「Billionaire Next Door」 |
CNBCはWSJを発行するDow Jones社と米テレビ大手のNBC(GEの傘下企業)のJVで運営される経済専門チャンネルですが、いつも色々と興味深い番組をやっています。
そんなCNBCで、先日「The Billionaire Next Door」という興味深い番組がやっていました。これは「世界一の投資家」と言える存在であるウォーレン・バフェット氏についての特集番組です。
文字通りのビリオネアでありながら、隣人のような気さくさを持ち合わせる同氏についての番組名として、このタイトルはぴったりな気がしました。
そんな同氏の株式投資家としての成功は世の中に広く知られているところであり、またバークシャー・ハサウェイという類稀なる投資会社(中心は保険会社)の経営者であること、マイクロソフトのビル・ゲイツ氏に次いで世界で二番目の資産家であることも知られています。
番組では、そんなバフェット氏が住まうネブラスカ州オマハを訪ねて、同氏がいかに質素な生活をしているのか、例えば何十年も前に3.1万ドル(約350万円)で購入した家に今でも住んでいたり、キャデラックを自分で運転して周っていたりという話を紹介しつつ、同氏がいかに優れた投資家・経営者であるかについて、インタビューを通じてスポットを当てていました。
そんなバフェット氏の投資スタイルは簡単に言えばいわゆる「バリュー投資」であり、これは彼の定義では、長期的に利益の成長が期待できつつ、さらに市場で過小評価されている株に投資するスタイル、と言えるようです。
こうやって聞くと極めて単純な話に聞こえますが、その戦略を着実に実行することで、過去何十年にも渡って年平均で20%超のリターンを出している同氏は、まさに世界一の株式投資家と言える気がします。
ちなみに、一般に目にする投資信託の世界では、割安株の「バリュー投資」と成長株の「グロース投資」を区別しますが、バフェット氏は、グロースはあくまでバリューの一部と考えているそうです。
そしてこのバリュー投資の手法は、「効率性市場」を前提とした現代金融理論、端的に言えば「十分に分散されたインデックスファンドが最も優れている」という投資スタイルと言えるかもしれませんが、とは相容れないものであることも興味深いと思います。
それでも、様々な投資手法が浮かんでは消えるウォールストリートにおいて、唯一世代を超えて通用する投資スタイルと考えられているそうで、例えば以前にこのブログでも紹介した通り、かつて世界最大のヘッジファンドであった「タイガー・マネジメント」を運営していたジュリアン・ロバートソン氏も、このバリュー投資の手法を用いて大成功したことで知られています。
タイガー・マネジメントは2000年に店仕舞いをしてしまったわけですが、ロバートソン氏の投資手法は、タイガー存続時代に独立した第二世代や、タイガーのクローズ後に独立した第三世代のタイガー系のヘッジファンド(タイガー・カブス)に引き継がれ、今でもその発展を支えていると言われます。
(詳しくはライフログにある「魔術師は市場でよみがえる-タイガー・マネジメントの興亡」参照)
話をバフェット氏に戻すと、バリュー投資の究極の伝道士である同氏について書かれた書物は世の中に多数あるわけで、どれも非常に興味深いものですが、同氏自身が書いたのは、バークシャー社のアニュアルレポートの中にある株主に向けた手紙だけ、と言うのが現実です。
CNBCの中でレポーターがその点を指摘したところ、多くの書物の中でのバフェット氏の一番のお気に入りは「The Essays of Warren Buffett: Lessons for Corporate America」だそうです。
この本はアニュアルレポートにある株主への手紙を要約したもので、日本語訳も「バフェットからの手紙」として出版されています。しかも単純に過去からの投資家あての手紙を列挙したものではなく、内容が以下の5つについての同氏の考えに要約されています。
① コーポレート・ガバナンス
② コーポレート・ファイナンスと投資
③ 普通株
④ 合併・買収
⑤ 会計と税金
詳しい内容についてはまた触れる機会もあるかもしれませんが、最近「会社は誰のものか」などと言って注目されているコーポレート・ガバナンスについても、取締役会やCEOの役割と株主との関係について実に明快に説明しており、また最近注目されているLBOやアクティビストについても上記④のM&Aに関する部分で触れています。
例えば1980年代のLBOについては、過剰な負債で「企業を弱体化させ、巨大な債務の返済に充てる現金を作るために思いプレミアムを課し、買収の平均コストを上げた」ものとして、厳しく批判しています。
レバレッジドファイナンスの世界では、車のハンドルに短剣をつけて運転する例えを用いて、過剰債務が経営陣に規律を強いるものとして擁護されますが、そうして過大な債務を引き受けた企業が90年代前半の景気後退局面で多く倒産に追い込まれたとして、バフェット氏は厳しい意見を投げかけています。これはLBOが加熱する最近の状況にも当てはまる警鐘かもしれません。
またグリーンメイラーの戦略に対応して株の買い戻しを行う経営者の行為については、「過小評価された株式を買い戻して株主の利益に資する」のとは対照的な、「敵対的買収を避ける目的で高いプレミアムの付いた価格で投資家から株を買い戻す」、株主利益に反する行為として厳しく非難していたりします。
詳しくは本の内容を参照して欲しいのですが、この「バフェットからの手紙」は、投資・金融業界関係者のみならず、企業の経営者・IR担当者や経済メディアの方などにとっても恐らく非常に参考になるものなので、ライフログでもお勧めしたいと思います。