債券投資家、GMを破綻に追いやる? |
政府によって定められた再建計画提出の期限が迫っているため、このまま同社が債権者に対して妥協しないとなると、同社がChapter 11(日本の「民事再生法」に相当)の申請に追いやられ、倒産することがほぼ確実になったというのが記事の内容で、刻々と変化している状況については、日本でも報じられているかと思います。
しかしWSJ のウェブサイトに寄せられた読者コメントの9割以上が、意外なことに、債権者側の決断を擁護した内容でした。もちろんこれには、同紙の読者層に金融関係者や共和党支持層が多いということの影響もあるのでしょうが、ウォールストリート批判は報道でよく見かけても、反対意見のような話は、あまり取り上げられることはない気がします。
と言うことで、両方の意見を知っておくという意味や、金融業界が発達しているアメリカの世論の一部を垣間みるという意味から、その記事に寄せられていたコメントの幾つかを、以下で紹介してみたいと思います。
(以下、抄訳・意訳)
-提示された条件は債権者に対してアンフェアであり、要求が通らないことは明らかだった。これでやっとGMは、UAWの重石から逃れて債務整理が出来る。納税者のお金をUAWのためにリスクに晒し続ける理由はどこにもない。
-UAWとの合意には、(日本企業の従業員より遥かに高いと言われる、組合員の)給与削減が含まれていないらしい。それで会社が再建できるわけがない。ワシントンは票集めにしか興味がないのか?
−ブッシュ政権が勇気を持ってGMを破産させていれば、何兆円という税金がセーブできただろうに。このままじゃ3年から5年でまた破産するぞ。
-何故この記事のタイトルは「GMの提示条件、債権者の合意取り付けに不十分」じゃないんだ?この国は、かつては資本主義国だったはずだ。債権者が自らの権利を守るために立ち上がった、という内容に書き換えるべきだ。
-この記者は、また「貪欲な債権者」が「アメリカ国民」のゴールを邪魔した、とでも言いたいんだろう。債権者はオバマ・モーターズの一部なんかをもらっても何の価値もないので、今のうちに取り戻せるだけ債権を取り戻した方がいい、と考えているだけだと思うがね。
-オバマとその仲間は、GM債権の投資家も、また「投機家」呼ばわりするんだろうな。UAWのメンバーで自給70ドルを稼ぎ、48歳で引退できるほどの年金をもらっているのでなければ、「投機家」ってわけだ。
-銀行業界が国によって救済されたのに、自動車会社の株主や不憫な従業員が見捨てられるとなると、これは恥ずべきことだ。泣き言を言っている連中に言っておくが、労働市場が回復しなければ、景気回復はないんだぞ。
(返信)銀行は経済の「心臓」みたいなものだから、外科手術が不可避だった。自動車業界は「足」みたいなもので、無くなったら経済はつまずくかもしれないが、死にはしない。どちらにしろ、どちらの業界も、株主は価値のほとんどを失った。そもそも株主だって「納税者(一般国民)」で、オバマが意味も無く批判するような「実体のない悪魔」じゃないんだ。
労働市場についてのコメントは正しいが、それなら税金を、不当に高い給料をもらっている一部の労働者のために使うのは止めようじゃないか。そのお金で企業向けの減税をすれば、元気のいい企業がもっと人を雇えるようになる。これは「全ての」納税者に利益に適うものであり、一部の利益団体の身勝手な利益を代弁しているのではない。一納税者として、最大の政治献金をする団体のメンバーではなく社会全体のために、税金が使われて欲しいと思っているだけだ。
(以上)
かつて米国を代表する産業であった自動車業界の最大手であるGMが、破産法申請の危機にある時に、金融紙とは言えこのような厳しいコメントが寄せられるというのは、製造業が経済の根幹である日本では、考えにくい気がします。
しかし米国は、良くも悪くも「脱・製造業」を20年以上前から推進して来たという背景がありますし、また同国の自動車業界が競争力を失ったのは、組合の力が強すぎるからだと以前より指摘されて来たことも、こうした読者の批判的反応の背景にはあるように思います。
オバマ政権には、上で批判されているような「票集め」目的以外にも、多くの労働力を抱える自動車業界を延命させることが、最も手っ取り早い雇用対策だという考えがあるのかもしれません。しかしWSJの読者に限らず、アメリカ国民の多くが、競争力を失った産業や、その延長にある労働組合を税金で救済することに対して、批判的な見方をしているように感じます。
このようにアメリカは、日本とは経済構造も国民のメンタリティも、大きく異なる国であると思います。しかし昨今外国から寄せられる、アメリカやウォールストリート批判は、そのようなアメリカの特性をよく理解していないものが多いように感じます。と言うわけで、なぜアメリカが貪欲に経済成長を追及するのかといった話についても、そのうち書いてみたいと思います。