社で、連邦政府の規制下にはありませんでした。)
解決法:
Fedによる巨大「金融持ち株会社」の監視機能を強化する。銀行の健全性を維持することに加えて、金融システムを守ることを新たにFedの責務として加える。
コメント:大手投資銀行が全て銀行持ち株会社となった今、これは非常に分かり易い話ですが、金融政策の担い手でもあるFedが、さらに金融機関や市場の監督機能を果たすことには、利害相反や人手不足などの問題が生じかねない気がします。この点については後述します。
問題2:
投資家は、政府が巨大金融機関を潰さないと知ってしまったので、それらの機関のクレジットリスクが過小評価され、クレジットの過剰拡大を招く恐れがある。
解決法:
自己資本を厚く持たせ、レバレッジを低く抑えさせることで、巨大金融機関の利益率を抑制する。ただし、足元では資本注入を必要とするような厳しい段階にあるので、拙速には行動しない。財務省が今後検討した上で、Fedが最終判断をする。
コメント:投資銀行が過剰なレバレッジを用いていたことが危機の一因となったことは、広く批判の対象になっており、自己資本規制の強化はアメリカのみならず、ヨーロッパでも主張されていることです。しかし、それをどの程度まで要求するかは、各国の金融産業の競争力に決定的に影響するため、非常にセンシティブな問題である気がします。
問題3:
個人投資家の多くが、不適切な住宅ローンやその他の商品を売りつけられた。
解決法:
個人投資家を保護する権力を、一つの機関に集中させる。そこはFedのように、銀行の安全性や健全性を気にかけずによい機関とする。何かを禁止するのではなく、個人投資家が適切な金融商品を買うよう誘導する。(でも実効性はあるのか?)
コメント:特定の金融商品を禁止することを避ける、というところには、政治的配慮と、また規制と商品開発が追いかけっこになるという現実が、反映されている気がします。しかしWSJのコメントにもある通り、それだとこの機関がどの程度の実行力を持つのか、疑問ではあります。
ガイトナー財務長官はこのプランについて、「安全でより安定的な金融システムの基礎となり、市場主導の金融革新と、市場の暴走を食い止める、両方の効果がある」と議会証言で述べていました。
しかし上でも書いた通り、規制の強化は金融機関の競争力を損なわせるでしょうから、この結論は少々楽観的な気がします。WSJもこの点について、グローバルな市場で競争する能力を制限すると言う一方で、金融イノベーションを続けろという。厳格だが同時に柔軟な金融規制、そんなものを実現するのは難しい、とコメントしていました。
また7月に入って、このオバマ政権の提案に対して、強い反論が業界団体から出されたようです。
SEC(証券取引委員会)の元委員長で、投資銀行DLJ(後にCSFBが買収)の創設者でもあるWilliam Donaldson氏と、同じく元SEC委員長で、Goldman SachsやプライベートエクイティファンドCarlyleのアドバイザーでもあるArthur Levitt氏を代表とする投資家作業グループが、Fedへの監督権限集中に反対する主張をしたという記事が、7月半ばにメディアで報道されました。
7月15日のBloombergの記事、「Investors Say 'Tarnished' Fed Shouldn't Oversee Systemic Risk」(「輝きを失った」Fedはシステミックリスクの監督に不適格)によると、この投資家作業グループは、市場リスクを監視するには、財務省やFedとは関係のない独立した組織が必要である、と主張しているそうです。

この提案は、政府の提示した案よりも徹底しており、かつ対象も幅広いものであるようです。例えば、預金・貸出業務と自己トレーディングの間に利害相反が起こりえることから、銀行持ち株会社による自己トレーディングを規制することや、規制機関のいくつかを統合して、現在州ごとに規制されている保険会社も連邦規制の下に入れること、格付け機関への規制強化を行うこと、なども提案しています。
金融システムの存続に影響を与えるほどの規模になっている大手金融機関が、数十倍のレバレッジを使って自己トレーディングをすることは、確かにリスクが高いと批判されて妥当な気がします。
この点は、以前にヘッジファンドの経営者を招いた公聴会の話を書いた時にも触れたかもしれませんが、Lehmanが用いていたレバレッジは、リスクの高い投資を専門とするヘッジファンドが用いるものの数倍から数十倍にも及んでおり、危機をもたらしたのは規制されていないヘッジファンドやPEファンドではなく、規制されていた銀行や証券会社でした。
しかし、銀行持ち株会社の自己トレーディングを本格的に規制してしまうとなると、Lehman破綻後に投資銀行(証券会社)から銀行持ち株会社に転進してFedの監督下に入ったGoldman SachsとMorgan Stanleyがどうなるのか、気になるところです。実際最近のGoldmanの決算では、今でも収益の多くをトレーディングから上げていることが確認されています。
また、この投資家作業グループは全般的にFedに対して批判的で、記事のタイトルにもある通り、「Fedが金融緩和政策と甘い監督によって、金融機関がバランスシートを拡大させて、危険な金融商品を溜め込むことを看過して来た」と批判し、それによって「その信頼性は低下した」と主張しています。
そして、そのような機関の権限を強化することに強い疑問符を投げかけており、具体的にいくつかの深刻な問題点がある、と指摘しています。その中には、金融(金利)政策の決定と、その政策の影響を強く受ける金融持ち株会社の監督に、利害相反が発生しうる点や、Fedの株主である大手銀行がFedに対して影響力を行使しうる点、などが含まれています。
Fedは日銀のような中央銀行に相当する組織ですが、20世紀始めに発生した決済システムの混乱に対する対策として、当時の金融財閥であるJ.P. MorganやRockefellerなどが出資設立したとされる、連邦準備銀行(=民間銀行)を母体としていると言われています。よってFedの本性は国際金融資本の出先機関であり、アメリカ国民と利害を相反すると主張する声は、米議会には根強くあるようです。
Levitt氏のインタビューを実際に聴きましたが、自らの作業グループを、特定の党派に属さず政治的配慮を必要としない、国民を向いたグループだとし、Fedの信頼性が低下している点、金融政策の決定と投資家保護に利害相反が生じる点、そして財務省があくまで政治的組織である点を、繰り返し主張していました。
ではFedに監督の仕事を任せられないなら、一体どうすればよいのかという事になりますが、同作業グループの提案は、「大きすぎて潰せない」金融機関を監督する専門の、強力で独立した機関を設けるべき、と主張しています。一部議員が、Fedだけでなく、財務省やその他規制当局の代表者による評議会に監督権限を与えてはどうかと主張しているようですが、それに対しても権限の線引きが曖昧になって、誰も責任を取らなくなると警告しているようです。
この投資家グループは、合計300兆円以上を運用する年金基金をメンバーとするThe Council of Institutional Investors(機関投資家評議会)などによってスポンサーされており、Legg MasonのCIOで著名な投資家であるBill Miller氏などもメンバーに加わっているようです。その意味で、ウォールストリート(金融機関)寄りではなく、今後規制が強化されると思われるヘッジファンドやプライベートエクイティファンドを含む、投資家寄りのグループである、と言えるかもしれません。
元NY連銀の総裁でもあるガイトナー財務長官は、7月24日の議会証言でも、大手金融機関の監督権限をFedに一元化する案の早期実現を主張し、バーナンキFRB議長も政府の改革案を支持しているようです。どこにどういう意図があるのか知る由もありませんが、アメリカが安定した金融規制の枠組みを設けられるかどうかは、今後世界中に影響を与えるため、今後の展開を注視したいと思います。
これは、銀行・証券・保険などの金融機関の監督権限を、Fed(連邦準備制度理事会)に一元化し、また金融消費者保護庁という組織を創設する、というもので、同大統領はこの提案は「金融規制の仕組みを徹底的に修復する」大恐慌依頼最大の改革である、と主張していました。

このブログでも以前より、システミックリスクを防ぐ規制の枠組みをどう作るかが注目点だ、と書いて来たので、少々この話に触れてみたいと思います。
WSJは6月16日の記事「Blueprint to Avoid Market Meltdowns」(市場のメルトダウンを防ぐ青写真)と言う記事の中で、この改革案について「発生した問題とオバマの解決法」という形式で、その内容を簡単に紹介しています。まずこちらを簡単に取り上げてみます。(以下、抄訳)
問題1:
いくつかの金融機関は巨大すぎて、それらの破綻が金融システム全体を危機に陥れた。しかもそのうちのいくつかは、(厳しく規制されている)銀行ではなかった。(注:投資銀行のLehman Brothersは銀行持ち株会社ではないため、Fedの監督下にはなく、AIGは保険会社で、連邦政府の規制下にはありませんでした。)
解決法:
Fedによる巨大「金融持ち株会社」の監視機能を強化する。銀行の健全性を維持することに加えて、金融システムを守ることを新たにFedの責務として加える。
コメント:大手投資銀行が全て銀行持ち株会社となった今、これは非常に分かり易い話ですが、金融政策の担い手でもあるFedが、さらに金融機関や市場の監督機能を果たすことには、利害相反や人手不足などの問題が生じかねない気がします。この点については後述します。
問題2:
投資家は、政府が巨大金融機関を潰さないと知ってしまったので、それらの機関のクレジットリスクが過小評価され、クレジットの過剰拡大を招く恐れがある。
解決法:
自己資本を厚く持たせ、レバレッジを低く抑えさせることで、巨大金融機関の利益率を抑制する。ただし、足元では資本注入を必要とするような厳しい段階にあるので、拙速には行動しない。財務省が今後検討した上で、Fedが最終判断をする。
コメント:投資銀行が過剰なレバレッジを用いていたことが危機の一因となったことは、広く批判の対象になっており、自己資本規制の強化はアメリカのみならず、ヨーロッパでも主張されていることです。しかし、それをどの程度まで要求するかは、各国の金融産業の競争力に決定的に影響するため、非常にセンシティブな問題である気がします。
問題3:
個人投資家の多くが、不適切な住宅ローンやその他の商品を売りつけられた。
解決法:
個人投資家を保護する権力を、一つの機関に集中させる。そこはFedのように、銀行の安全性や健全性を気にかけずによい機関とする。何かを禁止するのではなく、個人投資家が適切な金融商品を買うよう誘導する。(でも実効性はあるのか?)
コメント:特定の金融商品を禁止することを避ける、というところには、政治的配慮と、また規制と商品開発が追いかけっこになるという現実が、反映されている気がします。しかしWSJのコメントにもある通り、それだとこの機関がどの程度の実行力を持つのか、疑問ではあります。
ガイトナー財務長官はこのプランについて、「安全でより安定的な金融システムの基礎となり、市場主導の金融革新と、市場の暴走を食い止める、両方の効果がある」と議会証言で述べていました。
しかし上でも書いた通り、規制の強化は金融機関の競争力を損なわせるでしょうから、この結論は少々楽観的な気がします。WSJもこの点について、グローバルな市場で競争する能力を制限すると言う一方で、金融イノベーションを続けろという。厳格だが同時に柔軟な金融規制、そんなものを実現するのは難しい、とコメントしていました。
また7月に入って、このオバマ政権の提案に対して、強い反論が業界団体から出されたようです。
SEC(証券取引委員会)の元委員長で、投資銀行DLJ(後にCSFBが買収)の創設者でもあるWilliam Donaldson氏と、同じく元SEC委員長で、Goldman SachsやプライベートエクイティファンドCarlyleのアドバイザーでもあるArthur Levitt氏を代表とする投資家作業グループが、Fedへの監督権限集中に反対する主張をしたという記事が、7月半ばにメディアで報道されました。
7月15日のBloombergの記事、「Investors Say 'Tarnished' Fed Shouldn't Oversee Systemic Risk」(「輝きを失った」Fedはシステミックリスクの監督に不適格)によると、この投資家作業グループは、市場リスクを監視するには、財務省やFedとは関係のない独立した組織が必要である、と主張しているそうです。

この提案は、政府の提示した案よりも徹底しており、かつ対象も幅広いものであるようです。例えば、預金・貸出業務と自己トレーディングの間に利害相反が起こりえることから、銀行持ち株会社による自己トレーディングを規制することや、規制機関のいくつかを統合して、現在州ごとに規制されている保険会社も連邦規制の下に入れること、格付け機関への規制強化を行うこと、なども提案しています。
金融システムの存続に影響を与えるほどの規模になっている大手金融機関が、数十倍のレバレッジを使って自己トレーディングをすることは、確かにリスクが高いと批判されて妥当な気がします。
この点は、以前にヘッジファンドの経営者を招いた公聴会の話を書いた時にも触れたかもしれませんが、Lehmanが用いていたレバレッジは、リスクの高い投資を専門とするヘッジファンドが用いるものの数倍から数十倍にも及んでおり、危機をもたらしたのは規制されていないヘッジファンドやPEファンドではなく、規制されていた銀行や証券会社でした。
しかし、銀行持ち株会社の自己トレーディングを本格的に規制してしまうとなると、Lehman破綻後に投資銀行(証券会社)から銀行持ち株会社に転進してFedの監督下に入ったGoldman SachsとMorgan Stanleyがどうなるのか、気になるところです。実際最近のGoldmanの決算では、今でも収益の多くをトレーディングから上げていることが確認されています。
また、この投資家作業グループは全般的にFedに対して批判的で、記事のタイトルにもある通り、「Fedが金融緩和政策と甘い監督によって、金融機関がバランスシートを拡大させて、危険な金融商品を溜め込むことを看過して来た」と批判し、それによって「その信頼性は低下した」と主張しています。
そして、そのような機関の権限を強化することに強い疑問符を投げかけており、具体的にいくつかの深刻な問題点がある、と指摘しています。その中には、金融(金利)政策の決定と、その政策の影響を強く受ける金融持ち株会社の監督に、利害相反が発生しうる点や、Fedの株主である大手銀行がFedに対して影響力を行使しうる点、などが含まれています。
Fedは日銀のような中央銀行に相当する組織ですが、20世紀始めに発生した決済システムの混乱に対する対策として、当時の金融財閥であるJ.P. MorganやRockefellerなどが出資設立したとされる、連邦準備銀行(=民間銀行)を母体としていると言われています。よってFedの本性は国際金融資本の出先機関であり、アメリカ国民と利害を相反すると主張する声は、米議会には根強くあるようです。
Levitt氏のインタビューを実際に聴きましたが、自らの作業グループを、特定の党派に属さず政治的配慮を必要としない、国民を向いたグループだとし、Fedの信頼性が低下している点、金融政策の決定と投資家保護に利害相反が生じる点、そして財務省があくまで政治的組織である点を、繰り返し主張していました。
ではFedに監督の仕事を任せられないなら、一体どうすればよいのかという事になりますが、同作業グループの提案は、「大きすぎて潰せない」金融機関を監督する専門の、強力で独立した機関を設けるべき、と主張しています。一部議員が、Fedだけでなく、財務省やその他規制当局の代表者による評議会に監督権限を与えてはどうかと主張しているようですが、それに対しても権限の線引きが曖昧になって、誰も責任を取らなくなると警告しているようです。
この投資家グループは、合計300兆円以上を運用する年金基金をメンバーとするThe Council of Institutional Investors(機関投資家評議会)などによってスポンサーされており、Legg MasonのCIOで著名な投資家であるBill Miller氏などもメンバーに加わっているようです。その意味で、ウォールストリート(金融機関)寄りではなく、今後規制が強化されると思われるヘッジファンドやプライベートエクイティファンドを含む、投資家寄りのグループである、と言えるかもしれません。
元NY連銀の総裁でもあるガイトナー財務長官は、7月24日の議会証言でも、大手金融機関の監督権限をFedに一元化する案の早期実現を主張し、バーナンキFRB議長も政府の改革案を支持しているようです。どこにどういう意図があるのか知る由もありませんが、アメリカが安定した金融規制の枠組みを設けられるかどうかは、今後世界中に影響を与えるため、今後の展開を注視したいと思います。
by harry_g
| 2009-07-25 08:32
| 投資銀行


